350: ゴブ推し :2016/11/20(日) 23:55:19
では投下します。今回は前回の予告通り幕間となってます。
大陸SEED MS戦記
10.5―――憂い
暗い部屋の中、デスク上にある明かりの身を頼りに彼は書類を読み、捲り作業を続けていた。
所謂、デスクワーク。
当然の事ではあるが、軍人と言えど戦う事だけが仕事の訳ではない。
彼は、先の戦いの後始末の為に多くの書類を然るべき手順にて片付けなければならなかった。
「―――ふう」
溜息を吐き、目元を指で揉み解して彼はデスクの脇にあったカップに手を付けるが、
「む…」
すっかり冷めきった紅茶に眉を顰める事となった。
一瞬替えを頼もうかと思うも、頼りになる秘書官や副官には休みを取らせているのでそれも無理だ。そもそも彼女、彼らは茶坊主ではない。
仕方なく彼は立ち上がり、室内に備えられたティーメーカーの方へ自ら足を運ぶ。
「―――ふう」
火を付けて出来上がるのをその場で待とうと思った瞬間、また溜息が零れた。
当然と言えば当然だった。疲労が蓄積している事もあるが、何より敗北した戦いの後処理というのは重く堪えるものなのだ。それも彼―――MS大隊を預かる中佐は多くの損害を出して多くの部下を失っている。
特に歳も近く長年付き合いのある親友たち…バルク大尉とハウンズマン曹長が戦死したことが辛かった。
「…ついに俺だけになってしまったか」
思わず呟いた。
昔…任官したばかりの頃、一つの小隊を共にした仲間達。その最後の生き残りという意味だ。
士官学校、軍大学を出た為に早く出世し、現場に出なくなった所為なのだが……。
「すまん」
送り出す側となって覚悟していた事であり、また彼等もそれを抱いており、それを汚す事になると感じつつも、中佐は知らず知らずに脳裏浮かんだ二人に対して頭を下げていた。
(バルク…あの戦いが終われば佐官として、正式に現場指揮官になって隊を…連中を支えてくれただろうに。ハウンズマン、お前も今度こそ尉官に引き上げられたのにな。そうすれば経験と実績に見合った裁量を持たせられて、隊はより有機的に動け、後も戦果を上げられただろう。お前は嫌がるかも知れんが、お前を慕う連中は喜んだはずだ。なのにお前たち二人は……俺は…―――)
二人を思い、そう深く心と思考を沈ませた。
気付くとティーメーカーは湯気を多く吐いており、葉を蒸らし過ぎていた。感傷に耽り過ぎたようだ。
失敗した紅茶であるが入れ直すには手間であり、茶葉も勿体ないので仕方なくポットにそれを入れ、作業を続けるに……いや、失敗して苦みが強くなった紅茶を飲みながら一息入れる為にデスクに戻った。
そのデスクの上にある種類や端末には中佐を憂鬱にさせる文字列と数字が並んでいる。消費した弾薬や燃料などの物資はともかく…。
「南アフリカと共に出撃した計128機のMSの内、戻れたのは僅か32機。パイロットは46名…」
凡そ3割から4割ほどしか残らなかったという事だ。まさに壊滅的と言っていい。
パイロットが機体よりも多く戻れたのは、擱座した機体を投棄して僚機に救出されたからだ。
しかし…
「…復帰可能なのは38名。残りは絶望的。その上、復帰できる者にしても直ぐにではない。治療や療養の期間が必要な者もいる」
頭の痛い問題だった。
機体の方は問題ない。元から安価で生産性の高い機体故に余裕がある。しかし貴重なベテランパイロットを多く失ったのは、取り返しの付かない問題だ。
亡くなった彼等を中核にMS部隊を拡充する計画だったからだ。これでは軍の再編や反抗作戦にも支障が出る。計画の見直しは必須だ。
