343:ゴブ推し:2016/12/07(水) 20:51:18
大陸SEED MS戦記
12―――反抗(中編その1)
アレクサンドリアは、人口400万人を超える旧エジプトのカイロに続く第二の規模を持つ都市だ。
地中海の真珠と呼ばれて古くから交易が盛んな港町を有し、空の便を支える北アフリカ最大級の空港を持ち、多くの人と物と富が数多の企業と共に集い進出する巨大な商業都市である。
また今の時代にとって貴重な古代遺跡を抱えた一大観光都市でもあり、多数の国際機関も擁し、このCEという時代においても未だ北アフリカ有数の…いや、世界有数の大都市であった。
それはこの戦時下においても変わりはない。
エイプリルフールクライシスによる被害による電力不足も、ほぼ毎日陽が注ぐ砂漠に在る太陽光発電や海に面する波力発電のお陰で最小限に済み。上記の通り国際的・経済的要所だけでなく、歴史的・文化的に貴重な遺跡や資料がある為に連合もザフトも迂闊に戦争による破壊に巻き込まうとしなかったからだ。
故にザフトの勢力下であろうと、この大都市を支え、日々富を生み続ける経済活動は止まらかった。
無論、無傷ではなく、観光産業に多大なダメージはあったが……戦時下だからこそチャンスと見る強かな資産家や商人が多くいる事がこの都市の価値を貶めない要因である。
で、あるからこそ、
「ここを失う訳にはいかんのだ」
男は言った。
「カイロに続き、アレクサンドリア基地が失陥しこの大都市をも押さえられれば、アフリカで我が国は勿論、貴国…プラントの威信も大きく陥るだろう。経済的な問題だけでなく、政治的にも非常に不味いのだ」
アレクサンドリア基地を預かるザフト・アフリカ方面軍に所属する白服…オダリス・マトスの前で男がそう尤もらしく言う。
それにマトスは適当に相槌を打ちながらも、内心で半ば呆れた思いで呟く。
(お前が気にしているのは経済だとか、政治だとか…況してや国家への献身でもないだろうに…)
目の前の男に対して何とか表情には出さずに済んでいるが、冷ややかな思いを抱く事は止められそうにない。
マトスの前で話しをしているの男は、北アフリカ陸軍に所属する大佐であり、同軍及び駐留する空軍・海軍も含めたアレクサンドリア司令というそれなりの権限を持つ人物なのだが、それも親ザフトを指標する北アフリカの現政権閣僚による縁故人事で得たものだ。決して実力で勝ち取ったものではない。
そしてさらに言えば、アレクサンドリアを任されたのもこの大都市にある利権と富を彼とその身内で管理…いや、隠さずに言えば、独占横領する為だ。
加えて救い難いのは、アレクサンドリアの有力者達にその下心を見透かされており、女と金を掴まされ、利用して富を握る積りが逆に良いように利用されている事だ。
―――尤も、それを行った古くからこの地で活動するアレクサンドリアの有力者達についてはまだ弁護ができる余地がある。
何しろ現政権は民族主義丸出しの連中だ。
そんな奴らの中枢に縁故を持つ軍の指揮官の赴任など悪夢としか言いようがない。武力を背景に何を仕出かすか分からないのだから。アレクサンドリアの有力者達が身を守る為に恭順を装いながら懐柔を図るのは当然と言える。
(それに気付かず、名立たる有力者達が平伏し、敬い、女と金を貢いでくれる事に良い気分で酔いしれてしまい。今になってそれを失う現実が近づいた事に恐れているのだ。この大佐殿は)
国家への献身や忠義でもなく、己が民族の繁栄や誇りでもない、ただただ自分の為。私欲の為に男はアレクサンドリアを守れ、連合を撃退しろと言っているのだ。その本音を隠して。
マトスもまた、男に対する本音を……侮蔑・嫌悪を隠して頷いた。
「了解してます。我々も微力を尽くします」
「……………」
微力という言葉が気に入らなかったのか、男はブスッとした愉快とは程遠い顔をしていたが、マトスに何も言わなかった。
とりあえず、ザフトが逃げ出さない事に安堵したのだろう。
―――そう、男は思い込んだ。
微力を尽くすと言っただけで、何に対してそれを尽くすか明言してなかったというのに。
344:ゴブ推し:2016/12/07(水) 20:54:13
マトスは、男のいた成金趣味丸出しの豪奢な部屋を後にする。
アレクサンドリアを一望できる高級ホテルの最上階に特別に用意された男の部屋。
男はそれを有力達からの貢物の一つと、己に対する恭順の証だと思っているようだが…実の所、体の良い監視だ。盗聴器と隠しカメラ満載の豪華な監獄。
無論、出入りは自由だが極上の料理が運ばれ、極上の女が訪れ侍ってくれるのだ。男が要求すれば何時如何なる時にも、だ。
そんな王様気分を味わえる場所から自ら出ようとは余り思わないだろう。
この分だと、男からどれだけの情報が漏れている事か…。この都市の有力者を通じて連合に渡っているべきと見るべきだろう。無論、それに注意してこちらの情報を流してはいるが。
「やれやれ…」
マトスは溜息を吐く。
北アフリカ軍は当てにならない。指揮官もあれだが、その取り巻き…海軍、空軍の指揮官も似たように堕落している。ここに来た当時はそうでもなかったのだが……―――
(―――いや、それは私が言えることではないな)
何しろ、それを黙認し加担した立場なのだ。
その方が男を扱い易く、民族主義が発揮する暴力に巻き込まれずに済み、大都市の治安を維持でき、有力者達の協力も得やすいと判断して。
今でもその判断に間違いはないと確信している。しかしこの情勢となっては裏目になった感も拭えないのだった。
「マトス隊長」
ホテルから出るとさっそく声が掛かった。副官だ。
それに軽く手を振って答えながら、ホテル前に停止した車に乗り込む。市民たちに変に威圧感を与えない為にごく普通の乗用車だ。彼も副官もさらにその車を運転する部下も私服姿である。
「マトス隊長、アイツから呼び出しを受けましたがどうでした?」
仮にも同盟国の大佐を平然とアイツ呼ばわりする事を咎めずにマトスは応じる。
「………」
「そうですか…」
無言あのまま首を横に振ると副官は落胆する。この情勢下で態々呼び出した事から多少なりとも建設的な事が話し合われたと思ったのだろう。
何しろザフトと北アフリカ軍も追い詰められているのだ。まともな頭を持つ人間なら何とか打開策を練ろうとする所なのだが、あの男にはそれが見えない。いや、あれで何とかしようとしているのかも知れない。
だからマトスを呼び付けたのだろうが……何ら意味のあるものでは無かった。
「はぁ、敵の戦力はMSだけでも4倍。それもカイロの予備と南下を目指すものを除いてですよ。とてもではないですが我々だけでは…」
副官の言う通りだった。
アレクサンドリア基地に駐留するザフト軍のMSは凡そ50機ほど…予備を含めれば一応60を超えるが。対して連合…ユーラシア軍のアレクサンドリアに向かう部隊は200機ほど、さらに先だっての戦いでザフト軍に甚大な損害を与えたMSモドキや大型可変タンクなど加わる様子見受けられ、ユーラシアの地中海艦隊にも俄かに動きがある。
「ああ、我々だけでは無理だ」
副官の言葉に頷く。
