190 :641,642:2015/02/10(火) 22:31:10
西暦1945年(大陸日本西暦1942年) 6月10日
アメリカ合衆国 ワシントンD,C ペンシルベニア1600通り ホワイトハウス執務室

「ハル。君はこの事件をどう思うかね?」

『自由と正義の国家』の政治組織の頂点に位置する車椅子の老人、フランクリン・ルーズベルトが、自分が呼び出した特別補佐官である…引退したがっていたのを強引に頼み込んで就いて貰った…コーデル・ハルに対して、とある有名紙の一面にデカデカと載っている…マニラ、パールハーバー、ウラジオストクの…各港湾の爆発写真と『卑劣なるニホン人による陰謀!』と言う見出しを見せながら聞く。

「十中八九コミンテルによる策謀と思われます。彼ら…ニホン人がこの様な行為をする理由や必要性が有りませんし、あからさまに『ニホン人による策謀』と分かる証拠が…中途半端に隠滅した状態で…現場に撒き散らされています。諜報組織が行ったにしては証拠隠滅が粗雑であり、素人がしたにしてはこの事件に関する全ての用意と行動が周到過ぎです。」

何より、これによって得られた彼らの利益は世界からの敵意だけです。好き好んで世界に喧嘩を売る程彼らは愚かでは有りません。

昨年に出現したニホンへの国交開設の特使の任を見事に果たした上、そのまま流れで多数のニホン人と、かの国家のエンペラーである天皇陛下にも謁見した過去を持ち、アメリカ人で最もニホン通と言われているハル特別補佐官…元国務長官…が、確信した表情と声色で自分の上司であり、友人でもあるルーズベルトに答える。


「…やはり、君もそう思うか」

「…違うのですか?」

「主犯が共産党勢力の工作員であるのは事実らしい。問題はこの爆発事件に関してだが、我が国の財界や官僚に一部軍人が…証拠隠滅や世論操作等で…一枚噛んでいる様だ。まだ未確定だがな…」

「………大統領、エイプリールフールはもう既に…」

「これが嘘であると願うばかりだよ、ハル。共産主義等と言うマヤカシを本気で信じて他国へ故国の国益を売ったり情報を流す様な愚か者どもが、以前の公職追放で全て居なくなったと願うばかりだ。…それに加え、我が国の財界が、またアメリカンボーイズの血を流してでもニホンの利権を奪い取りたいなどと考えている事もだ…」

191 :641,642:2015/02/10(火) 22:36:14
そう言って深いため息を吐くルーズベルト大統領。第二次世界大戦中に、偶然にも自国の情報が他国…要はソ連…に流出している事が発覚し…ただ、確定的証拠は無く、枢軸国と共に戦う友軍でもある為に直接抗議等は行えなかった為…情報流失により国家に多大な損害を与えたと言う名目で、官僚内に多数いた赤い細胞群を処理していた、通称『アメリカ大粛清』と呼ばれるこの大騒動により、米国から影響力の有る共産主義者は居なくなっている…ハズであった。

そして財界に関しても、ニホンとは対話により…ハル特使の奮闘も有り…好感触を得ており、暫く時間が有れば貿易やかの地での企業活動も確実に行えるから待つ様に説得していた。三年の戦争で…全然見かけ上は分からないが…アメリカは(少しだが)疲れている。何かしらの大きな行動に出るにしても一定期間の休養が必要である事ぐらいは、彼らにも分かっている筈だった。また、戦争して奪い取るよりも、交易した方が利益が大きいことも、分かっている筈だった。

そして彼らの願いとは裏腹に、自分たちの信頼できる『友人』から、未だにこの国には、共産主義者の根が深く、広く張り巡らされている事、財界がニホンの極めて良質な鉱山や油田の存在を知り、何が何でも手に入れようと目と頭に完全に血を上らせている事、そして共産主義者と財界連中の世論工作の合わせ技で、世論がもはや…大統領自らのラジオ放送等で語りかけたとしても…鎮火しようの無いほど反日で大炎上している事を伝えられ…その後の大統領の機嫌は、ずっと直る事は無かった。





ソビエト連邦共和国 モスクワ クレムリン ソ連最高会議幹部会館

「いったいこれはどういう事だトロツキー!?独伊との戦争が終わってたった一年しか経過していないのに!貴様はまだ戦争を!若者の血を大地と海に撒き散らしたいと言うのか?!」

