12 :ゴブ推し:2016/10/01(土) 02:18:21
とりあえず、一話の誤字脱字の修正版から行きます
1―――初陣
周囲を見る。
黄昏時の太陽によって荒野の大地は赤く染まり、まるで熱く燃え上がっているようだ。
そこを大きな影を作って自分達は駆けてゆく。
ズン、ズンッと大きな…そう、とても大きな影を映して、大きな音を響かせて走る。
いや、走っているのは自分ではなく。
『こちら大隊長だ。各モビルスーツ部隊に告げる』
短く電子音が鳴った直後、声が聞こえた。その声が乗り込む自分に代わって足を激しく運び、赤い荒野を走る者―――物の正体を口にした。
≪モビルスーツ≫…通称MS。鋼鉄の身体を持つ機械仕掛けの巨人だ。
自分はそれに乗って、今この広大なアフリカの大地を駆け抜けていた。
『間もなく作戦区域だ。既に承知の通り味方は敗北し後退を続けている。我が大隊はこの味方を援護し、彼等の撤退を完遂させる。彼等の命を救い、敗残の苦渋を、戦友の無念を晴らす機会を与えられるか否かは諸君らの働きに掛かっている』
声が…通信機から入る大隊長の声が静かにも熱く語ってくる。
『…短くも厳しく過酷だったこの一月余りの訓練を思い出せ、諸君らにはそれを成し遂げられるだけの力がある筈だ。それを活かし必ず任務を果たせ、各員の健闘を期待する』
『―――全中隊作戦区域に入ります』
大隊長の声が終わるや否や、別の若い…恐らく大隊本部付きのオペレーターだろう。女性の若い声が横から入った。
その女性の声を受けて通信機越しに大隊長が頷く気配があった。
『…これより一部無線を封鎖。緊急時及び戦闘開始後以外、中隊間ならび小隊間の通信のみを禁ずる。各隊作戦行動に入れ、…状況開始!』
命令が下だされ、各中隊長が了解の返事をする。
その直後、腹が、自分の胃がキュウっと縮こまったような気がした。
「う」
思わず声を漏らす。
『ブラウン大丈夫か?』
コックピットに軽い振動が伝わると同時に大隊長のものとは違う、壮年の男性の声が通信機から聞こえた。
モニターに短く髭を生やした中年の男性が映る。
「オヤジさん…」
モニターに映った男性をそう呼ぶ。
『大丈夫かブラウン?』
もう一度同じ言葉が自分に―――ブラウン…フレデリック・ブラウンに掛けられる。
『緊張しているようだな』
「あ、いえ…大丈夫です。お気遣いありがとうございます。それと失礼しましたハウンズマン曹長」
気遣われたことに感謝しながら任務中にも拘らず、オヤジさんとつい何時ものように曹長を呼んでしまったことを謝る。
「ハハ、オヤジさんでいいよ」
気を悪くした様子もなく、笑顔でそう答える曹長。
またも気遣われたようだと思った。けど確かに緊張していたようだ。こうして話しをし、安堵を覚えたことでそれを自覚する。
その事をモニターの自分の顔を見て、察したのだろう。
『…もう大丈夫そうだな』
その言葉に再度お礼を言うと、曹長の機体が自分の機体の肩から手を放して離れた。
どうやら声を掛けられた時に感じた振動は、曹長の機体が自分の機体の肩に手を置いたもののようだ。
そう取り止めのない事を思いつつ、こうして荒野に出る前…出撃前の事を思い出す。
―――大丈夫かブラウン。
と。
やはり先ほどのように緊張していた自分に曹長が声をかけて気遣ってくれた。
情けないと思うも初の実戦なのだから仕方ないとも思う。曹長たちの様に緊張し過ぎるのでもなく、まったく緊張しない訳でもない……そんなほど良い緊張を保てるようになりたいものだと思う。
軍の訓練校を出て、伍長になりながら未だ―――童顔の所為もあるんだろうけど―――坊主と子供の様に呼ばれる為か余計にそう感じた。
早く一人前になりたいと。
13 :ゴブ推し:2016/10/01(土) 02:20:13
十数分後、自分の所属する中隊は指定されたポイントに到着した。
味方が後退しながらも保つ戦線を大きく迂回し、その数十km先の地点に出た我が中隊。