戦力数という量の開きもあるが、性能や練度という質も問題だった。
後退する味方の救援の為にディン部隊を送り出したが、全てが手痛い損害を受けて撤退を余儀なくされている。
その彼等が持ち帰ったデータを確認した所、敵は最大400km/h前後の速度で地上を走行可能な重MSを投入しているという驚くべき事実が判明した。
(全くなんというMSを開発したのか、連合は…)
空を飛べる優位性があるディン改でもこれでは対処は困難。
近接戦はまず論外であるし、重突撃機銃での射撃を当てるのは容易ではなく、当てられたとしてもスラッグ弾を込めた90mm散弾砲でも装甲を貫く事は出来ない…というか、出来なかった。
(バクゥ以上の高機動でありながら重装甲…非常に厄介なMSだ)
対艦にも使われる500mm無反動砲なら通じるだろうが、ディンには向かない装備だ。持たせること自体は可能だが、せっかくの機動力が損なわれるし、敵…十字目の機動性を考えると直撃させるのはまず無理だろう。
尊敬する上官が構築した戦術を持ってバクゥと連携すれば、或いは……とも思えあるが。物量に押し込まれる可能性が高い。
(それに練度が…やはり不足気味だ。隊によっては高度な連携は求めるのは難しいだろう)
345:ゴブ推し:2016/12/07(水) 20:55:30
去年の10月に実地されたあの一戦以降、ジンやザウートのみならず、バクゥのパイロットにも新米の〝成人〟パイロットが増えている。
これによって部隊単位だけでなく、地上軍全体の質の低下は著しく。さらに厄介な事にスタンドプレーが目立つザフトの悪癖はより高まっている。そこには初期から地上で戦うベテランと若手との間に隔意があるのも要因だ。
ナチュラルを対等な敵と認めるベテランを、ナチュラルを軽視する若手連中が見下しているのだ。
表だって口には出していないが態度を見れば分かる。その所為でベテラン達にも若手達へ苛立ちを隠せずにいて、この両者の関係は一向に改善する兆しが見えない。
(最近の若者という奴は…)
などと年寄りめいた事を思う。
マトス自身はまだ30台半ばと、年寄りとも言えないのだがそう感じてしまう。
それにそう、何もザフトの…軍だけの問題ではないのだ。これは…。
(世間をナチュラルと一緒過ごした事がないのも原因なんだろうな)
マトスは自分なりに感じた物からそう思う。
彼らの故郷たるプラントは、コーディネーターが従事して築き上げた大地と言われているが、実際の所そこにはナチュラルも大勢いたのだ。
マトスの世代にはナチュラルの両親を持つ者は多く、その両親達は彼らの故郷であるプラントでコロニー建設を始めとした様々な形の仕事し、今もそこで暮らしている。
加えてマトスの世代は、ナチュラルの友人を持つ者も少なくなく、彼等と学生時代を過ごしてきた思い出もある。
(まあ、そんな友人たちも強まるコーディネーター優性主義の風潮を耐えきれず、嫌ってプラントを去ってしまったが…)
それを寂しく思い、同時にそのかつての友人たちが自分達の所業…エイプリルフールクライシスの犠牲になっていないか心配でもあった。理事国と関係が悪化する前まではメールや手紙などの交流があったから余計に…。
(―――核の恐ろしさも分かる。報復を叫ぶ気持ちも実行した事情も分かる…が、何故あんな緩やかな大量虐殺を選べたのか…?)
マトスはそれを選択した評議会に並ぶ面々に思うところがあった。
(むしろ、あの時に核攻撃に批判的だった大洋とユーラシアと同調して外交で何かしらの話を付けられれば…今のような状況に陥る事はなく、独立を果たせたのではないか?)
そんな考えが何度も浮かんだ。
だが結局はそれは理想に過ぎないのだろう。コロニー一つ丸々崩壊して数十万人が犠牲になったのだ。次は自分かも知れないと恐怖し、必要以上の報復に走るのもおかしい事ではない―――あの時、MSからそれを…まさに世界の崩壊ともいうべき恐ろしい光景を直接見たからこそマトスはそうも思う。
だが、それでもコーディネーターが肉体と共に精神をも進化した成熟した理性を持つ種だというなら………―――
「―――隊長? 隊長?」
「あ、と…すまない。考え事をしていた」
副官の呼びかけにハッとして思考の淵からマトスは意識を浮上させた。そして今は余分な事を考えている場合ではないと、思考を切り替える。
「兎に角、我々だけでは無理だ。だが北アフリカの連中はあまり当てに出来ん」
せめて連中の指揮権もこちらにあれば…そう無茶な事を思う。
あくまで彼等とは対等な同盟国―――これに不満を持つ奴らもいるだろうが―――戦力の融通は互いに要請という形とって、あとは受けた側の采配しだいなのだ。
だが、ここにいる北アフリカ・アレクサンドリアの総指揮官は〝アレ〟である。仮に要請に応えても真っ当な指揮が執れるとは思えない。
「作戦統帥権を有耶無耶にして来たツケが回ったな」
対等な関係と、お互いを尊重しているように思える言葉に覆われているが、その実、信用していないだけであり、権限を預ける事に不振と不安があるのだ。ザフト…ひいてはプラントと北アフリカ政府は。
「他国に自国の軍隊を預ける事に恐れ抱くのは分かるが…」
もう少し何とかならなかったものか…そう思うが、実際この件に関してバルドフェルトは前々から改善しようと、プラント政府と北アフリカ政府に働きかけていたのだが、妥協に至らなかったのである。
プラントはナチュラルの下に付く事を先ず良しとしないし、優秀な自分達が劣等なナチュラルの軍隊の手を借りるまでもないと思っている節があり。
北アフリカも親ザフトを指標しているが同様に下に付く気はなく、コーディネーター優位論を掲げるプラントをかつての白人達と重ねている節があり。戦争においてはザフトが始めたものだと、何処か自分達は無関係だと考えている部分があった。
故に話が纏まる事は無かった。
346:ゴブ推し:2016/12/07(水) 20:56:38
「…ふう、これも考えても仕方のない事だな。それに逆に言えば、我々は独自の判断で行動が許されている事にもなる」
「はい。…となると、やはり…」
「…これも不本意ではあるが、な」
マトスは副官にやや渋い表情で頷く。
「モラシム隊には、戻るなと伝えなくては……連絡が付ければ良いが…」
今、アレクサンドリア基地を留守にしている部隊を思い浮かべてそうポツリと言った。
■
「…これらからも分かる通り、我が方とアレクサンドリアの敵戦力は圧倒的に我が方が優勢だ。故に、恐らく敵はアレクサンドリアの放棄と離脱…更なる後退を試みると考えられる」
ビックトレー級ヴィリー・イェーデにあるブリーフィングルームで中隊以上の指揮官が集まり、ロンメル大佐が説明を行っている。
あの後、追撃任務を果たして捕虜抱えた僕達の大隊と他の大隊は、ロンメル大佐が指揮する後続と合流して補給と整備を受けて、同時に改めて今後の事が話し合われた。
「これを阻止して敵の撃滅を図る為に、MS部隊は三方に分けてアレクサンドリアを包囲するように動く」
正面の大型モニターにここ一帯…アレクサンドリアを中心に凡そ150km圏内の地図が映され、味方を占めす青い凸マークがアレクサンドリアから70kmほど離れて南、東、西に表示される。
