142 :ナイ神父Mk-2:2016/10/13(木) 00:50:58
大陸SEEDネタ その10

作戦結果と相応の被害

トリポリでの防衛線の突破以降のアフリカに於けるザフトと連合の戦闘は既に勢力圏を塗り替えるだけの塗り絵の様相を呈し始めていた。ザフトは既にアフリカへと降下していた大半の部隊が壊滅、残存部隊はバルドフェルドが予め指示していた、タンジェ基地に残存兵力を集結後に南米方面へと脱出を開始し、同盟を結んでいた親ザフト政権は各地で反政府運動が激化した事に加えてケープタウン陥落後に臨時首都としていたダカールが連合の攻撃を受け、大統領以下政府関係者は全て捕縛されている。

この結果、作戦開始から6日後のC.E71年5月22日、事実上アフリカ共同体の全領土は連合支配下に置かれることになり。
その後、旧アフリカ共同体の領土を統治するための臨時政権が連合によって打ち立てられるが、此れに対して「明けの砂漠」を初めとした一部の戦力が反発を示したが、大多数の国民は臨時政権の支持に回り、大半の反政府戦力は住民の協力を得られないまま解散もしくは壊滅していった。

一方で作戦を行った夢幻会はと言うと、作戦の成功と始めてのMSを使用した大規模戦闘での戦果に、ささやかながら祝杯を挙げていた。約一名を除いて。

「お疲れ様です林さん、此れで何とか、当面の安全は確保できました。」

「いや、此方としても緊張したよ。陸軍の指揮は此れまで幾度と無くしてきたが、MSを使うのは初めてだったからな。所で、辻本君は如何したんだ?隅の方でどんよりとしているが・・・」

「其れがよく解からないんですよ。私達が集まった時には既にこの状態でして。虚ろな目をして飲んでるばかりで・・・」

見れば辻本は何時もの席ではなく、部屋の隅に置かれた御膳を前に酒を飲んでいる。周囲には5、6個の徳利が並んでおり、辻堂の周りだけが心なしかドンヨリと薄暗くなっている。理由を知らない林は、周りのメンバーに尋ねるもメンバーも知らないと首を傾げるばかりである。そんな状況に気が付いたのか。辻本はゆっくりと顔を上げてメンバーの方を向く、その顔は死人の如く青白い。
その様子に若干引いているメンバーを他所に辻本はポツリ、ポツリと語り始める。

「今回の作戦での被害の出費がですね・・・。予想以上に大きくて、私が推進していた教育プランの一つがダメに成りまして・・・」

「それでか・・・しかし、予め被害が出る事は予想できていただろう?何時もの辻君なら其れ位予想できそうな物だが・・・」

「確かに、何時もの辻本らしく無い様な・・・」

「いえね、私も予想はしていたんですよ。しかし、まさかドム3個中隊と投入した空軍の2割弱がたった2機のMSに食われるなんて予想外も良い所だったんですよ・・・。この世界のエースが強い事は聞いていましたが、予想外でした・・・」

「其れは、まあそうだろうな。こっちとしても報告を聞いた時は焦ったよ。やはり予想は出来ていても、実際目の当たりにするとな」

「まあ、何時までも愚痴っていても仕方が無いだろう?」

「其れもそうですね。高く付きましたが、授業料としておきましょう。」

辻本はそう言うと御膳を持って何時もの席へと移動し、新しく頼んだ酒を手元の御猪口へと注いでいる。何時もの様子に戻った事に他のメンバーが安心していると、辻本は何かを思い出したのか「そう言えば・・・」と声を出す。

「配備されたサイコガンダムの性能はどうでしたか?それなりの資金が掛かっていましたし、役立たずと言う事は無いと思いますが」

「ああ、それなら性能を十全に発揮できていたよ。乗り手の腕もあるだろうが、あれならMk-2の配備に踏み切っても申し分無さそうだ」

「そうでしたか。其れは何よりです。この世界で財務の管理をやるのはどうにも大変で・・・。まあ、其れでも大陸の時より遥かに資金力が増えている分、有り難い部分もあるんですが・・・」

「それは、軍だって同じだ。守備範囲が広範囲な上、シーレーンと地球~ムンゾ間の宇宙用航路を守らなければならないからな。其れでも、まだ、火星や木星にまで守備隊を大量に配置しないでいい分、手はあいているが・・・」

