858 :ゴブ推し:2016/10/06(木) 22:10:20
5―――影響
鼠退治から二日が経過した。
この日は出撃が無く、代わりに朝からシュミレーターに缶詰めとなり、午後からも実機での訓練となっていた。
午前中の訓練を終えて、軽くシャワーを浴びて昼食に入る。そして何時もなら部下達と歓談しつつ食事に入るのだが、
「ブラウン、相席良いか?」
と、クルツが自分の前の席に昼食の入ったトレーを置くと、ドカッと椅子に座った。こちらが了承するまでもなく。
そんな自分が頷くことが当然だと言わんばかりの態度に少し呆れるが…まあ、良い。
「良いのか、自分の部下を放っておいて?」
「構わねえよ、あいつらはあいつらで勝手にやってる。この前、医療科に可愛い娘達が入ってきただろ。昼食を兼ねてその子達とちょっとした合コンだ」
クルツがそう言うと、少し離れた席に座る―――気を使って間を離してくれた―――部下達から羨む声が聞こえた。
それをクルツにそうかと頷きながら務めて無視する。あの娘達とは知り合いだから下手に勘繰られれば、後で紹介して欲しいとか言われかねないのだ。
「それで何か話があるのか、今日はただ顔を見たかったって訳じゃないんだろ?」
「一昨日の鼠退治の件で少し話をしようと思ってな。なんか大変だったんだって?」
その一件か、流石に気になるか。
「ああ、聞いていると思うけど、ジャンク屋の連中、回収したうちの機体を解体して融合炉に手を付けてやがった」
「……マジで噂通りかよ。仮にも核に関連した技術だぜ。無謀にも程があるだろ。一介のジャンク屋がどうこうできる代物だと思ったのか?」
「思ったんだろ。曹長が言ってた。航空機や戦車…そしてMAやMS。そんな複雑で精密な機械を弄繰り回して来たんだから、MSに搭載されていた融合炉もその延長に見えて、核だろうと何とかなると考えたんだろう、って」
目の前の技術や金に目が眩んだ事もあるんだろうけど、とも付け加えるように言う。
「感覚がマヒしてたって事か。仮にも核…それも小型化した融合炉なんて未知というには破格な代物で。既存から逸脱した技術が使われてるなんて少し考えれば判る筈なのに」
クルツは呆れてため息を吐く。同意して僕も頷く。
「お陰でうちの司令部や軍の上層部、政府関係者は大慌てだ。大洋にも説明を行って色々と厄介なことになってるらしい」
そう、あそこのジャンク屋の連中は惨事を引き起こし、被爆者を出しておきながらも解析作業はきっちり行っていたのだ。
どこまでそれが出来たかは不明だが、そのデータを回収した我がユーラシアは扱いに困った。本音を言えば、黙って自分達のものにしたかったのかも知れないが―――バレて大洋との関係を壊すのは拙い、怒らせるのはもっと拙い。長期的に見れば明らかにマイナスだと思い止まったらしい。
ましてや曹長や僕を含めてあの作戦に参加した多くの兵士がそれを知っているのだ。隠蔽するのは不可能で、明るみにでるのは確実だ。
しかし、隠さず大洋に渡したとしても何かしら疑惑を持たれるのも確実だ。そのデータをどう扱ったのか? 本当にジャンク屋の独断なのか? 国家ぐるみで関与しているのでないか?などと、色々と嬉しくない関心を持たれるだろう。
我が国の上層部はこの厄介な事態に本当に頭を抱え、これを持ち込んだ疫病神…ジャンク屋どもを激しく罵ったそうだ。
だがしかし、我が国の軍と政府は素直に事の詳細を大洋に伝える事にした。
疑惑を持たれるであろう事も敢えて説明に加えた上で大洋と協議を行い。何とか妥協案なり解決案なりを探ろうという事だ。
それら大尉から聞いた話をクルツに言う。
これは何も隠すような事でもない。信用できるマスコミなどに一部情報をリークする事で我がユーラシアは、隠蔽を考えなかったと大洋を含めた周辺国にアピールしたいらしい。大洋としてもこの件をユーラシアとの離間工作に利用されるのは避けたいだだろうから、この話に乗ると思われる。
「やれやれ、ほんと要らん事ばかり、厄介ごとばかり招くなあいつら…」
