158 :641,642:2015/06/17(水) 21:04:44

イギリス空母艦載機部隊第一次攻撃隊


蒼穹の大空を圧殺せんばかりの幾多もの鋼鉄の荒鷹が一塊となり、自分達の巣を飛び立つ前に何度も叩き込まれた作戦目標を目指して只々爆音を周囲に撒き散らしながら進撃している。本来何時もなら全開で開いている筈の電波…通信は一切使用されていない。所謂『無線封止』と言う奴だ。


風防の外では僚機の放つエンジン音で満ち満ちている中、第一次攻撃部隊に所属しているとある雷撃機パイロットは…確りと操縦しながらだが…ふと物思いに軽く耽っていた。

物思いの内容は…別に何て事は無い。これから自分達が突撃する相手である『大日本帝国海軍』の戦力についてだ。出撃前に自国諜報部が入手した情報を元に今作戦が立案されている事を知っている彼にとっては『頼むから正確な情報で有ってくれよ…』と祈る様な心情であった。


基本何処の世界線であっても大体世界トップレベルで優秀な能力や組織規模、あとオマケで権威を持つ(誇る、では無い)英国諜報部だが、今回の戦争では諜報戦に置いて初っ端から(偽情報を掴まされる等で)躓いてすっ転んだが為に其々の組織からの視線や無言の圧力によって、歴史上今までに無い程に正しく針のむしろ状態となっていた。

何故英国諜報部が針のむしろ状態になっているのかと言えば…『お前らが日本軍機の性能をちゃんと掴めていれば、もしかしたらフィリピンとウェークでの連合軍艦隊の損害は出なかったかも知れないのに』…と言う事である。要は(海軍の保身も混じった)ただの八つ当たりである。一応理屈では日本の機密情報が掴めないのが当然としか言いようがない程連合軍諜報部側にとって不利な案件だらけ(事前情報ゼロ、現地協力者皆無、敵国人の性質が連合国人と大きく食い違っている、その他諸々)だったのは各々分かってはいるが、それでも負の感情はどこかにぶつけたくなるのが人間の性である。


負け犬の八つ当たりは兎も角としても、英国諜報部にとっても諜報戦で手も足も出ずに物の見事に完敗したのは諜報組織創設以来『滅多に無い屈辱的な事例』と言われ…当然ながら、英国人は奮起した。不屈のジョンブル魂はちょっとやそっとの不利な状況で鎮火する程ヤワな物では無い。寧ろこの程度の苦難ではジョンブル連中の山火事クラスに燃え上がっている士気にガソリンとダイナマイトをぶち込んだに等しい。


合法、非合法問わずにありとあらゆるルートを使用して日本軍、日本帝国の情報や動静に其々の組織の性質、各種技術の奪取等々、とにかく『日本に関係する情報』を全力で掻き集め、分析した結果が、今回の海戦に参加する日本海軍艦艇の数量や艦名、指揮官の名前等々…、そして『インペリアルネイビーの目標は我がロイヤルネイビーただ一つ』…これ等の情報が確保し、確度が極めて高いと確信されたからこそ、今回の海戦が発生したと言える。仮に情報入手が出来ていなかったら多分及び腰の戦闘になっているか、そうでなくともここまで積極的に踏み込む戦法は取られなかっただろう。
(因みに情報収集の余波で同人誌も一定量連合国側に流入してます。流入後どうなったかは不明ですが)

159 :641,642:2015/06/17(水) 21:07:47
そうやって入手できた情報や自軍の戦備を考慮して立案された今回の作戦だが…別にそこまで複雑な作戦では無い。ただ単に『重爆撃機を含む空軍部隊が日本艦載戦闘機を釣り出し、又空軍と共同で艦載機部隊が敵空母部隊に多方面飽和攻撃を行い、その間に水上打撃部隊が敵艦隊の懐へ突入する』。やる事はコレだけである。
一応潜水艦の襲撃も考えられているが、艦載機パイロットである『彼』には何の関係も無い話である。



『……総員!無線封止解除!!全機、突撃せよ!!』

『彼』の思考を唐突に『現実』へと呼び戻す…やけに気合いの入った、威勢の良い編隊長機からの無線封止解除と突撃命令が、新鮮な電波に乗って英軍機の無線機へと確実に伝わり、其々増速、針路調整等を実行して行く。


…そういや編隊長、この戦いが終わったら本土に戻って教官任務に栄転するんだっけか。『息子たちに良い土産話を話す為にも頼んだぞ』とかも言っていたな、出撃前に…


何の気も無しに『彼』がその事をフッと思い出し、すぐさまその事を忘却の彼方へと追いやって雷撃コースに向かい始めた…その時だった。


『…ぜ、全機警戒、散開せよ!!敵機確認!各員h』

前触れ無く無線機に飛び込んで来た編隊長機からの警告と、その警告を中途で断ち切る爆発音。


『彼』は偶然にも警告に釣られて咄嗟に風防の外を見、その『爆発音』を作った『敵機』の姿が見えた。

蒼と白の制空迷彩の中にアンバランスに赤い丸が描かれた、機体の武骨さの中に鋭さが見え隠れする『アジア人が自力で産み出した』航空機。

零式艦上戦闘機『烈風』…連合軍コードネーム『ZEKE(ジーク)』


今戦争の敵国である『日本帝国』が開戦初頭から多数送り込んできている…交戦した連合国パイロットから『悪魔』『吸血鬼』『屍食鬼(グール)』と呼ばれ、恐れられている高性能戦闘機の姿だった。




数十分後

…少なめの損害で敵艦隊を補足できたのは良い。神に感謝しなければ。

…信じられない、多数攻撃したはずの味方の空軍機が余り居ない。

…敵機が少なく、輪形陣が有る程度乱れているのがRAFが捥ぎ取れた『敵艦隊への戦果』か。

…今度は俺たちの番だ。落とされた味方の仇を皆で討ち取るんだ。インド洋は俺たちの海だって事を教えてやる…!


