608 :ひゅうが:2011/12/26(月) 19:53:55
――西暦1996(昭和72)年8月 日本皇国 帝都東京


『スクランブル!スクランブル!破砕計画はフェイズ5に移行。想定状況甲‐12!各基地、各個に対処行動をとれ!』

「失敗ですか!?」

「状況はどうなって・・・」

新聞記者たちが騒ぎ始めた。
ここは、帝都東京の地下130メートルに建設されている環太平洋防空総司令部(CPAD)である。
その本部施設に併設されたガラス張りのプレスセンターでは、広報官が「落ち着いて!」と大声で叫んでいる。

「只今入りました情報によりますと、小惑星『トータチス』の破砕作業はほぼ達成しました。ですが、これまでも言われておりましたように、その脆弱点にかかる月の引力の影響で『あまてらす』弾頭の圧力を受け全体の8割が太陽圏への軌道をとり、残る2割のうち半数以上は地球圏外への脱出軌道をとっています。しかし、全体の1パーセントから2パーセントは地球への直撃コースをとっています。想定していた状況の3割以下ですが、破砕計画は地球圏迎撃フェイズへ移行しました。」

最初は小声で、だんだん音量を大きくして最後には叫ぶように広報官は言った。
手には、プレス用の「しおり」の12ページが開かれており、それを見たマスメディアも落ち着きを取り戻したようだった。

事前の講習会で寝ていた記者もいるが、そういった連中も慌てて「しおり」をめくる。

海外からやってきた記者たちもそれにならった。
その間、広報官は耳につけたイヤホンの向こうから聞こえてくる「迎撃統制官」の状況説明を聞きながらにこやかに発表内容を練り上げていく。

「現在、本部権限でメテコン(対隕石状落下体防衛態勢)・2が発令されています。モニターにも映し出されておりますように、軌道上の第1から第5迎撃基地までが即応体制に入っています。地上もまた同様です。」

「全力稼働はしないのですか!?館山や松山基地は?」

609 :ひゅうが:2011/12/26(月) 19:54:44
「万が一にも探知漏れがあった場合に備え、総予備待機です。現在スクランブル中の地上基地は、大泊、室蘭、新潟、鳥取、そして下地島の各基地となっています。
――皆さん。」

広報官はよどみなく言い切り、演台の上で姿勢を正した。


「我々、皇国天体危機管理機構は、今この時のために存在しているのです。お任せ下さい。」



――同 南西諸島 下地島迎撃基地


「HQよりの情報によれば、目標ジャック・B12号から28号は北回帰線を越え尚も列島直撃コースを維持。軌道幅0.05ミリ秒から0.12ミリ秒の範囲で落下軌道を描いている。諸君はこのうち21号から25号を担当。また鳥取、新潟両基地の後詰として座標N35E135空域で網を張ってもらう。」

スピーカーからは、基地司令を務める紳士の低い状況解説が流れている。
これまで即応待機していたパイロットとそのナビ(後部座席に乗る航法・レーダー担当員)はヘルメットを片手に格納庫へ走る中でその『放送』を聞いていた。

待機室から格納庫へ駆け込んだパイロットたちは、与圧服と機体を繋ぎ、整備員から機体の状態を聞きつつ省略手順でエンジンを始動させる。

「予備2機を残し、全力出撃だ!かかってくれ。」

「了解。・・・シモジタワーよりサシバ11からサシバ55までの全機へ。」

声は、若い女性のものに変わった。

「大変だろうけれど、いつものようにやればできるわ。安心・・・とはいかないけれど、ともかく存分にやって頂戴。」

「了解!」

格納庫の扉が「ガンガンガン!」というけたたましい音と共に開く。
超大型のトレーラーが大型の機体を乗せて動き出した。
数は3機。それらはすべて白い熱線反射塗料に身を包んでいる。第3次大戦で活躍した英国の超音速爆撃機を倉崎飛行機が大改修した倉崎「TSR-02『震電』」とこの機体は呼ばれていた。
基本設計はいささか古いものの、腹の下に20トン以上の亜宇宙用対隕石破砕核ミサイル「トライデント」を1基抱え、大気圏外から飛来する隕石群を迎撃するべく高度3万以上をマッハ3でかっ飛ばすという素敵な性能を秘めている。
だからだろう。機体は高翼後退翼で胴体左右にショックコーン付きの半円形のインテークが開いているというオーソドックスな機体構成は、性能を研ぎ澄ませるという意思が生み出す機能美に満ち満ちていた。
今はなき大英帝国の航空界が第3次大戦で放った最期の輝きは、今や全世界に300機以上が配備されるベストセラーとなっている。

