549 :641,642:2015/03/14(土) 21:28:54
『人類史上最大の艦隊決戦』と称されたウェーク島沖夜戦でいち早く敵艦隊を捉え、砲撃を叩き込んで戦闘の主導権を奪えたのは…当然ながらアメリカ海軍であった。


独伊との戦闘で習熟したレーダーにより日本艦隊を早期発見したアメリカ艦隊は、惚れ惚れする様な見事な艦隊運動により効率的に日本艦隊との距離を詰めつつ『アメリカの至宝』と自慢のユナイデットステーツ級51cm砲による砲撃を開始。

対する日本も遅れてレーダーでアメリカ艦隊を発見し、回避運動を取りつつも…一番遅い扶桑級に併せて…27,5ノットの高速で突撃を開始したが…初手をアメリカ艦隊に取られた事は極めて大きな痛手であり、モンタナ級、ユナイデットステーツ級の放つ46㎝、51cm砲弾の雨霰の中を長時間受け続ける羽目にあう…。


だが日本艦隊も黙って砲撃を受け続けるだけで無く、開戦後暫くしてから受領した『秘密兵器』による小さな反撃を開始した。


『ユナイデットステーツ』


「…味方観測機との通信が途絶えた?」

「はい。現在生存が確認されるのは2機しか居りません。…そして『敵戦闘機に襲われた』との通信を最後に通信途絶した機が複数…」

「この夜間に多数の観測機を撃墜できる戦闘機?!…まさか、ステーツとニホンとの航空技術の差は此処まで…」

「…なるほど。敵は水上戦闘機すらも繰り出して来たか。…彼らも必死だな」


航空参謀が衝撃の余り放った言葉を遮り、ウィリス・リーが自分の考えを皆に言う。


仮に夜間でも問題無く軍用機を戦わせられる技術力が有るならば、既に私達は敵機の攻撃を多数受けているだろう。それが無いと言う事は、彼らにもまだ夜間で航空機を完全に運用するだけの技術は無いと推測される。それに潜水艦(アーチャーフィッシュ)からの報告によると、既に敵機動部隊はこの海域を一旦離れているそうだ。とすれば、水上艦艇に搭載可能な水上機を戦闘機化した物を使っているのだろう…



リーが推測した通り、米軍観測機を撃墜した『戦闘機』は、神威級に搭載された『1式水上戦闘機 強風』。

戦艦の砲撃戦では、当たり前の話だが重巡等とは比べ物にならない程の遠距離で打ち合う為に命中率は基本低い。なので命中精度を高める為にも弾着観測機は砲撃戦には絶対必須である。…つまり、弾着観測機がいなければ、必然的に盲撃ちになって命中率はガタ落ちとなる…ハズ。なら少しでも生存率を高める為に観測機を撃墜するのがモアベターである。そして空母艦載機の援護が得られない状況(夜間戦闘、別の敵部隊に拘束されている等)でも確実に敵観測機を撃墜出来るようにしたい。つまり戦艦や重巡に搭載できる戦闘機が欲しい。

そんな都合の良い物が有るのか?有るでは無いか。我々の前世や前々世で投入された、土木技術不足の為に投入されたあのイロモノが。

550 :641,642:2015/03/14(土) 21:33:26

…その様な会話がなされたのかどうかは定かでは無いが、敵弾着観測機を撃墜するのを主要任務として制式化されたこの水上戦闘機。

一から開発する余裕は無かった為、二線級となった為に機体が多数余っていた98式艦上戦闘機をベースに改造して水上機化された経歴を辿ってこのウェーク島沖にて多数の敵機を撃墜する華々しい実戦デビューを飾る事となった。



「…とすれば、『少しばかり』面倒ですな。」

「ああ。『少しばかり』面倒だ」



だが、そのような『小手先の子供騙し』で米軍の攻勢が弱まる訳など無かった。


観測機との連絡が取れない?ああ、なら弾着修正に少し手間取るだけだな。…で、日本海軍よ。それがどうした?まさかコレだけで俺たちがマトモに砲撃出来ないとでも思ったのか?


枢軸軍との幾度もの海戦を経験したアメリカ海軍戦艦の砲撃戦のベテラン勢にとって、観測機との連絡無しでの砲撃戦『程度』、特に問題とするような事では無かった。特に『自身の目』と断言出来る程に扱いに習熟した各種レーダーが問題無く全力稼動中であるのなら、尚更である。



『越前』


「…脱落艦は?!」

「戦艦『扶桑』が至近弾により速度低下し脱落!『霧島』『陸奥』には直撃弾により轟沈!重巡『雲早』と駆逐艦『咲風』『春風』『波風』が敵艦の砲撃と味方艦との衝突により沈没もしくは落伍しました!」


回避運動を取りつつ27ノットを超える艦隊速度を活かして自艦隊もアメリカ艦隊を補足し、砲撃戦を開始した日本海軍。だが…砲撃戦開始地点に辿り着くまでに受けた損害は、決して小さな物では無かった。