それもユーラシアに限って言えば、38名の復帰可能なパイロットの内、16名のみなのだ。…南アフリカに比べればマシと言えるが五十歩百歩の域を出ない。
「やはりMS部隊は温存せざるを得ないか?」
紅茶を口に含みながら中佐は考える。
16機編成だった中隊を12機へと変更し、臨時の第5中隊を正式に第1中隊に繰り上げ、生き残った者達からもう一つ中隊を編成してシュバリエ大尉に現場指揮を任せる事はほぼ決定事項だが……
351: ゴブ推し :2016/11/20(日) 23:56:20
「もう一度、後方へ連絡を取ってみるか」
とりあえずそう判断する。シュバリエ大尉たちのように実戦レベルに達するパイロットが他にもいるかも知れないと考えて。大洋のMSのOSは優れ、ゴブリンはかなり扱い易い機体らしいから恐らく見繕えるだろうとも思い。ただ新米である以上は練度が落ちるのは避けられないだろうが……シュバリエ大尉のような人材は異例中の異例だろう。
そうしてMS部隊の方針を考えると、息抜きは此処までとばかり頭を動かすだけでなく、手も動かして次の書類へと取り掛かり―――
「―――さすがにこれも甚大か」
それを見てやはり溜息が出そうになる。その書類はMS部隊以外の被害を示すものだった。
MS部隊を除くと、陸は凡そ一個機甲師団相当を動かして今回対応に当たったのだが、
「リニアガン・タンクは60両の内、残存は28両。砲兵部隊も自走砲、対空砲も残存は5割を切っている。空中機動部隊…ヘリも24機の内、無事帰還できたのは僅か8機だけとは…」
戦闘中にも大まかに把握していたものの、こうして改めて数字で突きつけられるとその甚大さが分かる。
護衛程度のMSしかいない陸上艦隊と言えど、機甲部隊で殴り合うのは無茶という事だ。MS部隊支援の為の防戦や足止めに徹していなければ、軍事定義上の意味ではなく、本当の意味で全滅していたかも知れない。
「シュバリエ大尉の責任ではないが、緒戦での敗北がなければ、あの大戦力をそのまま動かせたのだが…」
現在はその敗北でのダメージの回復…再編を優先しているのだ。
もしそのダメージが無く、戦力を大きく動かせ、MS部隊と連携を図れていれば、今回の敗北は無かったかも知れない。いや、或いはあの時期にMS部隊があれば―――
「…意味のない過程だな」
ふと思い浮かんだ空虚な考えを中佐は首を横に振ってふり払う。次の書類を捲る。
「…空軍は、ザウートにそれなりに落とされてはいるが、許容範囲内…か。ザフトに優れた航空兵力が無いのが幸いだな」
ディンが空では殆ど役立たずのお陰で互角だからだ。いや、ザウートという強力で使い勝手の良い〝対空兵器〟や北アフリカの援護が無ければ、物量や練度面から十分圧倒出来ただろう。
「とはいえ、そのディンの評価も改めなければ…」
今回の戦いで示されたようにヘリと同様の空中機動兵器とみれば、無視できない戦力だ。装甲はともかく、その機動力はバクゥをも上回り、火力もヘリや戦車を優に上回っている。
今回の件を戦訓としてしっかり取り入れなければ、思わぬ損害を被る事だろう。
中佐はそれらの事を頭の中にメモしながら作業を続け、再編や今後の展開も踏まえて報告書に添える上伸内容へと加える。
夜はすっかり深まっているが、その日も彼が眠る事は無かった。
352: ゴブ推し :2016/11/20(日) 23:58:15
■
「やれやれ、勝つには勝てたが…」
彼―――アンドリュー・バルドフェルドはデスク上の端末を操作しながら嘆くように呟く。
端末に映る戦闘詳報。それを見ながらコーヒーを飲み。その苦さで胸の中にある苦い物を打ち消さんとしたが、
「こうも被害が出るとはね」
やはり無理だった。苦みは晴れない。
