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ウェーク島沖
第二艦隊 旗艦 戦艦『越前』
「司令官。神威級各艦より『秘密兵器』が出撃したとの報告が入りました」
「了解。…まさか、青葉型、古鷹型重雷巡並みに色物である『アレ』を海戦で大真面目に使う事になるとはな…」
「艦隊決戦では絶望的に劣勢ですからね。使えそうな物は全て使わなければ。…ただでさえ、実戦経験では天と地の差が有る上に、各種機器に関しても…」
皆まで言うな。
目線で参謀の嘆きを止めた宇垣纏。既に賽は投げられた。今更無い物ねだりしても意味が無い事は、この場に居る全ての人間が理解していた。
日本海軍は、昼間の海戦で多数の艦艇を撃沈する事に成功した。航空主兵主義に則り生み出された、この世界の全ての艦載機と比べて隔絶した性能を誇る機体。その機体を自由自在に操る優秀なパイロット。そして練り込まれた戦闘法で敵機動部隊に対して(偶然の幸運も味方して)優位に立てたからだった。
…だが、その『航空主兵主義』によって、基本的に日本海軍の多くが『戦艦』を『空母護衛艦』か、それに近い認識しか抱いておらず、『敵戦艦との艦隊決戦の切り札』と考えていた人間は余り居なかった。その為海軍の軍事費の多くが空母や艦載機、対潜対空火器へと割かれており、戦艦に対しては…対空火器更新は兎も角…時代相応より一定度進んだ程度の性能しか持たされていなかった。…まあ、お蔭で艦載機が須らく未来兵器揃いなのだが…
少なくとも、転移前に建造した最新鋭艦である…41㎝砲12門30ノット対空火器満載の…加賀型戦艦と言う、『防空戦艦』としては100点満点、『艦隊決戦用戦艦』としては50~60点程度に近い艦艇を建造している時点で、日本海軍の機動部隊への傾倒具合が良く分かる状態だった。
世界情勢的に巨大戦艦の建造が許されなかったと言うのも有るが…(モンタナ級を80点、US級を100点とする)
しかし、本来はそれで『正解』であった。…本当は『第一次世界大戦』となる筈だった…『欧州大戦』を表向きの切欠にした、
アメリカと歩調を合わせた全世界規模での介入により世界が平和になった以上、艦隊決戦なんて『時代錯誤』な代物は発生する可能戦はゼロとなった。後は未来知識を活かして機動部隊とソレを護衛する艦艇を揃えて世界的な発言力を確保して行く。巨大戦艦なんてそう遠くない未来に陳腐化する物を、今まで努力して作り上げた平和を壊して膨大な血税を使ってまで作る訳にはいかない…。
夢幻会が描いた未来地図は、そういった物であった。
491 :641,642:2015/03/10(火) 21:55:48
だが…1940年4月1日に発生した『転移』が、艦隊決戦と言う『時代錯誤』な代物が当たり前に続けられており、人種差別が世界を闊歩している上に、史実でその概念を破壊した日本も、日本に準ずる国家も存在しない…と言う世界に飛ばされてしまった事が、夢幻会が転移前に描いた未来地図の前提となる物全てを消し飛ばした。
一年の猶予期間で夢幻会は軍備強化に狂奔したが…航空戦力は別として、水上艦艇戦力の劣位はどうあがいても覆せなかった。改装して雷装を強化した艦艇を多数整備しはしたが、事実上それ位しか有効な強化はされなかった。その為、夢幻会は航空攻撃で補助艦艇を多数排除し、その後戦艦部隊がモンタナ級やUS級を引き付けている隙に大量の酸素魚雷で敵戦艦に引導を渡す…。この手段を取った。否、取らざる負えなかった。
第一段階の補助艦艇の排除は完了した。後は敵戦艦の注意と砲撃を引き受けつつ回避運動で回避しながら水雷戦隊が敵戦艦を撃沈するまで耐えれば良い…
少なくとも、あの『秘密兵器』が敵観測機を撃墜してくれれば、敵弾を回避するまでの一翼となるだろう。色物には違いないが、この際だ、生き残る為に四の五の言わずに何でもしてやる。
宇垣がそのような事を考えつつ、いつも通りの『黄金仮面』の表情で部下との受け答えや指示を行っていく。
…一瞬、脳裏に過った映像は、『ただの気の迷い』として、無視する事にした。
アメリカ艦隊 旗艦 『ユナイデットステーツ』
「各艦艇に、作戦内容の通達は届いたか?」
「全艦より『了解』との返信が有りました。…まさか、あそこまで敵航空部隊が強力だったとは、想定外でしたね。司令官…」
「そうだな。だが、あの戦果で満足せずに戦艦にまで欲を出したのは彼らの失策でしかない。彼らの驕った性根を砲撃で叩きなおしてやろうでは無いか。…それに…」
間違った道を進む子供には尻を100回叩いてでも正しき道を教えて進ませる。それが、私達大人の義務と言う物では無いかね、諸君?
