22 :641,642:2015/06/05(金) 22:44:01
4月2日  インド洋


『本日晴朗ノ上波低シ』とでも表現出来そうな穏やかな大洋を、海鳥や魚たちがノンビリと海、そして空で楽しげに泳いでいる。

そんな海鳥と魚たちの楽園に予告無く喜ばれぬ闖入者が多数乱入してきた。その者達は、鳥達や魚達からの声には一切答えてくれない、とても大きな『鳴き声』を喚き散らす、自分達より遥かに巨大な『クジラ』や『鳥』たちであった。

海鳥と魚達は自らの小さな体に刻み込まれた本能の警告に従い、この海から離れて行った。この大海原がまた海鳥や魚の『楽園』に戻るのは、大分先の話である。




日本機動艦隊 旗艦 装甲空母 『大鳳』

「…やっぱり不安だ」

「唐突に何を言うとるか貴様は」


インド洋の住民に多大なる迷惑をかけている事なんか全く知る由も無い『闖入者』を率いている装甲空母『大鳳』の格納庫で、二人の男が話していた。
一応、自らの仕事は終わって手持ちぶたさで暇を持て余している様な状態では有る。


「艦隊全体に『航空戦なら絶対に勝つ』的雰囲気が漂っている。確かに前回の戦闘では圧倒的だったが、今回もそうだとは限らないと言うのに油断しすぎだ」

「…まあな。だが『初陣者』があれだけの戦果を出せば多少天狗になるのは無理も無いが」

「多少機材で優位に立てても、そんな物は経験や戦い方でいくらでも覆せる。先年の『大勝利』は、『相手の油断と混乱』が齎したただの奇跡的幸運に過ぎないと言う事は、『あの戦い』を経験した俺達なら分かるだろう?」

「…ああ、確かにそうだ。だが結局の所、人間って奴は『痛くなければ覚えませぬ』と言う事なんだろうな」



何も知らない人間が聞けば『あの戦い』を『ウェーク島沖海戦』と解釈するだろうが、『転生者』と言う前提条件が頭に入っていれば、きっとこの会話に対して…多少なりとも…違和感を持つだろう。

…そう。彼らは『転生者』だった。それも『南太平洋』を初陣として『マリアナ』『レイテ』『沖縄沖』…そして、『日本海』と言うあらゆる状況の空を駆け巡り、其々戦果を全海戦で挙げた『前世の』歴戦パイロットたちであった。…まあ、転生後の今では…精鋭部隊所属とは言え…ただの一小隊長程度でしかないが。


転生前、米軍と比べると技術力が劣勢だった自分達日本軍が、創意工夫と謀略に訓練、そして局地的物量で質量に勝る米軍相手に痛烈な打撃を与えた経験が有る両名にとって、たった一回の勝利と、前回明らかになった彼我の機材の能力差によって浮かれている『今の』同僚たちに対して『調子に乗り過ぎている』と評価するのは当然だろう。

一応彼ら転生者だけでなく、夢幻会の教育で感化された高級将官や兵員が油断や慢心を戒める様に声掛けを行っていて、教育段階でも当然の様に『慢心一瞬死は永久(とわ)に』と教育されている為に、各々『分かって』はいたが、やはり本格的に『理解』はしていなかった。と言うより寧ろ出来る筈も無い。彼らは皆『慢心』では無く『自信』であると思っていたのだから。

23 :641,642:2015/06/05(金) 22:47:07

日本機動艦隊 通称『遣印艦隊』


大鳳型装甲空母『大鳳』『瑞鳳』『龍鳳』『祥鳳』

翔鶴型航空母艦『翔鶴』『瑞鶴』

飛龍型航空母艦『飛龍』『蒼龍』

飛鷹型航空母艦『天鷹』『戦鷹』

妙高型重巡洋艦『妙高』『那智』『羽黒』『足柄』

最上型軽巡洋艦『最上』『三隈』『鈴谷』『熊野』
(長良型の後継艦の予定だったが、演習中に爆発事故が発生。その後修復する序に雷装強化…と言うより復活させた艦。経歴的には史実伊勢型が近い?
九頭龍型重雷装巡洋艦が就役するまでの繋ぎ的存在)

長良型防空巡洋艦『長良』『五十鈴』『名取』『由良』『鬼怒』『阿武隈』


秋月型駆逐艦

島風型駆逐艦

尚本土には赤城型航空母艦『赤城』『天城』、飛鷹型航空母艦『飛鷹』『隼鷹』が対アメリカ軍に対して睨みを聞かせるのと、就役して間もない大鳳型装甲空母『白鳳』『天鳳』が訓練の為に太平洋に居残っている。『フィリピン沖海戦』にて大暴れしてソ連海軍の戦力とSAN値を直葬状態に追いやった重雷装重巡洋艦たる『青葉』『加古』『古鷹』や軽巡洋艦『川内』『神通』も修理やら訓練やらでの居残り組である。





「普通に戦えば、何事も無く航空攻撃で圧殺可能な戦力では有るがな。よっぽどの事が無い限りイギリス戦艦部隊が俺達の艦の懐に飛び込める事は無いと参謀連中は言っているが」

「常識的に考えればそうだし、上官からも不安を無暗に煽らない様に言われてはいる。だが…不安なんだ。何というか、俺の第六感的な物が警鐘を鳴らしている様な…」

「明確な論拠が無い以上、貴様の感覚だけでは軍隊は動かん。普段以上に索敵を密にしている以上、然程問題は無かろう。…いい加減シャキッとしろ!そんなんでは戦は出来んぞ!」


