272 :641,642:2015/03/01(日) 15:05:38
アメリカ打撃艦隊 旗艦 戦艦『ユナイデットステーツ』
「参謀長。今の今まで日本軍潜水艦による攻撃が行われていないのは何故だと思う?」
アメリカ海軍の砲術の権威であり、先の大戦ではモンタナ級によるレーダー射撃により、自艦隊はほぼ無傷でドイツ海軍の残存戦艦を一艦残らず北海の水底にまとめて送りこむと言う武勲を持つ、ウィリス・オーガスタス・リー・ジュニアが、自分の参謀長に問う。
「普通に考えれば、襲撃する機会を舌なめずりして待ち受けている…私はこう思います。」
「だろうな。私が彼らの指揮官だったなら、中途半端に攻撃して警戒させるより、攻撃せずに油断させておき、懐に引きずり込んでからウルフパックで総攻撃する。相手の考えもそんなところだろう。」
そのような会話を幕僚たちと話しながら、海図を眺めつつ…ガトー級の命がけの通信や偵察機からの報告を元に…敵艦隊の地点を予測している時、彼らの耳にとある通信兵からの報告が届く。
「……『また』か?」
「はい。『また』です」
空母機動部隊 旗艦 シャングリラ
「…また取り逃したのか、あの偵察機を」
「はっ…。やはりヘルキャットではマトモに追いつく事が出来ない速さでして…」
相も変わらずな幕僚からの返答に、もはや『ブル』になるのにも疲れた、アメリカ海軍機動部隊指揮官のウィリアム・ハルゼー・ジュニアはとても深いため息を吐いた。
彼らが話題にしていた日本軍偵察機『1式偵察機 彩雲』は、あの航空機狂いの倉崎社が製作した偵察機と言う名のプロペラ機最速挑戦機を軍用にデチューンした物である。この機体、元々倉崎の爺が「こんなの作りたい」と設計図に書かれていたのを目聡く見つけた上層部が、圧倒的な高性能さに見惚れて即採用された…史実の銀河に近い…経緯がある。
無論、軍用機として扱い易いようにいろいろと変更されてはいるが。
ヘルキャットの最高速度は時速600㎞プラスα程度。対して彩雲は時速750km強。これだけ速度差が開いていると、それこそ円卓〇奇人辺りでも引っ張ってこないと撃墜どころか損傷すら負わせる事は出来やしない。そしてアメリカ軍艦載機部隊にそんな変態パイロットは一人もいない。加えて彩雲の防御力は…基本全ての機体が12,7ミリでは落としにくい防御力持ちの…日本軍機中でも高い方でもある。撃墜破どころかまともに迎撃出来る道理なんて何処にも無い。
「俺たちの所在は既にJAPは掴んでいる筈だ。何度も通達するが、偵察を厳とし、攻撃機編隊を補足したら即座に戦闘機隊を全機発艦出来る様にしておけ」
273 :641,642:2015/03/01(日) 15:09:31
…偵察機でこれなら、戦闘機や攻撃機に至ってはどれだけの戦闘力を保持しているのだろうか…結果論だが、戦闘機中心の編成で良かったのかも知れないな…
猛将と名高いハルゼーですらこの感想を抱くのだから、よほどの大艦巨砲主義者(と言う名の脳筋)を除くと…殆どの乗員が不安か、もしくは不気味に思っていた。戦前の情報、想定とは文字通り桁違いの日本軍航空機の高性能さを。
「…偵察機より入電です!『日本軍機と思われる不明機の大編隊、自艦隊へ向け進撃中』、です!」
「直ちに戦闘機隊を全機発艦させろ!さあボーイズ!ミートボール共を皆纏めて母なる海に叩き込んでやれ!!」
日本軍第一機動部隊 第一次攻撃隊 流星搭乗のとある攻撃機編隊隊長
「…もうそろそろ敵艦隊が視認出来る頃だ。しつこいだろうが、もう一度優先目標の再確認だ」
「第一目標駆逐艦。第二目標巡洋艦。第三目標航空母艦。戦艦は放置…。耳にタコが出来るまで皆聞かされましたからね、優先目標は。」
「命令ですから順守しますが…日本初の機動部隊による大規模航空攻撃の目的が完全に艦隊決戦の援護一択とは、何か皮肉ですなぁ」
