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紫の霧と奇妙な地震、そして他国との通信途絶という異常事態が立て続けに発生して大陸全土に混乱の渦が発生し、夢幻会員が打てる手すべてを使って情報収集と治安維持に走り回っている頃、日本で一番早く日本が別世界に飛ばされたのを知ったのは、台湾沖にて上海に向かっていた商船が軍艦に襲われたとの通信を受け取り、救援の為出動した海上保安庁と、念の為に合同で動いた…偶然訓練の為台湾に駐留していた…重巡艦隊(旗艦青葉)であった。ただ、日本が転移した事をまだ知らない彼らに取ってみれば、軍艦と言うのは誤報で、シナ人の食い詰めの犯罪者か何かが漁船を武装させた物と思っていた。何せ彼らの世界では中華大陸には多数の治安維持任務に就く国際連盟軍が居た。連盟軍が所属不明な軍艦を見落すほどのポカをやらかすとは思えなかった。
だが現場に到着した海保と海軍の面々が目撃した光景は、青天白日旗を…既に内陸国となっている筈の国の旗を…掲げた古臭い駆逐艦が、日本商船に対して下手くそ極まりない砲撃を加えている姿であった…。
結局日本商船に砲撃を加えていた駆逐艦には重巡による威嚇射撃にて撃退に成功し、日本側には被害は見られなかった。商船からの報告では上海に向かっている最中に漂流者を救出し、漂流者から事情聴取を行うも言葉は通じるが会話内容が一切通じず、そうこうしている内に『中華民国海軍』を名乗る軍艦から停戦命令、並びに臨検と貨物や金品の要求を受け、押し問答をしている間に痺れを切らした自称中華民国海軍が警告も無しに発砲。台湾に向け救難信号や通信を発しつつ逃走していた、との事であった。当然ながら漂流者や商船からの情報は即座に本土に送られた。
また台湾から情報を送られた丁度その頃本土では、朝鮮半島の方向から…太陽と波をモチーフにした様な…見た事の無い国旗を掲げた艦船が福井県の敦賀地方の沖合に侵入してきており、舞鶴駐留の海上部隊が『朝鮮から来た』と言う彼らと接触している最中でもあった。
そして
夢幻会は敦賀に来た『朝鮮公国』と名乗る彼らを仲介人として大陸に居た各勢力と接触、並びに情報収集に一定の成果を付ける事が出来た。その結果が1940年4月10日の某会議室での夢幻会の臨時会合に繋がったのだった。
『朝鮮公国』や朝鮮に駐留して居た各国の大使、また大陸に居た各勢力との情報収集で得られたこの世界の情報を纏めて箇条書きにすると以下のような状況であった。
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① 転移先の世界では、日本が存在していない。国家不成立とかでは無く、日本がある筈の場所には大昔から
小島も岩礁すらもない大海原だった、との事。
② 史実明治維新より以前の世界史の流れは史実と大同小異。日本が居ない為に日清戦争が無い代わりに
露清戦争が発生し、清国は大敗。膨大な賠償金に加え満州を露西亜に割譲する事になった。その後講和会議直後に
反乱が勃発し清国の権威は崩壊、その後中華地域はずっと内戦中。
③ 第一次世界大戦も史実とほぼ変わらない流れ。帝政ドイツや二重帝国の崩壊に露西亜赤化、英仏の疲弊に
アメリカ大儲け。オスマントルコの共和国化等。以上。
④ アメリカ発世界行の大恐慌では世界の負債は有望な植民地を持たない独伊と、各国の共同経営植民地状態
の中華地域に集中。その為独伊は早めに枢軸陣営を結成。中華は各勢力が均衡状態となり中華分裂が確定化。
⑤ ソ連では『ソビエト連邦の親父殿』と言われたヨシフ・スターリンの経済政策により国力が激増。史実の様に
重工業や軍事だけで無く民生や教育にも力が入れられた為、『労働者の楽園』のプロパガンダが一時本気で真実
となっていた。(ちなみにロマノフ王朝の遺産と対清戦争時の賠償金、満州からの富が国力増強の為の回転資金
となっていた)
⑥ ドイツはヒトラーが一時国家元首に就任し活動していたが、彼を危険視する勢力により暗殺未遂を起こされ、
(政治家として)再起不能となり、失意の内に歴史の闇の中に消えて行った。尚その後のドイツは民主国家に復帰