610 :ひゅうが:2011/12/26(月) 19:55:20
その向こう側では、全長50メートルを超える大型のデルタ翼機が滑走路へ向かっている。
三菱MSB‐70「轟天」。こちらは先尾翼式で、後方には翼端が内側へ折れ曲がり超音速時の衝撃波を内側に取り込み揚力に変える独特の大型後退角付きデルタ翼と2枚の垂直尾翼を有する大型機だ。
こちらも、第3次大戦時には北欧やアイスランドからソ連本土や東側陣営を目指して飛び立った超音速戦略爆撃機だ。
その搭載量を活かし、腹の下には2基のトライデントミサイルと、その間に大型の燃料タンクを搭載。6基ある北崎F-862エンジンの間には液体燃料ロケットエンジンまでもがついている。

前述のTSR-2が進出できない遠距離や、宇宙すれすれの高度100キロでの迎撃戦を戦えるようにこの凶悪な機体は改修が施されており、そのために航続距離は原形機よりは短くなっている。
が、隕石迎撃の任にあたる限りは問題はない。
このMSB-70で第1段迎撃を行い、続いて大気圏に突入した隕石群をTSR-2が叩く。後詰が第3段迎撃を行い、それからあとは各地の対空ミサイル砲台群が際襲撃檄を行うというのが、この時代の迎撃スタイルだった。


「サシバ11、テイクオフ!」

「サシバ22、テイクオフ!」

一足先に巨大な2機の怪鳥たちはアフターバーナーを吹かすと滑走路から飛び去り、翼に据え付けられている固体燃料ブースターで猛烈な轟音と共に一気に超音速にまで加速し飛び去っていく。

続いて、格納庫から「発射位置」についてTSR-2たちは、機体が乗っているランチャーの仰角が30度の角度になるまで油圧ジャッキで持ち上げられる。

もちろん整備員たちは退避済みだ。

「サシバ33、ブラストオフ!」

「サシバ44、ブラストオフ!」

「サシバ55、ブラストオフ!」

3機の超音速迎撃機は、エンジンを全開するとともに手順に従って固体ブースターを吹かし、ランチャーからそのまま空へ踊り出ていった。
空は快晴。
爆音と共に、白い銀翼は東へ向かって飛び去って行った。



――第四次世界大戦末期。すでに地球圏外への到達に成功していたドイツ第3帝国は、開戦にあたってひとつの兵器を投入することにした。
隕石爆撃。地球近傍天体を用いた質量爆弾による攻撃である。
計画は失敗したものの、ドイツ製の核ミサイルは見事に目標である彗星核を破砕。これが玉突きのように地球近傍の天体群を動かしたため、地球圏に飛来する大型隕石や彗星は、時として破滅的な結果を招来するに至った。

これに対し、世界でもほぼ唯一残された列強の生き残りである日本皇国は、これらの事案に対処すべく「天体危機管理機構」を設立。半世紀続いた「隕石危機」に対抗した。
中でも特筆されるのが、1986年の小惑星「トータチス」迎撃戦だろう。
直径60キロあまりの巨大な小惑星が地球に激突しようとしていたことを知った彼らは、宇宙空間での迎撃及び破砕作業を実行。
これにより生じた多数の隕石群に対し天体危機管理機構はその保有するほぼ全機でもって迎撃戦を実行。
結果、被害を最小限といってもいいレベルにまで低減させたのであった・・・。



【あとがき】――某アニメを見ていたら思いつきました。
反省はしていますが後悔はしていませんw

611 :ひゅうが:2011/12/26(月) 19:56:30
というわけでネタでした。
ホワイトスター・ブラッククロス世界の未来(?)ネタでした。
破滅的なのばかりなのも困るので今回はネタに走ってみましたw

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最終更新:2012年01月05日 08:23