確かに日本海軍も各種訓練を積んでこの決戦に臨みはしたのだが…これが『初実戦』の彼らに取ってあまりにも不利な状況のオンパレードであった。




訓練を積んだとはいえ扱いに習熟しきれているとはとても言えない新型電探。

夜間戦闘と言う、何時もとは勝手が違い過ぎた状態で敵艦隊との至近距離での戦闘を余儀なくされる環境。

平和と言うぬるま湯に長期間浸かっていた者達の…完全なる初陣の為…実戦のプレッシャーの中訓練通りに各員が動けるのかが不透明な状況。

敵アメリカ艦隊の戦艦の砲力だけで無く…つい先ほどまで命を懸けた戦いをしていた人間との…『実戦経験』と言う連度の圧倒的格差。

そして『本来は』有利に働くはず『だった』自軍艦艇の多さ。



アメリカがレーダーの情報を元に手早く修正を行い、かなりのハイペースで砲弾を送り込み続けているのとは対照的に、日本軍の攻撃は…アメリカと比べ…大分鈍く感じられる状態だった。

目の前で敵弾の砲撃が作り上げる巨大な水柱。轟音と共に一瞬で跡形も無く消えていく味方艦艇。一方日本戦艦の砲撃は…射程外の為…沈黙したままずっと撃ち込まれ続けている…

平和ボケに近い状況だった各艦艇の乗員が初の…漸く『理解』した…実戦において、一切何の問題も無く目の前の状況に即座に対応出来るだろうか?
そんな訳が無い。出来るのは小説や漫画の世界だけである。

551 :641,642:2015/03/14(土) 21:37:30
巡洋戦艦上がりの戦艦である『霧島』。改装で31ノット、35,6㎝砲を主砲とした高速艦として侮れない戦力である彼女に命中したのは、ユナイデットステーツ級戦艦『ハワイ』の51cm砲弾。改装していようがいまいが14インチ砲戦艦でしかない彼女が51cm砲弾を受けて生き残れる筈も無く、轟沈。第二艦隊初の喪失艦の彼女に引き続き、この一夜で多くの艦艇が後を追う事となる。


長門型戦艦『陸奥』には46㎝砲弾が、それもよりにもよって弾薬庫に命中し、瞬時に爆沈。

『扶桑』は回避運動により複数の51cm砲弾全てが至近弾で済むと言う…前者二隻よりも…運に恵まれていたが、その至近弾により浸水、推進器破損。速力が一気に18ノットにまで低下した為に艦隊から置いて行かれ、『脅威では無い』と米海軍からも放置された為に、皮肉にもこのウェーク島沖夜戦で最も戦闘力を最後まで残す事が出来た戦艦となった。


そして大規模夜戦に付き物の混沌も当然発生した。無論の事、日本海軍の方で。

重巡『雲早』は回避運動を行っている最中、同じく回避運動中に転舵を誤った駆逐艦『春風』に前方をいきなり防がれ、避けきれずに衝突(体当たり)し中破。ぶつかった春風は艦首側の船体を引き裂かれて沈没した。

『波風』は敵艦の至近弾で推進器が吹き飛び航行不能となり、その直後に『咲風』が回避しきれずに『波風』と接触。『咲風』『波風』共に沈没こそしなかったが、『波風』はとても砲雷撃戦に参加出来る状態では無く、損害が少なかった『咲風』も艦隊復帰にもたついて戦線復帰するのは暫くしてからであった。


幸い衝突や被弾による脱落艦こそこの7艦で収まったものの、初陣者が『大規模夜戦』で、『レーダーの取扱に完全には習熟しきっていない』状況で、『巨大戦艦の砲撃を受け』つつ、『味方艦の大群に注意を払い』ながら、『冷静かつ訓練通りに精密な艦隊運動』を行えるハズも無く、事前想定とは比べ物にならない程乱れきった陣形での砲撃戦に雪崩れ込む事態となった。



そんなある意味笑える状態の日本艦隊に対して、アメリカ艦隊の動きは極めて整然としていた。枢軸国との戦争で(空振りも多々有ったが)夜間での戦闘や艦隊運動を何回も経験している以上、当たり前ではあるが。


ボルチモア重巡の『ピッツバーグ』『オールバニ』は、ユナイデットステーツ級戦艦(の副砲)目がけて遮二無二突貫してきた愛宕型重巡4隻と。

軽巡のファーゴ級『ニュー・ヘブン』『ニューアーク』と、アトランタ級『サンディエゴ』『サンファン』の4隻は、旗下の駆逐隊を引き連れて雷撃しようと進撃中の阿賀野型軽巡4隻と『北上』『大井』『木曽』の雷撃巡洋艦の3隻を妨害しようとして、雷撃部隊の護衛に回っていた『軽快艦艇駆逐戦艦』とのあだ名が有る、副砲多数搭載した『伊勢』『日向』と接敵。交戦状態に移行した。

552 :641,642:2015/03/14(土) 21:40:10

そして…この事前想定も演習による経験も全く役に立たない何もかもが想定外過ぎる状況でも、各艦の艦長、そして司令官の宇垣たちは、部下を何度も叱咤激励して萎えそうになっていた各員の闘志を燃え上がらせていた。


『雷撃に成功するまで耐えろ、雷撃に成功すれば俺たちの勝利だ!』…と。



…自分の第六感とも言うべき本能が絶える事無く『逃げろ』との警告をがなり立て、脳裏に(己の意思と関係なく)幾度と無く再生される…橙、赤、黒に彩られた…ウェーク島沖の景色を『気のせいだ』と各員が必死に無視しながら…




553 :641,642:2015/03/14(土) 21:42:38
終了に御座いまするー。

次回は雷撃部隊が、戦艦隊が、巡洋艦部隊がどんな目に合うかを
投稿する予定です。…言うならば中盤戦、かな?

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最終更新:2016年10月10日 20:29