896: earth :2016/11/27(日) 23:30:54
見聞録凍結後、気分転換を兼ねて久しぶりに書いた実験的なクロスSSを挙げます。
897: earth :2016/11/27(日) 23:32:17 『
時空の迷い子達』
西暦2232年。
建国されて30年も経っていない新興の国家・地球帝国はその版図を急速に拡大させていた。
異世界から訪れたと言われる『ブローネ博士』を皇帝とした地球帝国は30年前に地球連邦を敗北させた暗黒星団帝国を滅亡させ、
そのまま破竹の勢いでボラー連邦を含む銀河諸国軍を撃破し今や銀河の半分を制圧するに至っていた。
従来の波動エネルギーに加え、モノポールエネルギーと呼称されるエネルギーを駆使し、ボラー連邦に勝るとも劣らない数の宇宙艦隊、更に強力なクローン兵士、超能力部隊、ロボット兵士を次々に繰り出す地球帝国軍を前に銀河の支配者を自称したボラー連邦は成す術がなかった。
地球帝国は銀河の制圧に飽き足らず、これまでは概念上の存在と言われた<並行世界>への進出も進め、各地に植民地を建設するに至った。
地球本土も急速に発展している。
第二の月と言われる巨大な人工惑星。それは地球帝国が作り上げた巨大コンピュータ・<ワールドナビゲーター>であり、その巨大コンピュータは地球と各勢力圏をつなぐ巨大なネットワークを形成していた。
同時にこの巨大コンピュータは帝国の政治、経済を司り、効率的な運営を可能にしていた。
それは確かに地球の発展を支えていたが、巨大なコンピュータに支配された体制と言えなくともなかった。
辛うじて生き残っていた旧ヤマトクルーは地球帝国政府のやり方に反発したが、帝国政府は「地球人類存続のため」として切って捨てた。
「力無き正義は無力だ。それはデザリアム戦役で君たちが身をもって示したのではないかね?」
ガトランティス戦役を生き残った少数の旧ヤマトクルーと謁見したブローネはそう皮肉を返したと言われている。
そして「生きたい。死にたくない」という人類の意思はブローネを支持した。こうして熱狂的な勢いで人類はその版図を急速に広げていった。
この動きを頭を抱えて見ている者が、意外にもブローネの近くにいた。
「はぁ~」
地球帝国科学省。その大臣室で赤毛の初老男性が頭を抱えていた。
「……どうしてこうなった?」
山田博士と呼ばれるこの男こそ、地球皇帝・ブローネの側近であり地球帝国の躍進を支える<暁の三賢者>の一人だった。
尤もこの男は別の世界では、別の名前で有名であったが……。
そんな男の前に白人男性、より正確には地球皇帝・ブローネと、メガネをかけた赤毛の男が現れる。より正確には彼らの立体映像だが……。
『くよくよしていても仕方がないだろう』
『その通り。それにこちらのほうが、より早く我らの故郷を見つけられる』
「ブローネ博士、そしてライガー教授……全くあなたたちの割きりはすごいですよ」
『何をいまさら』
ブローネはそう言って肩をすくめる。
『我々の悲願……我らの故郷たる21世紀地球の発見と帰還。そのためには何でもする。それが我らの誓いだったはずだ』
「……」
『それに我々を引き合わせたのは、他ならぬ君だったろうに』
彼らは全員が転生者と呼ばれる存在だった。
それぞれが異なる歴史をたどった未来の世界で覚醒した。
故にブローネが言うように、本来、彼らが出会うことはなかったのだ。
しかし彼らは出会い、<暁の三賢者>と呼ばれるグループを形成し……今や銀河の半分以上を支配する大帝国を築いた。
表向きは地球人類の存続のため。しかしその真の目的は<暁の三賢者>が故郷に帰るための手足を得るためのものだった。
898: earth :2016/11/27(日) 23:33:22
『まぁヤマトクルーには多少悪いと思うがね』
ブローネはそう言って多少なりともフォローをする。
西暦2202年。
度重なる異星人との戦争で疲弊した地球は滅亡の危機に立たされていた。
ガトランティス戦役において地球防衛艦隊は壊滅。ヤマトも巨大戦艦に特攻して失われた。このため地球を守るのは急造した無人艦隊のみだった。
そんな地球を、地球人の体を狙う暗黒星団帝国が襲った。そして無人艦隊は成すすべもなく撃破され、地球は占領された。
これだけなら、地球人類の滅亡は時間の問題だったろう。それを阻止したのが彼ら『暁の三賢者』(以降:三賢者)であった。
彼らは多少なりとも恩を売りつけて、色々と得ようと思っていたのだが、地球の窮状は想定以上だった。
かつて精強を誇った地球防衛艦隊は消滅し人材は払底。再建を図ろうにも、一時的に地球を占領された際に行われたデザリアム人の蛮行によってヒトも物も乏しくなっており、地球独力では再建に10年以上はかかると言われていた。
しかしデザリアム人は待ってくれない。三賢者たちの介入で地球は解放されたものの、デザリアム人は地球を諦めておらず、三賢者の助力が無ければ
滅亡は時間の問題だった。
地球の統治者たる連邦政府は懇願した。「世界は違っても同じ地球人。地球のために戦ってくれ」と。
