218 :ゴブ推し:2016/10/08(土) 21:30:20
6―――狼群
10月に入り暫くしたある日の事だった。
各MS部隊の指揮官に緊急招集が掛けられ、哨戒任務に出る筈であった、自分の出撃は中止になった。
招集命令を受け、乗り込んだばかりのMSから降りて格納庫の窓を見ると、代わりと言わんばかりにスクランブルが掛かった偵察機とヘリが出動しているのが見えた。
「一体どうしたんでしょうね? 出撃が取りやめなんて…」
いつの間にかナウマンが傍に来ており、そう尋ねてきた。普段にない事態の為にとても不安そうだ。
「分からない。とりあえず僕は、ブリーフィングルームに向かう。皆は別命あるまで此処で待機してくれ」
「了解です」
「「了解」」」
ナウマンの後ろに見えたモーデルとブリックも応え、二人に気付いてなかったらしいナウマンが驚いて振り返っているが、気にせず僕は格納庫を後にした。
基地の中央施設。そこにあるブリーフィングルームに入ると大隊に所属する中隊長及び小隊長の八割がすでに集まっており、4人いる中隊長達は当然一番前の席だが、それ以外は各々で勝手に席についていた。
部屋の中央の奥の席で、よう、とクルツがこちらに手を振っているのが見えたので、僕は彼の隣に腰を下ろした。
「何があったと思う?」
「さあ、けど…この前の話」
「ああ、やっぱそう思うよな」
尋ねるクルツに短く答えると彼は頷いた。
「虎さんが動いたか」
「…多分」
やはり短くやり取りをし、互いに沈黙した。
来るべき時が来たか、とそんな思いだ。恐らくここに集まった皆もそうだろう。彼等は皆、情報課が落としてくれた話を耳に入れている。その為、重い緊張感があった。
その緊張感の中、どれほどの時が過ぎたのか、残りの二割が姿を見せても大隊長の姿はまだない。
そうしてさらに時間が経過し、緊張を抜く為にする、何度目か溜息を吐いて―――
プシュと空気が抜けるような音がして正面脇にあるドアが開いた。
「敬礼!」
中隊長の中でも一番選任であるバルク大尉が告げ、部屋の皆が起立し敬礼を行う。
大隊長が秘書官を連れて姿を見せて、正面の大型モニターの前にある壇上で僕達を見下ろしながら答礼した。
219 :ゴブ推し:2016/10/08(土) 21:31:26
「…」
首を短く動かし、皆がいることを確認したのか、大隊長は答礼を止めると、僕達も敬礼で上げていた手を下した。
「皆、楽にし、座って良い」
「ハ」
その言葉にありがたく僕達は席に着く。
直後、大隊長は秘書官に命じて照明を落として部屋を暗くすると、緊急の招集に応じた僕達を労ってから説明に入った。
「今から凡そ一時間前、ここアフリカに展開するザフトに大きな動きがあった―――」
正面モニターにアフリカの平面図を映しながら、大隊長はまずそう口火を切った。
その動きの始まりは何時からあったのか?
