223 :ゴブ推し:2016/10/13(木) 19:20:32
何か久しぶりと言いますか、少し間が開きましたが7話が仕上がりました。
そして題名が無いのも寂しいので今回から〝大陸SEED MS戦記〟と付ける事にします。
問題無ければ、19:30頃に投下を始めたいと思います。
226 :ゴブ推し:2016/10/13(木) 19:30:37
では投下します。
大陸SEED MS戦記
7―――窮地(前編)
「そこっ!」
友軍機に気を取られていた敵機の側面にバズーカを放つ―――だが、その寸前、此方に気付いた敵機はその場から前方へ大きく跳躍してバズーカの砲弾を躱した。
しかし、自分の援護に気付いていた味方がそれに合わせてスラスターを噴かせて敵機へ肉薄、ヒートホークを振り抜く。
自ら間合いを詰める事になった敵機は…それでも何とか前方の敵を倒そうと、レールガンを撃つが、跳躍によって高くなった位置と、ゴブリンの全高の低さによってレールガンの弾は味方機の頭部をギリギリ掠めない程度に過ぎ去った。そして―――
『助かったよ、ブラウン軍曹』
溶断したバクゥを尻目に礼を言う味方。
それに、いえ、短く答えて自分は直ぐに次の標的に移る。味方も状況を理解しているので素っ気ない返事を気にせず、次の標的に向かった。
「来るか!」
自分の目の前には仲間がやられたことに怒りを燃やしているのか、二機のバクゥが猛然と迫って来ていた。
先程の援護によって残弾が尽きたバズーカを捨てる。レールガンの弾が飛んでくる。それをスラスターを使わずにバズーカを捨てると同時に行った両足の小刻みな動きだけで躱した。
「流石、コーディネーター…狙いは正確。けど読みやすい」
呟き、同時にマシンガンを腰の裏から抜き、左右に分かれた二機のバクゥの左の機体を狙う。人体を模した構造上、右の腕の振りは右に向けるよりも左に向ける方が早いのだ。
自分の左に回ろうとする敵機に合わせて此方も左へと機体の軸を動かし、背中に背負う砲身を動かして自分を狙う敵機の……二機の敵機達の攻撃を両足のみで駆け、転がり、跳ねて躱しながら射撃を続け―――命中。
旋回しながら自分の左を取ろうとした事が仇となった。バクゥは投影面機の大きい側面をさらす事となり、マシンガンの弾を面白いように受けて装甲に火花を散らして崩れ落ちた。だが―――
「…ッ!」
右へと回った敵機が自機の背後に回っていた。警告音《アラート》が強まり、正面モニターに車のバックミラーのように後方の映像が映される。
敵機は完全に後ろを取ったことで動きを止め、確実な直撃を狙う…そうするのが見えた。
「やらせるかぁ!!」
180度旋回は間に合わない。スラスターを真下を向けて強く噴かせ、―――直後、真下にレールガンの電光が奔るのを見る、―――だが、敵機はこれを読んでいた。レールガンの砲身が自機を追って上へと向けられる。
僕はそれに、スラスターの軸を曲げて空中で機体を旋回させながら腰に手を伸ばして握った物を敵機の居る方へ投げた。
敵機は目の前に落ちた物に動揺し、慌てたようにそこから飛び退く―――好機。
「もらった!」
旋回を終え、30mほどの高さから射撃を加える。これまた先と同様、面積の大きい上面に火花を散らせ、レールガンの弾薬に引火したのか、敵機は派手な爆発を起こした。
それに目をくれず、僕は着地すると素早く移動して先程投げたものを回収する。
「残念、信管は動かしてなかったんだ。騙されたね」
回収したソレ―――クラッカーと呼ばれるMS用の手榴弾を腰に戻しながら、少しいたずら気に言った。
『軍曹…ご無事でしたか!?』
『すみません、援護に入れなくて』
『申し訳ないです』
通信機から入る部下達の声に彼等のいる方へカメラを向ける。その近くに二機のバクゥの残骸が見える。どうやら彼等も二機相手にしてそれを仕留めたようだ。
「いや、良い。そっちも手一杯だったんだろ」
頭でも下げてきそうな部下達にそう言う。
「お前達はこのまま三機連携を重視して動け」
『!…軍曹は?』
「僕はお前達の周囲で派手に動いて敵の目を引き付ける。お前達は僕に釣られた奴を三人で一機ずつ確実に仕留めるんだ」
『囮になられるのですか?』
「ああ」