小高い丘を遮蔽物にし、鋼鉄の巨人の身体を隠しつつそれを覗う。
『ふむ、ブリーフィングでの情報通りだな。対空及び支援攻撃を行う大砲持ちの重MSに、随伴するジンタイプ……それに電源車に繋がれた補給中の四つ足…』
中隊長…バルク大尉がモニター越しに言う。
大尉の言う通り、丘から5km先…荒野に敵部隊―――ザフトのMSが無数に展開していた。数は凡そ30機ほど、12機で編成されたこちらの倍以上だ。
この敵部隊は、戦線にて先の戦いで敗北した味方を追撃する四つ足を中心とした部隊を支援する役目と、味方部隊を援護する我が方の空軍部隊を牽制する役目と…さらに電源車に繋がれた四つ足からも見て取れるように、前線にてエネルギーや弾薬を消耗した敵軍の補給を担っていた。その為、MSの他、多くの輸送車両やコンテナなどが見え、多数の物資が集積されている。
『厄介なのは四つ足が動いた時だな。まずはあれを潰すぞ。マーカーの小隊は左に。ハウンズマンは右だ。私の小隊は中央に突っ込む。…全機突撃!』
大尉の命令が下ると同時に了解!と応え、曹長に続いて機体を正面右へと躍らせる。
ここに展開する敵と物資を焼き払えば、制空権は我々に大きく傾き、前線の敵の動きも鈍るだろう。そうなれば敗残した味方も無事撤退できる筈だ。
そう意気込み、乗機を…自分が任された愛機をスラスターを噴かせて全速で突貫させる。
ゴブリン《子鬼》という名の巨人を駆る。
■
「はぁぁぁ~」
欠伸が出た。
全くもって退屈だと彼は思っていた。
前線は遥か彼方。劣等なナチュラルどもを狩るのはバクゥを与えられた奴らだけ。
「本当、退屈だ」
2時間前まで何かと地上に這うナチュラルを援護しようと連合の戦闘機が出張ってきていたが、このザウートの対空砲火をに恐れをなしたのか今やさっぱり姿を見せない。
「やっぱりグズで臆病なナチュラルだ。あんなのに手を焼くディンの奴らはどうかしてる」
嘲りながら不愉快気に彼は言う。
情けないことに我がプラント…ザフトが誇る空戦MSはナチュラルの戦闘機スピアヘッドを相手に思うような戦果を挙げられなかったのだ。
「まったく…」
そうディンを駆るパイロットどもに呆れるも……彼は知らない。
大洋連合というナチュラルの国家に
夢幻会という組織があり、その主要な構成員たちが転生者と呼ばれる者達で、前世で見たアニメや漫画…その作品の設定資料などで『この世界』の事を知っているなどとは。そしてその怪しげな組織から通じて連合各国にそれとなくMSの対処策が伝えられているなどとは。
つまり夢幻会のいうところの『原作』に付き合わず、連合はディン相手に無理なドックファイトを初めから挑まなかったのである。
その為、一撃離脱に徹するスピアヘッドに速度に劣るディンは追いつけずまともに戦うことが出来ないでいるのだ。
無論、まったく戦果を挙げていない訳でもないが、ザフトが開発時から期待していた程でもなく。そしてその代わりに超過勤務を強いられたのは補助程度の認識で開発・配備されたザフト製のVTOL戦闘機だった。
この航続距離が短く、長く空に留まれないインフェストゥスという名の翼にザフトは空の命運を託し、酷使することで……加えて、彼の乗るザウートの様に対空性能を高めた機体を各所に配置することで何とか制空権を維持していた。
だが、そんな事情は彼の知るところではない。
だからディンを任せられながら役立たずのパイロット達のを悪口を言うことで彼は退屈をまぎわらす―――いや、もしくはバクゥと共に前線に出せないほど、愛機が頼りないという事実をディンのパイロットを…引いてはディンそのものを貶める事で同列に置きたがっているのかも知れない。
―――先だっての戦いで劣等なナチュラルの兵器であるリニアガン・タンクに完膚なきまでに追い詰められたのだから。
もしバクゥが無く、バルドフェルトという指揮官がおらず、彼が奇策を講じなかったら自分はナチュラルが作り、ナチュラルが操る兵器…それも時代遅れの戦車などという物に敗れ、愛機共々この世から去っていたのだから。