ザフトのアフリカにある後方基地から、前線基地へと結ぶ各中継基地に徐々に戦力が移動し、蓄積が行われていた。……あるMSを主軸にして。
そう、それは以前クルツが言い、情報科が分析した通り、ザフトが誇る陸戦特化型MS・バクゥである。
諜報部も当然この動きは掴んでおり、我がユーラシア及び南アフリカ軍上層部は強く警戒していた。
我が方のMSに対抗する為の部隊を組織して、それを中心に攻勢に出てくると。そして恐らくアフリカ方面の戦いにおいて、それは正念場というものになるだろうとも。
地上の緒戦において、大きく損耗した陸軍の再編は終わっておらず、我がユーラシア軍と南アフリカ軍は防戦に徹し、時間を稼がなくてはならないのだ。
再編が終わり、反撃の時が来るまで。
この正念場を乗り越えなければ、アフリカの情勢はザフトに大きく傾き、戦争の終結は遠退くだろう。
「陸軍の再編となると我がMS部隊もそれに含まれるが、知っての通り我々ユーラシアの一個大隊と、南アフリカ軍の一個大隊が現状アフリカにある全てだ。あとは編成途上の両軍それぞれの二個大隊…計四個大隊が後方に控えているが、諸君らが合格した第一次適性検査においてギリギリラインに達せず、ふるい落ちた者達から選抜を行った為に諸君らより幾分レベルが低く、またそれらの理由によりこれまでの運用データないし戦訓を取り入れつつ、時間をかけてパイロット養成を行っているので、戦力としては数えられない」
大隊長はそこで言葉を切り、自分たちを眺め、
「―――つまり現状において頼りになるのは、諸君らだけだという事だ」
相変わらず静かだが、何処か熱さを感じさせる声だ。それが気を引き締めさせる。これがこの大隊長の特色だ。
「既に敵の各中継基地に蓄積されていた戦力は移動を開始。四隻からなる陸上艦隊と合流し前線へと向かっている。恐らく諸君らも予想していただろう。その艦隊に〝レセップス〟が確認された」
その艦名が出た瞬間、ブリーフィングルームにザワリとした空気が漂った。
〝レセップス〟…それはこのアフリカにおいて名を馳せた名だ。あの〝砂漠の虎〟の乗艦。我がユーラシアと南アフリカの陸軍を壊滅に追いやった名将アンドリュー・バルドフェルド。
その厄介な敵が動き出したことが確実となった。
「これに加え、確認されたMS―――バクゥの数は凡そ80~90。その他にジンタイプは見られるが、数は少なく、ザウートタイプが多数見られるもののバクゥほどではない。多くとも30と言った所だ。恐らく機動力の高いバクゥが主力で、ザウートはこの支援というよりは、やはりこれまでのように此方の航空兵力に対するを迎撃・牽制が目的だろう。ジンは艦隊の直援機と思われる」
80~90…バクゥが想像以上に多い。こちらは二個大隊…計128機と数は上回るが、これとぶつかるのか。
「これに対して、我々は第一防衛線において向かえ撃つことにした。主力は我々ユーラシア軍の第01MS大隊、そして南アフリカの第02MS大隊だ。喜べ…光栄な事にこのパーティの主賓は諸君だ」
大隊長が珍しくジョークを交えたので笑い声が部屋の中で響いた。ただ殆どが苦笑だ。大して面白くもないうえに大隊長には似合わないからだ。
にしてもやっぱり僕達、MS部隊が前面に立つことになるか。戦車や自走砲、ヘリなども勿論出されるが、高機動を誇るバクゥが相手では余り頼りにならないだろう。
空の方も敵の制空戦闘機と地上から狙ってくるザウート相手に手いっぱいになる筈だ。爆撃などの支援は望めない。もっともその味方航空機が出てくれなければ、我がMS部隊が敵の航空機とザウートの標的になるのだけど……主賓と言っても我々だけでは戦えないという事だ。
220 :ゴブ推し:2016/10/08(土) 21:32:16
「敵の狙いについてだが、恐らくは前線の突破と最終的には当基地の攻略だと思われるが、第一に予てから噂されているように我が方のMS部隊の殲滅だろう。ゴブリンという機動力の優れた機体に、それ以上に機動力に優れ、唯一対抗可能なバクゥを揃えてきている事からもそれは明白だ」
この言葉に皆が頷く。
「これを理解しておきながら我々が出張るのは、この戦いが避けられないものだからだ。恐らく…という言葉を繰り返すことになるが、敵はこれまでにもそれを何度か試みていると思われる。我々が哨戒活動を妨害して奴らの戦力を漸減してきたように……諸君らも覚えがある筈だ」
これに何人かが頷く。僕もだ。バクゥのみで編成された部隊との遭遇戦や、罠を使い始めた頃から見られた六機編成となった敵小隊。
まあ、殲滅というよりも対処策を模索しているという感じだったが……その結論として当然ことながらバクゥが有効だと判断し、今回に繋がったのだろう。
しかし大隊長の見解は少し異なった。
「だが、それらでは効果が望めないと敵は判断した。少数と少数がぶつかる小競り合いでは守りに徹し、待ち伏せ、慎重に動くこちらが相手では、ただバクゥのみで構成した小部隊を送り込んでもイニシアチブを取られ、返り討ちに遭うか、戦いそのものを避けられてしまうと考えた。故にこちらが見過ごせない大部隊を編成し打って出たのだ。こちらのMSに最も有効な打撃を与えられる戦力を中核にして、だ」
それが砂漠の虎の見解でもあるという事なのか…?