僕は頷く。この場でそれが最善だと判断したのだ。
この部下達三人は、バクゥが温存され始めた少し後から隊に入ってきた。その為にバクゥとの戦闘経験が少ないのだ。勿論、シミュレータで訓練は積んでいるが、ルーチン思考のAIを相手するのとは訳が違う。
だから三人で死角をカバーし合い、なるべく僕が引き付けた敵の側面や後背を攻撃させる。
勿論、自分の負担は大きくなるし、そう上手く行かない所もあるだろうが…これが最善と思えた。
『軍曹、危険すぎます!』
「大丈夫だ。さっきも二機同時相手にして上手く立ち回って見せただろ。さあ―――いくぞ!」
部下の心配に話し込む時間も惜しいとばかりに機体を動かす。
227 :ゴブ推し:2016/10/13(木) 19:32:49
■
CICにて戦況図を見ながらバルドフェルドはコーヒーを一口飲み、
「早くも乱戦に持ってこられたか」
「増槽を背負っていたようですが……しかし」
「ああ、思い切ったものだ。いや、そうせざるを得なかったか。…手早く乱戦を挑んだ思い切りは悪くないが、どの道、バクゥ相手では連合のMSは高機動戦を強いられて推進剤の消耗は早いだろう。乱戦だろうとこのまま粘ればこちらの勝ちだ……が」
バルドフェルドは思案気に顎に手を当てる。
その上司にダコスタはふいに思ったことを尋ねる。
「隊長が連合の立場でしたら、どうしました?」
「ん?…ふむ、そうだな。僕だったら全機突撃はしない。その半分で十分だ」
「残りは推進剤を温存させると? そして懐に飛び込まれ、乱戦に入ったバクゥ達の混乱と不意を突いて攻撃、といった所ですか」
「そうだ。乱戦となった戦場の外側から少しずつ削ぐようにバクゥを狩ってゆく。まあ、言うほど上手く行くとは思えないけど、推進剤を温存している機体が残るのは大きく意味がある筈だからね」
ダコスタは頷く。推進剤を切らした機体に代わって乱戦に飛び込んで役割を変える事も、いざ撤退時に殿を務められることも出来るだろう。
なんにしろ、余裕を持つ兵力をあるというのはありがたいものだ。
「とはいえ、この状況はこっちとしても余り上手くない。勝てる公算は高いけど……バクゥ部隊の損耗が大きくなりかねない。あの子鬼達も中々に手強いからねぇ」
そう言うとバルドフェルドはカップ―――やはり落としても割れない頑丈なアルミ製―――に残ったコーヒーを一気に飲み干す。そして戦況図のある個所を見て、
「…もう少し時間が掛かるようだし、やむをえないね。僕が出る」
彼はニヤリと笑みを…笑みというには獰猛な迫力がある顔をして、ダコスタ君、あとは頼むよ、と言い残し、CICを後にした。
■
「…!」
マシンガンの残弾が0になった。
「マグチェンジ!」
思わず叫び、その声の意味を理解した制御プログラムが弾倉交換に機体を動かす。
だが、火線が途絶えたのを見て取った目の前の敵は、そんな隙を見逃さずに一気に駆けて迫ってくる。
撃ってこない事から判断するに向こうも弾切れなのだろう。だから前足の先端にある―――以前の戦闘では見なかった―――爪を使ってこちらを切り裂こうとする。
拙ったと思う。弾倉を交換する前に今度こそクラッカーを爆発させて足止めするべきだった。なら―――
「―――これでっ!」
弾倉交換に動いていた左腕が丁度いい位置にあったのを見て、即断―――衝撃! 爆音が響く。
倒れそうになる機体を堪えさせて正面モニターを見ると、熱と衝撃で装甲をひしゃげたバクゥが仰向けに倒れるところだった。
「…やったか!?」
敵機が接近した瞬間、左腕にあるシールドを割り込ませたのだ。それもリアクティブアーマー《爆発反応装甲》を付けたものを。以前、おやっさんに頼んで作ってもらったものだ。
本当は軽量のゴブリンでの体当たりの威力不足を補う為か、打撃武器代わりに使おうと思っていたのだが……盾という本来の用途で使い、敵機を行動不能に陥れたのだから良いだろう。
この衝撃でも落とさずに済んだ弾倉をマシンガンに装着し、念のため仰向けになったバクゥのコックピットを打ち抜く。
「よし…次!」
センサーとレーダーの表示を一瞬見て状況を把握し、ペダルを踏みこんで前方にあるバクゥの残骸を乗り越えて素早く前進、―――右側面から来た砲撃を躱し、―――同時に右へと旋回し、今しがた砲撃を加えてきた新たな敵に銃口を向ける。トリガーを引く!…しかし、