「………」
あり得たかもしれない未来が思考を掠め、彼は知らずに奥歯を噛みしめる。
14 :ゴブ推し:2016/10/01(土) 02:21:07
「は、」
が、彼はそんな思考を笑い飛ばす。アレは決して愛機が劣っていたわけではない。自分が劣っていたわけではない。戦車など所詮時代遅れの代物だ。劣る性能を、劣る能力を数を頼みに誤魔化しただけ。一両や二両…いや、五両以上いてもザウートなら一機だけで蹴散らせる。自分一人で多くのナチュラルの殺せる。
だからただアレは奴らが自分を…コーディネーターを上回った訳ではない。むしろナチュラルが劣っている証明だ。数を頼みしなければ何もできない劣等種なのだ。進化した新たな種である自分達に決して及ぶことはない。
何しろMSを持てないナチュラルなど―――爆音と共に光が閃いた。
「な!?」
つい先ほど陽が沈んだ為だろう。爆発で生じたその閃光はよく辺りを照らした。
彼は慌てて音がした方を見―――絶句する。
電源車に繋がれ、簡単な整備と補給を受けてた数機のバクゥが形を崩して燃えていた。
『て、敵襲ーーッ!!』
通信の声を聴き、彼はこれが敵の仕業だと動揺する頭の中で理解する、が。
(敵!? どこに…!? 前線にいる筈じゃ!? 奇襲!? いつの間に!?)
動揺する思考では状況に追いつけない。
そして動揺するままに機体を動かし、愛機のカメラを動かして爆発と閃光が続く周囲を見回し、状況を把握しようとして―――その動揺を深めた。
「え―――?」
―――なんで? とその瞬間、思考が困惑し呆然となった。
何故なら≪大きな人型の物体≫が縦横無尽に辺りを駆け回りながら、手に持つ火器で味方を攻撃しているからだ。
どうして?と思う。だってそれはありえない。人型のソレは機械で、モビルスーツと呼ばれるもので、それは自分達プラントが、ザフトが、コーディネーターのみが使う全く新しい兵器なのだから。
だから…だから、それは味方の筈で、なんで自分達を、味方を攻げ―――?
呆然とする思考の中、味方を攻撃する人型の一機がキャッウトゥス500㎜無反動のようなものを構えて自分に向け、それが火を噴くとほぼ同時に彼の思考はコックピットを満たす熱い閃光と共に―――闇に溶けた。
■
大砲付きの重MSをバズーカで撃破した所で……この攻撃が思いのほか上手くいっているように思えた。
不意を突いた奇襲というお陰もあるだろうが、敵の反応が妙に鈍い。奇襲という以外に何か戸惑っているような雰囲気がある。
『どうやら敵はモビルスーツが攻撃してきた事で混乱しているようだ』
通信機から聞こえる曹長の言葉に自分もそれが何を意味しているか悟った。
「つまりザフトはMSが未だに自分たちの物だと信じているんですね」
『そういう事だろう』
バズーカから最後の砲弾を吐き出させ―――さらに一機、重MSを撃破するのを確認―――しつつ、弾切れのバズーカを放り投げてMMP-80 90㎜マシンガンにメインアームを切り替えながら言うと、曹長が肯定した。
そう、そういう事だ。未だ彼の国とは本格的に戦端が開かれていない為だろう。ザフトは大洋連合がMSを実用化していることを信じていないのだ。いや、或いはプラント上層部は情報を把握していても、ザフトの将兵はそうなのだろう。MSは自分達だけが持つ兵器だと。
だから見知らぬMSが現れ、己等に攻撃している事も信じられず、ショックを受けている。
『それなら都合が良い。敵が態勢を整える前にこのまま一気に叩くぞ!』
中隊長のバルク大尉が叫ぶように言う。
『二機連携を忘れるな! 優位はまだこちらにあるが前線の敵が戻ってくる可能性もある! 油断はするな!』
それに自分と隊の皆が了解!と応答する。
15 :ゴブ推し:2016/10/01(土) 02:21:51
『ブラウン行くぞ!』
「はい!」
