241 :ゴブ推し:2016/10/13(木) 21:05:42
では投下します。


大陸SEED MS戦記

8―――窮地(後編)


低い姿勢で無限軌道により高速で移動しながら近づく戦場を見て、バルドフェルドは呟く。

「余り嬉しくない状況だね。思ってる以上に損害を受けているようだ。敵パイロットにも出来るのがいるのかな?」
「でも楽しそうねアンディ」

バルドフェルドの呟きに応える女性の声。

「ああ、アイシャ。何だかんだ言って初めての対MS戦闘だからね。ザフト機相手の訓練や仮想空間でのシミュレーションとは違う。実戦でいざ敵対したMSがどう動き、戦うのか……ふふ、楽しくもなるさ」
「そうね。私も久々に腕が鳴るわ。子鬼さん達が私の射にどう踊ってくれるのか、とても楽しみだわ」

アイシャと呼ばれる女性がペロリと紅に染まった唇を舐める。獲物を前にした狩人のように。
相方の高揚した様子を見て、バルドフェルドは己自身の高揚感がますます高まったように思え、

「さあ、行くぞ! 子鬼狩りだ!」

高ぶる感情に任せて大きく吠えた。






僅か六機…否、たった一機。
それが戦場に姿を見せた瞬間、何か空気…というか、気配というか、そういった見えない何かが変化したのを確かに感じた。味方も敵も。
そして始まったのは一方的な戦闘。
駆ける橙色の機体が砲撃を加えるたびに一機、また一機と確実に味方の反応が消えて、こちらの攻撃になお高速で移動し続ける機体―――長い牙を持った新型のバクゥ…鋼鉄の剣虎は怯むなく攻撃を続ける。

『な、なぜ、あ、あんなにも高速で動き続けて…あ、当てられる!?』
『くそ、止まれ! 止まれぇ! ヒッ…ぐあぁあッ!』
『マーク!! くそぉ!』

剣虎は一切止まらない。制動などの緩やかな挙動も無い。絶えず高速で機動し続けながら砲撃で、爪で、牙で味方を撃ち、引き裂き、貫く。そして―――

『うおおおっ! 隊長が! バルドフェルド隊長が来てくれたぞぉ!』
『虎だ! 砂漠の虎が我々の援護をしてくれるぞ!』
『無様を見せるな! 我らもザフトの力を見せるぞ!』
『MSの扱いはこちらに一日の長がある事を連合のパイロットに教えてやれぇ!』

士気を鼓舞する為か、オープン回線でザフト兵の声が通信を満たす。同時に彼等の攻勢は激しくなり、乱戦の中にも拘らず統制も良くなっているように見えた。
これに我が方は圧倒的な力を見せる砂漠の虎の猛威と、ザフトの高ぶる士気に飲まれて怯み、MSの挙動に精彩を欠きつつあった。

『怯むなぁ! 砂漠の虎と言えど一人の人間! 一機の敵に過ぎない! 落ち着いて対処すれば―――』

バルク大尉の檄が飛ぶ。しかし、

『―――なにぃッ!?』

檄を飛ばした瞬間にバルク大尉の小隊の僚機が爆散し、

『おのれっ!……――がぁッ!?』

大尉が迫る橙色の機体にマシンガンを発砲するも、高速で動く剣虎を捕捉する事は出来ず、数秒とせずに組み付かれて牙を突き立てられた。

『…う! ぐっ…』
『―――ふむ、どうやら貴方が指揮官機のようだな。指揮も機体の動きもまあ、悪くなかった。けど…』

苦しげな大尉の声に交じる誰かの声、それが恐らく砂漠の虎のものだろう。想像していたものよりも恐ろしくなく、思いのほか穏やかな声だった。

『けど、残念な事に僕には及ばなかった』

その穏やかな声に反して、剣虎は子鬼に牙を深く突き立てると切り裂き、離れると背負うレールガンで止めとばかりに大尉の機体を撃ち抜いた。

「た、大尉ぃー!」

僕はその間…砂漠の虎が戦場を我が物顔で駆けまわっている間にも戦い続け、なんとかクルツと部下達ともに大尉の救援に向かおうとしていた。―――結局間に合わず、その瞬間を見届ける事になったが。