予想以上の事の大きさにクルツは頭痛をこらえるように眉を顰めた。そして食堂にある大きめのTVの方へ視線を向ける。
TVには天気予報が映っているが、それを通してクルツが見ているものは違うだろう。
今朝の事だ。〝砂鼠〟の件で抗議を受けたジャンク屋ギルトがニュース番組を通じて声明を出した。
その内容は思い出すのも頭が痛いものだ。
859 :ゴブ推し:2016/10/06(木) 22:13:34
『―――それらのジャンク屋が不法行為を働き、多くの問題を引き起こしたことは甚だ遺憾であります。しかし我々には預かり知らぬことであって、また自由独立を気風とする彼等に過度な介入を行うことは我がギルトと彼等にとって望ましくない事であるとも考えております』
『…ではギルトの役割は何なのか? その傍観的姿勢が問題を引き起こしたのではないか? という指摘があることも理解しています。ですが、考えても見て下さい。問題は在れ、彼等は戦場に遺棄された危険な兵器を自主的に回収し、多くの人達の身の安全を守ってくれているのです』
『兵器などという危険物を、放っておけば大きな災いを招くであろう宇宙の漂流物を、逸早く回収を行い、出るであろう被害を防ぐ。それは我がギルト発足の動機であり、崇高な理念です。今回の件もそうです』
『多少問題は在ったとしても彼等は、その理念に沿って危険な兵器の回収を行ない続け、今TVを見ている方々から危険を遠ざけていたのです。それは誰にもできる事ではないでしょう。危険を顧みず、自らの仕事に強い誇りを持つ彼等だからこそ出来ることなのです』
『だというのにそれに理解を示さず、やれテロの温床だの、闇商人の仕入れ先だの、問題視ばかりし、彼らを委縮させるのはどうでしょう? ……敢えてどの国家かは言いませんが、それら理解を示さない諸国、政治家にこそ問題があるのではないでしょうか? 今回の件で一方的な武力行使に踏み切った事もあります』
『これに我がギルトは強く抗議するとともに、これ以上有志をもって集った彼等を不法に走らせない為、問題を引き起こさない為にも、我がギルトの在り様、理念に理解を示し、一刻も早い条約の批准を改めて各国へ求めるものであります』
これが声明なのだが、長いこれを要約すれば、問題はあった。だが自分達は悪くない。悪いのは問題を起こした者達であったが、しかし本当に悪いのは問題を起こした者達を理解しない我が国やその他大勢の国々にある。それら国々は問題を起こした者達をどうか理解して欲しい、と。まあ、こんな感じである。
当然のことながら、以前から条約やギルトの在り様を問題視し反対を表明をしていた我が国や大洋を始めとした国々は怒りを隠せず、政治家・官僚のみならず、報道やネット通じて問題を理解していた国民も激高した。
ただ自分は……恐らくクルツもだろう。余りの言いようにもはや怒りを通り越して呆れを覚えていたが。
ギルトを支持していた自称知識人やら有識者も鼻白む者が多かったようで、掌を返し始めている者もいる。それでも今のところは一度支持してしまった為か、玉虫色に言葉を濁しているが……。
「…ったく、予てから言われていた問題が形になって噴出したっていうのによ」
その声は予想通り、呆れもあったが強い苛立ちも込められていた。
それもそうだ。今後もジャンク屋は好き放題戦場で動き回り、また似たような取り締まりで相手する事になり、愛機や戦友の機体が良いように弄繰り回されるかも知れないのだ。いい気はしない。
「…クルツの方はどうだったんだ?」
少し話を変えるべきだろうと思って彼に尋ねた。
「ん? ああ、こっちの鼠退治か」
「そう、MSで空挺降下を行ったんだろ?」
「それ…なんだが…」
なぜかクルツの歯切れが悪い。どうしたんだ?と首を傾げる。
「うーん、降下自体は風も余りなかったし上手く行った。多少気を使う必要はあったが……空中機動の延長のようなもんだし、生身よりは簡単に思えたな」
これといって高度な技量は要求されないって事か。クルツの感想を聞いてそう思う。だから歯応えが無くて説明にも歯切れが悪いのか?