するも経済や政治は…ヒトラー排除前より…余計に大混乱するだけに終わった。
⑦ 1940年に全てに行き詰まっていたドイツは、フランスの強硬な賠償金の催促、ポーランドとの国境問題を
切欠に暴発。後は雪崩打って第二次世界大戦が開始された。(尚フランスとポーランドに加え戦争に巻き込まれた
道路国家は一月で引き潰された)
⑧ 米ソは始めはこの大戦を…公共事業の側面の方が強かったが…軍備増強しつつも傍観していたが、
アメリカはイギリスに向かっていた商船が数隻撃沈された事、ソ連は宣戦布告無しにドイツがポーランド、ソ連国境
を突破して来た為に1941年に第二次世界大戦に参戦。
⑨ ドイツ、イタリア軍、陸海空軍全てが各戦場で伝説や奇跡を繰り返し起こし続けるも絶望的な国力差、戦力差は
…戦術的勝利を何度も繰り返しても…覆せる筈もなく、1944年3月29日に枢軸軍は無条件降伏。
⑩ そんな世界大戦が終結した直後に日本が転移。朝鮮に駐留していた各国公使から日本の事は既に世界に通達
されており、朝鮮公国の仲介も有りひと月もあれば各国との国交開設も完了する事が出来る。
⑪ 上記の経緯もあって黄禍論や人種差別は世界常識。また二次大戦で独伊軍が戦神に愛されたかの如く色々と
暴れ回った為大艦巨砲主義思想が未だに強い…らしい。現在調査中。
⑫ 『朝鮮公国』は所謂漂白朝鮮。列島の盾が無く、津波や台風の直撃が日常茶飯事だった為と推測される。又彼ら
は、先人達からずっと努力され続けていた為に『
アジアのスイス』の異名を持つ永世中立国になっていた。
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…このような情報を元に動き出した大陸日本。幸いな事に外交ルートの開設はあっさりと終わり、国内の気候や土壌の転移による影響は見られず、この異常事態に動揺していた国民も…政府の情報公開も有り…落ち着きを取り戻す事が出来た。
『転移して仕舞った以上元の世界の事を考えても仕方ない。郷に入っては郷に従え。この世界の一員となった以上他国と
仲良く過ごして行こう』
転移云々の情報を知った国民の反応は大体この様な物であった。はっきり言って無警戒にも程が有るが、基本的に日本人
には…夢幻会の頑張りも有って…自国の国力は列強トップクラスであり、仮に戦争になっても…アメリカ相手でも余程の事がない限り…必ず勝てる程強いと思っており、精神的余裕が有っただけである。又世界大戦後は…中華を除いて…他国
とはずっと友好関係にあった経緯も有り、外国から戦争を吹っ掛けられると言う事のイメージがサッパリ湧かなかった事も有り、この様な反応となっていた。(無理矢理近い例を出すとしたら平成日本人の感覚が近いのかもしれない)
だが夢幻会の反応は能天気な国民たちと違い、かなり切羽詰った物となっていた。
前世で人種差別を肌で感じた者が多かったのもあったが、第二次世界大戦で米ソの軍事力が飛躍的に増強されたと確信しており、又年代を考えると核兵器を持っている事が確実視された為である。仮に宣戦布告され、それらが自国に
向けられたら…日本本土にキノコ雲が立ち上る光景が彼らの脳裏に浮かび、そして焼き付いていた。
だからこそ、外交や諜報機関の立て直しや国防計画の新規作成等、関係機関各所は文字通り馬車馬の如く働き続けた。
その為一部の官僚や軍人には過労で倒れたり血尿を出して強制的に病院に叩き込まれ、縛り付けられた者が出て来てしまったほどに。
そして病院送りになる人間が出るまで働き続けた彼らの苦労は…一部報われなかった。
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何故なら村中率いる諜報機関員が徹底的に調べ上げた結果、この世界では諸事情で核開発が遅れており、アメリカでは44年になってからようやくロスアラモスに核開発の研究所を建てられていた程の遅れである。何故ここまでの遅れが発生したかと言うと、史実ではマンハッタン計画の引き金となったアインシュタイン=シラードの手紙は、肝心のドイツやイタリアに『残虐非道な独裁者』が存在しなかった事により作られることが無かった為、政府首脳部が核開発について知る事が大幅に遅れてしまった為であった。