「どちらにせよ、投資もフロンティアもまだ残されています。さっさと戦争を終わらせて開発に集中したい物ですよ・・・」

そう言って又、酒を飲み始めた辻本を見ながら話をしていた神埼や林も自身の派閥の下へと向かい、其処で談話に加わっている。大洋の上層部がこうして余裕を見せている頃、プラントでは評議会メンバーが自信満々に投入した切り札の被害に顔を引き攣らせていた。

143 :ナイ神父Mk-2:2016/10/13(木) 00:51:28
「・・・其れは事実、なのか?」

嘘だとあって欲しい。そういった感情が込められた声は、無常にも報告に来たパトリックの部下であるユウキの声によって否定される。

「残念ながら事実です。フリーダムとジャスティスは大打撃を受けて南米まで撤退。大洋のMSの喪失は殆どありません。」

「幾らなんでもそれは・・・連合の欺瞞では無いのか?」

「ナチュラルがその様な兵器を開発するなど信じられん・・・」

「情報を齎したのはアフリカでのバルドフェルド隊壊滅後に指揮を取った臨時の司令官からです。又、他の兵士達からも
同じ様な情報が齎されている為、欺瞞の可能性も低いかと・・・」

「敵の分析は出来ているのか?偶々フリーダムとジャスティスの弱点を付く形になったのかも知れん、詳細が知りたい。」

その言葉に評議会のメンバーはざわつくも、何とか平静を保っていたパトリックは、ユウキに対して敵の機体の詳細情報を求めた。しかし、返って来たのは絶望的とも言える答えであった。

「周辺戦域で目撃したパイロットや実際に戦ったパイロットからの情報によりますと、ジャスティスと相対した機体は推定で約40mの可変能力を持った機体の様で高火力のビームで弾幕を張る等の特徴が見られ、対ビームコーティングのシールドが一瞬で蒸発、耐熱性の高い赤いPS装甲が掠っただけで融解を始める等、艦載砲やそれに比類する火力が有ると推定されます。
対してフリーダムが戦った機体ですが、此方は可変機体の様でMA形態では戦闘機クラスの速度で飛行し、MS形態になって接近戦を仕掛けてくる等の特徴が見られています。又、このUFOの様な円盤型の機体は量産型の様で、多数の戦域で確認されており、纏まった数が量産されている事は確かかと・・・」

「つまり、フリーダムを苦戦させていた一部の機体は量産機だったと?・・・」

「恐らくは」

その言葉にもう一度議会は騒然となるが、今度は議長であるパトリックの言葉でも止まらず、仕方無く落ち着くのを待って、パトリックは対策を話し始める。

「少なくとも、このままでは市民にも余計な混乱が広がる可能性がある情報は公開を避けるべきだ」

「情報規制を行うと?」

「其れしか有るまい、現在の状況で公表すればそれだけで市民に混乱が広がる。それだけは、避けねば成るまい」

「其れはそうですが・・・。穏健派に対する対応は如何しますか?このままでは再び政権交代が行われる事もありえますが」

「やはりスピットブレイクを行うしかないか・・・」

「しかし、議長。現戦力ではアラスカどころか、パナマでさえも攻略は困難です。」

「いや、狙うのはパナマでもアラスカでもない。狙うのは北米の東海岸だ。大西洋連邦の継戦能力を奪い講和を図る」

その言葉に周辺の評議委員は驚きの表情で議長の顔を見返し、一部の議員は強く反発を始める。

「ナチュラルと講和など、議長は正気ですか!」

「認められません!まだ、戦力は残っています!徴兵を合わせて行えば連合にも対抗できる筈です!」

そうした議員の反発は有る物、最終的にはオペレーション・スピットブレイクは承認される事と成り、ザフトでは徴兵年齢を更に低下させた徴兵が行われて戦力の拡充がはかられていく。

144 :ナイ神父Mk-2:2016/10/13(木) 00:52:21
大西洋連邦とブルーコスモスの動き

ザフトが北アメリカを狙う一方で、大西洋連邦及びブルーコスモスで俄かに南米の攻略論が持ち上がり、ジブリール派を
中心としたブルーコスモス過激派は此れを大西洋連邦単独で行うことを声高に主張して気炎を上げるも、アズラエル派や穏健派等の集団は連合全体で確実にザフト勢力を包囲撃破するべきとして慎重論を唱えていた。

「ストライクダガーとアークエンジェル級が揃った今こそ、打って出るべきです!そしてコーディネーターと裏切り者の南アメリカを排除して地球から奴等を追い払うのです!」

「威勢が良いのは結構ですが、アフリカで確認されたザフトの新型Gに対しては如何対処する積りなんですか?大洋から齎されたあの2機の性能は脅威と言って良いレベルですよ。うちでも新型は開発していますが、単機としての性能なら向こうが上です。」