こちらのMS部隊を狙おうにも、防戦を主方針に狡猾且つ慎重に動く我々が相手では難しいと考え、大部隊を投入して避けられない戦いを挑んできた。
そこにはこちら防戦一方な内にアフリカの趨勢を決めてしまおうという、砂漠の虎個人だけではない、プラントやザフト全体の思惑もあるのかも知れない。
その疑問を代弁するようにバルク大尉が手を上げて質問の許可を求めた。それに頷くことで許可する大隊長。
「では、仮に我々が敗れ、その目的が達成された場合、敵は退き下がるのでしょうか?」
「うむ、余り想像したくない事ではあるが、仮に諸君らが全滅してもこの基地の攻略は行われる……というよりも、防衛の要を失った以上、我々は基地を放棄し、前線を大きく後退させる事となる」
「そうなると、ザフトはビクトリア攻略に一歩大きく足を進めることになりますね」
「それだけでは済まない。代わりとなるMS部隊が必要となり、後方の未熟なパイロット達を前線に送り出すことになる。戦力の再編は大きく遅れるだろう。加えて言えば、その未熟な新米パイロット達が相手にすることになるのは、ゴブリンとの戦闘経験を積んだ熟練の敵MSパイロットということにもなる」
「……これは負けられませんな」
大尉が唸るようにして大きな溜息を吐く。未熟なパイロットに無理をさせて無暗に死なせることになるかも知れないと聞き、思うところがあったのだろう。僕としても良い気分ではない。
そして、いくつかの質問が飛び交いながら状況説明と、対応策の説明が続き、
「さて、まだ質問はあるか? 無ければ解散となるが…」
この言葉に誰も答えなかったことでブリーフィングは終わりとなるが、最後に、
「……諸君、改めて言うまでもないことだが、相手は名将と知られ、我らと南アフリカの陸軍を壊滅に追いやった、極めて危険な敵だ。そんな敵がただバクゥを揃えただけの正面でのぶつかり合いを望むとは思えない。どんな手を打ってくるか、どんな策を秘めているか分からん。これまで以上に心してこの戦いに挑んで欲しい。皆の健闘を祈る!」
必ず生きて帰ってこい。
そう、大隊長が言っているように思えた。死地に送り出す命令を下しながらも、生還を望む上官。
それは矛盾であるが、まともな指揮官ならばきっと誰もが思う事なのだろう。この僕だって部下を死地に向かわせ、彼等に戦う事を求めているのに、死なせずに帰してやりたいと思っているのだ。
その矛盾は解消されることはあるのだろうか? それが少し気に掛かり、考えても分からなかった。
いや、それ以上に大隊長の言葉を受けて、砂漠の虎という手強い敵がどんな戦いを仕掛けてくるのかという事に思考が割かれ、考えられなかったのだ。
221 :ゴブ推し:2016/10/08(土) 21:33:03
■
「隊長」
「ん、どれ…ふむ」
伝令からダコスタへ、そして自分へと手渡される文書を見て彼…バルドフェルドはニヤリと笑みを浮かべた。
「敵のMS部隊は出たか。どうやらこちらの挑戦を受け取ってくれたらしい」
そう言うと彼は、レセップスの艦橋から周囲を見渡せる窓の方へ歩く。副隊長のダコスタもその後に続き、外を見ながら言う。
「これだけの大部隊ですからね。見過ごせない以上打って出るしかないのでしょう。これで停滞していたアフリカの状況は大きく改善する筈です」
「やれやれ、ダコスタ君。きみはもう勝った気でいるのかい?」
部下の言葉に呆れるようでありながら面白そうに尋ねるバルドフェルド。楽観的に言うダコスタがどう思ってそう口にしたのか興味があるのだ。
「…ええ、楽観的と思われるかも知れませんが、敵MSがいくら手強くともこれだけの数のバクゥが相手では手間取るでしょうし、これまでと違い、パイロットはナチュラルが相手だからと言って油断する事も侮る事もしていません。我々はこの厳しい地球の環境と戦いでそれを学ばされましたから」