一応核開発がスタートした時にはオッペンハイマー博士やジョン・フォン・ノイマン博士ら史実では核開発に大きな貢献を果たした科学者たちが参加してはいたが…彼らのモチベーションは正直に言ってあまり高くなかった。彼らの同僚の一人が言うには『こんな悪魔の兵器を誰が好き好んで作りたいと思うのか』…であった。
ちなみにもう一つの超大国であるソ連は第二次世界大戦で独伊に一部国土を踏み荒らされていた為…被害は史実と比べ木星と河原の小石位の差がある程に少ないものの…復興に国力を割かれ、45年になって基礎研究が開始されると言う状態だった。
まあ同じ列強である筈の仏英に至っては基礎研究も未だに行えていなかったが。…ただ、フランスに関しては擁護できる部分が有る。戦争開始後一か月で…9割方梅毒将軍ことモーリス・ガムランのせいで…ドイツに引き潰された後に成立したヴィシーフランス政権は徹底的な面従腹背姿勢を貫き、自由フランス政権を通じて連合国に枢軸軍の情報を流し続け、またレジスタンス活動により枢軸国の戦力や物資、兵力を地味に削り続ける等の活躍を見せ、連合国の勝利に貢献した代わりに、フランス本土の主要部の多くが戦場となり、国富の多くが灰となったり多数の国民が負傷、死亡する等の悲惨な状態となり、核開発等と言う贅沢をする余裕が全く無い状態だったのだ。
一方イギリスはこの戦争によって完全に没落状態となっていた。一応未だにインド等植民地は確保出来てはいるものの、その植民地の維持費用の捻出にすら苦労する程に落ちぶれており、大英帝国の栄光は完全に過去の物となってしまっていた。そんな国が核開発の為の資金や技術を用意できるだろうか?いや、出来るはずが無い。爪に火を灯せば土地位は用意できそうだが。
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…と言う訳で、夢幻会が予想した最悪のシナリオである、宣戦布告同時無差別核攻撃は現時点では発生する可能性は皆無に等しく、米ソが核開発に成功する頃には日本も確実に核兵器を開発、所有しているだろうとの予想が出来たので、彼らは安堵した。『よかった。仮に今戦争になっても核兵器でなす術も無く蒸発するのを待つだけにならなくて済みそうだ』…と。
…そして新たな疑問が発生する。『核開発に使われなかった膨大な国力は一体何に使われたのか?』
その疑問は、夢幻会主要メンバーがとある食事処でソースかつ丼をゲン担ぎに食べながら情報交換や軽い会議を行っている最中に飛び込んできた諜報員からの報告によって氷解し…海軍関係者全てが揃って頭を抱える状況となった。
「…すまないが、もう一度言ってくれるかな…?」
「はっ…。現段階までに集まった情報によりますと、米海軍は41cm連装砲三基のアイオワ級戦艦を4隻、46cm三連装砲三基のモンタナ級戦艦6隻、51cm連装砲三基のユナイッデットステーツ級戦艦を4隻実戦配備に就けております。正規空母はエンタープライズ級を二隻、エセックス級を四隻のみで他は護衛空母がそれなりの様子ですが。」
「ソ連海軍は41㎝連装砲三基のモスクワ級戦艦を4隻実戦配備、46cm連装砲三基のソビエツキー・ソユーズ級戦艦が4隻就役し、現在習熟訓練中…との情報が入りました。正規空母を建造中との報告は有りませんが、アメリカのインディペンデンス級軽空母を参考にした軽空母を建造している模様です。」
病院送りになった海軍軍人たちが作り上げた血と汗と涙の結晶である国防計画の大前提
…空母機動部隊が仮想敵海軍の主力…が一瞬で崩壊した瞬間であった。
735 :641,642:2015/01/31(土) 22:05:27
投稿終了です。本文長すぎのエラーが何度も出てしまいました(汗)
これくらいの文章の長さで大丈夫でしょうか…?
そして改めて思いました。一回の投稿で書き込み過ぎじゃないかコレ(焦)
最終更新:2016年10月10日 17:19