235: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:11:23
大陸SEED MS戦記

13―――反抗(中編その2)


ビックトレー級ヴィリー・イェーデのCICで広い卓上の立体映像―――戦況図を見ながらデザート・ロンメルはふむ…と小さく唸った。

「南部の敵はカミンスキー大尉率いる隊の打撃を受けて後退…これは良いが―――」

ロンメルは微かに首を傾げる。

「東部の敵部隊……MS部隊も交戦もそこそこに下がり始めるとは…」

彼の言う通りクルツが受けたように敵MSは、一斉放火に紛れて閃光弾とスモークを広くまき散らし味方MS部隊の動きが鈍化した隙に後退している。
それに合わせてか、北アフリカの機甲部隊も波を打ったように急速に下がりつつある。

「…………」

ロンメルは腕を組んで考え込む。
南部が痛打を受けた為に防衛線の引き直す為か、それとも市街地戦…ゲリラ戦を狙っての物か。
もし後者だとしたら余りに上手くない。戦闘の気配を察知して多くの民間人は避難してはいるが、残っている者も決して少なくない。それにせっかく無傷で済んでいる都市を傷つける事にもなる。数多の国際機関があり、貴重な遺跡が残る文化的価値も高いアレクサンドリアを戦火で焼いたとなれば政治的に非常に拙い。今後の統治にも大きく影響が出る。戦中にも拘らず未だ多くの資本が残っている事もだ。財界も黙ってはいないだろう。
……だからこそ、軍事的な目的以上にここを連合が抑える意味が大きいのだが。

「…各MS部隊に通達しろ進軍を急げと! 特殊混成機甲師団にもこれに遅れるなと伝えろ。MS部隊に遅れぬように前進せよと! 包囲の輪を狭める!」

デザート・ロンメルは決して凡庸ではなく、直属の上官であるノイエン・ピッターが知将と呼ばれように彼もまた智謀に優れた名将だ。だがこの時、覚えた危惧によってこの拙速ともいる命令を下した。
結果的にみれば、これは正しい物ではあったが離脱を試みるザフトの指揮官オダリス・マトスにとってはある種の機を与える事になった。




「南部および東部の部隊と合流しました」
「キルシャーより通達。機関部の応急修理により出力が安定、速度も問題なく行けるとの事です」
「マリエット艦長より連絡。退艦作業が完了との事です」

オペレータ―からの報告にマトスは頷く。

「よし! タイミングが良いな。キルシャーに伝えろ、最大船速で移動を開始! 方位2-4-0、南西の方へ舵を切れ! 敵の足並みに乱れが見える。この隙を突くぞ! 西部の部隊もこっちに呼び寄せろ!」

マトスは卓上に映る戦況図を見つめながら命令を下した。
その南東部を睨むように、その見えた隙…急速に狭まる包囲の中で鈍った動きがある南西の敵勢を示す赤い無数の印を。
最初は罠かという思いもあったが、この包囲下にあって優勢な敵がそうする理由がないとマトスは判断した。
この数分後、オペレーターから例の北アフリカからの大佐の通信があったとの報を聞くが、マトスはそれを無視して以後、オペレーターに北アフリカ軍からの通信を切れとだけ命じた。
それに副官が後に問題なるかも知れないといった風な不安そうな顔を見せたが、マトスは気付かないふりをした。今は、そんな事に思考を割いている余分はないと思い。

「対空部隊、絶対に敵攻撃機を近づかさせるな! ディン部隊とグゥルの部隊を先行させる。彼等にもだ!」

マトスはここが賭け時だと言わんばかりに強く叫んだ。

236: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:12:10



南西の方面を任されたユーラシア陸軍第3特殊機甲師団の分割部隊…アレクサンドリア攻略において臨時に第2混成旅団と冠された部隊は、突然の敵の猛撃に混乱の極みに合った。

『があぁぁっ!!』
『ば、馬鹿なッ!』
『後退! 後退! 下がれ!』
『きょ、距離を―――…うわぁ!』

当然、全体の指揮を預かるロンメルより敵接近の知らせは飛んだ。だが、第2混成旅団はこれに対応できなかった。
理由は率直に言えば、油断である。或いは慢心。
敵は小勢で、此方は圧倒的大多数。それもザフトよりも優れたMSあり、それに劣らぬ戦果を示した新型のMAやMTもある。
さらに言えば、これら優れた兵器の力によって彼等は先の戦いで勝利を得た。損害も僅かな圧倒的な勝利を!
故に彼等は酔った。勝利と言う美酒に。これまでザフトに押され、苦渋と苦杯を舐めさせられた事が嘘のような甘い甘い蜜ごとき味に。

―――その結果がこれだった。

「ああ…」

辛うじて爆発から逃れ、潰れずに済んだコックピットから這い出たガンタンクのパイロットが見た光景は……無残な鉄の骸とそこから上がる炎と黒煙。
―――ガンタンクが、―――ケンタウロスが、―――護衛のグフが…砲撃、斬撃、爆発など様々な破壊痕《死因》を形を失った躯体に刻まれ、赤い炎で燻られて黒煙を上げている。

