16 :ナイ神父Mk-2:2016/11/11(金) 00:46:46
大陸SEED その19
ザフトの内情と困窮
C.E71年7月15日、ザフト地上軍のベテラン兵帰還と引き換えに本国とヤキンとボアスと言う二つの重要拠点から抜き出した救助艦隊が壊滅してから4日後、ザフトの元議長シーゲルクラインの姿はアプリリウスにあるプラント評議会のザラ議長の執務室に有った。
ザラ議長の執務机の前に立った彼は厳しい口調でザラを問い詰める。
「どういう積もりだ、パトリック!」
「如何言う積りとは、何だ?」
「娘の、ラクスの事だ!何故あの子を兵士として士官学校へと送ったのだ!」
「その事か・・・それなら簡単だ。最早プラントに余剰な人員を遊ばせて置く余裕は無い。戦えるなら貴様の娘より遥かに幼い人員がパイロットとしての訓練を受けて居るのだ。評議員の娘とて例外ではない。」
「停戦と言う手は無いのか?まだボアスもヤキンも無事だ。ジェネシスを利用して停戦に持ち込めば・・・」
「そのジェネシスすら、まだ完成していないのだ。いや、仮に完成したとしても連合が大型MAを前面に押し出せば防衛すら侭ならずに壊滅し兼ねないのだぞ?ジャスティスとフリーダムの生産も随時行って居るが、そのせいで世界樹やL4のコロニー群から回収した核燃料すら枯渇を始めている。それともお前自身に何か伝は有るのか?あの導師を名乗るナチュラルはスパイとして連合に逮捕されたが」
「現在、スカンジナビア王国を通してカナーバ評議員が交渉に赴いている。それで停戦の糸口を見つける積もりだ。」
其処まで聞いた所でパトリックは書類を書いていた顔を上げる。目には隈が浮かび相当な無理を重ねている事が伺えるが、コーディネイター特有の頑丈な身体によって何とか耐えている様子であった。
「あの連合が納得する物か。精々、我々の首を代価に以前までの扱いに戻す辺りの条件しか引出せないだろうな・・・。話は終わりか?
ならば出て行け、私は忙しいのだ。」
そう言葉で促されたシーゲルは其のまま評議会のある建物から出て、自宅へと戻る。すると、カナーバより通信が入り、
画面に出た彼女から、スカンジナビア王国での交渉の結果が知らされた。
「そうか。交渉には失敗したか・・・」
『はい、連合はすでに此方に負けを認めさせるまで止まる事は無いと思われます。また、NJCの研究生産は既に始って居るようで、既に大西洋連邦でも電力の回復が見られています。』
「と成れば次に交渉が成り立つのは、要塞の攻略で連合が躓いた時となるか」
『此方でももう少し他の連合構成国とも協議を行いますが、少なくとも各国共に意見は変えないかと思われます。』
「済まないが頼む。」
そう言って通信を切ったシーゲルは自身の座るソファに深く身を預け、ふと外を見た。外の庭園は何時もの様に管理が行き届き変わらない姿を見せているが、その外のプラント市街では既に10歳にも成らない子供と自身の様な最早MSにも艦隊指揮にも加われない様な人間ばかりである。その光景を想像したシーゲルはプラントの未来が暗雲に深く閉ざされていることを再度認識し、深いため息を吐いた。
評議会の面々が侭成らない現実に直面しているのと同時にクルーゼも又、如何にも成らない現実に直面していた。彼の目の前にはプラントでの成人年齢にも満たない、下手をすれば12歳、男児に至っては11歳にも満たない子供が赤や緑、そして黒のザフトの制服を着て、自身の目の前に立って居るのである。その余りにも現実離れした光景に、クルーゼは呆然としていた。
17 :ナイ神父Mk-2:2016/11/11(金) 00:47:29
「これが、私に任せられた精鋭部隊だと?」
「はい、この隊に集められた人員は何れもザフトの士官学校の速成士官教育課程を好成績で卒業し、クルーゼ隊に配属となりました。」
「速成士官教育課程?」
「はい、そうですが何か?優秀なコーディネイターで有ればナチュラルの兵士より余程優秀です。」
聞き捨てなら無い台詞を聞き、一種の怖い物見たさの感情もありクルーゼは恐る恐るある質問を子供たちにしていく、声を掛けられた子供達はザフトの英雄が目の前に居る事もありキチンと背筋を伸ばし質問に答える。
「済まないが、其処の左端の君は何ヶ月の訓練期間か教えてくれないか?」
「はい、一ヶ月です。」
「・・・其方の、ブロンドの君は?」
「六ヶ月です。」
「・・・」
マスク越しである為、自身の血の気が引いていく様子を相手に見せないで済んだクルーゼであるが、それでも余りの惨状に気が遠く成り掛けた。しかし、持ち前の根性で何とか姿勢を建て直し、心配してきた兵士に久しぶりのプラントの重力で身体が慣れていないと誤魔化しながらその場を離れ、自室に戻ると頭を抱え込んだ。