「躱した!」
朝焼けの中でも見える曳光弾の火線が空を切った。
敵機が機体両側にあるスラスターを噴かせて高く跳躍した。そして―――
228 :ゴブ推し:2016/10/13(木) 19:37:17
「くっ!」
大きく躯体を跳ね上げて器用にレールガンを此方に向けながら飛び掛かってくる。反射的にその敵にマシンガンの銃口にを向けそうになるが…堪えてしゃがみ込むように姿勢を低くして僅かに前進、―――直後、頭部と背後にレールガンの軌跡が掠ったのを装甲越しに不思議と覚え、同時にマシンガンを手放して代わりにヒートホーク握って、勘に任せて頭部直上へ振るう。
ギシッ…とマシンの腕越しに感じる手応え。
その瞬間、カメラを上へ向けて視認した。
飛び掛かってきたバクゥが屈みこんだ自機の―――ゴブリンの振るった灼熱の刃に腹を引き裂かれたのを。
腹を引き裂かれたバクゥは、今しがた自らが作った砲撃の着弾跡の窪みに崩れ落ちる。
サッとそれを…動かなくなった敵機を確認して、ヒートホークを腰に戻しつつマシンガンを拾って素早くその場を離れる。もうすでに次の敵機がこちらに狙いを定めているからだ、
「今度は三機かっ!」
派手に暴れ、続けざまに奴らの仲間を屠っていた為に目を付けられたらしい。三方からレールガンを放ちながら自機の周りを旋回する。さながら獲物を追い詰めんとする獣だ。いや、事実そうだろう。
「チッ…!」
絶えず撃ち込まれる砲弾にスラスターを噴かして回避機動を取る。的を絞らせないようにホバー機動でジグザグに動き、視界に収めた二機に牽制射撃。
マガジンに残る残弾をすべて使って横薙ぎに払い、―――二機の敵機の動きが鈍った隙を突いてスラスターを全開!
「おおぉっ!!」
左後方に位置した残りの一機に盾を前にして突貫。その一秒後に盾がひしゃげてハードポイントの根元から吹き飛ぶ、そのさらに一秒後、レールガンの電光が迫るのを一瞬見るが盾が吹き飛んだ時点でスラスターの左へ軸をずらしていたので回避。そしてこの一秒後にはもう敵機は目の前、盾を失った左手にヒートホークの柄を握らせ、―――敵機の動揺が見て取れた。撃つか、回避するか、無機質な機械の面《おもて》に見えないそれを感じ、
「遅い!」
寸前、回避の為に足を動かした敵機を見て叫び、灼けた斧を振った。
確かな手応えを覚えながら敵機とすれ違い…スラスターの軸を右へやり、機体を左へ横っ飛びさせる。直後、自機の傍に仲間の無念を晴らさんとする砲弾が掠めた。牽制射撃を受けた二機が立ち直ったのだ。
だが、慌てない。予想されていた事だ。スラスターで回避機動を取りながらマシンガンとヒートホークを腰へマウント。代わりに右手にシュツルム・ファウスト、左手にクラッカーを握らせ、
「喰らえッ!」
二機それぞれに目掛けて、撃って、放り投げた。
噴煙を上げて高速で飛んだシュツルム・ファウストは距離を空きすぎた為か、回避されて地面へ着弾。しかし爆風に煽られて敵は僅かにバランスを崩し、
クラッカーを受けた方も広がった爆風と破片を受けてにわかにダメージを負って動きを鈍らせていた。そこに―――
『あたれぇーー!』
『貰ったぁ!』
通信機から声が聞こえると同時にシュツルム・ファウストに煽られた方が側面から銃撃を受けて。クラッカーで動きを鈍らせた方は背後から現れたゴブリンが振るったヒートソードで切り裂かれた。
「よくやった。ナウマン、モーデル」
そう短く感謝の意味も含めて言うと、マシンガンを手に取り、弾倉も交換して次の標的に僕は向かう。
丁度良く、こちらに背を向けている敵機が居たので容赦なく弾丸を叩き込もうとして…その敵機が派手に爆散した。
シュツルム・ファウスト? とその爆発の威力を見てそう思うと、
『おう、ブラウン生きていたか』
「クルツ!?」
爆発の陰から僅か遠くに見えた味方機から通信が入り、モニターに映った友人の姿に軽く驚いてしまう。
彼の背後には二機のゴブリンの姿がある。それを一瞬怪訝に思うも友の無事の姿を素直に喜ぶ。
「そっちも無事そうでなによりだ」
『ああ、…いや、そうでもないな。こっちは一機喰われた』
「! …そうか」