「私も報告を見ましたが、見解が随分と違うようだ。あの程度の機体など、物の数では有りませんよ。あの機体対空能力は確かに有る様だが、MS隊は中隊規模を多少撃破した程度で撤退しているでは有りませんか。こちらでも数を揃えて攻撃すれば問題は無いのでは?」

「大洋のMSと此方のストライクダガーの性能差を考えて下さいよ・・・。どちらにしろ僕は大西洋と東アジアのみでの南アメリカ攻略には反対です。まあ、何れにしろ決めるのは大統領と軍部ですからね。」

そう言ってアズラエルは議論を打ち切り、自分の席へと戻って行った。その後、会合中は、結局アズラエルにあしらわれる一方であったジブリールは、終始不機嫌なまま会場を後にし、自宅の私室へと戻った後に怒りを爆発させる。

「くそ、あの臆病者が!なぜ、今コーディネイターを絶滅させようとする事に異議を唱える!このままでは何れまたNJのような危険な兵器を開発してくるに決まっている。だからこそ今此処で絶滅させるべきだと言うのに、大洋やユーラシアの裏切り者共の肩等持つのだ!」

そう言ってひとしきり、周囲の物に当って怒りを落ち着かせたジブリールは、ふと前方のモニターに通信を知らせるランプが点灯している事に気が付き、通信を繋げる。そこには仮面の男、ザフト軍のエースパイロットであるラウ・ル・クルーゼの姿が映っていた。

「随分と荒れていますな」

「お前か、貰った情報は中々役に立ったぞ。しかし、驚いた物だ。まさかザフトのエースが裏切りを働いているとはな」

「此方としても事情があるのですよ。ですがあの情報だけでは不足だった様ですね。」

「ああ、弱腰なアズラエルのせいでな!他に何か情報は有るのか?アレだけでは軍部を納得させるには足りん!」

「・・・其れならば」

クルーゼは少し思案したような姿を取るとおもむろに有るデータを転送してきた。その情報にジブリールは思わず笑みを浮かべる。

145 :ナイ神父Mk-2:2016/10/13(木) 00:52:52
「成るほど、これならば軍部や政府を認めさせるには十分か。此れで奴の鼻を明かしてやれるぞ」

不気味に笑うその様子に、クルーゼは満足したと判断したのか。他の幾つかの追加のデータをジブリール側の端末へと送信して通信を切り、後には一人不気味に笑うジブリールの姿のみが残されていた。其処にタイミングを見計らって入って来たのは彼の義妹であるプリンシア・ジブリールである。

「随分と嬉しそうですね。お兄様」

「ああ、シアか・・・嬉しくも成るさ。此れであの煩いアズラエルに一泡吹かせてやれるのだからな」

そう言って笑い続けるジブリールにとは対照的に、話を聞いたプリンシアは心配そうな口調でジブリールに情報を流しているクルーゼの事について話し始める。

「其れは良いですが、信用できる情報なのですか?あのクルーゼと言う男、気を付けた方が良いかも知れません。あくまで勘ですが、少し嫌な予感がします。」

「解かっているさ、所詮は奴もコーディネーター。用済みになれば何れあの砂時計ごと焼き払うだけだ」

「いえ、そういった部分ではなく・・・」

「其処まで心配する事は無い。それに奴が何らかの罠を仕掛けていたとしても、連合を動かす手札程度にはなる。心配はいらん、私は勝つよ」

そう自身満々にプリシアに宣言するジブリールであったが、其れでもプリシアの心配は収まらず、不安げな表情で義兄であるジブリールの姿を眺めていた。
この後、大西洋連邦ではジブリール派の主張していた、大西洋連邦と東アジアのみでの南アメリカ攻略作戦を承認して作戦の発動に取り掛かり、大西洋連邦内でのジブリール派勢力を増大させる事に成功している。しかし、その裏でアズラエル派は元穏健派代表のマリア・クラウス議員や軍内部の反ブルーコスモス派の重鎮であるアンダーソン提督と水面下での接触を図り始め、ジブリール派に対抗する為の動きを活発化させて行く事となる。そして、C.E71年5月30日、南米攻略の準備を進めていた連合軍はザフト軍から攻撃を受ける形で急遽、南米攻略作戦を発動させる事となり、準備不足の連合と準備を終えたザフト・南アメリカ合同軍が拮抗する形でパナマ周辺にて激戦が巻き起こる。

146 :ナイ神父Mk-2:2016/10/13(木) 00:53:26
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最終更新:2016年10月17日 22:18