(まさか、此処までザフトの戦力不足が大きいとは・・・。ええい、このままでは本当にザフトが地球を滅ぼす前に連合がプラントに圧勝してしまう。何とか、何とかしなければ。しかし如何すれば良い?艦隊にはジェネシスで対応するか?いや、其れもパトリックの言葉が正しければまだ完成していない。一体如何すれば・・・)
頭を抱え、思考が堂々巡りを始めるクルーゼは、自身の持つその野望ゆえにまともに他人に相談する事も出来ずに其の侭最終決戦まで頭を悩ませる事となる。そして、後に回ってきた部下となる兵士の成績を見て低年齢化の進んでいた71年当初のアスラン達と比べて尚低いその数字にクルーゼの精神的負担は更に増えて行く。
一方で、オーブ攻略戦に置いて降伏した事によって生き延びたディアッカとイザークの二人の姿は現在捕虜収容所に有った。ザフトの特性上、服の色が其の侭階級に近い扱いを受けている事が考慮され、赤服には赤い、緑には緑の服が与えられておりそれによって部屋やフロアも分けられていたが、概ね条約に沿った設備が整えられ、今は昼食の時間であるためか捕虜と成っている兵士達は彼らも含めて食堂に当る施設にいる。その中で他の兵士たちに気付かれない様にディアッカはイザークに話しかける。
「随分大人しくしてるじゃないか、捕まって直ぐは絶対抜け出すと言って聞かなかったのに」
「仕方ないだろ。現状では手がない以上は大人しくしている方が得策だ」
「まあ、そりゃそうだ。しっかしもう少し厳しく扱われるもんだと思っていたけどよ、案外扱いは緩いもんだな」
「一応条約が有るからだろう?連合諸国としては面子もあるんだ、条約を逸脱した扱いは不味いんだろう」
「国ってのも大変だな・・・。所で聞いたか?脱出した後の連中の話?」
「?オーブで撤退した後の事は知らん。救助艦隊が来るとは聞いていたが、それが救出したのではないのか?」
「いや、救助艦隊は来れなかったみたいだ。宇宙で捕虜になって送られて来た奴の話だと予定時刻に成っても艦隊は来れず、予定の方向から来たのは連合の艦隊だって話だ」
「予定ではかなりの数の艦隊を用意して筈だ。其処まで一方的に負けるとも思えんが・・・」
「解からないぞ。あのオーブで見た化け物みたいなMAをポンポン作ってるのが連合だぜ、あの化け物が宇宙にも有ったなら負けたって可笑しく無いだろ?」
言いたい事を言うだけ言うとディアッカは食事を終えて自分の分の盆を持って返却口へと持っていく。後に残されたイザークは暫く食事に付けられていた毎日配合の変わるブレンドコーヒーを眺めながら暫く考え込んでいたが、現在の自分では如何しようも出来ない以上は考えても仕方が無いと自身に言い聞かせ、自身が割り振られた部屋へと戻っている。
18 :ナイ神父Mk-2:2016/11/11(金) 00:47:59
オーブの扱いと今後の方針
夢幻会の一員が経営する会合用の料亭では現在、夢幻会の主要メンバー達が臨時の会合を開いていた。議題は勿論先日に行われたオーブ攻略作戦で獲得したオーブの扱いである。しかし、元が反日の強い国であった事と住人の反発を弾圧してまでとって置きたい土地かと言われると微妙である為、夢幻会のメンバー達も扱いには困っていた。
「逃げ込んだザフト兵やジャンク屋の掃討は引き続き行われて居ますけど、今後は如何します?私としては他国に靡かない限りは武装を制限して独立をさせた方が後腐れは無いと思うんですが・・・」
「あそこに無駄に敵対的な国家が有ると聊か面倒だ、この際出来る事なら潰して欲しいと言うのが海軍の正直な所では有るな。唯でさえ東アジアや大西洋連邦が居るんだ。戦力はそちらに集中させたい。」
財務的な理由を口にする辻本に対して山本は軍事面や海上ルートに於ける安全性の問題で独立させる事を渋るが、結局の所どちらも軽視出来るもので無く意見は軍系と官僚系のメンバーで平行線の会話が続いていく。
「辻本の意見も解かるが、未だに残党が相当数潜伏している所を下手に野放しにするのは厄介だな・・・やはりアメリカ式に駐留軍を置くべきか?」
「だがな神埼、それでは結局此方に負担が掛かる事は変わりないぞ?」
「しかし、しっかり手綱を握って置かないと再度面倒な事になる。一番良いのはやはり再度併合してしまう事なんだが、そうなると今度はオーブ国民全体がテロの協力に走りかねない。それなら、あの時の半島の様に安全策を講じて距離を取る事が一番だろ?」
「確かに一定の技術と兵器を持ったあそこの連中を見張ると成ると其方の方がましだな。・・・解かった。こちらでも駐留艦隊の件は準備しておく。だが、余り大規模な戦力は置けんぞ?」
「あくまでオーブを押さえる為だけなら、ある程度でも良いと思う。近隣の基地からも戦力は送れるからな。」
