235 :ナイ神父Mk-2:2016/10/28(金) 01:41:27
大陸SEEDネタ その15
ザフト地上軍の後退とジャンク屋の失墜
C.E71年6月25日深夜、ザフト地上軍の姿は太平洋上に有った。数だけなら未だに連合の主力艦隊を優に超える彼らでは有るが、大陸侵攻を行う為には余りにも少なすぎる数と言えた。そんなザフトの有様に、南米の司令官が流れ弾で戦死した事で臨時の最高司令官と成ったクライスラーは思わずため息を吐いていた。
「アレだけの戦力を誇ったザフト地上軍が、此処まで数を減らされるとはな・・・」
「現在の所、地上戦力はこの艦隊と上空のヴァルファウ含む航空隊で全てです。幸い燃料に関しては南アメリカ脱出時に確保できたので、戦闘を行うことは可能ですが・・・」
「それでも限界がある。今の我々に連合のマスドライバーを制圧する事は不可能だ。」
「それでオーブですか・・・」
「望みを掛けるならばあそこしか無いのだ。だからこそ態々ジャンク屋を余剰のMSや駆逐艦と引き換えに雇いジャンク屋に成り済まして居るのだからな・・・」
「此処までやったのです。何とかしてプラントに戻りたいですね。」
「ああ・・・」
其処まで部下と話したところで、クライスラーはふとした違和感に襲われる。
(そう言えば、何故我々は大洋の部隊と遭遇しないのだ?ジャンク屋に扮しているから?いや、それは有り得ない。奴等はジャンク屋を嫌い抜いている。その大洋の領域に此れだけの戦力で足を踏み入れたのだ。臨検の一つも無いのは不自然だ。通達を入れたオーブが意図を察知して大洋に伝えた?其れも有得ん。オーブは本質的には反大洋だ。大洋の利に成る事をオーブがやるとも思えん。だとしたら・・・)
「司令、どうかなさったのですか?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
其処まで考えた時点でクライスラーは首を振った。部下が怪訝そうに見ていた事から何でもないと返したが、彼の中の疑念は晴れなかった。
(まさか、我々は誘い込まれているのか?ジャンク屋も含めて大洋が目障りに感じているだろうオーブに・・・。だとしたら、無事に宇宙へ出られるか・・・)
クライスラーがそう思うのを肯定するかの様に、ザフト艦隊を追跡する一つの陰をザフトは捕らえる事ができていなかった。この影の正体は大洋の水中用MSのアッガイであり、一定の距離を保ちながらザフト艦隊を海中から追跡していた。その遥か後方には日本の主力潜水艦である呂号級潜水艦の呂58の姿も見られている。
「こちらウォッチャー、ザフト残党と思われる艦隊は、順調にオーブへの航路を取っている。」
「了解、引き続き追尾を続けろ。獲物はなるべく一網打尽にしたい。航路を外れない限りは攻撃は仕掛けるな」
「此方ウォッチャー、了解した。引き続き監視を続ける。」
そう言って定時連絡を終えたアッガイからの通信を聞きながら、MS隊を指揮する隊長は呂58の艦長へと向けて話し始める。
「どうやら、魚は餌に喰い付いたようですな・・・」
「ああ、後はどれ位の量が集まってくれるかだが・・・」
「少なくとも組織的に撤退したザフトは殆どが集まっていますな。ジャンク屋もオーブ内の権力争いに便乗して、連合の資産で建設していた海上移動型のマスドライバー施設を制圧して自分達の戦力に加えたとか・・・」
「こうして奴等の仕出かした事が耳に入って来る度に、あの条約に加入する事を選ばなかった総研には感謝が尽きないよ。加入していたら一体幾つの機密が連中に漏れていたか」
236 :ナイ神父Mk-2:2016/10/28(金) 01:41:58
「しかし、大西洋も遂に奴等との付き合いは限界の様ですよ。何せ連中、本格的に条約から脱退するようですからな・・・」
「流石に、あの無法者共には大西洋連邦も我慢の限界か・・・」
大洋の士官達がその様な事を話している頃、大西洋連邦の議会では今、正にジャンク屋の利権を保証する条約から脱退するかの決議が行われようとしていた。しかし、条約批准派にも一定の勢力はおり、議論は紛糾している。
『条約の脱退には断固としては反対させて頂きます!此れまでの彼らの社会貢献を見れば、彼らがいかに重要な存在であるか解かる筈!一時の国民感情に任せれば不味いという事は過去の出来事からも明らかです!』
『しかし、既に事は民間に秘匿できる範囲を超えている!メビウスや廃棄された戦艦に飽き足らず、マスドライバーを奪われ、さらにパナマではストライクダガーと言う、我等の最新式兵器すらザフトに流しているのだぞ!』
『それは一部の心無い者たちの仕業です!そういった人物を取り締まれるように法改正を行えば良いのです!』
『そう言った方法を取るにはもう手遅れだ!軍の遺族の中には、家族はジャンク屋に殺されたと怒る者も居るのだぞ!』
『ですから・・・』
そんな議論を書類整理の合間に見ていたアズラエルは渋い顔をしていた。隣のモニターには何時もの様に、サザーランドが写っている。
「イヤー、議論は白熱してますねえ・・・。サザーランド君はどうなると思いますか、この結末?」
『恐らくは脱退派が勝つのでは?コープランド大統領や与野党の大半は脱退派ですので』
「まあ、賭けにも成りませんよ。サザーランド君だって連中には苦労しているでしょう?」
『はい、軍内でもジャンク屋の行動は目に余る部分が出ていましたから・・・。だからと言って潰そうとすれば、良識派を気取る連中からの妨害もあり、上手くは行きませんが。それにジャンク回収の問題もあります。』