そんな不思議そうな自分の顔を見てクルツはどう思ったのか、
「いや、降下自体は楽しかったぜ。初めての経験だったし…けどな」
「けど?」
クルツが複雑な表情をし、つまらなそうにして言った。
「折角の初めての降下だったのに、出番がなかったんだよ。俺ら」
「…どういう意味だ? それ」
「まんまだよ。海の連中が張り切り過ぎたんだ」
そう言ってクルツは己が関わった作戦で起きた事を説明した。
860 :ゴブ推し:2016/10/06(木) 22:14:34
洋上にある無人島、そこに拠点を築いたジャンク屋であったが、海で囲まれた安心感からか自分達の所以上に警備がザルだったらしい。
そこに秘密裏に上陸を果たした海軍特殊部隊であるが、当初の予定通りに対空施設及び対空仕様ザウートの破壊工作を行っていたのだが、余りの警備の薄さにふと思ったらしい「あれ? これ俺らだけで行けるんじゃね?」と。
そう考えた後は早かった。夜の闇に紛れた特殊部隊はジャンク屋の拠点内を思うように静かに…しかし手早く駆け巡り。爆薬が足りなければ、幾らでもある現地から調達し、重油、軽油、航空燃料まであらゆる引火物を撒いて火を付けたのである。
その派手さと来たら、地上に太陽が出現したようで、島全体が燃えているようだったとはクルツの弁である。降下目標である拠点は炎の竜巻が渦巻いており、慌てて降下地点をズラさなければならなかったらしい。
このはっちゃけた特殊部隊の所業のお陰で、クルツたちは一戦も交えることもなく拠点を制圧……というか消火作業に忙しく手を回すことになったという。
「出番、あったじゃん」
「消防団の真似事をMSが行う仕事だって言うんなら、そうなんだろうがな」
クルツは不貞腐れた表情で言う。
なおジャンク屋の生存者はごくわずか、殆どが重度の火傷と酸欠で亡くなったらしいが、はっちゃけた割には特殊部隊の奴らはしっかりしており、重要そうな人物の身柄の確保と書類やデータの類もきっちり回収したらしい。特殊部隊の名に恥じない見事な働きだろう。
話し終えたクルツは深くため息を吐くが、真面目な顔をし、
「…でだ。回収したデータに、こっちはこっちで厄介なもんが見つかったそうだ。多分、融合炉の件に絡んでるぜ」
「そっちも?」
意外な…いや、よくよく考えるとそうでもないのか、あいつ等の手癖の悪さは今回の件で身に染みている……が、兎に角その言葉に驚いた。
「ああ、ゴブリンに使われてるアビオニクスやらOSやらの解析データが見つかった。どうやら連中は回収したジンにそれを使っているようだ。まあ、機体《ハード》の構造やソフトウェアの構造も大洋のとは大きく違うから全く同じって訳にはいかないが、応用しているそうだ」
「……それ、当然無断だよな」
尋ねるとクルツは、当然そうだろうなぁと頷いた。
そう、ジャンク屋も全員がコーディネーターという訳ではない。MSで武装するに至り、ナチュラルでも扱える大洋のMSの制御機構やOSに目を付けるのは当然だった。
恐らくこの件でも我がユーラシアと大洋、そして南アフリカは話し合っているだろう。クルツの言う通り融合炉の件を含めて。
「やれやれ…」
何に対してか僕は肩を竦めた、多分行き当たりばったりで何も考えていない、ならず者《ジャンク屋》が遠くない未来に迎える結末にだ。
本当に馬鹿馬鹿しく、それを迎えることに同情しようにない呆れがあった。恐らくそれが起きた時、自分はきっと自業自得だと呟くのだろう。
861 :ゴブ推し:2016/10/06(木) 22:15:36
■
彼はカップに口を付け……顔を顰めた。
「うぅむ…失敗か。酸味が強すぎて苦みが生かせていない。配合から見直すか、それとももう少し豆を砕くべきか…」
趣味のコーヒー作りに失敗したらしい。
「天然物の豆はどうも、皆気難しいものだ」
失敗はしたものの、勿体ないとばかりに不味そうに飲み干して、丈夫なアルミ製のカップを空にすると、彼はデスクの上にあったタブレット端末に視線を落とす。
「こっとも中々に難しい状況だが…さて?」
端末に表示される文字や数字、画像を見て。彼は顎に手を当てる。その表情は厳しくもどこか楽しそうだ。
何事もまずは楽しんで挑んでみるのが彼のスタイルなのだろう。
彼の上申で小隊の編成を六機にして哨戒を行なわせたのだが、上手く行っていない。
未帰還の隊、手痛い打撃を受けた隊、大した損害を与えられずに逃した隊、上がってきた報告や記録はそういったものばかりで、これも失敗だと悟らせる―――が、
「まあ…想定範囲内だね」