「―――ああ…」

彼は思う。
このような現実が起こるなど考えもしなかったと。勝って当然の戦いなのだから……そうだろう?と。

なのに―――

「こんな事になるとは…」

脳裏に蘇る。
敵がこちらに来ると知って意気揚々と迎え討とうした自分と同僚達の言葉。
もうザフトがなんだ! コーディネーターなんて怖くも無いぜ! 今度も叩き潰してやる! 俺達戦車乗りの力をまた見せてやる!
威勢よくそんな事を自分と皆が言った。
けれど、迫った敵―――陸戦ディンとグゥルに乗ったMSを見て、AMSMや対空砲に散弾を装填したMAやMTの主砲で迎撃に映った途端、敵は自分達と己の間に地上にも届くほどの広範にスモークを撒いて姿を隠し、さらに閃光弾を放ち、此方の目を奪った………が、これ自体は問題無かった。
その手の対策は叩き込まれてたし、目が無くとも散弾ならまず外れる事はない。それに濃密な砲火に晒されては敵は迂闊に接近出来ない筈だった。

そう、その筈だった。

実際、遮光モードで閃光弾の目潰しを回避した自分は、スモークの中で爆発の光を見た。
しかし今更の事であるが、それを見て内心で喝采を上げていた自分―――多分、同僚達もだろう―――がとても愚かしく思えた。

「…そうだ……」

そう、それに気付いた時はもう遅かった。距離500を切る位置に…地上に敵機…ジンや陸戦ディンの姿があったのだから。

「ほんと愚かで、馬鹿だった…」

気付いた次の瞬間には更に距離が縮まり、もう此方の距離ではなかった。不意の事であったが為に真っ先に護衛MSがやられ。自分達MAやMT、他の機甲車両も次々と撃破されていった。
その時になって自分達が対空砲火で落とした物が何であったのか気付いた。

グゥルだった。それも〝荷物が空〟のだ。

今にして思うと、まんまとしてやられたと自分はこの時に心の何処かで呟いていたように思う。
敵は空から接近すると見せかけたのだと。
空に目を引き付け、スモークで姿を隠し、こちらの砲火に合わせてグゥルを派手に爆発させて囮に使い―――ああ、それも今にして思うと爆発の光が大きかったように思う―――自分達の油断を誘って不意を突いたのだ。

「…なんて間抜け」

更に思えば、迎撃にする距離も変に近くて、距離を置いて戦わなければならない部隊にも拘らず、敵機の姿を補足しながら進んで距離を詰めていたように思う。

「ああ…くそぉ…皆…皆、変になってやがったんだ」

この容易に勝てると思った戦いに楽観視してだらけていた癖に、敵の接近を聞いた途端、馬鹿みたいに揚々としていた。
この旅団で一体何処のどいつがそんな空気を持ち込んで伝播させたのか……もしかすると自分がそうなのかも知れない。

「…くそぉ……」

膝を突く。痛い。脇腹から流れ出る血が止まらない。おまけに熱い。内臓をやられているのが分かる。コックピットにまで及んだ破損で何かの破片が右の脇腹に刺さったのだ。
目も……霞む。

「こ…んな……と…こで…死―――」

ああ…くそぉ…もう………―――


そうして彼は愛機の胸の下で眠りに付いた。朝闇の砂漠の中でもう熱を持つことはない愛機と同じく、冷たく静かに…。

237: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:13:03



―――上手く行ったか?

ポッカは内心で呟く。

「うおおおッ…!!」

マシンの右腕に握る重斬刀で分厚い装甲を持つ敵のタンク擬きを切り裂き、同時にワイヤーを伸ばしてくる敵新型MSのそれを躱して左腕で重突撃砲を放つ。
左には間に合わせにジンの上腕を付けたが問題はないらしく、銃撃は違わず〝ワイヤー持ち〟に吸い込まれるように直撃し、装甲を穿ち爆散させる。

「短い時間の中で整備班は良くやってくれたようだ」

思わず声が漏れた。
兎も角、彼等の作戦は上手く行った。空からの攻撃に見せかけての奇襲。だが―――

「―――…ッ、間合いを開けさせるな! 飛び込め! 連中の殆どは距離を詰めさえすればこちらに手を出せん!」

後退しようとする敵機を見、小さく舌打してポッカは味方へと叫けぶように指示を飛ばした。
奇襲は成功したとはいえ、この場に居る敵だけでも20数機程度のこちらの5倍以上の物量がある。

(奇襲の利がある内に……敵が立ち直る前に可能な限り、これを削らなければ…!)

