623 :641,642:2015/03/19(木) 19:47:48
ボルチモア級重巡洋艦と愛宕型重巡洋艦。この両艦艇は良く似た…と言うよりも、殆ど同じ様な能力と運用が想定された艦艇であった。日本の方は史実ボルチモア級を参考にして作ったのだから当然だが、真実を知らない人間にとっては異なる世界、歴史を辿り、航空主兵主義と大艦巨砲主義と言う正反対の海軍ドクトリンを持つ二つの海洋超大国が同様の艦艇を建造した事は、後世の多数の歴史家、小説家等が良く考察する題材となり、各人の飯の種となっていた。


そんな両艦が艦隊決戦の場で正面衝突したウェーク島沖。双方とも性能が同等とすれば、本来ならば数にして2倍となる日本の愛宕型重巡の方が有利のハズだったが…戦争では単純な算数で全てが決まる物では無い。物量が戦況を大きく左右する陸戦ならともかく、物量より性能差に加えて連度差がものを言う海上砲撃戦である。

愛宕型重巡の4隻は…ボルチモア級重巡の存在は頭に入ってはいたが…目の前で砲火を轟かせているユナイデットステーツ級戦艦の方に注意が強く向いてしまい、気づいた時にはT字を描くべく転舵を行っていたボルチモア級が目前で発砲を開始していた。


単従陣で先頭を航行し、遅ればせながらに回頭を始めた『愛宕』に『ピッツバーグ』『オールバニ』の砲撃が集中し被弾。そう簡単に戦闘力を喪失する訳は無いが、戦艦に気を取られてベテラン相手に先手を許すのは、大きすぎる失態だった。


『ピッツバーグ』と『オールバニ』に与えられた任務は、単純に『足止め』である。アメリカ側通称『Jボルチモア』こと愛宕型重巡の性能を大よそながら把握出来ていたアメリカ海軍は、(雷撃艦艇程では無いが)割合注意すべき艦艇と認識していた。勿論戦前には差別意識に基づき『見かけだけのブリキ缶』等と酷評していた者も居たのだが…皮肉な事に、ウェーク島沖航空戦が、そのような楽観論、差別意識を完全に消し飛ばしていた。

あの空襲を受けても未だに楽観論や差別意識を唱えるような現実を見ようとしない頭の固い馬鹿は…きっと今頃は海で魚やサメと戯れたり空への階段を昇る作業をこなしているのだろう。



全体的に艦艇数が劣勢である以上、無理に撃沈しようとしたら反撃で早期に自艦が無力化される可能性が高い。まあアメリカ艦隊は一応戦艦の性能『だけ』は圧倒しているが、かと言って戦艦だけが強くても海戦に勝てる訳が無い。全方位から袋叩きを受けたらUS級と言えどもその内撃沈されるだろう。

その為、モンタナ級やユナイデットステーツ級が日本海軍の戦艦を撃滅するまで、アメリカ艦隊の巡洋艦や駆逐艦は出来る限り足止めに徹するようにウィリス・リーは命令した。無論チャンスが有れば、撃沈しても構わないとも伝えてある。

624 :641,642:2015/03/19(木) 19:50:50
そして『ピッツバーグ』『オールバニ』は、愛宕型4隻相手に命令通りに足止めの戦闘に徹するだけでなく、敵艦を一隻でも戦線離脱させるべく強烈な一撃を精確かつ狙い通りに叩き込み続けた。



相対する日本海軍愛宕型重巡洋艦部隊。ほぼ同格とはいえ自分たちの半数である二隻相手のボルチモア重巡洋艦に対して…事前想定の下馬評は何処へやら…大苦戦していた。

『愛宕』『高雄』が『ピッツバーグ』を、『摩耶』『鳥海』が『オールバニ』に対して砲撃を加えていたが、単従陣の戦闘を走っていた『愛宕』に…回頭、交戦開始するまでに…多数被弾して戦闘力が低下していた事、夜戦の『慣れ』の差、『早く突破して雷撃部隊の掩護を!』と焦りすぎていた為に生まれた精神的余裕の差の為に、実際の所艦艇数ほど戦力値に差が有る訳では無かった。


とは言え、日本海軍も素人の集団では無い。むしろ良く鍛えられている方の軍隊である。態勢を整え直し、腰を据えて砲撃戦を行えれば…4対2でもあり…撃沈、撃破は問題無く行えた。
ただ…『ピッツバーグ』を大破、後自沈処分、『オールバニ』を撃破し撤退に追いやったのは良い物の、猛烈な反撃で『愛宕』大破戦線離脱、『高雄』第二、第三砲塔使用不能、『鳥海』艦橋に直撃弾1発と言う損害を受けた事に加え、この二隻への対処に手間取りすぎた為にユナイデットステーツ級への攻撃時刻が大幅に遅れてしまっていた。