これでも駄目だという結果が知れたことで満足しよう、と彼は考えていた。
「連合……ナチュラルのMSは手強い。いい加減、それを理解すべきだ」
誰にでも言うなく……否、ここに居ない方面司令部や更にその上の上層部に向けての言葉だ。
そう呟くと、彼はタブレットの画面を切り替える。
「MS07ゴブリン…子鬼か」
タブレットにバラバラにされた鋼鉄の巨体……解体された連合のMSが映る。
「センサー類には特に目新しいものはないが、フレーム構造はザフトの物とは違うアプローチが見られ、駆動系にはまったく新しい未知の技術が使用されており、装甲などの構造材にも一部未知の合金が使用されているのが見受けられる。主機《エンジン》たる動力源に至っては―――熱核反応炉…核融合炉の可能性が大、か」
回収された破損した機体を調べた結果がそれだった。
ただ残念な事に主機は破損が大きく完全に停止しており、その損傷の酷さの所為で構造が調べるのがやっとだった。
搭載コンピュータに関しても、恐らく大破判定を受けた時点か、動力の完全停止か、もしくはパイロットの脱出時にデータ消去が行われたようで、解析はおろかサルベージすらも不可能だった。
「だが、これで大洋が核融合炉を実用化していることは確実視された訳だ」
それはNJ投下後の事だ。
遥か上空……宙《そら》からの観測で大洋の勢力圏だけは変わらず工場群が稼働しており、太陽が地表に隠れた後も…夜も変わらず地上に人口の星々を輝かせているのだ。NJのリミッターが有志ある…となっているが実際は、とてもそうとは言えない、身勝手な一部の馬鹿どもの所為で外された為に地球全域で原発が停止しているにも拘らず。
それに不審を持ったプラントは、余り手の長くない諜報部を使って調査をし、発覚した事実はプラント上層部に衝撃を与えた。
―――大洋が戦前よりずっと前に核融合炉を実用化していたという事実。
これが意味することは明白だ。
NJによる連合の生産力の低下は長く期待できない。その生産力はすぐに回復するという事であり、また融合炉を転用した反応兵器の復活もあり得た。
さらに言えば、NJの投下は無駄に地球上の国家に憎悪を振り撒いただけとも言える。
862 :ゴブ推し:2016/10/06(木) 22:17:15
そのあまりに衝撃的事実の為、プラント上層部はこれを否定した。そこには、科学の最先端を行くプラントさえ実現できていない事がナチュラルの国家にできる訳がないという高慢な考えもあっただろう。
きっと、太陽光発電や燃料電池などを利用した大規模な発電施設がある筈だ。それか何らかのトリックだ、とそう思いたがった。
そんな大規模な施設が作られた形跡もないのに、ユーラシアや南アフリカの電力供給が回復した後もそう思い続けた。
しかし―――それらしい実物が出てきてしまった。
大きく破損した状態であったが、現地の整備兵に技術者に加え、プラント在住の専門家の分析と解析の結果、構造上その可能性が極めて高いという意見が付いて。
これに再度揺れたプラント上層部であったが、今回はただそれに動揺するだけでなく。破損がない、完全な状態の物を欲しがった。そして前線に命令として発せられたのだが、
「…簡単に言ってくれるねぇ」
この大洋の…ゴブリンというMSは手強い。地上において特化した性能を有するバクゥでも手を焼く相手だ。おまけに乗り込むパイロットやその部隊の練度も高い。
捕獲を目的にするなら倍以上の戦力をぶつけなければならないが、戦略的に帰趨が定まらない、こんな小競り合いが続く状況で敵が倍以上の戦力を見ればどうするか? まともな指揮官なら戦闘は回避し撤退を選ぶ。かといって少数や同数で挑めば返り討ちに合う公算が高い。
なら罠を張ることも考えたが、地上は元々向こうの庭だ。ここ最近の未帰還機の多さを見ると下手に動けば、こちらが上手くやられかねないように思える。
それに大胆にこちらのMSを狩っているように見えるが、実際は慎重だ。同数以上で不利と見れば、最低限の戦闘で済ませて退いている。
「やはり難しいな、ふむ……と、そういえば、前に売り込みに来ていたジャンク屋どもが何か言っていたらしいが」
ふと思いついたことを確認するために端末のフォルダを漁り、それらしい資料を見つける。
一応、上げられていた報告だが……―――
「ユーラシア軍の投棄したMSを確保だって? それを売りに来たのか? 時期は……こちらが初めの機体を回収にする前か。担当官は……眉唾だから信じなかったのか? うーむ…」