「加えて、カイロから出る特殊混成機甲第3、第4師団を四つに分け…」
大佐の言葉に応じるように地図に新たに四つの青い凸が表示され、先ほどの青い凸から20kmほど下がるが、隙間を埋めるように位置する。
「このように可能な限り敵の退路を塞ぐ。さらに海軍も動き、海からの離脱も阻止する構えだ」
地図上の北…地中海に幾つかの青い凸がアレクサンドリアの北を塞ぐように表示された。
「ここまでで何か質問はあるか?」
大佐が僕達の方を見回しながら言うと、カミンスキー大尉が手を上げた。大佐に了承を貰って答える。
「海軍はどう動きます? それと指揮権はどちらに?」
「うむ、海軍は基本的にアレクサンドリアへ圧力を掛けるだけに留める方針だ。ただ海から離脱を図る部隊があれば、あちらの判断で叩く事に成ってはいる。海《むこう》も水中用MSを配備しており、実戦での運用データを欲しがっている……のだろうが、不安もあるようだ。今回は出来れば実戦の空気に慣れたいといった所か。…新兵も多いしな。それ故に指揮権は陸《こちら》が優先になっている」
水中用MS…。MS乗りとしては気になるところだ。一応データは見た事し、海からの要請もあってミュレーターで扱った事はあるけど、実機に乗ってみないと分からない事も多いだろう。
カタログスペックやシミュレーターでのテストから感じる限りでは中々の物で、ザフトのグーンや最新の水陸両用MSであるゾノにもあれなら負ける事はないと思える。流石は大洋という所だ。
ただ、しかし…新兵か。
海軍のMS運用は陸である自分達よりかなり遅れている。此方を優先したという事情もあるが、地上の緒戦で敵の水中用MSによって各艦隊がかなりの打撃を受けて陸に以上に再編に手間取った所為だ。
その為、人員に久しく軍務についた予備役や訓練校から出たばかりの新兵が多く、MSパイロットの実戦経験者も少ない。不安を覚えるのも当然だ。
347:ゴブ推し:2016/12/07(水) 20:57:37
「空軍に関してはいつも通りだ。敵航空部隊との制空権を争いに終始する事になるだろう。相も変わらず厄介な対空兵器もある事だしな」
空軍はいつも通りか。
仕方のない事だ。性能に決定的な差がない上に物量で押し込もうにも北アフリカの連中もいて、対空ザウートもいる。互いに決定打を欠くのだ。
ただ大洋は新兵器を投入するようだが彼等は南部に居る。此方に手を回そうにもまだ距離あるし、彼等は彼等でザフトと北アフリカと戦っている。
「東に戦力を割くのは何故です? 敵が後退するのであれば、西の筈では? そちらに振り向けた方が良いのではないでしょうか?」
カミンスキーに続き、別の中隊長が質問をする。大佐はそれにもうむ…頷く。
「尤もな意見だが万全を期したい。裏を掛かれて東へと移動した後、こちらが包囲が緩めた隙に西へと目指す可能性もある。それにそうせずにアラビア半島との境で蠢動されても厄介だ。」
東へ逃げた場合、補給線を断とうとゲリラ的に動く事を危惧しているという事か。
確かに無くはないだろう。最終的に捕捉・壊滅できたとしても一時でも補給線が途絶えれば、作戦に支障や遅れが出る。その分だけ、ザフトと北アフリカは優位な時間を得ることになる。
……確かに面白くないなそれは。
その後も幾つかの説明と質疑応答が続き―――
「―――…以上だ。作戦開始時刻は現地時間〇二〇〇時、朝駆けだ。各員の奮戦を期待する」
何時もの言葉でブリーフィングが終わった。
■
ブリーフィングルームを出て、自然とクルツ、シュバリエ大尉、カミンスキー大尉と肩を並べて歩く事になった。
「ブラウン、また今回は派手にやったんだって?」
クルツが僕の肩を叩きながら言う。その隣にいるカミンスキー大尉がそれに続く。
「おう、聞いたぞ。なんでもディン相手で空中戦を挑んだとか。お前さんがシミュレーターで空中機動の訓練と研究を熱心にしていたのは知っていたが、実戦でやるとはなぁ」
大したもんだ、と大仰に頷く。
「それも八機撃墜だ。我がユーラシアを代表するエースとしての面目躍如といった所だな」
シュバリエ大尉もうむうむと頷く。
それに対して僕はやや眉を寄せてしまう。
「それを言ったら大尉達お二人もエースでしょう。僕のやった空中機動もモーションデータや操作ログを見れば、直ぐに真似出来ると思いますし…あと、ついでにクルツも」
うん、まあそうだな…と大尉達は同意し、クルツは俺はついでかよ、と抗議めいた声を上げるが無視する。
実際その通りだ。この尊敬する上官達はMS適性が極めて高く、年齢に見合わない反射神経を持っている。その操縦技量は僕とクルツを含めた先任のパイロット達を配属されたばかりの頃から上回っていた。…まあ、それでも何とか経験の差で互角に持ち越せていたけど。
特にシュバリエ大尉は操縦技術は異常だった。どうも噂に聞く〝空間認識力〟の持ち主らしい。本人もMS適性検査を受けるまでは知らなかったそうだが。
この能力の持ち主は、ほぼ例外なく常人を上回る反射神経を持ち、予知めいた洞察力と勘の良さ、そして言葉通り非常に高い空間把握能力がある。肉体的には反射神経のみならず循環器系が優れてるらしく対G 適性も高い。
一部では超能力者の一種ではないかとも、宇宙に進出した人類の〝新しい形〟ではないかとも言われている。
……余りメジャーではないが、大洋のある学者が〝人類宇宙適応論〟なる物を提示しており、シュバリエ大尉などそれを実証するような人物達が実在する事から学会で多少なりとも議論があるらしい。あのジョージ・グレンが木星に旅立つ際に行った有名な演説もそれを助長している。
当然、プラントのコーディネーターはこれに否定的…いや、強く反発しているが。
348:ゴブ推し:2016/12/07(水) 20:58:42
閑話休題。
ともあれ、二人ともエース級の腕前を持っており、訓練や模擬戦。そして実戦で高い戦果を挙げている。
何とか互角だった僕達も直ぐに追い越され、同時に学ぶべきものがあって技量が底上げられ、後は追い付き、追い越され…みたいな切磋琢磨する関係に僕達はなった。
…その所為か、張り切り過ぎて一時MS部隊で畏怖を越えた腫物のように扱われる事態になったけど。
まあ、それも結果的に部隊全体の底上げに繋がったのだから良しとすべきだろう。
「何にしろ。エースたる少尉の活躍のお陰でMS部隊の士気が全体的に上がった。幸先のいいことだ」
シュバリエ大尉のその台詞を聞くに、先の戦闘の事が既に広まっているようだ。大佐辺りが仕組んだのかも知れない。もしかするとシュバリエ大尉とカミンスキー大尉も共犯か?。
……思う所はあるけど、今さらだ。それにそれで作戦の成功率と皆の生存率が高まるならむしろ歓迎だ。そう思う。
「俺は余り嬉しくないですけどね。またブラウンに撃墜数を水空けされた訳だし、今回は相対的に敵の数も少ないから追いつけそうにないし、おまけに南の配置だし…」
「相変わらずだな、クルツは」
肩を竦めて残念そうに俯くクルツに苦笑する。こいつはほんと相変わらずだ。一人で撃墜数を僕と競っている。あの一戦の後もだ。