演劇口調で言われたその言葉に、艦橋は大爆笑に包まれ『目に物見せてやるぜ日本海軍!』『昼に沈められた仲間たちの敵討ちだ!』…等と、司令部要員の士気は最高潮に高まっていた。
さあかかって来い日本海軍。そう易々と我らは負けも沈められもしないぞ。
アメリカ海軍史上トップクラスの砲戦指揮官と謳われる、ウィリス・オーガスタス・リー・ジュニア。『この先の戦争』を楽にする為に、そしてアメリカへ『惨敗』だけでは無く『勝利』の報告を齎す為に日本戦艦部隊を撃滅すべく、今まさに全神経と脳細胞を目まぐるしく働かせ始めていた。
492 :641,642:2015/03/10(火) 21:58:55
…尚極めてどうでも良い余談だが、彼が先ほど語った『間違った道を…』の言葉が艦隊全部に通信で流されていた事に気づくのは、暫くしてからの
事であった。
米軍艦隊
戦艦
モンタナ級『オハイオ』『メイン』『イリノイ』『ケンタッキー』
ユナイデットステーツ級『ユナイデットステーツ』『アラスカ』『ハワイ』『テキサス』
(戦艦の殆どは損傷皆無。機関に両用砲や主砲の調子も絶好調)
重巡洋艦
ボルチモア級『ピッツバーグ』『オールバニ』
軽巡洋艦
ファーゴ級『ニュー・ヘブン』『ニューアーク』
アトランタ級『サンディエゴ』『サンファン』
フレッチャー級駆逐艦
日本艦隊
戦艦
扶桑型『扶桑』『山城』
伊勢型『伊勢』『日向』
長門型『長門』『陸奥』
加賀型『加賀』『土佐』『越前』『讃岐』
金剛型戦艦『金剛』『比叡』『榛名』『霧島』
重巡洋艦
愛宕型『愛宕』『高雄』『鳥海』『摩耶』
神威級『神威』『雲早』『白砂』『御神楽』
重雷装巡洋艦
球磨型軽巡洋艦改装艦『大井』『北上』『木曽』
軽巡洋艦
阿賀野型『阿賀野』『能代』『矢矧』『酒匂』
駆逐艦 島風型
…日本艦隊の編成は、戦艦14隻、重巡洋艦8隻、重雷装重巡洋艦3隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦多数。
対するアメリカ艦隊。戦艦8隻、重巡洋艦2隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦それなり。
日本艦隊の戦艦に一隻も46㎝、51cm砲戦艦が存在せず、1ランク、2ランク落ちる41㎝砲戦艦ですら6隻のみで残りが36,5cm砲戦艦であると言う…46㎝、51cm砲戦艦の山であるアメリカ艦隊とまともにぶつかると台風の前の小石の如く吹き飛ばされかねない…劣勢にも程が有る状況であったが、意外と日本艦隊の悲壮感は…夢幻会員を除いて…比較的抑えられている状況だった。
夢幻会による『慢心、ダメ、ゼッタイ』的教育が行き届いてはしたものの、教育程度で人の感情がコントロールしきれる訳も無く、乗員の多くは「被害は出るが、必ず勝てる」と言う思いを抱えている者が多かった。無論、敵艦隊が46㎝、51cm砲戦艦を基幹とする強力な艦隊で有る事は『知って』いるし、自分たちの戦艦では敵戦艦の一弾で轟沈する可能性が高い事も『分かって』いた。
だが…艦艇数で圧倒しており、自艦隊戦艦は敵戦艦より優速であり、砲撃しつつも回避運動を行っていればそうそう命中弾は出ないと言う『知識』が有る。欧州大戦後、一度も大規模な海戦を経験していない、現在の艦艇乗りの多くは、その『知って』いる、『分かって』いる原則や常識に縛られた考えの人間が多く…格下の戦艦で艦隊決戦を行うと言う事の意味を正確にイメージする等して『理解して』居る者は壊滅的に少なかった。
493 :641,642:2015/03/10(火) 22:02:43
この点に関しては、夢幻会員もある種例外ではない。元々夢幻会員は『前世の記憶』、人によっては『前世と前々世の記憶』を所持してこの世界に生を受けているわけだが、その前世や前々世の記憶と言うアドバンテージの有る夢幻会員ですら『知って』いる、『分かって』いる程度でしか無く、『理解して』いる人間は殆ど居なかった。
『史実』出身者は艦隊決戦が完全に過去の物となっていた時代に生まれた者か、戦時中出身者でも実質的に航空機に嬲り殺された記憶しか無い人間が殆どだった。
『憂鬱』出身者となると、今度は航空機で蹂躙『する』側だった事も有り、戦艦同士での艦隊決戦を直に体験した者はいたが、圧倒的に有利な戦況での…実質的に残敵掃討の様な海戦が一回のみの人間が殆どだった。
『戦後憂鬱』出身者になって初めて不利な戦況下での、複数回の大規模な艦隊決戦経験者が複数出て来たが、基本的に46㎝砲戦艦である大和型戦艦でもって、最大で41センチ砲戦艦のアメリカ戦艦を沈め続ける戦闘が殆どであり、『数』での劣勢は多々あったものの『基本性能』での劣勢は一度も無かった。
…要は、夢幻会員ですら体験した事の無い『基本性能で圧倒する敵戦艦を数の利で押しつぶす』と言う戦法を、転移前の欧州大戦が最後の艦隊決戦であった大陸日本のルーキー(プラス夢幻会員)が、独伊海軍との戦闘で鍛えられたベテラン揃いたる米戦艦部隊に挑む事になったのである。
『ベテランが操る圧倒的格上の敵戦艦からの砲撃を格下である自軍戦艦部隊が受け持ち、高速を活かしてその砲撃から逃げ回りつつ軽快艦艇の雷撃で殲滅する』
名案に思えたその作戦が、『艦隊決戦』の素人が描いた極めて傲慢かつ虫の良い身勝手な作戦だったと思い知るのは、敵艦隊と組み合って大分経ってからの事であった…
494 :641,642:2015/03/10(火) 22:06:49
灰投下終了に御座りまするー。
ウン、色々蛇足でしたね今回…
次回こそは人類史上最大の艦隊決戦をお送り致します。
…以前雪風様が投稿された扶桑型ミサイル戦艦を本気で制作
せなアカンかもしれへんわ…
最終更新:2016年10月10日 20:18