今回の戦いの主役である出撃したバクゥは108機。しかし戦いが終わってみれば無事だったのは62機。6割ほどしか残らなかった事になる。
しかも艦隊に至っては、直援のジンとザウートが壊滅し、さらにピートリー級が一隻大破、一隻が中破。旗艦のレセップスも小破している。敵の鹵獲バクゥ部隊と何よりも大型の自走砲部隊の所為だ。
直撃痕や弾頭の破片解析から、以前より謎だったウォーリー隊を壊滅に追いやった犯人だと思われた。
ピートリー級一隻含めて隊一つ丸々壊滅したその件…しかもそれ相応の敵部隊が動いた痕跡も無かった為、このアフリカ方面ではかなりの話題であったのだ。ちょっとしたオカルトやミステリー話が囁かれるほどに。
それをやった者の正体と謎が明らかになったのは、少し安堵したい所ではあるが、バルドフェルドは何の慰めにもならないとばかりに溜息を吐く。
「ふう…ナパームまで使った爆撃のお陰で完全な状態の敵MSや融合炉も手に入らなかったし。まったく、戦いが思い通りにいかないという事は理解していたが……うん、初めて思い知らされたように思うね」
緒戦での追撃戦での失態は在れどあれも勝ち戦だ。そしてザフトは基本的に各地の戦いでは勝利している。
無論、今回も勝ち戦ではあるが……バルドフェルドにとっては違う。
「バクゥは80機前後まで被害を抑えられると思っていたんだが……やはりあの敵指揮官の思い切りの良さが拙かった」
主役のバクゥを正面に立たせはしたが、距離を保っての戦闘を先ず維持してもう一つの主役であるディン部隊の到着まで被害を抑える予定だった。それが早くも乱戦を挑まれ、さらに―――
「―――敵にああもデキるのが二人もいたのは計算外だった。練度が高いのは分かっていたんだが…」
戦闘記録を解析するに異様なまでに良い動きする機体が二つあった。複数のバクゥを相手取って互角以上に戦えるパイロット。
その二機だけで21機ものバクゥが落とされ、加えてディンも8機撃墜されている。
「……拙ったね」
やや苦々しげに呟く。彼にしては珍しいほどに。
それもそうだ。その2機は自分が相手をした〝あの敵〟の中に含まれていたのだ。それを迂闊にも逃がしてしまった。
「あの敵は、あそこで仕留めておくべき敵だった」
バルドフェルドは予感する。今でも十分エース級の腕前であるが、まだ成長途中だと、潜在能力にまだ底があると感じたからだ。
次に大きな戦いが起これば、今回の戦い以上の損害をザフトに与えるだろう。そして、
「更なる敵MSによる援軍も予想外だった」
そう、余り手の長くないプラントの諜報網でもそれなりに敵の規模や部隊配置を掴んでいるのだ。加えて北アフリカの諜報部の手も借りている。
それらの情報をこれまでの戦闘記録と照合・分析して今回、バクゥを揃えて挑んで見せたのだ。そして敵は予想通りこちらの挑戦を受けてMSを全力で投入して来た……筈だった。
「……………」
バルドフェルドは沈黙する。それを意味する事が分かる故に。
簡単な事だ。諜報による掴んだ情報やその分析に誤りがなければ、後方からそれらを呼び込んだことになる。無論、こちらも無理をすれば同じことは可能だが、バルドフェルドは根本的にはそれとは違うと、敵にはそれだけの余力があると……いや、正確に言えば、人材と生産力―――国力があると改めて強く感じていた。ほんと今更の話だが…
353: ゴブ推し :2016/11/20(日) 23:58:54
「…そう、そうだ。分かっていた事だ」
プラントの人口と生産力。連合…理事国各国の総人口と生産力。
その二つは馬鹿馬鹿しいほどまでに圧倒的な開きがある。それこそ此処地球の大地と宇宙遠くに浮かぶ我らの人工の大地との距離ほどまでに…!
