713 :641,642:2015/03/23(月) 23:48:40
『ユナイデットステーツ』
「司令官。見張りより『多数の雷跡、並びに魚雷の早爆と見られる爆発複数確認。自艦隊に向かう物は確認できず』…との事です」
「…回避運動を行っていて良かった…もしあのまま直進して居たら…」
「参謀長。まだ戦闘は終結していない。気を抜くには早すぎるぞ」
安堵のため息を吐く参謀長とそれを戒めるウィリス・リー。…そう言うリーも心の底では参謀長と同じく安堵のため息を深く吐いていたが。
…実を言えば、アメリカ海軍は、日本側の必殺兵器『酸素魚雷』の存在を明確に掴んでいた訳では無かった。諜報部は…烈風や隼では無く98式の情報しか(しかも低性能に見積り)掴めなかったように…日本の特殊すぎる環境と時間的制約、そして阿部や村中率いる内務省と諜報部のタッグの前にあえなく玉砕していた為、徹底的に防諜が施されていた酸素魚雷の存在を、アメリカ海軍は知らなかった。仮にこのまま何事も無くウェーク島に来ていれば、酸素魚雷の槍衾の前に(ソ連海軍よりもマシだろうが)大損害を受けていた可能性が高かっただろう。
アメリカ海軍に酸素魚雷の存在を感付かせたのは、開戦初頭の『モンタナ』『ニューハンプシャー』が潜水艦の雷撃で大破したのが発端であった。
この両艦が魚雷を5本も受けた事は…初めは『雷跡は確認出来なかった』と言う報告を『見張り員がサボっていたから』等として、乗員の怠慢として片づけられかけたのだが、太平洋艦隊司令長官の『チェスター・ニミッツ』や打撃艦隊指揮官『ウィリス・リー』がその結論に待ったを掛けた。
本当に見張り員の怠慢が原因なのか?
魚雷五本とは言え極めて頑丈なモンタナ級が(奇跡的に浮いていられるレベルでの)廃棄寸前の被害を得るのは妙ではないか?少なくとも通常魚雷よりも威力が大きいのではないか?
日本が戦艦戦力で絶対的に劣勢な中、あれだけアクティブな行動に出たのは、何か強力な鬼札を伏せているからでは無いか?
…そして、フィリピンに日本軍が上陸されている状況では悠長に対策会議を開く訳にも行かず(財閥の意を受けた議員たちに急かされた事も有り)駆逐艦を増強する程度の対策しか行えなかったが、ニミッツが『もしかしたら、日本海軍は酸素魚雷辺りでも実用化しているのかもな』と出撃前の作戦会議で言っていたのを、リーは覚えていたのだ。
(この世界で各国海軍では、酸素魚雷は開発途上で悉く実用化、制式採用に失敗していたが、
アメリカでは実用化こそされなかったが雷跡の見えにくい魚雷が製造出来なくも無い事は知られていた)
そして酸素魚雷の存在を確信したのは…やはり昼の航空戦での日本軍機の行動…戦艦を無視して補助艦艇のみへの攻撃実行…だった。
714 :641,642:2015/03/23(月) 23:53:17
どういう訳か巨大戦艦を保有できなかった日本は、強力な航空機で補助艦艇を排除し、夜戦で強力な魚雷で敵艦隊を排除するドクトリンを確立しているとリーは確信し、そして海戦時『日本は酸素魚雷もしくはそれに類する高性能魚雷を実用化している』と言う自信の勘に従い…間違っていたら敵戦艦を多数逃す可能性も考慮した上で…回避運動を実行したのである。
そして、アメリカは賭けに勝利し、日本は賭けに敗北した。
「…砲撃戦はある程度に留めて、時間を見て引き揚げなければな…」
アメリカ艦隊の士気が最高潮に天元突破して追撃に燃えに燃えまくっている中、司令官のリーは撤退のタイミングを計りかねていた。確かにこのまま砲撃戦を続けていれば敵艦隊を撃滅可能かもしれないが…
「『ハワイ』より通信!第二砲塔損傷し使用不能!炎上や誘爆の危険は無し!」