同じような事態は『伊勢』『日向』対ファーゴ級『ニュー・ヘブン』『ニューアーク』、アトランタ級『サンディエゴ』『サンファン』戦でも発生していた。…と言っても、愛宕たちよりも遥かに早く全艦撃沈破に成功していたが。

何せ『伊勢』も『日向』も多数の副砲を装備している。対空戦艦だった時代の名残で高角砲もそれなりに残っている。
搭載した全ての艦砲を4隻に正しく滝の如く撃ち込まれれば、いくら連度優秀なアメリカ艦艇乗員と言えども無傷で避けきる事等不可能である。しかも、乗艦しているのは戦艦でも重巡洋艦ですら無く軽防御な軽巡洋艦でしかない。


『伊勢』『日向』共に一部副砲が潰された以外は…時間を除いて…大した損害も無く、『ニュー・ヘブン』『サンディエゴ』『サンファン』を撃沈もしくは大破漂流させ、残る『ニューアーク』も撤退に追いやる事に成功。意気上がる両艦は勇躍敵戦艦に向けて再度突撃を開始した。
…突撃した先でどのような地獄が現出されているとも知らずに。



神威級重巡洋艦。夢幻会所属のとある海軍軍人曰く『史実利根型の武装強化型艦艇』と表現されているこの重巡洋艦は、今現在…モンタナ級戦艦『イリノイ』『ケンタッキー』の砲撃を受けてのた打ち回っていた。


625 :641,642:2015/03/19(木) 19:55:24
既に脱落した『雲早』を除いた、砲撃を受けている『神威』『白砂』『御神楽』の各艦の乗員は今の状況が理解出来なかった。何故俺たちを狙う?何故『一番の脅威』である戦艦では無く重巡を狙う?


…各員の脳内が疑問符で埋め尽くされそうになりながらも、遥か彼方で砲撃しているアメリカ艦隊が親切ご丁寧に解説してくれるはずも無く、総員生き残る為の各種作業に追われ、没頭しているうちに『一体何故?』と言う疑問は自然と消えて行った。考える余裕が無くなっただけとも言う。


そして彼らの疑問は『フレッチャー級駆逐艦が多数水雷戦隊を襲撃。自軍戦艦には一艦も接近する様子見られず』との報告が入ってからようやく氷解するも、その時には…各戦艦の副砲、両用砲を道ずれにして…既に『神威』も『白砂』も海上から姿を消しており、残る『神楽坂』も戦闘不能の損害を受け、重巡『神威』部隊は、壊滅していた…



『酒匂』

「…くぅ…脱落艦が多すぎる…!『大井』に『阿賀野』『矢矧』たちが抜けた穴は大き過ぎる…!!」

「もう再集結も陣形を整える時間は有りません!今雷撃可能な針路に乗っている私達だけで奴らを沈めなければ!!」



状況は最悪の一歩手前で有った。フレッチャー級駆逐艦が一艦残らず大挙して雷撃部隊に突っ込んできた為に、雷撃巡洋艦『大井』阿賀野型軽巡洋艦『阿賀野』『矢矧』他駆逐艦複数がフレッチャー級への対応に追われ、敵戦艦への雷撃部隊から暫く脱落する事を余儀なくされ、唯でさえ不安要素が有る対艦攻撃力が余計に低くなっていたが、かと言って『集結するまで雷撃しません』等と言えるハズも無く、阿賀野型軽巡『能代』『酒匂』雷撃巡洋艦『北上』『木曽』と数隻の島風型駆逐艦で突貫し続けていた。陣形もやや乱れていたが最早『そんな事は』気にする余裕も時間も無かった。



「見張りより艦橋!!戦艦『加賀』爆沈!『讃岐』にも多数の至近弾有りと見ゆ!!」


次々と自軍戦艦が沈み続けて目標が段々と絞られてきており、戦艦部隊の損害が加速度的に上昇してきている以上、一刻も早く敵艦隊に突入して雷撃するしか味方と自分を生き残らせる方法は無かった。


そして…






「『能代』『酒匂』以下雷撃部隊より入電!『ワレ、雷撃二成功セリ』!!」



全艦艇に届いたこの電文は、日本艦隊の士気を文字通り天井知らずの物と言えるまでに上昇させ



「…ッ?!て、敵戦艦転舵!!回避運動を行う模様!!!」


大して時を置かずに飛び込んで来たこの報告が、日本艦艇の全ての乗員の士気を、絶対的な奈落の底へと叩き落した。




626 :641,642:2015/03/19(木) 19:57:42
終章に御座いまするー。

いやー…ホントこの先どうなるのでしょうか日本海軍水上部隊。
熊二匹が子供抱えて先生に話しかけているAAが浮かんでしまい
ますね。

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最終更新:2016年10月10日 20:32