『た、大尉が…』
『そ、そんな、ど、どうしたら…』
『たった一機の敵の所為で…』

部下達の絶望する声が聞こえる。そしてそれは恐らく彼等だけではない。この戦場に立つ味方全員が抱くものだろう。

242 :ゴブ推し:2016/10/13(木) 21:07:43
『くっ…だったら』
「!? クルツ何をする気だ?」

クルツの機体が自分より僅かに前へ出て、その彼を思わず呼び止める。

『決まってるだろブラウン。俺達も同じことをするしかねえ。指揮官の大尉がやられてこっちの士気がズタズタなら……』
「! しかし、それは!?」

彼の言いたいことを察して無茶だと言おうとするが、

『それでもやるしかねえ! 砂漠の虎を討つ! そうだろ!』
「…!」

確かにそうだ。無茶だというのは承知だが、それしか自分達…いや、部下と仲間を生かして帰す方法はそれしかない。

「分かった!」
『おう!』

頷き、それに応えるクルツ。か細い光明だったがソレに縋るしかない。けどクルツとなら……勝てはしなくとも一泡吹かせられるかも知れない。
そう思い、部下達には近くの味方と合流しつつ守りに徹するように指示しようとした所で……そのか細い光明すらも失ったことを知る。

『―――緊急! MS部隊の展開する戦域に敵MSの反応、急速に接近!』

司令部からの通信と共に二つ目の窮地が訪れた。





その凶報のシグナルはブラウン達が戦闘に入る前からあった。

「…なんだそれは? 増槽代わりか?」
「はい。恐らくは…」
「航空部隊に知らせ! 敵増援アリ、警戒せよと!」

前線司令部は、後方で遥か高く空に浮かぶ観測用バルーンによってソレを感知して、警戒していた。
しかし、

「だが、ソレの対策は既に出来ている。それが分かっているザフトも改良型の制空戦闘機や北アフリカ軍の航空機を投入してきている。それらの支援にしても余り役に立つとは思えんが」

先入観と地上での緒戦から役立たずの烙印を押されていたが故に、その潜在的な脅威を見過ごしていた。―――ただ一人を除いて、

「奴らと彼等は出せますか?」

ブラウン達の上司である中佐の階級にある第01MS大隊の大隊長はその可能性に行き着き、手を打つ事にした。

「君か。一応中佐の意見を考え、昨日付けで連中の謹慎は解き、彼等にも来て貰った。しかし数が少ない…予備兵力としては些か心許ないぞ」
「分かっております。ですから―――」

大隊長は、基地司令に自らの考えを話す。

「―――ふむ、なるほど、それなら何とかなるか。だが、そうなるとやはり放棄も視野に入れねばならんか」

それを聞いて基地司令は深く頷いた。提案を行った大隊長もまた頷く。

「は、買い被りと言われようと、敵は…砂漠の虎は侮れません。ただバクゥを揃えての正面対決が彼の策だとはどうしても思えないのです」
「同感だ中佐…では、私もいざという時の準備を進めるとしよう」

そうして司令部の面々は、にわかに忙しく動き始め、基地全体が慌ただしくなる。






「来たか」

空を舞う翼を持った鋼鉄の巨人の姿を見て、バルドフェルドは勝ったなと思った。
自分が戦場を駆け抜け、指揮官機を落とした事によって敵は既に瓦解状態であったが、それでも反撃する力は十分に持っている。
故にここに来てのこの機体―――ディンの来援はありがたいものであった。