思いがけない情報を目にしてしまい考え込む。件のジャンク屋に連絡を取れないものか。もしかしたら完全な物が手に入るかも知れないと考え―――
「―――アンディ」
「ん、アイシャ」
「どうしたの、そんな難しい顔で考え込んで?」
声に彼は顔を上げると、部屋のドアの前に長い黒髪を持った女性がいた。軍隊には似付かわしくない、モデルのように美しくスラリとしたスタイルを持つ、少女にも、大人にも見えるそんな華麗で可憐な女性だ。
その女性はデスクに座る男性に近づくと、彼の見る端末に視線を落とす。
「あら? これなら駄目よ」
端末に映る情報に、聡明な彼女はすぐに彼の考えを察したようだ。
「どういう事だい?」
「えーと」
彼の問い掛けに女性は答えず、代わりに自分のタブレット端末を取り出して操作する。
「これを見て」
「……なるほど。そういう事か。少し遅かったか」
差し出された女性の端末に映ったものを見て、彼は得心する。
「ええ、つい先日の事よ。連合のユーラシアと南アフリカは大々的にジャンク屋を取り締まったみたい」
端末に映ったのは、ここ近日に起こったニュースだ。ジャンク屋がユーラシア軍と南アフリカ軍の合同作戦で取り締まわれた事、その事件に関係する一連の報道だった。
「…やれやれ、そうそう都合よくは行かないか。にしても…ギルトの連中は何を考えているんだ? こんな声明を出して? 我が軍でも怒り出す者が出るぞ。これは」
余り当てにはしてなかった事だが、それが外れると若干惜しくはあった。しかしその感情以上に、目に入った情報は驚きであり、彼はジャンク屋ギルトの正気を疑った。
そして恐らくは、批准国でもある我が国、我が軍でも他人事ではないと怒りを表す者が出ることを予測する。いや、批准国だからこそだ。幾ら無法を働こうとも条約を盾にされては迂闊に手が出せず、余計に歯痒い思いをしているのだ。
863 :ゴブ推し:2016/10/06(木) 22:18:07
「その内、我々もジャンク屋を取り締まるべきだ、という声が軍内に出てくるな」
その呟きに女性はもう出てるわよ、と答えて彼は肩を竦めた。
「ふう、しかしやっぱ惜しいな。敵のMSがほぼ完全な形で手に入る機会を逃していたというのは…」
当てにしてなかった事でも考えてしまう。融合炉の件以上に一人のMS乗りとして。その機体に触れる機会…搭乗出来るかも知れなかった機会を逃したのを。
これまでの戦闘で得られたデータ、そこで見せるゴブリンと名付けられた敵MSの動き。
「アレを体験するチャンスを逃すなんて、ほんと惜しい事だ」
そう呟く彼であるが、その顔には笑みが浮かんでいる。
「嬉しそうね、アンディ」
「ああ、確かに惜しいが、降って湧いた棚ぼたのような事で得る機会よりも自らの力でそれを得たいからね」
その為の仕込みは進めている。
厄介な敵MS部隊を狩り取る事と、敵MSの捕獲という重要な目的が含んだ戦い、その作戦。
それを待ち遠し気に彼は微笑んだ。本当に嬉しそうにして、
「実に楽しみだ」
と、零れる笑みと共に呟いた。
そう、その敵のMS部隊……練度の高く手強い敵と戦えることに彼―――〝砂漠の虎〟との異名を持つアンドリュー・バルドフェルドは強い高揚感を覚えていた。
この好戦的且つ享楽的で油断ならない男との戦いでブラウン達は戦場に立って以来、最大の危機に立たされる事となる。
それはこの戦争では二度と経験する事がない、過酷な戦いであった。
一つ余談として、バルドフェルドの知らぬことだが、MS…ゴブリンが完全な形で手に入らなかった事、問題のジャンク屋が取り締まわれた事は実のところ彼等にとって幸運であった。
もしこの時点ないし後であっても、融合炉をザフト…ひいてはプラントが手に入れていたら、彼らに深刻なダメージを、悪ければ戦争継続に影響する、思いもよらぬ被害を受けていたのかも知れないのだから。
それ程までに大洋の融合炉……ミノフスキー型熱核反応炉は扱いが難しく、既存とはかけ離れた理論と技術に成り立っていたのである。
864 :ゴブ推し:2016/10/06(木) 22:19:47
以上です。
今回は昨日の投下後に出た皆さまの話で思いついたものと、過去スレに出た話題を見て思いついたものを書き殴った感じの話になってます。
そのように思いつくままに書いた事や予定になかった話なので、ちょっと…いや、かなり変な所があるかも知れません。ナイ神父氏の設定とも食い違う所も出ていると思います。
wikiなどのまとめサイトへの転載は自由です。
最終更新:2016年10月17日 22:24