13 :ゴブ推し:2016/10/03(月) 01:05:57
では修正版の投下から行きます。


2―――罠


サブモニターの映る時間を確認する…既に10時間近くが経過していた。
メインモニターは何も映さず真っ暗。音もなく静かなためか、まるで一人きりで光も届かない深海の中にでも沈んでいるような、そんな例え難い奇妙な感覚に包まれる。

「!」

センサーに感があることに気付き、正面モニターに明かりを灯す。
映る風景を横に流して周囲を確認…―――いた!

「各員気付いているな? 確認した敵機は四つ足―――バクゥタイプが二、大砲付きのザウートタイプが一、陸戦型のジンタイプが三だ」

通信機にスイッチを入れて隊員に伝える。
以前あったコードネームを混じえて敵の機体名を口にしてしまう。あの初陣の後に入った彼等には逆に馴染みが無いというのに……微かに反省めいた思考が過ぎる。

「数はまたあちらの方が多いが、問題はないだろう。やり過ごすことなく掛かるぞ!」
『了解です軍曹』
『…大丈夫でしょうか?』

モニターに映る3人の内の2人…モーデルが頷き、ナウマンが不安そうにする。そして最後の一人が言う。

『了解です、軍曹。ナウマン大丈夫だ。この前も上手くいっただろ』

ブリックがナウマンの安心させるように励ます。

「よし! 行くぞ! まずは自分が連中を引き付ける。その10秒後にお前達は攻撃に移れ!」
『! 軍曹お一人で!? それは…ッ!』
「大丈夫だ、ブリック……状況開始!」

今度はナウマンを安心させたブリックが不安そうに声を上がるが、信じるように言うと、僕はフットペダルを力強く踏みこんだ―――直後、

ザザッ…と何かが強く掠れる音が聞こえ、モニターに黄土色の煙が覆う。いや、それは煙ではない…砂だ!

機体を砂中に潜め、全身を覆っていた砂丘を掻き分けて愛機が青い空と熱い太陽の下に、砂漠の大地に巨体を躍らせた。

突然の熱源反応とレーダーに掛かった影に驚くようにして敵は反応し、背後を取った自分の方へ振り向くが、

「遅い! 喰らえッ!」

何故か後列に位置していた四つ足―――いや、いい加減にこの呼び方に馴染まなければ―――バクゥに狙いを定める。
右腕からバズーカの弾を、左腕からはシールド裏にマウントしていたシュツルム・ファウストを発射する。
奇襲の利は完全に機能した。直進した二つの噴煙は厄介なバクゥに見事直撃する。

二つの火球が生まれて、それに飲み込まれる鋼鉄の巨狼。
右の一機は避けようと大きく旋回したが、避け切れずに後ろ足の付け根にバズーカの弾が当たって下半身を大きく失って倒れ。
左のもう一機は回避行動も取れなかったようで、背後に現れたこちらに振り向こうとした矢先に胴体真ん中へ直撃し、二つに割れるようにして機体を派手に爆散させた。

「よし!」

予想以上の成果に喝采を挙げる。一機撃破か、中破が良い所だと思っていたからこの結果は本当に予想外だ。良い意味で。
勿論、喜びはしても動きは止めていない。初陣でハウンズマン曹長に叱咤されたような迂闊な真似はしない。直ぐに退避行動を取って、残敵からの報復の意思が籠った火線を避ける。
ザウートの砲火に銃火、ジンの突撃銃、同じく無反動砲に加え、脚部から誘導弾まで撃ってくる。

「まさに容赦なしだな。一機だけの敵にそこまで気を取られていいのか?」

砂塵を上げながらスラスターを小刻みに噴かせてジグザグに地面を滑るように機動し、軽口を言う。向けられる無数の火線に若干焦りを覚ながらも、何処か皮肉気に、憐れみを込めて。
そう、もう十秒が経過する……瞬間、ザウートの砲撃と両椀からの銃撃が止まった。そして慌てて頭部を、カメラを動かして何かを探すように周囲を見回し―――

―――彼等の三方にある砂丘から巨躯の子鬼《ゴブリン》が飛び出した。




後の戦いは一方的だった。いや、初めから一方的だったと言うべきなのか?
とにかく、戦いは終始こちらが優位な形で推移した。
自分と同様、砂丘から突然現れたゴブリンに、一機だけだと思っていた敵の数の増加に対して、ザフトの部隊はろくに対処することもできず、数秒単位で一機一機撃破されて―――

『ッ!? この悪あがきをっ!』

最後の残ったジン・オーカーがモーデル機に玉砕覚悟に突貫して斧を振り上げたが、小柄で俊敏なゴブリンを捉えられずに空振り、脇を抜けるようにして躱したモーデルに無防備な背中をさらけ出して、彼のゴブリンが腰から抜き放った灼熱に染まった刃で…ヒートソードで切り裂かれた。

「モーデル、無事か!?」

ズンッと砂煙を立てて倒れるジンを見つつモーデルに尋ねる。状況を見ていて無事だとは分かっていたが…万一を思ってだ。

14 :ゴブ推し:2016/10/03(月) 01:07:45
『は、大丈夫です軍曹』
「よし、他はどうだ。各員ケガはないか? 機体に異常はないか?」
『問題ありません』
『大丈夫です』