「これでバクゥの損害は抑えられる。そして地上と上空からの挟撃……子鬼たちももう逃げられない」

そう、それがバルドフェルドの策だった。
わざとらしくバクゥを温存してみせ、これ見よがしにこの巨狼の大部隊を編成して挑み、主力と思わせて厄介な連合のMS部隊をおびき寄せ、引き付け。時間差を置いて中継基地から出撃させたディン部隊で包囲する。
もし初めからディンを出撃させていたら、敵航空部隊に阻まれてカモ撃ちされていただろうし、また子鬼たちに対策される可能性もあった。
だから敵航空部隊には、先ずこちらの制空機部隊やザウートとまずぶつかってもらう必要があり、敵MS部隊もバクゥに目に向けて貰う必要があった。
そしていざ、ディンが出撃してもまさか地上戦に…対MS戦に持ってくるとは思っていなかっただろう。普通に航空部隊への増援だと敵は思ったはずだ。

「これに敵が引っかかる算段は十分あった」

ディンはMSでありながらも航空機扱いであったし、空でも役立たずという烙印を押された後もそうであった。
しかもその評価の低さのお陰でほぼノーマーク……つまり脅威度が低く見積もられているのだ。
だから一定以上の数が前線近くにあっても、バクゥというより脅威の高い兵器のお陰で連合は、その潜在的な脅威…或いは可能性というべきか、陸上や対MS戦で示す戦力を見過ごしてしまった。

243 :ゴブ推し:2016/10/13(木) 21:09:28
「まあ、それを狙って今日まで陸での使用を控え、子鬼相手の遭遇戦を避けて来たんだが」
「偶然による部分も多いけどね」
「ああ、我々ザフト内でもディンの評価はだだ下がりで、このアフリカや南米でも殆ど安全圏での哨戒にしか使われなかったからね」
「…ディンのパイロットは感謝しているでしょうね。彼ら皆、腐ってたし」

アイシャの言いようにバルドフェルドは苦笑する。
敵にも味方にも役立たずと蔑視され、荒れに荒れていたディンのパイロット達。故に砂漠の虎と勇名を馳せるバルドフェルトに汚名返上の機会を与えられた彼等は感謝し、彼の指示に従うまま今日まで訓練に励んだ。

そしてその思いは報われ、成果は実ろうとしている。ブラウン達を窮地に追い込んで。





『ディンだって!? 空戦MSが陸の俺達と戦おうってのか! うおっ!?』
「クルツ!」

ディンの乗っていたお盆のようなもの。MS用の単独空輸機であるグゥルがクルツ機目掛けて降ってきた。

『大丈夫だブラウン!』

慌てて回避した彼が答える。
驚くべきことにディンの奴らは、グゥルを推進剤を温存するために増槽代わりにし、さらに無人機であることを良い事にミサイル代わりにぶつけてきたのだ。クルツの傍に落ちた機体が派手に火を上げている。

『それよりあのディン見たか?』

続けざまに飛んでくる火線やミサイルを避けながらクルツが言い、僕も牽制射撃と回避行動を取りながらそれに頷く。

「ああ、装甲強化型のザウートと同じようなものをあちこちに付けている上に、腰部と脚部の形状が違うしスラスターも付いてる。翼の形状もデータに比べて若干違うように見える。多分、低空域および陸戦仕様に改装されてるんだ」
『だろうな。装甲強化で重量が増して高く飛べなくなった分、地表近くで運用をし易くし、足回りを強化…歩行や走行性能のアップを図ったんだ』

その通りだろう。
拙い、かなり拙い。バクゥ部隊との戦闘で損耗し、指揮官がやられ、士気がガタ落ちしているところにこれだ。
低空仕様とはいえ、空を抑えられて、地上にはまだバクゥがいる。バクゥとディンという高機動力を持つ機体での連携戦―――地上と空中からの挟撃とは!?
バクゥを相手しながら上からの攻撃にも気を遣えだなんて無理にも程がある。これ以上は……