…米国製大和級や紀伊級が多数存在する異世界に転移なんて、誰にも想像すらしていなかったしな。しかも俺たちの技術レベルが、丁度ミサイルも誘導爆弾も核もまだ存在していない時期の、純粋な機動部隊の攻撃力では戦艦撃沈が殆ど運任せに近い時代と言う狙っているとしか思えない時だから、こればっかりは仕方が無い…
各パイロットが駄弁りつつも攻撃の為の最終確認に取りかかっている頃、編隊長も各種機器の確認をしつつも、胸の内にて誰にも言える筈の無い愚痴を垂れ流していた。
そしてそんな彼らの大分前方では、数的には少数である筈の日本軍戦闘機『烈風』によって、数的優位を確保している筈の米軍戦闘機『ヘルキャット』が一方的に『掃除』されていた。
レシプロ戦闘機として全てが世界最高峰の能力持ちである『烈風』に対して、『ヘルキャット』に関しては…間違いなく良作機ではあるのだが…頑丈さと扱い易さ重視で機動性と速力はそこそこ程度の機体性能である為に、烈風の圧倒的速力と機動力にはついて行く事が出来ず、また烈風なら一撃乃至二撃でヘルキャットを打ち落とせるが、ヘルキャット装備の12,7ミリ機銃では…操縦士を狙い撃つ位しか…まともに撃墜するチャンスすら与えられる事は無かった。
目の前で繰り広げられる一方的な虐殺劇に米艦艇の何処かからか「ホーリーシット!!!」等の罵倒が繰り広げられていそうな頃、流星部隊はそれぞれ編隊長からの指示を受けつつ、月月火水木金と大体土曜で偶に日曜日の猛訓練によって身体に染みついた操縦技能を生かしつつ射点、爆撃地点へと向かい、攻撃を開始した。
274 :641,642:2015/03/01(日) 15:13:54
そしてこの攻撃は、(一瞬ではあったが)完全にアメリカ軍の虚を突いた攻撃となった。本来いの一番に突貫して来る筈の戦艦や空母には一切目もくれずに、艦隊の外円部に居る駆逐艦や軽巡洋艦に襲い掛かるなんて想像の埒外だったのである。無論標的となった駆逐艦や巡洋艦達はすぐさま対応し直して対空砲火を攻撃隊にそれぞれ叩き付けるも、日本軍の流星は、この世界のどの艦載攻撃機よりも圧倒的に高性能で、そして異常に堅牢だった。
そして第一次攻撃隊が駆逐艦を駆逐して行っている最中、間髪入れずに襲来した日本軍第二次攻撃隊が、今度こそアメリカ海軍の正規空母群と戦艦…の、護衛部隊に殴りかかった。そして…この攻撃に対して、アメリカ艦載戦闘機部隊は有効な阻止攻撃を展開する事は出来なかった。
敵攻撃隊を始めに阻止するハズのヘルキャット隊は、烈風によって守られた鉄壁の防衛を突破する事が出来ず、それ以前に護衛戦闘機隊からの攻撃から逃げ回る事に必死な状態であり、また皮肉な事に機体に搭載された高性能な無線機によって…あまりにも想定外過ぎる戦闘で混乱した…各パイロットが各個に喋り捲った為に無線が飽和状態となり、僚機や艦艇からの指示、情報が確りと伝えられる事が出来なかった為に、有効な阻止行動を取る事は出来なかった。艦艇側にとっても、これほどまでに大規模な防空大乱戦は、訓練以外では経験していなかった事による経験、戦訓不足も、この混乱に余計に拍車をかける結果となっていた。
その為、戦闘機による妨害が殆ど無いと言う理想的な状況で攻撃準備に入る事が出来た第二次攻撃隊ではあったが、当然攻撃を妨害するのが戦闘機だけである訳も無かった。
第一次攻撃隊からの攻撃から(多数いた事も有り)辛くも生き残る事に成功したフレッチャー級駆逐艦、アメリカ海軍きっての優秀な防空と敵軽快艦艇の一掃を主な任務としているアトランタ級軽巡洋艦、改装の結果両用砲を多数増設しているニューオリンズ級にボルチモア級重巡洋艦、そしてエンタープライズ級、エセックス級航空母艦自身から多数放たれる対空砲火は、確かに『鉄と火の壁』と良く揶揄される自軍の対空砲火よりも(心持ち)薄く感じられていたが…それでも、極めて濃密な砲火であった。
