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大陸日本歴1941年(転移先西暦1945年)10月10日
フィリピン マニラ
気温29度強。湿度70%超。天候は雨上がりの快晴。
一般人のみならず、鍛えられた軍人であっても茹だる様な暑さに包まれているフィリピン共和国の…『元』アメリカ合衆国植民地である…この都市の一角では、軍服やスーツに身を包んだとある『肌色の』男達が、額から汗を滴らせながら会議を行っていた。
「…本土からの各種物資の搬入は極めて順調です。海上護衛総隊のみならず、連合艦隊所属艦艇も一部動員した事により、輸送船団の損害は戦前より想定されていたよりも遥かに下回る物でした。皆無に等しいと言っても過言ではないかもしれません」
「『進駐地域』の治安関係やアメリカ軍捕虜に関してもコレと言った問題は発生していません。…食事が三食キッチリ提供され収容所に教会や野球場すら用意されているのに捕虜全員が未だに面喰っていましたが」
「現地独立準備政府との協議も比較的順調に進んでいます。ただ…やはり不信感と言いますか、疑念は未だに晴れる様子は見られませんので、今後とも私達外交官や官僚のみならず『進駐軍』に際しましても、出来る限り問題を起こさない様に鋭意努力をお願いいたします」
元は『白肌の』男達の根城だった此処を占拠しているのは、南方進駐軍フィリピン方面隊に所属している陸軍高官と、その陸軍への輸送船団護衛を担当している海軍所属の将官。そして現地独立勢力との交渉等に当っている本土の内務省や外務省等から派遣された官僚たちである。
「…要約すれば、事前に想定されていた物よりも遥かに順調に『一時的』統治体制が整ってきている、と言う事か。一時はどうなる事かと思ったが、取り敢えずは重畳…と言えるかな」
そしてそんな彼らを取り纏めているフィリピン進駐軍司令官である、本間 雅晴中将。
大陸日本陸軍と言う、分母が増えたが為に史実列島日本以上に各種英才やエリートが集うこの組織の中でも随一と言える極めて豊富な教養や国際法の知識、海外駐留の経験を持つこの男を、
夢幻会は信任していた。
彼は転生者では無い為に夢幻会に所属こそしては居なかったが…実質全世界との戦争と言う非常事態時に…彼の日本陸軍内でも広い視野を持つ将官を後方にほったらかしにする贅沢が許されなかった為、夢幻会の尽力にてこの『フィリピン方面隊進駐軍司令官』の任務を拝命した経緯がある。無論そんな裏事情は本人には与り知らぬ事ではあったが。
…ウェーク島沖海戦において、一昼夜に亘って日米両海軍が自分たちの常識の外に存在した想定外の化け物相手の戦闘で悲惨な事になっていた頃、東南アジアでは日本陸軍と東南アジア駐留の連合軍による連戦に次ぐ連戦が行われていた。
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フィリピンでは『偉大なるマック』ことダグラス・マッカーサー率いる
アメリカ、フィリピン連合軍。
インドシナやシンガポール方面ではインド兵だけでは無く、アンザック軍に加え歴戦の本国兵も多数在籍していたイギリス軍。(フランス兵の大多数は本国に引き上げており、実質的脅威は余り無かった)
夢幻会チートによって憂鬱二式小銃や憂鬱三式戦車が早めに実戦配備されている日本軍に取って見れば、東南アジア駐留の連合軍装備は自分たちより大よそ一,二世代前の装備で有る為、戦前の想定ではそこまで苦労する事は無いだろうと考えられていた。上陸前に海軍によって連合国の航空戦力が無力化された事も有り、余計に楽観視されていた。
…結果から延べれば、日本軍は東南アジアの制圧に成功する。
…その代わりに、事前想定よりも(許容範囲内とは言え)大幅に時間の消費と犠牲を連合軍に強要される羽目にあったが。
確かに装備は日本の方が格上ではあった。その点に関しては連合軍捕虜が認めた事から確実に格上だったのだが…やはり、ウェーク島沖海戦で、海軍の水上砲戦部隊が露呈してしまったように、戦闘開始後から終結するまで徹頭徹尾、実戦経験不足が日本軍の足を引っ張り続けていた。
上陸直後の緒戦では…日本軍を侮って…不用意に接触してきた有力な敵軍を、自分たちの強力な火力によって撃破する事に成功し、初の実戦で不安だった兵員各員の士気を高める事が出来たのだが…連合軍がその情報によって戦前で練られていた安易な決戦から、連合海軍が日本海軍を撃破し、後方を遮断するまでの徹底的な遅滞戦術へと方針変更してしまったのが、日本陸軍の苦闘の始まりであった。
何処か教科書通りの動きの部分が多い日本軍を、多種多様、ありとあらゆる奇襲戦術やトラップ祭りで足止めし、隙を見て時には押し返す…
フィリピンでも、インドシナでも、一言で纏めれば上の様になる連合軍の奮戦の前に、…装備は一流、連度は二流と戦後に某新聞社に揶揄された…初陣の日本陸軍の進みは、始めの頃は遅々として進まなかった。一応前世で実戦経験のある夢幻会員も多数陸軍に所属してはいたが、軍団規模の兵員数の前では根本的に数が不足しており、最終的に常時砲爆撃で敵の居そうな所を吹き飛ばしながら慎重に進軍すると言う…ちょっと『カッコ悪い』戦闘になっていった。
だがまあ、カッコ良かろうが悪かろうが、戦争と言うのは勝った物勝ちである。兵器の質並びに数で劣り、連合国海軍の敗退の一方で士気の低下した軍隊が、制空権を確保し物量と装備に優越した軍隊相手に勝つのは流石に無理であり、インドシナ全土にシンガポールやマレー半島、そしてフィリピンの制圧に成功し、連合軍の多数の捕虜を獲得する事が出来た。そして…その捕虜の中には『ダグラス・マッカーサー』の名前も有った。