曹長の掛け声に直ぐに応じる。
周囲に残骸《スクラップ》が散らばり、そこから火の影が揺らめき、黒煙が漂っている。数秒としない内に動く大きな影を見つけた。正面、距離1200、ジンタイプが二機。
『仕掛けるぞ!』
曹長が叫ぶや否や既に自分は自機を敵機の方へ向けていた。曹長の機体が僅か前に出る。
距離800を切る頃には敵もこちらに気付いたらしい。ようやく銃を向けてくるが…或いは接近するMSに気付いていたものの直ぐに敵と判断できなかったのか、
「『遅い!』」
曹長と同時に叫んだ。
スラスターを軽く噴かせながら鋼鉄の足で地面を蹴って左へと移動―――直後、火線が…曳光弾の軌跡が先程までにいた所を掠める。そう、掠める、だ。火線は僅かにそれており、恐らくあの場に居たままでも直撃することはなかっただろう。
だが、そんなことを考えるよりも早く左へと機動を続け、曹長は右に。敵にお返しとばかりに射撃を加える。
自機の持つ90㎜マシンガンから火線が伸び、それは寸分違わず敵機に吸い込まれ、敵の表面に火花が散り、装甲が蜂の巣になった敵機が仰向けに倒れた。同時にもう一機のジンも曹長の射撃によって同様に倒れ、こちらは推進剤などの可燃物に引火したのか派手な爆発を起こす。
「やりました曹長!」
今までとは違い、攻撃してきた敵らしい敵を初めて撃破した為、興奮し喝采を挙げるように曹長に言うが―――が、
『馬鹿者! 動きを止めるな! 倒したなら直ぐに警戒に移れ、次の目標を探せ! 的に成りたいのかお前は!』
叱責を受ける。
「!…ッ すみません曹長」
冷や水を浴びたように興奮していた精神が冷静になる。
直ぐに機体を動かし、曹長の死角をカバーするように周囲を警戒する。曹長も自分の死角をカバーするように動く。
『来たぞ!』
声に、曹長が警戒する方向へカメラを動かす。
先程の敵機の爆発に引き寄せられたのか、残骸の散らばる荒野を黒煙を掻き分けてこちらへ近づく3機のジンタイプが見えた。
距離は2000以上、まだ遠いと思ったのだが……こちらを発見した敵は発砲を開始する。
『今度は遠すぎる。馬鹿か!?』
曹長が叱りつけるように罵る。
恐らく敵は、まだ動揺が抜け切れていないのだろう。曹長もそれを分かってはいるが余りの間抜けさに罵らずにいられなかったのだ。
しかしこちらにとっては好都合、曹長の促しに応じて敵機に向かって自分達は駆ける。
■
くそ! くそ!…くそ! なんだ!? これは一体なんだ!? 何なんだ! 敵は遥か彼方の前線に居て、敗北した奴らは、情けないナチュラルどもは尻尾を巻いて逃げていて、だからここは安全な筈なのに……なのに何だこの状況は!? 敵がここに居る筈もないのに攻撃? あり得ない! くそ! ならこの状況は何だ! しかも―――
ジン・オーカーのパイロットで小隊を預かる彼はあり得ない状況を前にひたすら罵声を浴びせ続けていた。
「しかもなんでMSが攻撃してくるんだ!?」
接近してくる敵…見た事もない機種のMSに銃撃を浴びせながらあり得ない現実を罵る。
ああ、くそ、分かっている。こんな距離で当たる訳がないのは。だが敵機を逸早く発見した部下が射撃をはじめ、本当なら諫めるべき自分も釣られて射撃を始めてしまった。だから―――
『!…た、弾切れっ!?』
こうなるのは当然で、逸早く射撃を始めた部下から火線が途絶える。
『こ、こっちも!?』
もう一人が焦るように言うのと同時に自機が持つ突撃銃も火を噴くのを止めてしまった。
モニターの隅にメインアームの残弾が0になった事が赤く表示されるのを見る。
慌てて弾倉を交換しようとするがそんな隙を見逃す筈がなく、敵機は接近し、
『ヒッ…!』
部下の怯えた声が聞こえ―――その部下の機体の表面に無数の火花が奔り、無惨に穴だらけになった機体が膝から崩れ落ちる。
『う…うわぁあぁあぁぁぁ!?』
同僚が倒れ、恐慌を起こしたもう一人の部下が弾倉交換も済んでいない銃を我武者羅に構えて引き金を引こうする。動揺、混乱、ここに極めり。