極めて硬く、打ち落としにくい流星では有っても、決して落ちないと言う訳では無い。米軍艦艇の対空砲火に絡め捕られて、搭載した魚雷や爆弾、燃料タンクに被弾炎上、引火して爆発四散する機、主翼を捥ぎ取られて海面に叩き付けられる機、操縦席を打ち抜かれて機体の原型を保ったまま海面に向かって着水、墜落して行く機…未帰還機が多数出て来るのはどうしても避けようが無かった。
然れども、史実や戦後憂鬱等の世界で、それぞれ様々な戦場を生きた記憶を持つ転生者達によって鍛え上げられた多数の精鋭が所属する部隊を、対空砲火のみで撃退しようなんて言うのは、史実扶桑型や伊勢型でこの世界のUS級相手に無傷で完勝させようとするレベルでの無理な注文であった。
275 :641,642:2015/03/01(日) 15:16:50
最終的に第三次攻撃隊襲来後に薄暮に潜水艦隊によるハラスメント攻撃すら発生して、米海軍が生まれてから今の今まで体験した事の無い、記録的な大損害を受けた米艦隊の損害を纏めると、以下のようになる。
日本海軍艦載機攻撃部隊戦果
撃沈(自沈処分含む)
航空母艦
エンタープライズ級空母『ヨークタウン』
エセックス級空母『エセックス』『イントレビット』『バンカーヒル』『ベニントン』
重巡洋艦
ボルチモア級『ボストン』
ニューオリンズ級『ニューオリンズ』
軽巡洋艦
ファーゴ級『ファーゴ』『ハンチントン』
アトランタ級『アトランタ』『ジュノー』
大破
航空母艦
エセックス級空母『レプライザル』
重巡洋艦
ボルチモア級『セントポール』
ニューオリンズ級『アストリア』
軽巡洋艦
ファーゴ級『ウィルミントン』
中破
エンタープライズ級空母『エンタープライズ』
エセックス級空母『シャングリラ』
(エンタープライズ、シャングリラ、共に甲板を完全に破壊され戦闘不能。まあそもそも飛ばせる機体がもう残ってないんだけど)
重巡洋艦
ボルチモア級『ボルチモア』『クインシー』
(ボルチモアは前部二砲塔破壊。クインシーは雷撃により浸水、速力28ノットまで低下)
軽巡洋艦
ファーゴ級『バッファロー』
(爆撃で第一、第二砲塔が使用不能)
小破以下
戦艦
モンタナ級『オハイオ』『メイン』『イリノイ』『ケンタッキー』
ユナイデットステーツ級『ユナイデットステーツ』『アラスカ』『ハワイ』『テキサス』
重巡洋艦
ボルチモア級『ピッツバーグ』『オールバニ』
軽巡洋艦
ファーゴ級『ニュー・ヘブン』『ニューアーク』
アトランタ級『サンディエゴ』『サンファン』
この損害は、アメリカ艦隊に撤退を決断させるには十分過ぎる物であった。戦艦への損害は皆無な状況ではあるが、それ以外の艦艇の損害が酷過ぎた。なによりこの一戦で、自艦隊の航空母艦を全て沈められるか戦闘不能に追いやられた為に航空機の傘が消滅してしまった。航空機の傘がかけられないと言う事は、日本軍潜水艦に対して有効な制圧活動を行えないのと同義である。
未だに自軍のソナーではまともに捕捉できない敵潜水艦が多数存在する海域を航空機無しでノンビリ遊弋出来る程、アメリカ海軍は傲慢でも楽観的でも無かった。フィリピンを見捨てる形にはなってしまうが、救助活動完了後は即座にハワイに向けて撤退する。
…その方針が確定し、救助活動完了後イザ撤退、と舵を切りかけた時、ガトー級潜水艦の一隻、『アルバコア』が一つの報告を飛ばしてきた。
『日本軍戦艦部隊、自艦隊に向け全速力にて突撃中』
太陽の残り日が海面を照らし、あと少しで辺りの海域全てが黒き闇に飲み込まれようとして居る最中の出来事であった。
276 :641,642:2015/03/01(日) 15:22:05
はい、以上になります。うん、今回も凄い短いですね。すみません。
後以前の米軍輸送船団護衛部隊にインディペンディペンス級軽空母4隻を入れるのを忘れていたので、追加お願いします。護衛空母は西海岸とハワイ辺りで蠢いています。
…ちょっと日本軍艦載機部隊の戦果が多すぎたかな…
不自然でしたら修正致します。ってこんなのばっかですね…
最終更新:2016年10月10日 20:01