「『イリノイ』から通信!『ワレ、第一、第三砲塔使用不能』!」
日本海軍の砲弾の豪雨により、一定度の損害が出て来ている状況であり、このまま夜が明けるまでウェーク島沖に居座り続けるのは危険だと判断したのである。ただ…
もう十分に戦果は出した。後は勝ち逃げするだけだが…
目の前で往生際悪く食らいつく日本艦隊を見て、『…もう少し沈めてから帰るか』と…魚雷を回避して気が緩みでもしたのか…リーは暫く交戦を継続する事を選択してしまった。
『越前』
「…ダメです!命中弾有りと見るも、有効弾無し!」
「馬鹿野郎良く見ろ!敵戦艦の発砲炎が少なくなっている!こっちの攻撃はちゃんと効いているんだ!諦めるな!撃ち続けろ!!」
「雷撃隊の再装填まで再度時間を稼ぎつつけるんだ!Z旗の旗に恥じない働きを見せろ!!」
雷撃が無力化された事に衝撃を受け、絶望する乗員と、それをあの手この手で叱咤激励して戦闘続行させるベテラン勢(一部
夢幻会含む)…
この構図は、日本艦艇のごく一部(『酒匂』『越前』『雪風』等)を除いた全艦艇を覆っている状態だった。
人間は、始めから絶望しか無いと分かっていて絶望するのと、希望を持たされた上で絶望するのでは、後者の方がより深い絶望の泥沼に嵌る物である。特に、仲間を多数失って自らも散々傷ついた上で指先まで近づいた希望が一瞬で儚く消滅した場合の絶望は、想像できるような物では無い。
雷撃直前に爆沈した『加賀』が死に際に放った斉射により、『ハワイ』の第二砲塔を使用不能にしたり、『長門』や(ようやく追いついた)『伊勢』『日向』が『イリノイ』の第一、第三砲塔を損傷させたり『金剛』『比叡』が『メイン』に砲弾の雨を叩きつけていたりと…格下の戦艦とは思えないほどの奮戦を見せつけるも、元々の自力の差は生半可な幸運程度では覆せられない程開いている以上、完全にジリ貧であった。
715 :641,642:2015/03/23(月) 23:57:07
(どことは明言はしないが)海軍によっては即座に潰走しかねない戦況ではあるが、日本海軍はギリギリで何とか踏み止まっていた。勇将の下に弱卒無し、と言う事でもあったが、戦闘開始前に行った宇垣纏による『故国を守る戦』を主旨とした演説が案外将兵の心に響いていた事も有った為であった。
「『讃岐』被弾沈没!『日向』にも直撃弾認む!あ、な、『長門』にも被弾確認!!」
…だが、それでも限界であった。これまでの戦闘で受けた大損害と一向に沈黙しない敵戦艦の砲火により、かなりの将兵が心折れかけており、仮にもう一隻戦艦が沈んだら…日本艦隊は、文字通りただ殺されに来ただけと評されかねない損害と戦果を受けて撤退…と言う名の敗走…せざる負えなかっただろう。無論、敵戦艦は一隻も撃沈出来ないままで…
「『山城』『金剛』より入電!」
「『酒匂』以下雷撃部隊より打電です!」
…そして、今海戦最後のターニングポイントが訪れた。
「『山城』『金剛』より『ワレ、敵戦艦ヘ突撃ス。跡ヲ頼ム』!!」
「『ワレ、魚雷再装填完了セリ。コレヨリ再突入ス』!!」
全艦艇に飛び込んだこの二つの電文が、崩壊寸前だった日本艦隊の士気を文字通り首の皮一枚、最後の一線で喰い止めた。
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716 :641,642:2015/03/23(月) 23:59:54
はい、コレでウェーク島沖海戦は終結(予定)です。次回は日米戦果リザルト
を提出する予定です。…うーん…上手く書けないなぁ…
そして御免なさい。疲れたのでもう寝ますわ(´・ω・`)
最終更新:2016年10月10日 20:35