そう言って山本に神埼は声を掛けると会合は一時休憩と成り、各メンバーは出された料理に手を付けたり自身の派閥の上司へと酌をしたりと忙しく動き始め、次の議題までに各々準備や心積もりを済ませ始めていた。一方で大洋にライバル視されている大西洋連邦はと言うと、アズラエルが疲れた顔で書類へと向かっていた。目の前には資料を持ってきたサザーランドの姿がある。内容は、前回のオーブ攻略戦で発覚したオーブによる大西洋連邦の兵器の盗用である。
「まさか、オーブが此処まで堂々と兵器の盗用を行っているとは正直予想外でしたね・・・」
「はい、全く持って不届きな連中です。其れを頼ったハルバートンもハルバートンでしょうが」
「ストライクの劣化コピーと言うか四肢と頭部パーツ、ストライカーは完全に余剰部品を流用したデットコピーのストライクルージュ、PS装甲をコピーできなくて装甲が紙同然に成ったM1アストレイ。・・・此処まで見事に盗用されるといっそ笑えて来ますよ。」
「笑い事では有りませんよアズラエル様。・・・此処まで技術が流出していると成ると回収も難しくなります。そうなれば東アジアが欲を出して来る事は確実かと」
「ああ、そう言った問題も有りますか。・・・ふむ。」
其処まで言った所でアズラエルは何かに気が付いたのか、サザーランドの前で唐突に技術部へと内線を繋げて何かを話し始める。
何事かと思ってみていると何らかの断片的に技術関連の話しが出てきているようであるが、電話の向こうの声が聞こえない為、黙って終わるの待っていると徐々にアズラエルは話を切り上げ始める
19 :ナイ神父Mk-2:2016/11/11(金) 00:48:34
「・・・ええ、解かりました。それなら問題なさそうですね。・・・給与アップ?其れは今回の功績を考えて順次査定しますから後から事務に尋ねてみてください。それではよろしくお願いしますね?」
「あの、アズラエル様?今の電話は一体?」
「今のですか?少し技術部に確かめたい事が有りましてね。其れを確かめたんですよ。其れでです、サザーランド君?オーブのM1アストレイの生産ラインは此方で確保しているんですね?」
「え、ええまあ、我が国の技術が盗用された疑いが有る以上野放しにはできませんから軌道上のアメノミハシラのラインを除けば全て確保出来ています。」
「なら、売っちゃいましょう。」
「は?」
その言葉を聴いたサザーランドは暫く停止するも、思考が追いついて来ると慌ててアズラエルに考えを変えるように訴えかけ始める。
「さ、流石にそれは不味いのでは!?あれにはわが軍の技術が多く使われています!其れを態々他国に売り渡すなど・・・」
「何も全ては売り渡しませんよ。売るのはアストレイのフレーム部分だけです。」
「・・・フレーム、ですか?」
「ええ、そうですよ。東アジア寄りの議員からもそろそろ東アジアへの戦力の販売を行えと煩いんですよ。それならいっそ幾らコピーされようが構わないオーブ製の此れを渡せば十分な支援をした事に成るんじゃ無いかと思いましてね。それなら我々は態々使わないレーンを大量に守らなくとも済みますし、東アジアへの義理を果たした事に成ります。幸い彼らはバッテリーやビーム兵器の面では後進国ですから、利益は其方で稼げば良い訳です。」
「なるほど、それなら・・・しかし、アンダーソン提督が納得しますかね?」
「其方は利点等を説明して刷り合わせるべきでしょうね。独断で行えば折角の協力体制が崩れますから。では私は議会や他のロゴスの皆さんにこの意見を出しますからサザーランド君は軍内部の意見を纏めて下さい。」
「了解しました。」
この後、オーブ首脳陣によって降伏文書にサインが成され、連合は降伏を正式に受け入れてオーブは敗戦している。此れによってウズミを初めとする首脳陣は戦争を起こした責任を負う事となり、連合構成国が開いた軍事裁判によって其々の罪状によって刑が決められ、順次刑が執行されていく。しかし、未成年であったカガリは年齢が考慮された事と、戦後のオーブに置ける旗頭として機能させるべく、大洋の本土へと移送され後に然るべき教育が行われる。そして、兵器に関してはアカツキ島で発見された新型装甲材やカグヤ島で鹵獲されたクサナギは大洋連合が確保し、クサナギに関しては解析後にユーラシアが購入する事に成った。又、この戦争でオーブ軍の使用したM1は解析の結果、大西洋連邦の技術が盗用されている疑いがあり大西洋連邦が接収後にバッテリーなどの一部機構のラインを除く生産ラインを東アジアに販売、此れによって東アジアは事実上独自にMSを開発する事が可能に成っている。
アメノミハシラに関しては自国付近に有る為、防衛上の問題から大洋が確保し後に大洋の拠点として機能を始めている。
20 :ナイ神父Mk-2:2016/11/11(金) 00:49:46
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最終更新:2016年11月14日 11:26