『全MS部隊に通達。速やかに戦域を離脱し撤退せよ! 繰り返す撤退せよ!』

心を読んだ訳ではないだろうが、司令部から命令……いや、むしろ許可だろう。許可が無く後退すれば、命令違反、敵前逃亡に問われかねない。
この状況を見て取り、司令部はもはや敵の撃滅は不可能と判断したのだ。その判断は正しい、正しいが……けど、

「くっ! けど、どうやって撤退する?」

敗北の苦さ、死んでいった仲間の無念、大尉のかたき討ちも出来ない事、それらが悔しくて、悔しくて歯噛みしつつ、現実的な対処案を模索する。

『そりゃ…兎に角、走るしかねえだろ。味方がいる方向に、全速でな!』
「くそっ! 完全な潰走だな! 畜生ッ!」

ギリッと歯が鳴り、感情に任せて上空を横切ったディンにマシンガンを叩き込む。だがそんな攻撃では当たる筈もなく、弧を描く機動であっさりと回避されてしまい―――

「チッ…わぁっ!?」

反撃の銃撃をとっさに回避するも、散弾だったそれは装甲を激しく叩いた。

『ブラウン!?』
『『『軍曹!?』』』
「くっ」

クルツと部下達の叫び声が聞こえるが、その彼等も別の敵機の対処に忙しくこちらに手を出す余裕はない。
それでも大丈夫だ。散弾はゴブリンの装甲を抜くことは出来なかったらしく、まだ動ける。反撃の意思を込めて敵機に再度銃口を向けて、

「!?」

その敵機が横から来た銃撃に被弾して爆散した。

『馬鹿者め! 冷静さを失ってどうする!』

通信機に叱咤の声が響いた。この声は―――

244 :ゴブ推し:2016/10/13(木) 21:10:53
「ハウンズマン曹長!」
『まったく、お前も部下を持つ身だろう。何時まで半人前気分でいる積りなんだ!』
「す、すみません!」

曹長の怒りを滲ませる声に思わず委縮してしまうが、周囲の警戒は怠っていない。

『まあ、良い。叱るのは後だ。撤退命令が出た以上、ここには留まれん。クルツの言う通り、とにかく逃げるぞ』
「はい。それにしても曹長がご無事で何よりです」

大尉がやられたこともあってそれが余計嬉しい…が、

『そうでもない。こっちは部下が二人やられた。そっちこそ無事で何より…だが、』
『俺も一人やられてます』
『そのようだな。無事なのはブラウンの隊だけとは…半人前気分は取り消しだな』

自嘲の中に軽口が混ざった。気の重い事を言いながらも、それでも気分を楽にしようという矛盾した思いがあるのだろう。

『全機、聞こえるか! こちら南アフリカ軍の……中尉だ。スモークを…った機体…15秒後に…れを散布しろ! フレアもお…けに付けて…れ! そ…直後に全機…脱行動に……れ!』

突如、雑音交じりで通信が入った。その意味を理解して、

「曹長!」
『ああ、まだそれが残っていた!』
「ええ! ナウマン! ブリック! まだスモークとフレアが残っていたな!」
『はい!』
『あります!』
「じきに15秒経つ! 直ぐに放て!」

指示を出すと同時に周囲に軽い爆発音とともに煙が広がる。ナウマンとブリックも応答すると共にスモークとフレアを放った。

『よし! 離脱する! 残りの推進剤を惜しむな! 煙を抜けるまで戦闘行動も厳禁だ。移動を優先しろ!』

曹長が指示を出し、僕達は駆ける。味方の陣地のある方角へ。






「と、まだスモークが残っていたのか? ま、撤退を視野に入れればそれを取って置くのは当然だね。指揮を引き継いだのもいるようだし…」

周囲を覆った濃い煙にバルドフェルドは感心したように言う。

「でも予想してたんでしょ?」
「ああ、それも当然さ。―――ディン部隊、衝撃弾《ソニッカー》を撃て。煙を噴き散らせして敵に逃げ先なんてない事を教えてやれ!」

バルドフェルドの指示に直ぐに了解との応答が返る。
その直後、煙に包まれた彼等からは見えないが、無数のディンがミサイルポッドを開放し、特殊な弾頭を打ち出した。
それは地表近くで炸裂すると、熱と爆炎を生まずに代わりに凄まじい衝撃を周囲に放った。