そういう彼の言葉にはどこか苦い物が含まれていた。バルドフェルドはこの地球での緒戦にてこの部下が敗北寸前にまで追い詰められたことを思い出す。
ダコスタ自身、昔からナチュラルに対してこれといった侮蔑的な感情はなかったのだが、それでも何処か軽んじていた事をその戦いで彼は自覚させられたのだ。
そして、緒戦から地球で戦い続けたザフト兵の多くは彼と同様の考えを持っている。地球の環境は厳しく、その中で生まれ、育ち、それを物ともせずに自分達と戦うナチュラルは決して愚かではない、と。侮れない確かな敵なのだと。
「矛盾しているようにも聞こえるね。敵は手強く、油断ならない相手であるなら、とても楽観的に勝った気でいられないと思うが?」
バルドフェルドは楽しげな表情を崩さずに尚も尋ねた。それに―――
「―――我々には隊長が付いていますから」
ダコスタはそう答えた。何の気負いもなく、さも当然のことを告げるように。
「………」
バルドフェルドは笑みを深めるだけで、もうダコスタに何も言わなかった。
楽観的だとも、押しつけがましいとも、他人任せかとも思わなかった。
信頼する部下がそう思うように、ここに居る兵達もまたそう思っているのだろうか? では指揮官としてその期待にせいぜい応えてみますか、と。これから起こる戦いがどう進むか、どう進めるかを考えるのだった。
高くある艦橋から、砂漠を突き進む鋼鉄の狼の群れを見て。
■
222 :ゴブ推し:2016/10/08(土) 21:34:21
あれから凡そ40時間が経過した。
敵ザフト部隊は二度の渡る補給を行い、戦線に近づき、もう直にここを来る筈である。
早朝、東の遥か彼方にある地平線が白みを帯び始め、じきに太陽が姿を見せる事だろう。
時計を見、一瞬東の方へ視線を向けてそう思った。
直ぐに視線を警戒すべき正面―――北西の方向へ向ける。
「…!」
遠く、地平線にうっすらとした影が見えた。
直後、空に味方の戦闘機が飛んで行き……薄闇の空に無数の火花が瞬くようになった。
接敵…!と思うや否や通信が入る。
『前方、凡そ20km先にザフトの陸上艦隊、15km先に敵ザフトの機動部隊アリとの報が入った。空軍は既に本格的な戦闘に入っている! こちらも行くぞ全機、突撃準備《スタンバイ》!』
現場にて部隊の指揮を執ることになったバルク大尉の声を聴き、待機状態にあった機体の出力を上げる。
『突撃!』
スラスターを噴かせて全速で我が01大隊と、その右に展開する南アフリカの02大隊が朝焼けに照らされた砂漠の大地を進む。
その数秒後、自分達が待機していた地点を中心に大きな爆発が生じる。敵の艦砲射撃だ。
『怯むな! 動いていれば当たることはない! このまま全速で突撃しろ!』
バルク大尉が檄を飛ばす。
その通りだ。NJやEA《電子攻撃》、攪乱粒子といったレーダーを始めとする観測機器が役に立たないこの時代の戦闘では、数十キロ離れた遠距離では有効打を与えるのは難しい。ましたやMSのような機動力に富んだ兵器が相手であれば尚更だ。
このゴブリンは、推力に比して非常に軽量な事もあって、スラスターを噴かせ続ければ毎時数百キロの速度で大地と空を駆けれるのだ。
敵との距離はぐんぐん縮まる。その間にも自分達の通りすぎた地点やその周辺では艦砲によって熱と衝撃が走り、絶えず砂が舞い上がっていた。だがそれも敵の機動部隊…バクゥと接近するまでだ。
「!…来た」
距離4000を切った頃からバクゥから攻撃が始まる。ミサイルポッドを背負ったタイプが一斉に火を噴くのを見る。だが、
『スモーク、フレアを撒け!』
大尉の指示が飛んで事前の申し合わせ通り、各小隊二機ずつで煙を撒き、赤い火の弾を上げる。
部隊全体が煙に包まれ、宙に上がった火の玉にミサイルは引き寄せられる。煙は姿を隠すだけでなく、ある程度赤外線の隠蔽効果も持つ。それのお陰で、