…とまあ、言いようの無い不安に襲われている者がそこそこ居る事には居たが、航空戦力差を考えれば普通に杞憂でしか無い。だが、細かい情報を把握している日本機動艦隊上層部は全く別の事を考えてやきもきしていた。


「…やはり少ないな、インド洋に派遣された潜水艦…」

「仕方が有りません。今の潜水艦の艦数では太平洋だけで完全に一杯一杯な状況なのに、寧ろコレだけ動かしてくれた事に感謝するべきでしょう。」

「まあ、それもそうだな。今更愚痴っても仕方が無い。だが…効率的に網を張らなければならないな、偵察機だけでなく、潜水艦からの通信も密にしなければ」



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24 :641,642:2015/06/05(金) 22:49:59

『転移』と言う異常事態発生後、情報収集に加えて準備期間が合計で僅か一年程度と言う短期間で連合国との全面戦争に突入する羽目に有った日本海軍が、開戦後より一番何が不足していたかと言うと…それは以外な事に『潜水艦』であった。本来は此処に『戦艦』が入ると後世の人間には思われていたのだが、そもそも当時の日本海軍は『戦艦による艦隊決戦』を…桜花や誘導爆弾の存在も有り…戦略上放棄と言うか完全にブン投げており、建造計画等は一切考慮されてはいなかった。



東南アジア制圧後の日本帝国が抱える戦線を列挙して見ると…『日本海』(対ソ)、『南太平洋』(対豪、米、英)、『東太平洋』(対米)、『北太平洋』(対米)、『インド洋』(対英)…ほぼ全方位に戦線を抱えている状態であり、戦前や開戦前後より実戦投入されている潜水艦では全くと言う程戦線の広さに対して量が完全に不足しており、文字通り『猫の手も借りたい』と言える状況だった。
(日本海に関してはソ連がマトモに海上戦力を極東地域に保持していない為、実情はファニーウォー状態だったが)


潜水艦の建造や実戦配備にはどうやっても一定の時間が必要になる。乗員の訓練も水上艦乗りと比べると幾分か特殊である上に、戦時建造だからと言っても安易に簡易化したりする訳にも行かない。工程を省いたり、設計をミスしたら下手しなくても進水後即座に浸水沈没してしまうようなとてもデリケートな艦艇なのだ、
潜水艦は。


現状主力の潜水艦隊の殆どは太平洋方面に集中しており、偵察や通商破壊に従事している。一応現段階でも日潜水艦隊側が優位に立ってはいるが、開戦から一年も経つと流石に米軍も慣れたのか、戦果が僅かながらに減少してきており、又時折通信を絶つ艦もチラホラ出て来ていた。ただ単に通信機器が故障しただけの艦も居たが、米軍からの攻撃を受けて損傷を負ったり、時には撃破される艦も居た。被撃沈艦が多数出て来るのも、そう遠くは無い事は確定事項であった。


そういう訳も有り、米軍の戦力蓄積を少しでも減少させるために大量の潜水艦を太平洋に張り付けている以上、ローテーション等の事を考慮するとインド洋に対しては余り割けなかった。『主敵はアメリカ軍』…この認識が日本軍の(夢幻会含めた)共通認識で有る為に、基本納得してはいるも、それでも心細さはまた別の話である。現実問題、潜水艦が物理的に存在しない以上、どうしようもないのだが…



『航空機、潜水艦、陸地の諜報員からの情報を精査し、イギリス艦隊を発見し次第艦載機全てで殺到し敵艦隊を圧殺する。又イギリス艦隊を引きずり出すのと、横槍を防止する為陸上航空基地も適当に撃破する』

25 :641,642:2015/06/05(金) 22:51:26
本土や艦隊での会議での過程を素っ飛ばして結論だけを述べると、上記の様になった戦略に基づき、今回日本艦隊はインド洋に…米海軍が動けない隙を突き…殴り込んできたのだった。そして海戦時に邪魔になりそうな航空基地を…事前に収集した情報を元に…潰して行っている最中、『インド洋海戦』の開幕を静かに告げる報告が諜報員、そして現地に張り付いていた潜水艦から入って来た。それも早速日本艦隊上層部全てが頭を抱える幸先の悪すぎる開幕を告げるベル…報告…であった。





『イギリスインド洋艦隊、既ニ出港セリ。所在、針路、共ニ不明』

『ワレ、気象悪化並ビ敵駆逐艦ノ迎撃ヲ受ケインド洋艦隊ヲ失探セリ。失探前ノ針路ハ東ナリ』



歴戦のロートルであり、戦場が自分の庭と言い切れるインド洋であるロイヤルネービーと新進気鋭のルーキーで先年の大勝利からの勢いに乗るインペリアルネイビー。



この時点でどちらに軍配が上がるのかは、それこそ軍神にしか分からない事であった。

26 :641,642:2015/06/05(金) 22:54:35
ハイ、以上になりまするー。次回はインド洋での日英決戦となる『予定』です。
又色々と引き伸びる可能性大では有りますが…

そういえば『イギリス製鳩誘導式ミサイル』が支援SSか何かで有ったと
思うのですが、何処に有りましたっけ…?

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最終更新:2016年10月10日 22:18