「確かに僕達はこの戦争に勝ち続けてきた。しかしそれは華々しい勝利という言葉に隠されているが、実質はギリギリのものだ。人材と生産力の殆どを軍と兵器につぎ込んで得てきたもの。だが―――」
バルドフェルドは視線をデスク上の端末から天井に移し、まるでそこを透視するかのように遠くある故郷に呼びかけるように言葉を紡ぐ。
「―――だが、連合は違う。エイプリルフールクライシスの復興作業を行いながら、そして戦前とほぼ変わらない社会活動を維持しながら戦争を続けている。未だ電力が不安定な大西洋でさえも陰りは在れど、そうだ」
要は片手間で戦争をしているのだ。戦争に全力をつぎ込まないといけないプラントと比較すれば。
その一端として、連合の兵士は開戦時から変わらず大人ばかりだが、こちらは〝成人扱い〟とはいえ、僅か15歳の子供を入隊させて戦線に投入しつつある。
「……この事実から分かる筈、いや、分っている筈だ」
この戦争が行き着く先が……。
事実今回の被害の補充は、自分よりもかなり若い兵…この戦時に志願して訓練校を出たばかりの〝成人〟達で行われると本国から通達があった。
さらに言えば、今回勝利した事によって広がった支配域の布陣の為に戦力を広げなければならない。そう、連合に比べて圧倒的に少ない人材と兵器をより広範に展開しなくてはならないのだ。少しでも軍事を齧った人間ならこの意味を理解できるだろう。
この戦力の分散は、各地にある防衛線を薄める事になる。
加えて兵站の面でも痛い。支配域が広がった分だけ補給線は伸びるし、それに関わる運搬や運営など様々な面での負担も大きい。人材の欠くザフトではこれが何よりも響くだろう。
「…勝てば勝つ程きつくなるという訳だ」
ザフト上層部や我らが国防委員長閣下や議長閣下はその事実を認識しておられるのか? そして如何お考えなのか? 本当に質だけで勝てると思っておられるのだろうか? いやいや、その質さえも危うい。既にザフトよりも優れた技術が随所に見受けられるMSを敵は投入してきているのですよ。
バルドフェルドは嫌味を言うように尊敬すべき建国の元勲二人にそう内心で尋ねる。見える未来に覚える憂鬱さを誤魔化すように。
と、内心で呟くだけでなく、彼はかぶりを振ってそれをふり払い。思考を切り替える。それは自分の考える事ではない、栓のない事だと思ったからだ。
「とりあえず、目の前の事を片付けるとするか」
だが、向き合った目の前の問題もまた容易ではなく、彼を憂鬱にさせるものには変わりなかった。
思いの他に受けた被害の大きさ。パイロットを始めとした失った人材。補充される〝成人〟兵の配置とその訓練計画。拡大した領域への布陣。伸びる補給線と負担が増す兵站。
これらへの対処素案を北アフリカを預かる彼はまず考えなくてはならなかった。
「…とてもじゃないが、上が求めるようなビクトリア攻略なんて無理だねぇ」
思わず愚痴を零すように呟くと。やはりというか、彼の聡い頭は連想的に行く先《みらい》を見せてしまう。
このまごつく状況で手間を取られ、時が経てば経つほどその国力を背景に連合の戦力は整い。そしていずれは―――……恐らくその来るべき時は、此方が状況を整えるよりも早いだろう。
バルドフェルドにとってその予感は明確であり、現実になる事だと実感していたが。だが悲しい事に彼にそれを覆す力はなく、故郷に考えを改めさせるだけの立場でもなかった。
「―――…ほんとままならないものだ」
その小さな声は誰とも知れずに空に溶けていった。彼の憂いを真に理解すべき人々に届かない事を示すかのように。
354: ゴブ推し :2016/11/21(月) 00:00:51
以上です。
今回は先の戦いでの双方に出た被害を主に書いています。
連合側の損害は当初の予定よりも抑えました。本当はもう少し被害を大きくするつもりでしたが、減らし過ぎだと思ったので。
とはいえ、大損害には変わりないので、これを補う為にナイ神父氏本編にあるMS適性の低い者達でも扱えるガンタンクの量産に繋がったとも考えることも出来ます。
ザフト側についてはヒルドルブが加わった為に予定していた物よりも大きくなってます。虎さんにとっては涙目な所ですが、ヒルドルブの奮戦もあってブラウンは部下二人が残した家族宛の手紙などを回収できました。
当初の予定では、殉職の知らせが遅れた家族から手紙が届き、それでブラウンが部下達の事情を知る事になってました。その場合、死に対する理解が浅かったり、二度落ち込むことになったりして、やや成長が遅れる事になっていたと思います。
次回は予てから言ってますように五月の反抗作戦の話になります。
登場人物も加える予定です。
最終更新:2021年06月06日 15:18