その瞬間、一帯は台風が来たかのような猛烈な風が吹き起り、ブラウン達が撒いた煙をあっという間に散してしまった。






突然煙が晴れてしまった。嵐で舞い上がる砂のように何処かへ吹き飛んだ。

『衝撃弾《ソニッカー》とは! こちらの離脱手口を読まれていたのか!?……いや、慎重、徹底しているというべきか! 砂漠の虎はこちらを逃がす気はないらしいな!』

曹長が煙を吹き飛ばした嵐の正体を看破する。その間にも敵は迫る。

「くっ!」
『全機に通達! 対閃光防御! フラッシュバン!』

前方に立ち塞がらんとするディンに照準を向けようとした瞬間、南アフリカの中尉からその指示が飛んだ。
同時に訓練で刷り込まれた動作を無意識に行い。カメラを遮光モードにし、腰部にマウントされたその特殊弾を、マシンの腕に手を取る事もせずにそのまま切り離して起爆させた。

瞬間、遮光モードにも拘らず眩しい光がカメラの連続フラッシュのように瞬いた。

それを確認して、遮光モードを解除。
先程のディンがふらつくように飛んでいるのを目にして容赦なく弾丸を叩き込み、さらに動きが止まったバクゥが行き先にあったので素早くヒートホークを引き抜いて切り裂いた。






地表に太陽の下でもなお眩しい無数の光が瞬くのを見て、バルドフェルドは思わず舌打ちした。

「チィ…予想していたのに指示が間に合わなかった! 思いのほか、代替わりした指揮官は冷静なようだ」
「でも、問題ないわ。煙に比べれば効果はずっと短いもの。どのみち子鬼さん達は逃げられない」
「…その通りだ。行くぞアイシャ!」

相方の意見にバルドフェルドは気を取り直して愛機を再び敵へと向けた。
勝ちが決まった時点で残りの手柄は部下達に譲る積もりだったが、些か予想を上回ってくれた事への意趣返しをしてやりたかったのだ。

「ふふ、負けず嫌いね」

その子供っぽい感情を見抜いてアイシャは可笑しそうに笑った。

245 :ゴブ推し:2016/10/13(木) 21:12:26




閃光弾の効果はそう長くはなかった。
体勢を立て直した敵機は、離脱を図るこちらを阻もうと動き出し、

『全機に告ぐ。我々南アフリカの第1中隊、第2中隊が敵を引き付ける!』

僕とクルツとブリックは上空で軽快に動くディンに射撃して牽制し、地上は曹長以下他6人で迫るバクゥを牽制し、味方の陣地に向けて砂漠を駆けていた。そんな中でその通信があった。

『残りは戦闘を控え、我々が敵を引き付けている間に離脱されたし! 貴官らの無事を祈る!』

これは……殿を務めるという事か。

『ブラウン、クルツ』
「はい!?」
『へ…なんです!?』

曹長から静かなのに妙に気迫の籠った声が掛かり、思わず変な声を上げてしまう。クルツもだ。

『お前達はこのまま行け。俺も……いや、俺達も敵を引き付ける』
「え、曹長…なにを?」
『このまま南アフリカだけにその役目を背負わせのは良くない。我がユーラシアに取ってな』

それは政治的な意味が含んだ言葉だった。南アフリカ軍だけを盾にして逃げるなどユーラシア軍としては体裁が悪いという事だ。

『い、言いたいことは分かりますが、しかし…こんな時に!?』
『悪いが議論している暇は無い。…こちらハウンズマン曹長だ。01第3中隊聞こえるか?』

クルツの言葉を遮り、曹長は通信を自身の所属する中隊に繋げた。

『聞こえている。殿の申し出ですか、曹長? ふっ…考えることは同じですね』
『ああ、南アフリカの連中だけに格好を付けさせる訳にはいかんからな。供をさせてくれるか?』
『喜んで! 訓練兵の頃からお世話になった貴方と共に逝けるというなら、そう悪い事ではありませんから』
『悪いな、中尉』
『いえ』