ナウマン、ブリックも大丈夫のようだ。距離が短いお陰もあり、NJ≪ニュートロンジャマー≫…に殆ど妨害されることなくデータリンクでもそれが確認できた。

『軍曹もご無事なようで何よりです』
「ああ、心配をかけた」

一機だけで先に飛び出したこともあってかブリックが心底安堵したように言う。見ると他の2人も同様だった。モニターにホッと息をついている様子が見えた。

モーデル、ナウマン、ブリック、彼等は僕が軍曹に昇進すると共に中隊に配属された部下達だ。
そう、あれから……初陣を乗り越えて、幾度かの戦いを無事に生き延びた自分は一つの隊を……小隊を任されたのだ。
正直、不安は大きかった。自分に務まるのか? 部下を持ち、その命を預かるだけのと実力と器量があるのか?
バルク大尉も曹長もこれにはそう多くの事を言わなかった。昇進した事を我が事のように喜び、褒めてくれて。これで一人前だな、と。何処か激励するように僕の背中を叩きながら言った。
いや、激励するようにではなく、実際そうなのだろう。「やれるか?」なんて後ろ向きに考えるのでは駄目だと、昇進し任命された以上は「やる」しかないのだ。
それが軍人であり、一人前の男としてなすべき事なのだろう。

「…〝後片付け〟を始めるぞ」

部下達の顔を見て過ぎった僅かな回想を終えると、そう皆に告げた。
その瞬間、ナウマンの顔が嫌そうに歪む。

「ナウマン、お前には周囲の警戒を任せる。モーデルもだ」
『『了解』』

モーデルはこれといった表情を見せなかったが、ナウマンはやはりホッとしたようだ。

『まあ、気持ちは分かりますがね』

ブリックが言う。それに自分も頷き返す。それには全くもって同感だ。

「手早く済ませるぞ」
『…了解』

腰の裏からヒートホークを抜く。リーチの短いゴブリンの為に柄が長く作られたものだ。ブリックはヒートソードを抜く。……それを―――

「ふん」

近くにあったザウートの胴体…既に破損しているコックピットを狙って振り下ろす。増加装甲が追加されてより頑強になったそれを赤く熱された刃が容易く溶断する。念のために続けてもう一度振るう。
次に頭部を狙う。
大体その胴体部と頭部にレコーダーがあるのだ。これを完全に破壊してこちらが張った〝罠〟の情報を敵に伝わらないようにする必要がある。
あの砂中からの奇襲攻撃に対策されるのはできる限り遅らせたい。今回の戦いで厄介なバクゥを真っ先に仕留められたように、罠が上手く機能した時の成果は本当に大きいのだ。
だからこれは必要なことだ。敵に残骸が回収されても良いように。
もっとも昨今では〝ハイエナ〟…いや、この砂漠一帯では〝砂鼠〟と呼ばれるのだったか? 我が国やこの国では違法なジャンク屋ギルトの連中が徘徊し何処から嗅ぎ付けるのか、ザフトの連中よりも早く回収して行くらしい……ただ我が方のMSや物資も狙おうとする事も多々あり、いい加減上層部もキレたのか、こいつらの取り締まりに近々自分達が動員されるという噂もある。変にMSで武装している為に旧来の戦力だけでは不安らしい。

「……」

思わず舌打ちする。ザウートの次にと、先ほどモーデルが撃破したジンを見たのだが……横倒れになったその機体のコックピットは〝無傷〟だった。

15 :ゴブ推し:2016/10/03(月) 01:08:36
「……ジンのパイロットに勧告する。生きているなら直ぐに機体から姿を見せろ! 両手を上げてこちらの指示に従うように……大人しく降伏するように。であれば国際条約に従いこちらも丁重に扱う」

無傷のコックピットを確認し、生存しているものとして一応勧告を行う。しかし―――返答はない。既に死んでいるのか、それとも通信もできない状態なのか? 判断はつかないが……それを確認しようと敵機のコックピットを開くために自機から降りるのも危険だ。

「…勧告はした。それに従わない以上、抵抗の意思アリと見なす」

冷徹に告げてヒートホークを振り上げる。それを振り下ろす直前、

「…戦争なんだ。恨みっこは無しにしてくれ」

お互いに覚悟を持って戦場に出た身。それで納得して欲しいと。それでも理不尽だろうと思いながら、まだ生きたパイロットが中にいるかも知れない…そんな無抵抗な機体にめがけて容赦なく赤い刃を振り下ろした。
振るったのはMSであり、己が自身の手で直接叩き切った訳でもないのに覚える奇妙な手応えに、ナウマンが嫌な顔をするのも当然だな、と小さく呟いた。

そうして〝後片付け〟が終わる。
レコーダー《記録》も残さない、敵の生存者も残さない。そうする事で自らの勝利と生存の可能性を高める。

戦争はまだ続いて、僕達もまだまだ戦い続けるのだから。

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最終更新:2016年10月17日 22:22