不本意ではあるものの、僕と二人合わせて〝銀の双星〟と呼ばれている事も意識しているようだ。相方・片割れとしては余り差が出来るのは喜ばしくないのだろう。気持ちは分からなくもない。
「ならいっそ突撃でもするか? お前の中隊はドムで編成されている。〝銀の銃士〟殿が前面に立って勇んで突き進めば我が隊の士気はさらに鰻登りだろうしな」
「…連隊の足並みが乱れませんかね?」
「やりたいというのであれば俺が何とかする。その為の連隊長だ」
クルツとカミンスキー大尉が話し合う。
彼等の連隊はドムとザクの混成部隊だ。機動力の高いドムで敵に攪乱を仕掛け、ザクがそれで乱れた隙を突いて確実に敵部隊を削る戦術を主に取る。
大尉の言う通り、その中でクルツは僕と同じくドムで編成された中隊を率いている。またカミンスキー大尉自身はザクに乗っていて直属の中隊もそうなのだが…エース用にカスタマイズされ、射撃を得意とする大尉らしい仕様になっている。
一時はドムを扱う事も検討したのだが、搭乗試験の際にしっくり来なかったらしい。「同じ人型とはいえ、構造的に人体により近しいザクの方があっているようだ」と大尉は言っていたが。
何にせよカミンスキー大尉ならどちらの機体でも問題はないだろうし、挙げられる戦果はそう変わらないと思う。
「…………ならお願いします」
クルツはカミンスキー大尉の提案に少し考えた後にそう言い。大尉はおう、と答えた。
349:ゴブ推し:2016/12/07(水) 21:00:48
■
ヴィリー・イェーデから出ると、砂漠特有の強い直射日光で一瞬目が眩む。
屋内と屋外ではやはり明るさが激しい。おまけに空調が完備された所から出た事もあってこの乾燥した暑さも少しきつい物がある…が、慣れた所もあり、直ぐに気にならなくなる。
「少尉」
「ブラウン少尉」
少し歩くと声が掛かり、ブリックとマイヤー准尉の姿が見えた。しかし、
「む…」
クルツの姿を確認すると准尉は顔を顰めた。クルツはそんな彼女に構うことなく軽く手を振るが、マイヤー准尉の表情は和らぐことはない。むしろ嫌そうな顔をするだけだ。
「行くぞベルント」
それを見かねたのか、カミンスキー大尉がクルツの肩に手を回して連れて行く。
彼等を見送り…一瞬、隣のシュバリエ大尉と視線が合い、僕と大尉は互いに肩を竦めた。
やれやれと思う。
クルツとマイヤー准尉は余り相性が良くない。最初は互いの祖父が軍人であることに話が合っていたのだが……―――うん、まあ…兎に角、クルツが全面的に悪い。擁護しようにないしその件は僕もかなり怒った。
けれど、同じMS乗りであり、部隊の仲間であり、クルツも謝罪したのだからいい加減、仲良くして欲しいのだが。未だ准尉の怒りは納まらないらしい。…無理もないけど。
「それで二人はどうしてここに?」
確かにこれと言って待機を命じていないが、割り当てられたカーゴから出る理由もない筈だ。
「…それは」
「それはブリーフィング内容をお聞かせいただければ…と思いまして。勿論、差し支えなければですが」
翡翠色の眼を真っ直ぐ向けて答える准尉。ブリックが何処か躊躇いがちで話そうとした為に彼女がスッと話す形になった。良く通る…色に例えれば、この晴天の空のような透き通った青い声の所為か、尚そう思う。
いや、それだけでなく。彼女の美貌が整っている所為でもあるのか?
コーディネーターではないのにマイヤー准尉の容姿はとても整っている。
背はまだ16歳と若い事もあってか―――それでも同年代の平均を比べると随分下がるが―――150cm半ば程と低いがもの、綺麗な卵型を持つ頭部には美しい顔立が彫られており、腰まで伸びる薄く朱を帯びた艶やかな長い黒髪を飾り、陶磁器を思わせる滑らかな肌がそれを引き立ている。身体つきも全体的に細身に見えながら出る所は出ているというモデルを思わせる造形だ。
なるほどな、と思った。
―――ブリックでは抑えられなかったか…やっぱり。
この見た目麗しい深淵の令嬢とも思える彼女だが、性格は中々に気が強く。ややせっかちというか、逸りやすいというか。短気という訳ではないのだが、若さゆえか時折我慢弱い部分が出る。
それが出てしまい、ブリーフィングの内容…次の任務を逸早く知りたくてこうして僕が出てくるのを待ったのだろう。
ブリックはそれを制止しようとしたが、止められず彼女に付き合ったのだ。
……そう、その場違いなほど整った容姿を持つが故に〝万一の事態〟が起こらせない為に、或いは阻止する為にも、この少女を迂闊に一人放って置く事は出来ないのだ。
「……?」
少しジッと見詰めた所為か彼女が不思議そうに小首を傾げる。
その仕草はまだ幼さが残る容貌故に可愛らしく似合っている。
しかし僕はそれに見惚れるよりも内心で溜息を吐きたい思いだった。もう少し容姿に自覚があれば自分で注意しようという意識を持て、そう心配する必要はないのだが、と。
だがどういう訳か、彼女は自分が美人だという自覚が薄い。同年代より背が低く、気を強い性格〝は〟自覚している為、魅力がないとも可愛げが無いとも思っているのだ。
話を聞く限り、幼い頃にお転婆だとか、男勝りだとか、女の子らしくないとか、そんな事をよく周囲に言われていたらしい。それが原因なのだろうが……異様に無防備な所がある。
350:ゴブ推し:2016/12/07(水) 21:01:46
「いや…」
かぶりを振った。不思議そうに首を傾げる彼女に応える事も兼ねて、余り意味のない考えを振り払う為に。
「二度手間になるから、詳細は後で中隊ブリフィーングで話すが、」
そう言って一度言葉を切り、大尉が頷くのを確認してから言葉を続ける、
「結果を伝えると、我が部隊はアレクサンドリアを先ず包囲し、そこから進撃を行う事になった」
「包囲……なるほど。敵はここから更に後退すると見ているのですね」
流石はエリート、聡い。僕は頷く。
「そうだ。大佐を始めとした作戦司令部はアレクサンドリアの敵は撤退すると見ている。そこでシュバリエ大尉率いる我が連隊は包囲の西を担当する」
「西…」
僕が話し終えると彼女は目を輝かせた。喜びに満ちた少女らしい可憐な笑みを浮かべる―――……のだが、彼女の何を思い、喜んでいるのか考えると何とも言えない気持ちなる。
アレクサンドリアの西は敵にとって味方と合流する為の退路。つまり尤も敵とぶつかり易く、激しい戦闘が行われる可能性が高いという事だ。それを喜んでいるのだ彼女は。
「……はぁぁ」
戦争という行為に、戦える事に喜ぶ少女の姿を見て僕は今度こそ溜息を吐いた。するとポンッと肩に僅かに重みが加わり、
「…気持ちは分かる。同情する、少尉」
なら変わって欲しい。僕の肩に手を置いた背後にいる大尉の表情を見ながら心からそう思った。
大尉の表情は憎らしいまでに哀れみを見せていた。
■
中隊ブリーフィングを終え、MSに搭乗して仮説ハンガーを出る。
仮説ハンガーはギャロップ級陸戦艇に繋がれるカーゴ―――キャンピングトレーラー兼物資コンテナ及び移動格納庫―――それを囲うように大きく天幕が張られて形作られ、一個中隊12機のMSを整備できるようにしていた。