『憤怒』と言う言葉が良く似合う表情で部屋一杯に響き渡る怒号を鉄の男ことトロツキーに叩き付けている一人の壮年の男性。名前をヨシフ・スターリン。別の世界では『史上最悪の独裁者』等と言われている冷酷な男だが、この世界では『ソビエト連邦の親父殿』の愛称に相応しく、穏やかで面倒見の良く、たまの休日には子供たちと一緒に遊んでいるような正しく好好爺とも言うべき性格の御仁となっていた。(尚仕事では雷親父の如く怒鳴りながら若者を鍛えつつ膨大な内政関係の書類をこなし続けるソ連最強の内政神である。ソ連が戦艦を建造、運用できる国力を保有できたのは大半がこの人のお蔭である)


「…いい加減落ち着きたまえ同志スターリン。何度も言っているがこれは決定事項だ。我らは同志達に対し攻撃を加えてきたあの愚か者どもに鉄槌を与え、そしてかの国の民を悪逆なる皇帝の支配のくびきから解放する…」

「あの惨劇を『ニホン人』が行ったとまだ言い張るのか!それに『皇帝の支配から解放する』だと?!貴様私の報告書をちゃんと読んだのか!?あの国のエンペラーは悪逆等とは無縁の存在である上に!長い歴史の中で積み上げられてきた国民からの敬意と尊敬の念には絶対的な物が有る!仮に危害を加えたら、そして万が一処刑などしてしまったらニホン全てが永遠に敵になるんだぞ!そうなった時の危険性は貴様の頭脳なら理解できるだろうがレフ・トロツキー!!」

192 :641,642:2015/02/10(火) 22:40:22
気の弱い人間なら一瞬で気絶しかねない剣幕とヘタしたら窓ガラスにヒビが入る程度に収まらずに割れてしまうのでは無いかと思ってしまう程の怒号で対日開戦の為の動員や兵員の移動等の準備と対外工作の中止を要求し続けるスターリンと、その要求を涼しい顔で徹底的に拒否し続けるトロツキーの論争が始まってからかれこれ1時間。スターリンもトロツキーも自己の主張を一切曲げる事無く話し合いはずっと平行線のままである。まあ、図式としてはどこの国でも良くある内政派と外征派の論争である。

結局この傍迷惑な大論争は、『これから会議がある』と言ってトロツキーがスターリンを追い出してようやく終止した。

「まったく、あの内政バカは…。私たちが存在する意義は、共産主義を世界に広める事だと言う事を忘れているのか?」

だからと言って粛清等と言う手段は取らない。いや、取ってはならない事である、と言う事実は覆し様が無い。今スターリンが居なくなったらソ連経済は確実に大混乱するであろうし、国力の増強も上手く行かなくなる。それに彼は人民たちにとても慕われている。彼自身にはその気は欠片も無いから問題ないのだが、スターリンが害されたと人民が知ったら、彼を旗印に革命を起こしかねない程には、人民からの支持を受けていた。


革命によって成り立った国が、革命によって倒される。仮に実現したとしたら、イギリス人が大好きなブラックジョークここに極まれり、と言うものであろう。


「朝鮮公国からの返答は芳しくありません。やはり永世中立国であるあの国を外交交渉で戦争に参加させると言うのは難しいと思われます…」

部下からの報告を受けて、一旦スターリンの事を脳裏から消去してこれからの議題…対日戦争への参加国の増強…に向き合うトロツキー。

「…『正義の連合国』である我らが中立国を踏み潰して戦争すると言うのは如何にも外聞が悪い。外交部は奴らを此方側に引き込む様に努力してくれ」

「今更の事ですが、帝政時代にでもあの国を制圧されていてくれれば此処まで苦労する事は無かったんでしょうね…」

「…あの国が中立であったら、我が国の極東の最重要地域である満州に爆撃を受けなくて済む。そう思うしかあるまい…」

そう言いながらため息を吐いたトロツキー。全く、この世は儘成らない物である。共産主義は神を認めてはいないが、モスクワ等に有る教会の牧師…スターリンの奮闘によって、厳重な書類提出等を条件に設立が許可されていた…が何かの機会に言っていたとある言葉を思い出したトロツキーであった。まあ暫くして連合国全てが対日戦争に参加する可能性がほぼ確定的である事が伝えられて憂鬱だった気分も吹っ飛ぶのだったが。