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そしてフィリピン制圧後の統治についてだが…この件に関しては、案外スムーズに進行した。
夢幻会員のサポートや誘導が有ったのも事実だが、基本的に『植民地?要らないよそんなの。自分たちは友人が欲しいのであって下僕なんて一切望んでいない』…と言うのが日本人の本心からの総意であり、治安を回復した後にフィリピン独立準備政府と会談し、独立の為の援助や協力を惜しまない旨を伝え、そして彼らとの約定通りの物資を多量送りつけた事も有り、フィリピン市民の生活は(戦時中のクセして)とても安定した物となっていた。
因みに約定通りの支援を行っているのに何故フィリピン人からの疑念や不信感が払拭されないのか…と言うのは、単純にアメリカ軍を打ち破れるような国家が至れり尽くせりな支援を、それも大した対価(兵員、物資要求等)も求めずに行っているからであった。今の今まで白人勢力に搾取されてきた過去が、白人っぽい人間も混ざっている日本からの『善意の』援助に対して戸惑わせていたのである。
日本側としては、これから先、連合国空海軍(主に米空海軍)相手に長期間殴り合う事が確定事項化している為、前線で戦っている最中に後ろで問題が発生されたら困るし、それにこの世界にとって『新参者』の自分達側に立ってくれる国家が一国でも必要だったためである。日本人的御人好しさが全面発揮された事も否定は出来ないが。
そして支援の為の物資や資源に関しては、全くと言って問題は無かった。今戦争での苦境は、転移前の世界で長期間平和だった事による軍事力不足の為だったが、その代償に国力は(MMJ軍団が頑張った事も有り)並みの超大国程度では比較対象にならない程に膨大であり、フィリピンへの援助『程度』、後方の安定の為を考えれば、大した出費では無かった。
…とまあ、フィリピンに関しては割合順調に各種スケジュールを消化しつつあるのだが、インドシナやマレー半島、そして続けて海軍陸戦隊や空挺部隊も動員して間髪入れずに制圧出来たインドネシアに関しては、かなり面倒な事態が発生していた。
大日本帝国 東京都千代田区永田町 某所会議室
「…マレ-にもインドネシアにも、国家樹立の為の核になれる独立運動組織が居ないだなんて聞いていないぞ。と言うかスカルノとかハッタとかが見当たらないんだが…」
「日本や、日本に準ずる国家が一度たりとも現れなかったからですね。『有色人種は白人に絶対に勝てない』…と言うのが本能レベルで刻まれてしまったようで…オランダやイギリスからの弾圧もあって、独立運動の芽は徹底的に摘み取られた様子で…」
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「…てことは何か?もしかして日本がマレーやインドネシアが独立出来るまで一から十までずっと育て上げなきゃアカンくなるのか?」
「…あ、いえ。今報告が入りました。インドネシアに関してはかなり小規模ですが、独立運動組織と接触に成功したとの事です。…ですが、マレーに関しては報告が一切ありませんので、恐らくそうなるでしょうね…。」
「…なんという事をしてくれたのだ、連合国…。連合軍との戦争をしながら進駐地域の育成も行わなければならないなんて…もしやコレも連合国の計算された物なのか?」
「いや、ただ単にオランダやイギリスの負債をこっちが支払わされているだけでしょう」
…史実以上に有力な戦力を誇る連合国軍を、植民地統治下に置かれていた住民の目の前で多数撃破してしまったばっかりに、住民総出の大歓迎の後、殆どそのままの流れで史実と同じく『有色人種の希望の星』の役割を押し付けられた大日本帝国。
幾ら膨大な国力を誇るとは言え、『疾風』や『憂鬱三式弾道弾』、そして『核兵器』その他諸々の開発を行いながら、それに平行して…『史実』でも『憂鬱』でも『戦後憂鬱』でも経験した事の無い…自国の『一時的』統治下にある全地域に対して大規模支援をする事は、流石にそう軽い負担で済むハズも無く…そしてその事は関係する部署の仕事量を激増させ、多数の官僚へ頭髪と血管、そして胃腸に対する多大なる負担を与える事となった…
「…そういえば、インドネシアでは史実通りに『ジョヨボヨ王の予言』がされていた様子で、日本軍の進駐に反抗、反対する物は華僑を除いて存在していないですし、軍の育成は少しずつではあるも順調に進んでいるそうですよ」
「今のインドネシア…と言うか東南アジアに足りなくて必要なのは軍人よりも官僚だ。いや、まあ確かに両方足りない…と言うかゼロからの育成になるのだから分からなくも無いんだが…」
「まあどちらにしても、軍民官関係なしに苦労する事には変わりありませんけどね」
『有色人種の未来と希望が生まれた時』
後世にこう表現された、第三次世界大戦『日本側名称:太平洋戦争』での日本軍による東南アジア進駐と大規模支援だが、戦争中に複数回発生した華々しい決戦の裏で、多数のスーツ姿の男たちが血反吐を吐きつつ現地勢力と共に『新国家建設』と言う、先の見えない地獄の戦いを繰り広げていた事は…正直結構地味な部分も多かった為に、日本では時々公共放送で流される位で、戦後の戦記等で語られる事はあまり無かった。いと哀れ。
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投稿終了に御座いまするー。
そしてスミマセン寝させて頂きます(´・ω・`)
最終更新:2016年10月10日 21:01