三個連隊になるMS部隊全てとなると、ここにはカーゴと共にハンガーは27(予備含めれば30)もあり、広がっている事になる。人員も含めればちょっとした街に見えなくもない。
「ん?」
低速でその天幕の街を移動していると、仮説ハンガーから整備員が姿を見せ、手に帽子を持ってこちらに振っているのがモニター越しに見えた。
僕は微かに笑みがこぼれるのを自覚して、その声援に応えてメインアームを持たないマシンの左手を振る。
すると彼等の中にはより大きく帽子や手を振る者が現れた。
「ふ…」
強まる声援に嬉しさ覚え、笑い声が漏れた。
高揚感が高まるのを感じて気合が入る。
〝銀の双星〟、〝銀弾を持つ狩人〟、そう呼ばれてエースとして扱われ、英雄視されて期待を掛けられるのはやはり重いが、こうして声援を受けると悪くないように思える。
こうして仲間だけでなく、自分の士気も高められるだから。
「よし! 行くか!」
高まる感情と共にそうコックピットで一人、期待に応えられるように己に喝を入れた。
351:ゴブ推し:2016/12/07(水) 21:03:00
■
ザフト軍・アレクサンドリア基地司令のオダリス・マトスは、偵察によって得たユーラシア軍の動きを見て、顔を難し気に顰めていた。
「こちらの動きを読まれたか…」
敵からの偵察や諜報活動から読まれないように動き、部隊配置を進めていたのだが、そう上手く行かないらしい…マトスは指令室のディスプレイに映る情報を見て内心で舌打ちしつつそう思った。
「まあ、それも当然か」
「そうですね。彼我戦力差を考えればこちらの取るべき手段は限られます。逃げるか、防衛に徹して援軍の到来を待つか、そのどちらかです」
副官がマトスに同意を示す。それに頷き返しながらマトスは考え込むように顎に手をやる
「…この分だと包囲に薄い所はないな。手強い」
「はい。敵は全ての方位に均等に部隊を分けています。本来なら退路ではない東から南東に掛けても隙無く陣容を固めつつあります」
「…ふむ」
顎を撫でながら…手に髭の剃り残しの感触を感じながらマトスは考える。
ユーラシア軍の体制は万全だ。一方面だけでもこちらの戦力を数倍上回る陣を引いこうとしている。
この包囲が完成する前に撤退に移らなければならないが、まだ準備に時間が掛かる。ここに駐屯する北アフリカ軍に意図を悟られないようにしている為、行軍に必要な物資の手配や積み込みが遅々としてるのだ。
「…戦力差が大き過ぎて一点突破は難しい、なら包囲に穴を開けるためには陽動しかないが……」
「厳しいですね。こちらの意図が敵に読まれている以上、先ず乗って来ないでしょう」
「そうだな」
後退や撤退は難しいという事だ。では、防衛に徹するべきか…というと、やはりこれも無理だ。戦力さ故に圧倒いう間に飲み込まれる事もあるが、来援は期待できない。カイロやアレクサンドリアより西にある味方は哨戒部隊も含めてとっくにアフリカ方面司令部のあるトリポリに向かって後退している。
また被害を抑える為に、こちらも援軍や支援は望まないと方面司令部に連絡を入れている。
(見事なまでに積んでいるな、コレは…)
指揮官として決して口にはしないが、マトスは対処策がないことでそれを受け入れざるを得ないと思い始めた。
「やむを得ん。防衛戦を行う」
「隊長!?」
「だが、撤退を準備は進めておけ、敵が攻勢に転じ、包囲が狭まった時に隙が見つかるかも知れん。その時に備える」
副官の驚きを無視してマトスは告げた。
それしかないと、攻勢に出た敵部隊の足並みしだいではその隙が見つかるか、或いは采配しだいでは作れるかも知れないと結論し。
「……分かりました。そのようにします」
副官もそれ以外の手が無いと判断したのか、隊長の決断に感じるものがあったのか強く頷いた。
こうしてザフトの取るべき手は決まり、ブラウン含むユーラシア軍も展開を終えて戦いの刻限は訪れる。
■
「ベルント喜べ、敵はどうやら籠城の構えらしいぞ」
後方に位置するボルスからの通信。
防衛戦の事を籠城などいう言い回しををするのは如何にも大尉らしいと、そう思いながらクルツは答える。
「へえ、逃げるのは諦めたってことですか」
「そういう事だ。だが司令部は用心しモーガン達を余り動かさないらしい。それもお前さんにとっては、嬉しい知らせだろう」
モニター越しにニヤリと笑って見せるボルス。クルツもそれに習って不敵に唇を歪める。
「ええ、これで何とかブラウンと開けられた撃墜数を埋められそうです」
「気の早い事だ。他にも競争相手は多いというのに……が、まあ良い。そう言い切った以上は期待しているぞ。華々しく先陣を飾って見せろ!」
「了解、任せてください!」
ボルスの発破にクルツは気合を入れて答える。
途端、ふと一瞬思考に過るものがあった。
(…ブラウンの奴はいつも通りだろうが、マイヤー嬢ちゃんは期待が外れてどうしてるかねぇ)
MSのコックピットの中で敵が来ず、戦えない事にイライラしている少女の姿が目に浮かぶ。そして何とか彼女を宥めようとするブラウン。それに膨れっ面で拗ねるようにして応じるマイヤー。
「くっくく…」
眼に浮かんだ光景に可笑しさを覚えて微かに笑った。
『作戦開始一分前、各部隊、各員、スタンバイ。……………10秒前、秒読み開始。
9、8,7,6,5,4,3、…状況開始! 全部隊前進せよ! 繰り返す前進せよ! 作戦行動に移れ!』
『よし! 行くぞ! MS第二連隊突撃!』
司令部付オペレーターを通じて発せられる命令に応えて、ボルスが声を上げる。
野太く力強い声に釣られるようにクルツを始め、隊全員が大きく力強く了解!と応じる。
352:ゴブ推し:2016/12/07(水) 21:05:17
先陣を切るのは、ブリーフィングの後でボルスが提案したようにクルツ他、ドムで編成された中隊だ。
その三つある中隊での中でもクルツの隊はさらに高速で突出する。
その後は、ザクがジャンプを繰り返しながら後を追う。無論、ホバーで移動するドムに追い付ける訳ではないが、ボルスは問題ないとみている。
敵のMSは50~60機程度、それを各方向へ分散して配置しているのだ。それにある程度バラけた方が自走砲部隊やピートリー級やレセップス級など砲撃の的に成らずに済む。
「まあ、それも余り心配はなさそうだが…」
後方から送られる情報を見るに、空は意外に優勢に立てるのようで敵艦に爆撃を行うらしい。先の追撃戦に伴う前哨戦で敵の航空部隊がかなり消耗しており、対空ザウートを始めとした敵防空網の対処が追い付いていないとの事だった。
「ふむ、ベルントの奴は早速敵とぶつかったか」
前進しつつ送られる情報を確認していると、信頼する部下が早くも接敵していた。
クルツは愛機…ドム・トローペンの快速と機動力を持って、ロケットと榴弾の雨と正面からの砲撃を巧みに避けながら敵に肉薄する。
距離1500を切り、慌てて後退する敵戦車部隊。
「逃がさねぇよ!」
クルツは吠えてさらに機体を加速させ、距離800になった所でマシンガンを照準。射撃を開始する。