四機で一個小隊であるからそうでないかと思ったが…、的中か。部下を失ったクルツに何とも言えない感情を覚える。
『そっちは全機無事なようだな。…よし、お前らはブラウンの部下と共に行動しろ。シミュレータで訓練する機会が多かったから、あいつ等との連係には問題ないだろ』
『は、しかし…』
『その方が良い。俺はブラウンと一緒に動く。ブラウンもそれで良いな』
「……む」
僅かに感傷に耽っている間に、クルツは勝手に話を進めて同意を求めてくる。
悪くない提案のように思う。クルツと一緒ならば今まで以上に派手に動けるし、ザフト機の相手も楽になるだろう。モーデル達も五機で固まって動けばそれだけ生存率が高まる。
クルツに頷く。
229 :ゴブ推し:2016/10/13(木) 19:38:04
「分かった。背中を頼む!」
『応、任された! そっちも頼むぜ!』
「ああ!」
互いにそう応答すると、僕達は合流してクルツ達と戦場を駆ける事となった……が、
『うおおっぁあらぁ!』
バクゥの小隊を見つけて、クルツが奇妙な雄たけびを上げて突っ込む。両腕にマシンガンを構え、発砲しながらスラスターを噴かせて右側面に回り込むように動く。
これに気を取られてクルツ機を包囲しようと動く敵の隙を突いて、僕はクラッカーを投げ込みながらクルツ機に時間差をつけて左へ回る。
右手にはバズーカ、左手にはシュツルム・ファウストを持ちクラッカーの爆発に翻弄された敵機を攻撃。クルツもスラスターの機動を抑えて射撃をより正確にしてバクゥ部隊を蹴散らす。
『これで今日は8機目だ』
「…9機目」
互いに二機ずつ撃破してクルツが言うと、僕もそれに応えるように言う。
『くそ! これで総スコアをイーブンに出ると思ったのに! あの鼠退治で海軍の奴らが張り切りさえしなければ…!』
「そんなことで競争してもしょうがないだろ」
『んなことは分かってるよ! けどお前と差があるのは何となく面白くないんだよ!』
「なんだよ、それ…」
と、周囲を警戒しつつ軽口を言いあうが、内心では結構一杯一杯だ。
結局100機以上いたバクゥであり、その二割近くを自分とクルツで撃破しているが―――おやっさんの言い分や周囲の評価を信じる訳ではないが―――それは自分達が若手の中でも優れた技量を持った〝エース〟だからだろう。
一機も撃破できずにやられた仲間もいるし、未だに一機も撃破出来ずにいる仲間も多いだろう。
その証というか、今自分が手にしているバズーカは撃破された僚機持っていた物を回収した物だし、クルツのもう一丁のマシンガンもそうだ。
周囲の状況は決して好転している訳ではないのだ。
「良くて互角か…いや、それとも押されているのか…?」
レーダーやセンサーの精査情報や、切れがちで思い出したように更新されるデータリンクの情報を流し見で確認して、小さく呟く。
『考えるのは止めにしようぜ。今、俺達に出来る事は目の前の敵を片付けるだけだ』
「…そうだな」
一兵士に過ぎない自分達が心配しても仕方ない、と半ばぼやくように言うクルツに渋々同意する。
ジリ貧に見える状況に何とかならないか、出来ないかという歯痒い思いがあるのだ。
それに応えるかのように通信が入る。
『…こちら前線司令部。各MS隊に警告。敵陸上艦隊より新たなMS部隊の発進を確認。数は六。すべてがバクゥタイプ。数は少ないが注意されたし…この新たな敵の中に―――』
この通信によって状況に変化が起きた。ただそれは自分が望むものではなく、
『新たな敵機を補足! ま、間違いないあのカラー…マーキング! さ、砂漠の虎だ!』
数分後、戦場に姿を見せた橙色の新型バクゥの登場とその蹂躙によって我が方は損害を拡大させる事となる。
これがこの戦いにおける一つ目の窮地だった。
230 :ゴブ推し:2016/10/13(木) 19:40:27
以上です。
ブラウン軍曹が奮戦するお話でした。
…にしても戦闘シーンを書くのやっぱり難しいです。特にMSなどのメカは初めてですから上手く書けている自信がいつも以上に無いです。
次回はいよいよ虎さんのターンになります。
8話も既に完成しているので本日中に投下したいと思います。
最終更新:2016年10月17日 22:38