193 :641,642:2015/02/10(火) 22:45:02
フランス共和国 パリ8区フォーブール・サントノレ通り55番地 エリゼ宮殿

「……どうしてこうなったんでしょうか…」

「現実逃避している暇は無いぞ諸君。確かに俺も正直言って全て投げ出してベットに籠って寝たいが、そうする事は絶対に出来る筈が無い」

そもそも俺、元々はただの陸軍将官だったはずなんだけどな…何で大統領になって政治家の真似事しているんだろうか…

そんな風にぼやいた2メートルに達する身長の偉丈夫『シャルル・ド・ゴール』。第二次世界大戦で、自由フランスを率いて本土のヴィシー・フランスと…ドイツにばれない様に…綿密な連絡を取り合い、ノルマンディー上陸作戦時にヴィシー政府を枢軸国から離反させて枢軸軍を大混乱させてフランス解放の時間を大幅に短縮させたり、隙あらば勢力内に浸透して来ようとする一部共産勢力を丁重に叩き出したり、数少ない師団を用いて(連合国からの支援こそ有ったが)枢軸国占領地を奪還したり、連合からの支援を盾にフランスが属国化されない様に交渉したり、戦費調達の為に中華地域で大戦に乗じて策動を始めた某国家との貿易で『交渉』により暴利を巻き上げて中華地域での戦争を抑止したり…等と比喩抜きでフランスの為に世界を駆け回った偉大なフランス人である。世界的にも人気の有るホットな人物でもあった。


そんな偉大でホットな英雄的フランス人をぼやかせた原因は、『ニホン国への最後通牒の内容』と、米ソからの『悪の帝国で有るニホン帝国への参戦要請』であった。…要請とはいっても、この二国に対して大量に積み上がった借りや恩を考えると…要請と言うよりも命令と言った方が正しいが…フランス共和国にはこの参戦要請を拒否する事は不可能であった。

「…財務省としては、参戦する事には反対です。先の戦争で、本土の多くが地上戦の舞台となったせいで未だに復興も復旧も完了しておりません。何より地上戦で多数の軍人だけで無く民間人にも死傷者が出ていましたので…」

「流石に『軍を派遣しろ』とまでは言われていないさ。インドシナや極東の諸島群を艦艇や航空機の基地として使いたいから貸してくれ、と言う事だ。要は『土地だけ貸せ。他は俺たちでやる。お前らは出て来なくても良い』…だ。代価として大戦中に受けた支援や借款の多量の棒引きやら何やら出すそうだ…大盤振る舞いだな、全く。」

憮然とした表情で言い捨てるドゴール。誇り高いフランス人である彼にとって、自国が顎で使われる現状に納得している筈も無かった。
また、この世界に転移して来てから一年足らずの、ある意味新人や迷い人と表現出来る彼らに対して歓声と花束を贈り、そして歓迎セレモニーを開催するのではなく、陰謀により汚名を着せ、そして銃口を向ける行為を…しかも主導者に共産主義者の影が見え隠れしているのに…良い笑顔で加担する様な事も、本来はやりたくなかった。一年の交流でニホン国とフランス国との相互の政府間に割と良感触が有っただけに、余計に。

194 :641,642:2015/02/10(火) 22:48:41

「…一応連合国からの最後通牒を、ニホンが受けたのなら戦争を回避出来ますが…」

「こんな要求を唯々諾々と受諾する様な国家何ぞ古今東西異世界含めて居る筈が無い。バチカン市国だろうがルクセンブルグだろうがこんなもの受け取ったら一発で戦争確定だ。例え100パーセント勝つ可能性が皆無だと分かっていても、だ」

とある議員がか細い声で言った事を一刀両断で切って捨てたドゴール。実際、この場に居る人間が…米英仏ソが主体で作られたハズの…ニホンに渡された最後通牒を一通り見ると、全員揃って『コレ作った奴らはアヘンか何かでもキメながら作ったのか?』と愕然とした程滅茶苦茶な内容だらけであった。


「…やはり、また、戦争ですか…」

「ルーズヴェルトや俺たちが仮に『こんな物送っていない!』と叫んだとしても、もう手遅れだ。向こうも完全に覚悟を決めているだろう…。
フランス共和国としては、何時でも止められる様に裏で準備する必要があるな。まあ、俺たち全員裏で動くのは大戦の時に散々経験したんだ。もう慣れたもんだな」



大陸日本 東京都千代田区永田町 総理大臣官邸

「…どうしてこうなった」

「日本が油田や鉱山等が多数存在する『黄金の国』だったからでしょう。…短絡的過ぎるのは否定しようがありませんが」



連合国から『エイプリールフールの惨劇』に関する最後通牒を受け取り、その後開かれた夢幻会の会合では、一人残らず無表情か沈んだ顔であった。さもありなん、通達された内容があまりにも狂っていたのだから。
要約すると以下の通りになる。