「ああ、ジャンクの回収は確かに面倒ですからね・・・。しかし、安心して下さいサザーランド君。其方にも目処が立ちましたから」
『と、言われますと?』
「他の企業とも協議を重ねた結果、我々軍需産業側が子会社として大西洋に専門のジャンク屋を立ち上げるという事ですよ。他の方も、大分自社の機密を他国に抜かれる可能性が有るのを嫌がっていたみたいですからね。条約から脱退しても直ぐに対応できますよ。」
『それは有り難いですな』
「まあ期待していて下さいよ」
そう言って笑顔を見せる理事の横のモニターでは、賛成多数でジャンク屋の利権を保護する条約からの脱退が可決されていた。その後、大西洋連邦では正式にジャンク屋の利権を保護する条約からの脱退がコープランド大統領の下で宣言され、大西洋でもジャンク屋はその利権を失っている。この行動に対しては国内の有識者の一部やオーブ首長国からの批判も有ったが、大西洋は取り合わずに脱退の手続きを済ませている。
237 :ナイ神父Mk-2:2016/10/28(金) 01:42:34
その頃の
夢幻会とオーブ開放戦への足音
大西洋で大きな決断が下されている頃、大洋の首相となった神埼の姿は現在首相官邸の自室に有った。室内にはお茶を飲んでいる林の姿も見られる。そして、一通り書類を終わらせた所で神埼は作業を中断して、のんびりお茶を飲んでいる林に恨み言を言う。
「人がせっせと仕事している目の前でお茶を飲まないで下さいよ・・・」
「まあ、いいじゃないか。神崎君も休憩するつもりだったのだろう?」
「それは、そうなんですが・・・」
そう言って執務室のソファへと腰掛けた神埼は、自分で入れたお茶で喉を潤して本題に入った。
「林さんが来たと言うことは、進めていた作戦に進展があったのですか?」
「ああ、順調に不確定要素のジャンク屋達やザフトの残党はオーブへと集結を始めている。大西洋もギガフロートの一件で、完全に条約の脱退へとシフトした。開戦には十分な要素が揃っているな。後はオーブの出方次第だが・・・」
「オーブの表を司るアスハは間違いなく引っ掛かるでしょうね。彼らは表看板ですから、間違いなく理想論を展開してきます。しかも現在は裏方のサハクとの不仲もありますから覿面でしょう」
「今代のサハクは連合との共同作業を悉く潰され、しかも片方はウズミの独断で失ったからな。亀裂は相当だろう・・・」
「そして今回のザフトと思われる集団の入国の許可・・・。まあ、国民の大多数は綺麗な表看板のアスハに付くでしょうが、時勢の読める下級氏族やサハク等との亀裂は更に広がる事になります。そして其処に大西洋の取り戻すべき資産が有るとなれば・・・」
「開戦は必至か・・・。まあ、何時までもあそこに一定の武力を持った反大洋国家を置いておくのは危険すぎる。ここらで釘を刺さないと危ないからな。外から見ると何処かの世界でこれが放送されてれば、我々は悪役決定だな」
その言葉に神埼は思わず苦笑する。
「まあ、前世からこっちがやってるのは大方、悪の組織その物ですからね。今回のオーブ戦の裏側なんて主人公側を潰しに掛かる悪役の大国でしょうし」
「しかし、今あそこに主人公達は居ないし、此処は現実だ。我々にも養う国民が居るんだ。やられ役の悪役として終わる訳にはいかんぞ」
林はそう言って、席を立って退室した。休憩を終えた神埼も仕事に戻っていく。大洋ではオーブを攻める大義名分が着々と用意され始めていた。
一方で、オーブのサハクの支配下にある宇宙ステーション、アメノミハシラに居るロンド・ミナ・サハクの元には、ある通信が地上のサハク党首より届けられていた。
238 :ナイ神父Mk-2:2016/10/28(金) 01:43:05
「つまり、連合とオーブの戦争は避けられないと?」
『ああそうだ。残念ながら大洋は此方を本気で潰す気でいる。それにギガフロートの一件が大西洋の逆鱗に触れた。彼らは自分達の利権が奪われたと考えているからな』
「それで我々に如何しろと?まさかこの覆す事が不可能に近い事態を打開せよと?」
『いや、アメノミハシラは地上からの避難民を受け入れ、静観してくれ。連合から引き出せた譲歩は其れだけだ』
「しかし、それでは戦後、我等が他の氏族を見捨てたと取られるぞ・・・」
『其処は問題ない。既にこの件はセイランを初めとした下級氏族や我々に賛同する氏族からは受け入れられている。』
「・・・解かった。その件に付いてはこちらで準備を進めておくが、戦後のアメノミハシラの戦力についてはどうなる?」
『恐らくは、大西洋と大洋の判断が優先される事に成るだろう・・・。私はアスハ代表と共に重要拠点であるカグヤに詰める事に成るが、万が一の時は頼んだぞ』
その言葉を最後にサハク家当主は通信を切り、ミナもまたオーブ国民の受け入れに向けて準備を始めた。
そして、C.E71年7月10日、オーブに逃げ込んだと思われるザフトの残党の引渡しや、ジャンク屋が占領してオーブ領海に停泊するギガフロートの奪還を目指して連合各国は艦隊をオーブへと派遣。要求を受け入れる様にオーブへと迫るが、オーブ政府は此れを拒否。翌日11日より連合主要国による共同作戦としてオーブ攻略作戦が発動され、連合とオーブは戦争へと突入していく。
239 :ナイ神父Mk-2:2016/10/28(金) 01:43:37
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最終更新:2016年10月31日 12:14