本来なら90mm程度の実弾なら弾く事が可能な装甲を持つリニア・ガンタンクだが、対ルナチタニウム装甲をも想定した大洋パテントの技術で製造させた対MS徹甲弾は容易にリニア・ガンタンクの厚い装甲を貫通してゆく。
加えて、全高20mほどの高さ故に被弾リスクの大きいMSであるが、その高さがある為に一定の距離まで縮まれば、戦車は装甲の薄い上面装甲を鋼鉄の巨人に無防備にさらけ出す事になる。
「うぉおら!」
弾丸の貫通力の高さと巨人の利点を活かして、クルツは瞬く間に6両以上のリニア・ガンタンクをスクラップに変える。
これに彼の中隊が加わって、程無くして60両はあった戦車群は30両以下となり、軍事上の全滅の定義以上の損害を受ける。
そこに―――
「おっと! …やっとお出ましか」
宙を奔る電光が見え、回避行動を取ったクルツは電光の軌跡の先に無数のバクゥが迫ってくるのを確認した。他にもその後方にジンや珍しい事にシグーの姿もある。
クルツは獲物を前にして獰猛な笑みを浮かべる
「へっ…中隊全機、メインディッシュのお出ましだ! ランチャー以外の武器使用自由だ。食いに掛かるぜ!」
クルツはブラウンと違って細かな指示は余り出さない。直感とその場のノリに合わせたチームプレーで戦う。
その為、ブラウンの中隊との模擬戦は負け越しているが、それでもブラウン、カミンスキー、モーガンに次ぐ練度を部隊内で誇っている。
「行くぜっ!」
クルツは、隊の仲間が2機連携で動き出すの確認すると敵MS部隊に突撃した。
■
「南部防衛線、北アフリカ軍所属のリニア・ガンタンク部隊損耗甚大! カンプラード隊、ポッカ隊、援護に向かいます! …ヘリ部隊は弾薬補給に戻るとの事です!」
「東部防衛線、接敵! ヘリ部隊及び機甲部隊攻撃開始!」
「西部防衛戦、以前動きなし」
レセップス級サイード・パシャのCICでマトスは戦況の動きを見ていた。
「南部が戦車部隊が壊滅とは…接敵から5分も経っていないのに」
「例の十字目の新型か。動きが速すぎる。あれだけの砲弾の雨を無傷で切り抜けるとは」
「それに60両あった戦車がここまで一方的に狩られるなど…バクゥでも難しい」
副官を始めとした参謀担当の部下達が連合のMSの力に戦慄する。しかもその損害は僅か12機で齎されているのだ。
「見ると聞くとでは大違いだな、敵の新型…十字目の性能は。このままではカンプラードとポッカが救援に入ったとしても状況の悪化は止められんな。……西部のヘリ部隊とディン部隊を南部に向かわせて二人の隊を支援する。敵MSにミサイル及びロケットの一斉発射で牽制攻撃。続けて艦隊で支援攻撃。これに合わせて防衛線を後退させ―――」
「―――南東、航空部隊抜けられました! 敵攻撃機、本艦に接近! 数4…いえ、6!」
マトスの指示が言い終わる前にオペレータの声が飛んだ。
「ザウートと北アフリカの対空部隊に迎撃させろ!」
「無理です! 他方の航空部隊の阻止で手が回りません!」
「攻撃機ミサイル発射しました! 狙いは本艦及びキルシャーとマリエットを指向!」
「各艦、近接防御! 対空ミサイル、対空砲撃て! フレア、チャフも散布しろ!」
オペレーターの必死の声にマトスも叫ぶように指示を出す。だが―――激しい揺れが艦を揺らす。
近距離から計24本も放たれた為に対空ミサイル、対空砲は対応しきれず、赤外線及び画像誘導の対艦ミサイルをフレアとチャフだけでは欺瞞しきれなかった。
353:ゴブ推し:2016/12/07(水) 21:06:19
「くっ……―――被害報告!」
指揮卓に掴まり倒れずに済んだマトスは、すぐさま乗艦と僚艦の状況を確認する。
「本艦、主砲1番、2番大破! VLS1番、2番、3番ブロックが損傷、各ブロックに火災発生! VLS3番の消火装置作動確認できません!!」
「キルシャー、機関部に損傷、火災発生! 前部、後部の単装砲ともに大破! 他…―――」
「マリエット、機関部大破、航行不能! 艦全体に深刻なダメージアリとのこと! 退艦の許可を求めています!」
マトスは歯軋りする。思いのほかに損傷が大きく、戦力の低下が避けられない状態だった。
その上官の悔しげな表情を見て、越権行為と知りながらも上官の精神が立ち直るまでは…と、副官が代わりに指示を飛ばす。
「……すまない」
「いえ、それでどうなさいます?」
十数秒かけて立ち直ったマトスは、自分に代わりに指示を出してくれた副官に軽く頭を下げる。副官は首を振ってホッと安堵の息を吐きつつも次の指示を窺う。
「ああ、先ほどの命令を出す。艦隊による支援は難しいが、ディン部隊とヘリ部隊で南部の隊を支援させ、一時後退。それと東部の我が軍を全てこちらに呼ぶ」
「え? しかしそれでは…」
「構わない。北アフリカ軍の司令に通信を繋げろ」
30秒後、北アフリカ軍・アレクサンドリア司令…件の大佐が漸く姿を見せた。
少し時間が掛かり過ぎだと思ったが、それを指摘して余計に時間を食うのが惜しくてマトスは早々に話を切り出した。
「大佐、東部の我が軍を南部に移動させます」
『何!? なんだと!? それでは東部の防衛線が破られるではないか!』
「大丈夫です。代わりに南部と西部にあるそちらの機甲部隊他、貴方達…北アフリカ軍の全ての戦力を東部に移します。その方が我々と貴方達の為になります」
『……ど、どういう事だ?』
「その方が戦力を有機的に運用し易いという事です。我々ザフトと北アフリカ軍の混成では部隊間の連携もおぼつきません。ならいっそ両軍にきっちりと分けて対応した方が良いでしょう。それにそちらにもジャンク屋から購入したMSや傭兵が居るのでしょう? なら敵MSに対応はできましょう」
『…………いや、それは』
「敵が迫っています。議論している暇はありません。では失礼します」
『ま、待っ―――』
通信を切った。
「やはり初めからこうすべきだったのだろう」
「…隊長」
「マリエッタの退艦作業がすみしだい本艦は移動を開始する。キルシャーも移動は出来るな」
「はい、大丈夫との事です」
「よし、東部と南部の隊の合流後、我がザフト軍アレクサンドリア駐留部隊は敵軍を突破して戦域を離脱を目指す。厳しいだろうが何としてでもトリポリへと向かうぞ。湾に残っている潜水部隊にも伝えろ。アレクサンドリアを放棄するとな」
CICに了解との声が響く。しかし、
(無謀だろう。60機ほどMSと40機ほどのアジャイルに損傷した艦艇二隻、他支援車両……だが、それしか手段はない。少しでも僅かでも味方を逃がせられれば…)
ふいにマトスの脳裏に先程の大佐とのやり取りが思い出される。モニターに映った男に違和感を覚えたが、それが何か直ぐに分かった。
(…そういえば、あの男……ホテルの部屋に居なかったようだな)
そう、あの男と会う時に見る背景はあの成金趣味の室内だった。それが先程は無機質なコンクリートに覆われた部屋だった。北アフリカ軍の指令室だろう。
それが意外だった。
あの男の事だから豪奢な部屋に籠ったまま、指揮など放り投げて部下に押し付けると、そのように現実から逃避して最後の楽しみだと女と贅と楽しむとマトスは考えていたが……。
(…いや、或いはアレクサンドリアの有力者に何か言われて、体良く追い出されたか?)