地球を助けた三賢者は難色を示す。「助力はするが、我々にも都合がある」と。
そして異星人に占領され、恐怖を味わった人類は異星人に対抗できない連邦政府の無力さを糾弾する。
西暦2204年。再び現れたデザリアム人の艦隊を前にした地球連邦政府はついにある決断をする。
「異星人に支配される位なら、異世界の地球人に支配されるほうを選ぶ」と。
かくして世界は異世界人に支配され、地球連邦は地球帝国に姿を変えた。
『しかしまぁ皮肉ですね。原作だと<地球>と名が付くものの抹殺に拘っていたブローネ博士が地球皇帝になるとは』
『原作と言っても打ち切りだ。ヤマト2520は制作会社が倒産して三巻しかでなかった……まぁ私の場合は、ネオファシストと呼ばれる前に覚醒して君たちと合流したから、そもそも銀河100年戦争は起きなかっただろうが……ライガー教授、君の場合は拙かっただろうに』
『まぁもとの世界は原作のライガ―教授が恐れた全面戦争が起きて壊滅状態。我らが主人公である超人ロックが手を打ったようですが、犠牲は大して減らなかったようです。まぁどうでもいいでしょう。私としてはあの世界に下手に干渉してロックに目をつけられるほうが怖い。あの超人なら、次元の壁を乗り越えてこちらにやってきそうです。まぁ山田博士が恐れるタイムパトロールよりはマシな相手かもしれませんが』
「……タイムパトロールが動いている気配はない。そもそも我々がいる世界線は、あの<ドラえもん>の世界から大分、離れているようだ」
『なるほど……それは朗報と言うべきか、それとも凶報と言うべきか……あの魔法とも言うべき技術を持つ世界なら、我々が帰還する手がかりは多かったでしょうに』
「少なくとも23世紀時点でそのような技術はなかった。どんなに調べても、あの23世紀にたどり着く世界しかなかった」
これを聞いたブローネは切り出す。
『なら、ここで何かしてもタイムパトロールが動かないということか……良かったではないか、山田博士、いや<精霊王・ギガゾンビ>と言うべきかな?』
「私はギガゾンビになっていないと言っているでしょう!」
『山田博士なんて設定を知る人間のほうが少なくないかね? おまけに君の姿はリメイク版だし』
「……何か棘があるような気がするのですが?」
『ははは。別に僻んではないよ。君が国民的作品の劇場版のボスだったことを』
『まぁやっていることはアレでしたけどね。23世紀の技術で原始人いじめ。おまけに人間の部下もいない……史上例を見ない弱い者いじめと人望のなさを見た感が』
ブローネとライガーの言葉(特に後者)に山田博士は机に突っ伏した。
しかしすぐに復活する。
899: earth :2016/11/27(日) 23:34:19
「そもそもそんな人間がいなければ、あなた方だって」
『判っているよ。君が元の世界に戻ろうとして失敗して、別世界に飛ばされたおかげで、我々は巡り合えたのだ』
『だが地球帝国建国後、探れる範囲が拡大したのは否定できない。地球帝国という名前があるおかげで国家間と正式な交渉もできる。今更、後戻りでもできまい』
「……」
それは山田も分かっていた。
しかしそれでも思わずにはいられない。
「何で、こんな悪の帝国風になっているんでしょうね? クローン生産された兵士(生殖能力のない人間)で構成された軍隊、スーパーコンピュータに管理された社会……フィクションにあったらどう考えても負ける帝国なんですが。正直、某幼稚園児の一家が来てもヤバい気がしまうが」
その言葉を聞いた二人は露骨に目を逸らす。
『何をいまさら』
『そうそう』
「……はぁ~まぁ判っていますが」
『判っている。少なくともドラえもん世界の技術は表向き大々的に使っていない。生産、技術開発、それに諜報活動がメインだ。まぁそれでもかなり大きな成果を得ているが』
『何しろ場合によってはここが劇場版ドラえもんの舞台のような存在になりかねませんからね』
彼らは恐れていた。
あの青い猫型ロボットとメガネの少年がこの世界を訪れ、地球帝国と敵対することを。
そしてその結果、彼らの故郷への帰還の道が遠のくことを。
「まぁ兎にも角にも……」
『『うむ、全ては……』』
彼らは天井を仰ぎ見る。そこに映されたのは彼らがよく知る21世紀の日本の映像だ。
「『『かの地に帰るために』』」
900: earth :2016/11/27(日) 23:38:43
あとがき
久しぶりのクロスSSでした。
元ネタ(短く解説)
ブローネ:作品「ヤマト2520」。セイレーン連邦皇帝(敵の親玉)
ライガー:作品「超人ロック」。汎銀河系戦争を起こした教授。
山田博士:作品「ドラえもん」。ギガゾンビとして登場。
ただし今作ではリメイク版のヴィジュアル。
正直、ブローネとライガーがでるSSはないと思います(笑)。
あとこちらの転生者たちは現実への帰還を目論みます。
転生という現象があれば、そういう望みを持つ人間がいてもおかしくないと思うので。
おまけに自分たちの技術で可能かもしれないとなれば尚更でしょうし。
最終更新:2016年11月28日 18:17