突然の敵襲、次々と残骸に変えられる仲間達、通信越しに飛び交う悲鳴と怒号、そして親しかった隊の同僚が死んだ。
恐慌するのも無理はない、と。何処か冷静な自分はやむを得なく思うが、放っておく訳にもいかない。部下を止めるために声を上げようとするが、
『―――あぁぁぁあぁあぁ…!』
装甲に火花を咲かせて先の部下のように倒れた。
17 :ゴブ推し:2016/10/01(土) 02:27:14
「く、くそぉぉぉぉ!!」
倒れる部下から迫る敵機へと視界を移す。
迫る敵―――MSは何処かずんぐりとしていてジンよりも小さく、赤く輝くモノアイとその丸みを帯びたシルエットは何処か同じザフト製のMSを思わせる。
その為、何故攻撃してくるのか? 本当に敵なのか?という疑問が微かな躊躇と共に過ったが、それ以上に強い憎悪に任せて弾倉交換を終えた銃に火を噴かせた。部下の無念を晴らす為に、仇を討つために銃撃を加える。しかし、
「くそ! なんでこんなに速い、動ける!? ちょろちょろと…なんで当たらない!?」
小柄な機体の所為か、敵機は左へ右へ、時には飛び跳ねて、異様に素早い為に照準が追いつかない。とっさにオートからマニュアルに切り替えるが…くそ! 機体が敵機に追従できない! ザフトの誇るべき主力機たるジンが頓馬過ぎる! まるで鷹を相手にする鳶にでもなった気分だ。
回避に徹する敵を追いかけ、当たらない銃撃を続けながら罵る。その間にも横から来るもう一つの敵機からの銃撃が自機を掠め、叩き、コックピットにアラートが鳴り響く。モニターも機体各部のダメージが危険な領域に突入したことを知らせてくる。
「く…だが、だがせめて一機、コイツだけは…!」
憎悪を込めて正面の敵機を睨む。死を覚悟しながらも―――途端、側面の敵が何かに気付いたかのように動きを止め。正面に居た敵機が爆発した。
「!?」
別に俺の憎悪が超能力者よろしく念力となって敵機を撃破した訳ではない。正面に居た敵機に突然横から火線が伸びて突き刺さったのだ。
思わず視界を横へ…火線が伸びた方へと移す。
「ザウート!?」
視界の先、距離は700程、黒煙を掻き分けてその機体が姿を見せた。
所々装甲がへこみ、穴も開き、右腕を肩から脱落させて、砲身も片方だけになりながらもそのMSはタンク形態で確りした機動で現れた。
思わぬ味方の登場と援護に通信を繋げて、パイロットに礼を言おうとするが、
「な!?」
視界の端、敵機の爆発のあった所に動く影が在る事に気付いて、慌てて視界を正面に戻した。
何という事か、爆炎が晴れて健在の敵機が姿を現して……間抜けなことに今さらながらに気付いた。敵機がシールドを持ってるのを。大きくひしゃげて穴も開いているが、それがザウートの砲撃を防いだのは明白だった。
健在だった敵機を目にし慌てて銃を向けようとするが、ダメージの所為で機体が鈍い。
そんな自分をあざ笑うかのように正面の敵機は素早く動き出し、銃を放り出して背中に手を回す。再度放たれたザウートからの砲撃を今度は避けて、背中からそれを…棒の先端に丸いものがくっ付いた何かを引き抜いて、ザウートに向け―――墳炎を挙げて飛び出した先端がザウートに突き刺さって爆発し……、
……それが彼の見た最後の光景だった。
18 :ゴブ推し:2016/10/01(土) 02:29:34
■
『ブラウン大丈夫かっ!?』
曹長の心配する声が聞こえる。確かに今のは危なかった。もう少し気付くのが遅れていたらこうして曹長の心配する声は聴けなかっただろう。
シュツルム・ファウストで重MSを撃破し、同時に曹長も自分にしつこく銃撃を加えていたジンを撃破していた。
「大丈夫です曹長」
『そうか…よかった。本当に心配したぞ! 年寄りにあまり冷や汗をかかせるな』
「すみません。ですが曹長はまだ年寄りという程の年齢ではないでしょう?」
ホッと安堵を吐いて、心配し自分を安心させるためか冗談めかして言う曹長に、自分も冗談めかして応える。