無線機から入る…『ZEKE』の攻撃から逃れられた…同僚パイロットの言葉を聞きながらも、『彼』は目の前の光景を見て言葉を失っていた。

160 :641,642:2015/06/17(水) 21:11:59

事前想定では、多数の損害が出たとしても、空軍の攻撃で…最低でも航空母艦を数隻発着艦不能、若しくは撃沈し、空母を守る輪形陣に対しても一定度の打撃を与えられる事が目されていた。艦艇攻撃に関しては命中率が極めて低い公算爆撃をするしか無い4発重爆撃機の『アブロ ランカスター』が主体とは言え、戦闘機型の『モスキート』やアメリカから供与されたり共同開発されたF4U 『コルセア』史実P―51D型相当の『ムスタング』等多数の戦闘機による敵艦載戦闘機に対する破壊力は強力である筈であり、空軍機への対応で敵艦載機は手一杯になって、艦隊の空は空っぽになっている『ハズだった』。


『敵機接近!全機、攻撃を開始せよ!』


結果から見れば、敵艦隊上空には未だに敵戦闘機が居座っている状態だったのが現実であった。…とは言え、空軍機も奮闘したらしく、『ZEKE』の数は『雲霞の如き大群』…では無く、まだ少ない方の機数で有る事は『彼』には見て取れた。脅威で有る事には変わりないが…



『敵機に喰いつかれた!振り切れない、戦闘機隊!早く援g』

『ウソだろ…追いつけない、引き離される!『シーフューリー』ですら『ZEKE』には勝てないのかよ!!』

『被弾した!不味い何かに引火している?!脱出s』

『敵機撃墜成功!見たかこの侵略者共が!!隊長やアイツラの仇だ!地獄に落ちやがれやぁ!!』


その一定数残っている『ZEKE』によって攻撃隊が襲撃されるも、英海軍護衛機部隊が機体性能差を物ともせずに『烈風』に挑みかかり、自らも多大な損害受けるも代償に多数の攻撃機に日本機動艦隊への、文字通りの『血路』を切り開いた。

そして幸運にも一切被弾する事無く戦闘機隊が切り開いた『血路』を突破する事が出来た『彼』が安心するのも束の間、同じく『血路』を突破するのに成功した僚機たちと共に次なる試練の間へと突入していった。そう、日本艦隊の対空砲火である



『敵艦隊の弾幕が厚い…!まさか我が友邦以上の対空射撃が生きている間に見れるとはなぁ…!』

『隊長機墜落!二番、六番機にも被弾!』

『畜生!あと少し、もう目の前なのに!一矢すら報いれないのか!』

『オイ三番機応答しろ!機首が下がり過ぎてる!海面に激突するぞ!!』

『味方機の傍で爆発しすぎだろ敵砲弾?!奴らの砲弾には魔法でもかかってるのか!?』



僚機が濃密な、そして異常なまでに精確な敵艦隊の対空砲火の前に次々と被弾、墜落して行く中、最早軍神か何かが憑りついているのかと思いたくなる程に全く被弾しない『彼』の機体は、海抜数メートルの高度での雷撃体制をノンストップで取り続けていた為か、自らの矛を突き立てるべき標的を…『タイホウ型超大型装甲空母』を、完全に捉えていた。

161 :641,642:2015/06/17(水) 21:14:15

…此処まで来られて、まさか失敗する訳には行けない…!ちゃんと動けよ、自分の身体、スピアフィッシュ、雷撃装置…!


重厚な敵空母の威容に圧倒されつつも、『敵空母捕捉』と言う事実に震えそうになる自分の手を必死に抑え込みながらも、精神的な興奮は抑えきれなかったのか…雷撃ポイントに辿り着くまでの僅かな時間が、『彼』にとってはまるで『永遠』であるかのように感じられていた。


そして『彼』の『永遠』は…第三者視点での時間では…至極あっさりと終わりを告げた。


「…大英帝国特製の魚料理を腹一杯喰らいやがれ日本人!魚雷投下ぁー!!」

気合一閃で投下された航空魚雷は…『彼』の祈る様な期待にしっかりと応え、誤作動や沈下等を起こす事無く作動し、過たず一直線に『タイホウ型超大型装甲空母』へと向かって行く。
視界の端でも、数機の味方機が魚雷投下した姿が…一瞬チラッとだが…確認出来た。


そして…雷撃成功後、歓喜の余り叫びだしたくなりつつも、身体に染み込ませた通りに操縦しようと『彼』が操縦桿を動かそうとした瞬間に、識別不能な大音量が耳に飛び込み、その音の正体が何なのかを『彼』の脳髄が理解する前に、『彼』の世界は一瞬で暗転を迎えた。



『彼』と『彼』の僚機が放った魚雷がどうなったのか、そして『インド洋海戦』の総決算がどうなったのかを『彼』が知るのは、まだ暫く先の話である…



.

162 :641,642:2015/06/17(水) 21:17:25
ハイ、以上になりまするー。

取り敢えず次は日本側視点での投稿になるのでは無いかなーとか
考えています。因みに今回の戦闘でのイメージソングはニコ動で聞いた
〇ン〇エ〇ズでした。色々歌詞と違うけどそこらへんはキニシナイ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年10月10日 22:42