そこまで考えてかぶりを振った。どうでも良いと気付いたからだ。
「…もう会う事もないだろうしな」
ポツリと呟いて完全に男の事を頭の中から追い出した。
そして、マトスはもう二度と男の存在を考える事も思い出す事も無かった。
354:ゴブ推し:2016/12/07(水) 21:07:09
■
砂塵を巻き上げながらクルツは一切止まることなく敵機を屠る。
「甘いぜ!」
向けられる銃火と磁性砲弾の電光を、足さばきとホバー出力の秒単位以下の細かな制御を持った機動で躱す。
華麗に踊るように…まさにフィギュアスケートの演技者のように砂上を滑って敵の照準を絞らせない。
「ハッ…!」
左手の90mmマシンガンで一機のバクゥの左へ回り込みながら射撃を行い。たまらず右へ回避しようとする敵にクルツは右のラケーテンバズのトリガー引き、回避先の敵機の未来位置にバスーカの弾を置く―――爆散。
傍から見れば、まるで自ら当たりに行ったようにしか見えない。
「これで5機…!」
自らの戦果を誇るように吠えながら続けて迫る新たな電光を避け、それを放った新しい獲物をモニター越しに目線で捉える。
二機のバクゥ。背中のレールガンを撃ち続けながら左右に分かれ、弧を描いて動く、典型的な左右挟撃。クルツの狙いを絞らせないのも目的だろう。しかし、
「こいつの機動力を分かってないようだなッ!」
クルツはフットペダルを踏みこみ、愛機を一気に加速させる。
一瞬にして400km/hに加速し、左へと回り込もうとした敵機の軌道先へ回り込み、
「喰らいな!」
逆に敵機の右へ回り込むようにしながらマシンガンを叩き込む。
マシンガンを受けたバクゥは正面から右側面に火花を散らせ、装甲を貫通した弾丸に内部機構をズタズタに引き裂かれ。駆ける勢いのままに砂上で転ぶように崩れ落ちて沈黙する。
同時にクルツは、左へと弧を描く機動を続けながらもう一機のバクゥ…先ほど自機の右へ回り込もうとしていた敵機の側面を取り、容赦なくラケーテンバズを打ち込み爆散させる。
「よっしゃ! 7機目!」
あと一機でブラウンと並ぶ、そう内心で喝采を上げる。
ここまでの彼の戦果はリニア・ガンタンクを除いて、全てがバクゥタイプだった。これを単独で撃破していったのは流石はエース…軍のプロパガンダであるとはいえ、〝銀の双星〟の片割れといった所だろう。
その相方に負けない為にも、差を付けられない為にも撃墜数をもう少し稼ぎたいのだが…、
(うちの中隊の連中も頑張ってるし、それに後ろのドム乗りの二隊ももう追いつくようだしなぁ……いや、あと一機ぐらいは喰えるか?)
この場で二十数機あった敵MSは半数を切っている。中隊の仲間が一機ずつ仕留めればそれでほぼ片付く計算だ。
(追いつけないのは癪だが、このまま部下に譲るっていうのも……まあ、アリか―――なに!?)
迫る敵機もない事からややのんびりとクルツは、そんな彼にしては奇特な事を考えていた矢先、思わぬ光景に目を見張った。
敵の隊列の奥、地上では珍しいシグータイプにクルツの部下が先程のバクゥのように2機がかりで攻撃を仕掛けたのだが、そのシグーは二機のマシンガンとラケーテンバズによる十字射撃をスラスターと脚部の軸移動を駆使して見事躱し、左腕のシールド付きのガトリング砲で自機の左に回ろうとしたドムのバズーカを狙い…弾倉を誘爆させて右腕を吹き飛ばし、それとほぼ同時に右へとスラスターを全開にしてもう片方のドムへ踏み込んで重斬刀を振り被り、
「―――チィッ!」
そこでクルツはマシンガンをそのシグーに向けて銃撃を放った。
以前、あの戦いでブリックが砂漠の虎に組み付かれた時と同じだ。仲間の危機に考えるよりも先にトリガーを引いていた。
『わぁぁあぁ…ッ!?』
無茶な援護射撃を受けた部下の悲鳴が聞こえるが無視する。
「アレを躱すか!?」
重斬刀を振り下ろす直前にも拘らず、一瞬の間にスラスターの軸をズラしてクルツの援護射撃を避けた。
『しょ、少尉…』
シグーに危うく斬られそうになり、クルツに危うく背中弾されかけた部下の怯えた声が聞こえたが構わず叫ぶ。幸いにもあの時と違って部下は無傷な事もある。
「お前達はコイツに手を出すな! コイツはエースだ!」
そう、エース…いや、そうとは限らないが、間違いなく手練れだ。それもかなりの。…だがクルツは、極上の料理を前にしたかのように舌なめずりし、
「…8機目はコイツに決まりだ」
不敵に笑った。
強敵と戦える高揚感もあるが、同時に手強いが脅威ではないと感じたのもある。自分の敵ではないと、ブラウンやモーガンやボルスのような……あの虎のような〝壁〟を前にした圧力が無いと分かるからだ。
「…結構やるようだが、相手が悪かったな!」
吠えてフットペダルを踏み込む。
355:ゴブ推し:2016/12/07(水) 21:08:31
■
シグーのパイロット、タネリ・ポッカは自分が窮地に陥っているのを理解していた。
「ぐ…ッ」
新手の十字目に先程のようにその手に持つ銃や、スカートアーマーにある弾倉をシールド裏の28mmバルカンで狙うが当たらない。素早いホバー機動で巧みにジグザグと躱され、
「…ぬぅ!」
同時に行ってくる反撃の射撃を必死で避ける。こちらもスラスターと脚部での軸移動を駆使した疑似的なホバー機動を行い、相手と同じくジグザグと動いて敵の射線を躱す。だが、
(…拙いな)
それでも機動力は敵機の方が上、射撃の腕や…FCSなどに差もあるらしく、敵に比べるとこちらは危うい場面が多い。一射ごとに確実に装甲を掠めてくる。
(それに、こちらの武器では奴の装甲を貫けん…!)
この戦いの前に受け取ったデータでそれは分かり切っていた。
だからバクゥを前面に立てて連携し、有効打を望めそうな500mm無反動砲や特化重粒子砲で狙い撃とうしたが……懸念が当たってしまった。
逸った若手パイロット達が連携をお構いなしに先行し、止む無くベテランのバクゥ乗りも若手達のカバーの為に先行せざるを得ず……そして皆撃破された。
こうなっては重く取り回しの悪い大型火器はまず当たらない。この十字目相手ではデットウェイトにしかならない。
だから投棄して挑んだのだが、
「!―――ぐあ…ッ!?」
瞬間、避けきれないと判断し、回避機動を取りながら敵機の銃撃をシールドで逸らそうとしたが瞬く間にシールドが穴だらけになり、肘から捥ぎ取られた。
おまけに僅かだが、胴体にも銃弾が飛び込んだ。ダメージカラーはイエローからオレンジに変化し、やや深い表示だ。
(…くそ! 失敗だった。酷な言いようだが見捨てるべきだった)
ポッカは心底そう思った。勝手に逸って独断専行する若手を放っておいて作戦通りベテランのバクゥ乗り達と連携していれば…まだここまでは、と―――強く悔いた。
「―――うおおおおッ!!」
周囲の味方の…仲間の反応が更に消えるのを見て、ポッカは一か八かに賭ける。
この目の前のエース…古めかしい銃を象った三つのソレを交差させて描かれた銀のエンブレムを右肩に飾る敵機―――〝銀の銃士〟。
この〝狼食い〟の片割れである強敵さえ仕留めれば、まだ挽回できると信じてポッカは愛機に重斬刀を構えさせて、フットペダルを踏み込んでスラスターを全力で噴かせ―――
■
「―――来るか!?」
スラスターを常に噴かせて此方の銃撃を3度、4度、5度と回避してバクゥ以上機動を見せるシグーに感心していたクルツであったが、6、7度目射撃でダメージを受けた為に覚悟を決めたのか、吶喊の構えを見せ―――熱源接近! アラート!
