725 :ななしさん:2012/01/04(水) 15:59:50
初投稿になります。なるべく当たり障りの内容に書いたつもりですがもしもさわりがあれば今ここで謝罪いたします
それでは投稿します
「とある劇場にて」
大正のとある年、帝都のとある劇場に商談で来日した欧州のとある国の商人が気まぐれで足を運んでいた。
男の名前はこの話にはさして関係なく、ただの観客としておこう。
欧州大戦の傷もまだいえぬ中ではあるが、幸いなことにこの商人の母国はドイツと比べればたいした被害を受けていなかった。
戦争はあまりにも無残な結果となりドイツはあっけなく崩壊した。そして、最後の戦争は最後とはならず遠からず再び戦となるだろう。
だが、それでも今だけは、永遠ならざる平和を男は楽しみたかった。
「さて、この国ではたいした評判らしいが…ずいぶんと熱気がすごいな」
男は自分の席の周りを見回してみると、老若男女が満遍なく開演のときを今か今かと待ち望んでいるようだ。
確か題名は「女神」といったか。パンフレットを買わなかったのを少々悔いたが、それでは演劇の楽しみが減ると思い直し開演を待つ。
「やはり女神は恋人を失うくだりがいいですな」
「いやいや、私は主人公が兵を率いて…始まるようですな」
周りの声で男は演台に目を向けた。
そして、そこから始まる圧倒的な歌い手たちと役者が織り成すミュージカルを超えた演劇に彼はあっという間に取り込まれた。
静かに始まる語り部の声。そして美しい少女たちのきれいな合唱。馴染み深い神話をモチーフにした含蓄深いストーリー。
それらを十二分に生かすべく作られた舞台装置。評判になるはずだと彼は納得仕切りであった。
主人公が兵を挙げて故国に攻め込むくだりでは彼もまた観客に釣られて立ち上がり雄たけびを上げてしまった。
最後に全員が歌い幕が下りるころ、彼はいすに座り余韻を味わっていた。
「何とすばらしい…オペラもなかなかであったが、これもまた…」
そう彼が思っていると、最前列からこちらに歩いてくる一人の男性を見つけた。
「あれは、近衛公爵!」
思わず声に出かけたが、プライベートのようで挨拶ははばかられた。彼もまたこちらを一瞥して出口へ向かっていった。
そして、彼もまた余韻覚めやらぬ中ではあるがロビーへと出て行った。すると、観客の大部分は長い列を作りチケットを買っていた
「おや、チケットは買われないのですか?」
隣の席に座っていた老人が彼に問いかけた。
「申し訳ないがここは初めてなのですよ」
「ああ、それはそれは。実はですなこの列は二時間後に始まる「ロスト」を買い求めるための列でしてね」
彼がその列に並び「ロスト」を見たのはいうまでもなかった。
726 :ななしさん:2012/01/04(水) 16:02:29
それにしても、観客の入りは上々ですね」
近衛はそうつぶやき、劇場のロビーでコーヒーを口にしていた。
「まあ、あの楽団の劇を用いればこうなりますよ」
辻はそういってパンフレットを手に取りもてあそんだ。
「ですが、よくあなたがこれを許してくれるとはさすがの私でも思いませんでしたよ」
「成功するとわかっていましたからね」
「ほう」
「それに、開国以来の研鑽の結果、産業面では誰もヨーロッパに優れているわけではないが劣っているとは思わなくなりました。
ならば、次は文化面でしょう。それが追いつけば帝国は必ずや一等国になる。勿論MMJに利があったからこそですが」
「うちに引きこもってばかりでは先が見えていると」
「どちらか一方ではだめなのです。両方あってこそですね」
「そうですね。ところでものは相談なのですが、劇に関してはだいぶ差は詰まったと思うのですよ」
「次は映画ですか」
「そうですね。誰しもが金儲けしか頭にない国だと口を開かなくなるようなね」
「なるほど。考えておきます」
そうして二人はコーヒーを飲み干し席を立ち上がり劇場の扉を開けた。
「そういえば、ジョヴァンニさんを見かけましたよ」
「近衛さんそれは本当ですか?」
「ええ、確かに彼でしたね」
その言葉に辻は目を光らせ開演までじっと考え込んでいた。
「これもなかなかよかったな…」
ジョヴァンニは閉演後、劇団の年間スケジュールを手に取り日本を後にした。
そして戦争が始まるまでの間時間が許せばしきりに通いつめる程のファンになる。
その中で、とある眼鏡の財務官僚やちょび髭の公家と頻繁に顔を合わせ、やがてはイタリアと日本をつなぐルートとなった。
そしてその中で彼の持つ会社の技術と日本の企業の技術が交換され、彼はイタリア製海の重要人物となってゆくのは別の話。
あとがき
ふと、とあるグループを思い出しそのファンもいるかなと思い書いてみただけです。
それ以外に理由はなかったりします。
最終更新:2012年01月05日 08:18