そこで第3中隊との通信が切れる。僕は何も言えなった。

『という訳だ。これからはお前達が新兵と未熟なパイロット達の面倒を見るんだ。ブラウン、お前は兵士としては優秀だが、熱くなりやすい、常に冷静になる事を心掛けるんだ』

沈黙する僕に曹長は、モニター越しに強くも穏やかな視線でそう神妙に言った。

『クルツ、お前も同様に優秀だが、やや羽目を外し過ぎだ。それ自体は悪い事ではないが、先任や上官たるもの、新兵の模範であるべしという意識をもう少し強く持つようにしろ』

クルツにも曹長は神妙に告げる。

『さあ、行け!』

曹長が機体を反転させる。それに僕は―――

「曹長、僕も―――」
『行け! 命令だ! 必ず生きて戻れ! そして〝役目〟を果たすんだ! 良いな!』

一緒に行きます―――そう言いたかったのに言えなかった。
クルツがモニターで首を横に振っていたのもある。けど〝役目を果たせ〟その言葉が……曹長達に代わって新兵や未熟なパイロット達の面倒を見ろ、という意味を籠めた言葉が、決して反故にしてはいけない遺言のように思えたからだ。
それを果たせないという事は覚悟を決めた曹長にとって無念な事で、意思を託そうとする曹長達を侮辱する事になるから。
…から、だから、逃げる事しかできないのだ。僕達は、

「くそっ! くそっ!……―――くそぉおおおーーー!!」

叫んだ。心の奥底から、曹長達を見殺しにする自分が。
力のない自分の未熟が悔しくて、許せなくて、

「うぉぉおおおおお!!」

叫んで離脱を、逃亡を、曹長の献身と意思を、それらを阻もうとする敵機を撃ちながら戦場を離れようと機体を駆けさせた。

それでも―――

『おっと、逃がす気はないよ。ここからは先は通せんぼだ』

屈辱に満ちた離脱と曹長の遺言を果たすのを阻まんとし、剣虎の姿をした絶望が立ち塞がった。

246 :ゴブ推し:2016/10/13(木) 21:13:25
以上です。
ブラウン達は逃げ出した。しかし回り込まれてしまった。
…まあ、ボスキャラからは大抵逃げられないという事です。

今回登場したオリ仕様のMSである陸戦型ディンというべきものですが、本文にもある通り、クルツとブラウンが言っていたような改装が為されています。
その主な改装点は以下の通りです。

中空装甲による対弾性の強化。
脚部の強化による足回りの向上及び脛部と腰部にスラスターを追加しての機動力向上…これは翼をやられた際、それをパージしての地上での最低限の機動力維持も目的。
そしてその翼も形状をやや変更し、強度も上げて低空域での機動に適したものに。

と、こんな感じです。
低空域・陸戦において飛行できて高度な三次元機動が可能な分、バクゥよりも機動性・運動性は上だと思います。もしかするとドムも上回るかも知れません。
ただ、強化されたといっても装甲は相変わらず紙なのですが……一応、対空ミサイルや散弾ならば一発くらいは耐えられると思います…本体は。

武装は基本的に改装前の物やジンの物を使用してますが、MSとの近接戦と想定して突撃銃に銃剣を装備し、散弾銃には散弾のみならず対装甲・対MS仕様のスラッグ弾のような物も装填してます。

しかしこの機体を使った今回の戦術は結構無理があったかな? とも正直思わなくもないですが、自分にはこれが限界です。
突っ込みどころや改善点があれば、意見が欲しい所です。

次回で虎とは決着となります。

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最終更新:2016年10月17日 22:54