「!ッ―――全機、回避機動! 後退しろ!」
迫る脅威とレーダー表示に気付き、クルツは通信で叫ぶ。
直後、無数のロケットとミサイルが飛来し、辺り一面に爆炎に包み込む。
「くそっ! 全機無事か!?」
全力で回避機動を取ったクルツが部下の安否を確かめると『問題ありません』『ぶ、無事です』『あ、危なかったぁ』などと僅かに恐怖が混じった安堵の声が返ってきた。
通信からの返事に加え、データリンクやレーダ表示も確認してクルツも安堵するが、今の攻撃の犯人を視認して舌打ちする。
「チッ…新手か」
アレクサンドリア基地のある方向から無数の飛行物体が接近している。ヘリにディンに―――
「グゥル?」
輸送用の無人機を攻撃機代わりに使ったのか? そう思った途端それに答えるかのようにグゥルを含めた敵飛行部隊から再度攻撃が来る。
「散開、回避!」
クルツはまたも回避を命じるが、やられっぱなしになる気はなく。
「ランチャー準備! 出来次第に撃―――!?」
周囲に爆炎と砂煙が舞う中、ブラウンの隊と同様に小隊一機に携行させているミサイルランチャーをお返しにお見舞いしようとしたが―――
「―――全機、対閃光防御! 回避機動続けろ!」
ディンの放つミサイルの中に変に直進する物があるのを見て、勘に任せて叫んだ。
直後、閃光が朝闇を切り裂き、周囲を昼間のごとく…否、それ以上の光で照らす。
356:ゴブ推し:2016/12/07(水) 21:09:34
「…野郎ッ!」
カメラの遮蔽モードが間に合ったがクルツは声を荒げた。
直視すればカメラとモニターに焼き付きを残す程の閃光の後に、煙《スモーク》が辺りを覆ったからだ。
レーダーや対物センサーを乱す攪乱粒子が混じり、赤外線隠蔽効果も持つ煙の為に迂闊な動きは取れない。だがそれは敵も同じだ。こちらが見えない。なら敵の狙いは―――
「全機下がるぞ、煙を抜けろ! ぶつかる下手はするなよ!」
了解とノイズ混じりの声が聞こえる。
視界はゼロに近いが見えない訳じゃないし、レーダー・センサー類も乱されると言っても20mくらいは有効だ。これだけ視《み》えていて激突するようなヘマをする奴は自分の隊には居ない、クルツはそう信じて中隊を後退させる。
「チッ…そっちかよ」
また舌打った。
煙を抜けた後に見えたのは、後退するディンとヘリに〝MSを乗せたグゥル〟だ。来た時は空だったのに〝荷物〟を載せている。
煙の中で立ち往生した所を先程の一斉攻撃や機甲部隊と艦艇による砲撃で薙ぎ払う積りかと警戒して一気に下がったのだが、
「やられた。逃げられた」
眼が見えぬ隙に敵は後退を選んだ。そのパターンもクルツは予想していたが、前述のリスクの為にクルツ達も後退を選ばざるを得なかった。
「……ブラウンの奴なら衝撃弾《ソニッカー》を用意して、煙を吹き飛ばしていたんだろうが」
今や別の隊に居る相棒の事を思い出して、クルツはまんまとしてやられた事も含めて悔しがった。
ブラウンならむざむざ逃がさなかったと分かる故に。
―――と。
空に閃光が伸びた。
「…!」
閃光は三条。
伸びたそれは視界遠くになった敵機に突き刺さり、爆発を引き起こさせる。これは―――
「ビーム兵器!?」
5秒後に更に三条。それは慌てたように回避機動を取る敵機を外すことなく、正確に突き刺さる。
計6機。ディンが3機にグゥルに乗ったMSが3機。
『むぅう。これが限界か。やはり試作品はどうも信用が成らん…が、上からの命令では是非もなし…か』
「カミンスキー大尉…」
通信から入る声にやっぱりとクルツは思った。今のビーム兵器は彼の仕業だ。
機体を振り返らせてカメラの最大望遠にする。
「…かー、さすがだな」
半ば呆れたように感心する。
距離は凡そ12km。そこに大型のライフルを構えて片膝を突くザクが見える。
頭部に強化されたセンサーを積む俗にザクスナイパーと言われる機体。さらに射撃の名手ボルス・カミンスキー大尉の要求仕様に合わせた特別チューンアップ機だ。
今回はこれに加えて、
「重力や風の影響を受けないとはいえ……初めて実戦で扱うビーム兵器でああも正確な射撃ができるなんて」
そう、今年頭にロールアウトした大洋とユーラシアが開発した新型MS〝ゲルググ〟が携行するビーム兵器の地上テストの為、ボルス機にそれを改修した物が装備されており、バックパックにはそれを扱う為のジェネレーターが追加されていた。
ボルス自身はそれに不満が若干あるようだが、新兵器を扱える楽しみもあるようでプラマイゼロと…いや、楽しみの方が大きいのでプラスだろう。
ただ、いざ使ってみるとやはり不具合が出る為か、不満が大きくなるようだ。
「流石です大尉」
『…おう、クルツ。だがな、こいつは最大出力では3連射しか効かん上に…ほれ、』
片膝姿勢から立ち上がってこちらに機体を歩行させながら手にする大型ライフルを掲げて見せる。
望遠でも一応分かる。銃身に歪みが見えた。
「歪んでますね」
『うむ、手引書に従い冷却を待って撃ったがこの通りだ』
やはり試作品だな、とポツリとバルスのぼやきが聞こえた。クルツはそこは仕方ないでしょうと答え、ボルスは不承不承に頷いた。
『やむを得んな。一応予備もあるし、次はもう少し冷却時間を取ってみるとしよう。―――さあ、逃げた奴らを追うぞ』
無駄話も此処までと言わんばかりにボルスは指示を出す。
クルツは了解と応えて、意気込みを入れる。
「逃がさねえぞ、8機目の野郎」
手練れのシグーを脳裏に浮かべて、静かにけれど闘志を込めて呟いた。
357:ゴブ推し:2016/12/07(水) 21:11:49
以上です。
思った以上に長くなった為、中編を1、2と分ける事になりました。
今回はクルツサイド、そしてザフトのマトスサイドといった感じです。
オリキャラのマトスですが、彼については後々キャラ設定をまとめた物を書きますんで詳しい事はその時にします。前回の〝成人〟兵のロニー君と今回登場の敵エースらしきパイロットのポッカも含めてです。
ただ一応簡単には説明しますと、マトスはザフト設立初期からいる30半ばのベテランで、虎さん程の指揮能力・作戦立案能力はありませんが、それなりに堅実な指揮が執れる凡庸な人物としてます。あと虎さん同様に苦労人ですね。
ちなみにもし虎さんがここで指揮を執っていたら、今回のような戦いが起こることなくアレクサンドリアの兵力は北アフリカ軍のものを含めて撤退できてました。
その辺のマトスが出来なかった事と彼が犯したミスもいずれ書きたいと思います。
…にしても戦術やら作戦やらを細かく考えるのは難しいですね。
空間認識力については、大洋にニュータイプがおり、UC世界と混線している以上はこうなってもおかしくないかなと思い、独自解釈しました。
マイヤー准尉にクルツがやらかした件は、いずれは書くと思いますがこれも少し説明しますと、魔が差したクルツがマイヤーに〝遊びで本気〟で手を出そうとしたことが原因です。
この件は、全面的に悪いクルツが必死で謝らなければブラウンとの友情は崩壊していました。またマイヤーに後ろ弾されていたと思います。
次回はブラウンサイドの予定です。撤退を図るマトス達との戦闘になるでしょう。
…と、その前に戦後のユーラシアのMS設定の考えが纏まりましたのでそっちを先に投下するつもりです。
早ければ今週中に投下します。
最終更新:2017年01月16日 11:59