① ニホンは先の惨劇を起こした犯人を引き渡し、公式に謝罪し、関係各国に膨大な賠償金を支払う事。

② 極東地域の不安定化を避ける為に、保有する軍備の全情報を公開し、それが事実で有る事を確認する為に連合国の査察団
を受け入れる事。尚期限は設けない。

③ ②に関連して、不安定化回避の為、各国との国境近くにある地域(樺太、尖閣諸島、沖縄等)の非武装化か放棄。

④ この惨劇を今後起こす事の無い自由民主主義国家となる為に、ありとあらゆる思想を持った政党結社の結成を今後一切妨げない事。

⑤ ④に関連し、天皇制を破棄し、民主主義国家となる事を確認する為に連合軍の駐屯を許可する事。

⑥ ⑤での駐屯軍の生命を守る為に武装所持、発砲の許可。並びに一部地域の治外法権化

⑦ 台湾を損失させた賠償として中華民国へ台湾の返還と多額の賠償、並びに利権を多数所有していた英国へも多額の賠償を支払う事。

⑧ 連合国の全ての企業の進出を許可し、また貿易の円滑化の為に全ての関税を撤廃する事。


…大体こんな感じであった。

195 :641,642:2015/02/10(火) 22:53:45
「…調査によると、ルーズヴェルト大統領やスターリン内務長官、ドゴール大統領たちの大反対により、最初に作られていたのはもっとマトモな要求だったようなんですが…」

「何時の間にかコレに摩り替っていた、と言う訳か。…正しくコミンテルの陰謀、と言う奴か。救いようがないのは、アメリカ国民の殆どがこの内容に一切疑問を抱いた様子が見られないと言う事だ。」

「極少数の異論を唱えた人間は殆ど黙殺されるかリンチを受けて沈黙させられていますね。物理的か社会的かは皆それぞれですが」

戦争はどうやっても避けられない。この通牒を受け取った者は全員そう思った。一応ルーズヴェルトやスターリン、ドゴールらは反戦派なのだが、アメリカ国民全てが対日戦争を叫んでいる状況ではいくらルーズヴェルト大統領と言ってもどうしようもなく…何せアメリカは『民主主義国家』なのだから…、スターリンは第二次世界大戦で大きく権勢を広げたトロツキーによって内政関係以外の権限が抑えられている為、この流れは止められそうにない。唯一フランスのドゴールのみ全会一致で避戦派で統一されているのだが、連合国への借りが大きすぎてこの流れに逆らうことも出来ない。そもそも国力がかなり消耗している事も有って発言力もそんなに無い状況だった。

…イギリス?第二次世界大戦の結果、アメリカの付属物化した国家に大きな期待をしても、その、困る…


「…こうなる可能性も考えて、転移して暫くで直ぐに準備に走ったことは…結果論だが、正解だったな…」

「それでも正直に言いますと不足している部分が非常に多いですが…暫くは、この戦力で切り抜けるしかありませんな…」


申し訳無さそうな顔で言う軍人や官僚に対して皆が異口同音に『気にするな』との言葉をかける。

…転移と言う異常事態に対し病院に叩き込まれるまで対応に走り回り、そして情報収集により戦艦量産世界と発覚後に又血反吐吐きつつ自国の軍備や経済を、連合国との戦争が始まった場合に備えて改革を…自分の出世を一部犠牲にしつつしがらみや慣習に省庁の壁等を非常事態と言う事でぶち壊しながら…徹底的に進めてきた彼らを責めれる事等出来る筈は無い。そもそも準備期間が一年程度だと言う事を考慮したら、彼らは良くやった方である。



「…さて、それでは7月15日の開戦に向けて、各軍の戦力と配備状況、そして対連合国への戦略を、皆に説明してもらえるだろうか」

196 :641,642:2015/02/10(火) 22:56:44  
西暦1945年『大陸日本歴 1942年』7月15日

この日、大日本帝国とアメリカ、ソビエト連邦、イギリス、フランスを主体とする連合国との間に宣戦布告状が交わされ…後に『第三次世界大戦』とも『人類最後の総力戦』とも称された…アメリカの海であり、世界最大の海洋である太平洋と連合各国の植民地である東南アジア、イギリス海軍最後の牙城であるインド洋を主な舞台とした大戦争が、静かに始まりを告げた…





『不利は、一方の側だけにあるものではない』

『競争は速い者が勝つとは限らず、戦いは強い者が勝つとは限らない』

『独りよがりの正義など、正義ではない』






『絶対無敵の最強の連合軍による正義の聖戦』に酔い痴れていた連合国の民衆たちがこの三つの言葉の意味を思い知らされたのは、この戦争が開始されて暫くしてからの事であった。

197 :641,642:2015/02/10(火) 23:00:36
投下決行完了に御座る。
…うん、ドゴールがドゴールじゃないしスターリンがスターリンじゃないし最後通牒が笑える位におかしいのは分ってる。でも書いていたら何でかこうなっちゃたんだ。取り敢えず次回戦力とか戦略状況とか書き殴っていく予定です。また何時になりますやら…

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最終更新:2016年10月10日 18:28