「よし! 損害はないな」
データリンクでユーラシア、南アフリカを含めた部隊全体に被害がない事を確認して小さく呟く。
直後、煙を抜けて距離2000を切った。
223 :ゴブ推し:2016/10/08(土) 21:35:26
「くっ!?」
傍を掠めた電光を見て思わずシールドを構えた。空気抵抗が強まり、進む速度が落ちる。レールガンだ。バクゥが背負う大型の大砲が火を噴いた。
『小隊ごとに散開! 反撃は自由に行え!』
大尉の言葉に了解!と答え、
「モーデル、ナウマン、ブリック、聞いていたな! 僕に続けて動け! 行くぞ!」
部下に指示を出す。こと細かい事は言わない。これまでに皆と高めた経験と練度を信じて動く。
機体を左へと流しながら、突出した形で僕が前衛に出て、素早く中衛にモーデルとナウマン、後衛にブリックが付いた。
「―――撃…てぇ!」
小隊が陣形を整えると同時に、目の前のバクゥの群れに向けてバズーカを構えて攻撃を開始、さらに今回シールド裏にマウントしていた四つのミサイルも全て発射した。
モーデルとナウマンも同様だ。ブリックはバズーカの代わりにミサイルランチャーを構え、やはりシールド裏のミサイルと同時に撃っている。
恐らく他の隊も同様だろう。先ほどのバクゥのように一斉に発射して兎に角、数を減らすか、少しでも多くの打撃を与える事を狙う。
そのように考える事は同じなためか、ミサイルを見た敵もフレアをばら撒く。
ミサイルポッドやレールガンがあるターレットの脇の部分からポンポンッと火の玉が上がる―――しかし、自分達に向けられた時よりも距離が短かったお陰だろう。フレアの欺瞞に釣られなかったミサイルがあり、強かにバクゥ部隊に被害を与え、バズーカを受けて行動不能に陥る機体も見えた。だが、それはこっちも同じだった。
『うわっ!』
『きゃあ!?』
『―――ぁああ!』
ノイズ混じりの悲鳴が通信機を通じて聞こえた。データリンクを通じてモニターの脇に大隊に被害が出たことを告げる赤い表示が明滅するように映った。
しかしそれを悠長に見ている暇は無い。それを理解してくれるようにモニターの赤い表示も最小化され、情報がサブディスプレイに移動する。
「チッ!」
小隊前方に展開するバクゥ数機の砲身が一斉に自機の方へ向くのを見、瞬時に左に流れていた機体に制動を掛けて、二秒ほど右へ大きくスラスターを噴かして左へとまた戻す。
その動きに翻弄されて、撃つのを躊躇う者、あらぬ方向へ射撃する者達に分かれ、躱した自分はお返しにバズーカの弾をくれてやる。
撃つのを躊躇い半ば動きが止まっていた一機は直撃を貰い、射撃を続けながら動いていた奴はそれでも左前足が吹き飛んで機動力を大きく低下させる。
すかさずそこにモーデル、ナウマンの中衛コンビが攻撃を加えて機動力を失った一機を含めて前方のバクゥ部隊を壊滅に追い込む。
しかし、
「距離を詰めさせない気かこいつら!?」
局地的な勝利を得たものの、状況を見て愚痴る。
敵バクゥ部隊はその背にある武装で攻撃を続けながら、足にあるキャタピラを逆回しに後退しているのだ。それも一直線に下がっている訳ではない。うまく連携しながらジグザグ走行をし、ミサイルとレールガンの長い射程を活かした機動砲撃戦というべきものを自分達に仕掛けている。
これによってこちらの被害の方が大きくなって来ている。
「いや、それとも…」
とはいえ、逆走行はそれほど速度はない。ジグザグに機動している事もある。このままスラスターを使えば追いつくのはそう難しくはない…が、
「推進剤の消耗が大きい。それを狙っているのか?」
ゴブリンがバクゥと互角以上に戦うには、その軽量さとスラスターを活かした高機動戦しかない。
敵もこれまでの戦闘データでそう結論し、スラスターの消耗を狙った…か?