『そうだな。俺もまだ若い。だがお前はもっと若い。そんなお前が目の前で俺よりも先に逝くなんて冗談でも止めてくれよ』
「はい、自分も曹長よりも長く生きるつもりです。こんな所で死ぬつもりはありません。だから安心して下さい」
『言うようになったな。で―――』
互いに軽口を叩きあうが、既に周囲の警戒に入っている。
『―――で、機体の状態はどうだ?』
「はい。シールドを持っていた左腕の反応がやはり鈍いです。ダメージカラーはイエローに表示されてます」
『ん、データリンクでこちらも確認した。これならまだいけるな。しかし無茶はするなよ。これまで通り俺が前に出る。お前は出過ぎないように注意しろ』
「了解」
返事をすると殆ど使い物にならなくなったシールドを破棄。マシンガンを回収しつつ近くに転がっていたジンの銃を左に持つ。機体のデータに登録されているし、FCSも対応しているから使える筈だ。
『慣れない武器を使うのはどうかと思うが…』
手持ちの武器があるにも拘らず、敵の武器を使おうとしたためだろう。ハウンズマン曹長が訝しむように言うが聞き流した。曹長もそう強く咎める気はないようだし、使えないようなら捨てればいい、そう考えての事だ。
だがそう長く使う事もなく、今回の戦いは程無くして終わった。
奇襲の初撃が上手くいった事やザフトが混乱から立ち直れなかった事により、大した抵抗も受けずに敵対空兵器と物資の破壊という目的を早々に達成できたからだ。
また自分達と同様の任務を受けた他のMS中隊もほぼ損害無く、別地点でこれを成功させた。
これにより、南アフリカ及び我がユーラシア軍は航空戦力の投入を再開・拡大し、前線にて撤退を続ける味方敗残部隊を援護。敵部隊を空爆することによって鈍化させ、その隙を突いて撤退を成功に導く。
これに一時追撃を試みたザフト軍であったが、対空兵器のみならず集積した物資が失われたこともあって断念。
なお、断念した理由には我が中隊を含めたMS部隊が連合側に現れたことも影響した、とも言われている。
これより数か月間、地上での戦いは宇宙同様膠着状態に入り、我が中隊を含めた連合軍はザフト相手に戦局にあまり影響しない小競り合いを繰り返すことになる。
戦争の終わりはまだ見えていなかった。
レス16ミスしました。削除要請出しておきます。
301 :ゴブ推し:2016/09/28(水) 19:53:07
以上です。
前述のとおり、今回はゴブリンをあまり前面に出せなかった感があります。2話から色々と試みたいと思ってます。
で、今回の舞台はユーラシア連邦の戦車部隊がバルドフェルトに敗れた直後辺りのアフリカ…と考えています。
その為、ザフトのプロパガンダが在りながら、バクゥやザウートの名称にまだ馴染みがなく、四つ足や大砲付きなどと呼んでいる訳です。
この一月前にユーラシア軍内でMSの適性検査があり、そのテストを通ったブラウン及びハウンズマン達はマスドライバーがある為に、ザフトの標的になり、主戦場になるであろうアフリカに出向して、一か月間余りを大洋から派遣された教官の下でみっちり仕込まれた事になってます。
ゴブリンもほぼ同時期にユーラシアと南アフリカ軍に納入されたとしてます。
ブラウン及びハウンズマン達につきましては御存知の方も多いでしょうが、近藤先生の作品「MS戦記」に登場した人物達です。ブラウンはその話をよりも若干年上になってますが。
このように今後も自分は近藤作品からキャラクター名を取っていこうと思ってます。一応、SEEDからも一部キャラクターを出す積りでもありますけど。
なお前から言っておりますように今回は先行バージョンでしてナイ神父氏の話とズレが大きく生じましたら修正する積りです。
特にザフトがMSを自分達だけの兵器だと思っている部分などは。
ウィキなどのまとめサイトへの転載は自由です。
最終更新:2016年10月17日 22:22