224 :ゴブ推し:2016/10/08(土) 21:36:23
「けど――!」
操縦桿を強く握りしめ、ペダルを大きく踏み込もうとし―――寸前、
『このままでは上手くない。全隊に告げる。再度全速で突貫! 乱戦になるがこちらの間合いに持ち込むぞ!』
バルク大尉も同じことを考えたのだろう。そう、全隊に告げた。
「聞いたな! 皆、行くぞ! 突撃!」
無数の砲撃を向けられる中、二つの大隊は…100機以上のゴブリン《子鬼》は一斉に宙を飛ぶように鋼鉄の巨狼へと接近する。
■
「上手く嵌ってくれたか?」
バクゥのパイロットである彼は思わず呟いた。
最初のミサイル攻撃をほぼ無傷で抜けられ、敵の反撃に十機近く持っていかれた時は正直焦ったが、予定通り上手くこちらの間合いに敵を留められている。
このまま敵の推進剤消耗《息切れ》を誘い、動きが鈍くなったところで一気に片を付けたいものだが…―――
「―――何っ!?」
そう思っていた矢先の為か、彼の口から驚愕の声が漏れた。
〝息切れ〟を気にしてないのか、フルブーストでこちらに突っ込んできたのだ。艦砲射撃を避けてきた時と同様、鋼鉄で出来た100機余りの巨躯の子鬼が一斉にまるで津波のように。
―――拙いっ!
と、思う間にも距離は急速に縮まる。直線的な機動だとはいえ、速度が速度だ。しかも2000を切る距離では狙いを付ける射角幅が大きい。
「くっ!!」
結局、仕留められたのは一機だけ。既に目の前にはザフト機に似た単眼の巨人《子鬼》の姿があり―――
■
左腕で腰から抜いたヒートホークを振り抜いて、すれ違いざまに一機のバクゥを切り捨てた。
ゴブリン用に作られた柄が長く、刃が幅広のソレは見事にバクゥの躯体を半ばから溶断した。
「推進剤はもう残り僅かだな」
サブディスプレイに映った情報を確認してもう、じきにデットウェイトにしかならなくなるそれを惜しげにもなく〝切り離す〟。
自分の操作に従って背中にあった太く長い円筒形のパーツが砂の上に落ちた。
「小隊各機、〝プロペラントタンク〟の残量が僅かなら直ぐに切り離すんだ。乱戦になる以上、少しの重さが致命傷を招きかねない。変に惜しむんじゃないぞ」
そう皆に告げた。了解の返事が返る。
消耗が狙われるとは考えてはなかったが、艦砲を潜り抜けるまでの距離やバクゥ相手の高機動戦を想定して、重量は増すものの外付けのプロペラントを全機装備して来ていたのだ。
「…これで間合いは詰めれた。機動力もまだ維持できる。あとは―――」
機体内に残った推進剤が切れる前にこの巨狼の群れを片付けるだけだ。
数はこちらの方が上、弾薬装備も十分。いける筈だ。
そうして新たな標的に向けて狙いを付ける。
戦いは始まったばかりである。
225 :ゴブ推し:2016/10/08(土) 21:38:37
以上です。戦略や戦術に詳しくはないので色々と悩みながら書きました。
今回は前哨戦。ブラウン達は活躍してますが部隊は相応に被害を受けており、痛み分けの状態です。
待ち伏せや罠を使わなかったのは敵の侵攻ルートが未確定であり、あまり時間もなかった為、としています。
その分、プロペラントタンクを始め、MSならではの柔軟さを活かした様々な武装・装備を持ち込んでいます。
ちなみに空軍や他の陸上部隊は、バクゥという脅威がMS部隊に引き寄せられている内にザフトの陸上艦隊に攻撃を仕掛けています。空軍は制空機や対空ザウートに阻まれ、陸軍はジンの部隊に手間取ってますが……こっちに弥次郎氏のヒルドルブを持ってくるというのもアリかも知れませんね。
……いい加減、ブラウン達の部隊名やコールサインも決めたい。何から取ればいいだろうか?
wikiなどのまとめサイトへの転載は自由です。
最終更新:2016年10月17日 22:24