そう考えるが…しかし、とも思う。

(タンク擬きやMS擬きもそうだが、先のワイヤー持ちも意外に硬い! 一機仕留めるのに消費する弾薬が大きすぎる! 頼りになるのは…)

そう内心で半ば罵り呟きながらペダルを踏みこんでスラスターを噴かせ…接近、慌ててシャベルのような物を振るうタンク擬きのそれを一瞬制動を掛けて空振りさせ、再度踏み込んで重斬刀を深く突き刺す。

「一番頼れるのはやはりこれか…」

動きを止めた敵機から引き抜き、オイルか何かに濡れた白刃を見てポッカは一人語る。その次の瞬間には新たな敵機へと踏み込んで白刃で切り裂いていた。

周囲の味方機もそれに続き、敵機へと突撃して白刃を振るい、突き立てに掛かる。猛然と勢いに乗る味方に敵勢は、成す術もなくほぼ一方的に狩られていく。




―――してやられた! いや、深読みし過ぎたか!?

ギリッと奥歯を噛みしめてロンメルはその言葉を飲み込む。動揺を出す訳にはいかないとでも言うように。

(防衛線の引き直しでもなく、市街地でのゲリラ戦狙いでもなく。離脱とは…!)

ロンメルにしてみれば、この状況でそれを選ぶとは全くの予想外であった。
無論、可能性は考えてはいたが…北アフリカの部隊にそれらしい動きはなく、全体的に見れば部隊の移動・再配置にしか見えなかった。
況してやこの包囲下で今更の離脱など分が悪すぎる。やるなら初めからザフトと北アフリカ軍の全部隊を持っての一点突破しかない。
だというのにそれが突如、この場面でザフトの部隊のみが南西方向へ移動―――

(―――が、ここまでは良い。十分対処できる範囲だった。しかし…!)

南西に配置した臨時の第2旅団の動きが鈍いと思ったら、敵の接近を通達する成り……―――そこまで考えてロンメルは奥歯だけでなく、拳も強く握り締める。

(何という体たらくか! 敵に対処しようと自ら距離を縮めるまでは許せるが、足並みが浮ついてるようにしか見えん! 砲撃開始のタイミングも遅い! 敵との距離が近すぎだ!)

鈍い味方の動き、部隊内で乱れる足並み、攻撃の拙さ、それらが見事合わさり不協和音を奏でて本来出す必要のない損害が生じている。
ロンメルは不甲斐ない味方を怒鳴りつけたい感情に捉われると同時に、その原因を明確に察知しており、それを取り除く事を怠った指揮官たる自分の愚かさを呪った。

「…先の戦いを楽に勝ち過ぎた弊害」

思わず呟く。
カイロ制圧までの戦いで勝ちに勝ち、常に敵を圧倒し続けた為に出た油断、慢心、楽観。言うなれば心の隙。
特殊混成機甲師団……つまり元戦車乗り達で主に構成される彼等であるが故に余計にそれが出たのだろう。MSの登場が彼等を陸の主役の座から降ろさせ、取って代わられると言われていた所で劇的な勝利を収めたのだ。

「その浮かれ具合を見抜けないとは…」

悔し気に言葉を零した。
だがそんな彼を弁護するとそうとばかりは言えない。戦車乗りの彼等は緒戦の大敗北以来、長く鬱屈していたのだ。しかしこの反抗作戦で散々苦戦を強いられたザフトのMS相手に勝利を経て士気が大きく上がっていた。第2旅団に蔓延した空気をそれによる高揚感だと思い、油断や楽観であると見抜くのは指揮官としても難しい所だろう。

238: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:14:22

「…………」

ロンメルは静かにかぶりを振る。後悔するのは後で良い。それにこの場でそれが出たのはむしろ幸いだった、とも考える。
この後、アレクサンドリアの制圧以後の大詰めの戦いでこれが出ていたら……その方がゾッとする。
故に、今回の件は犠牲になった兵士達には申し訳ないが幸運と考えるべきだった。この一件を教訓にし、例として他の機甲部隊を戒められるのだから。

「第2旅団に通達! 敵の突き進む先を無理に防ぐなと! 一切の交戦は避けて損害に顧みず全速後退、そのまま敵を通過させてこちらと合流するようにと!」

非情な考えを胸にしながらロンメルは、指示を出した。
その彼の声に、第2旅団の様相に俄かに焦りの表情を見せていたCIC要員達が落ち着きを様子を取り戻し、通信士が了解!と応えてロンメルの指示を通達する。

(第2旅団は恐らくもうこの戦いでは使えまい。戦意と士気はどん底だろう。ならばそれに合わせて交戦させずに下げた方が良い。戦意を失ったと見た敵は追撃を避ける筈だ。況してや敵の目的は離脱なのだ)

無論、今も敵部隊の矢面に立っている隊は壊滅は避けられないだろうが、それを盾に…犠牲になっている内に下がれるのであれば―――そこまで考えて憂鬱な溜息が出そうなるがロンメルは堪える。それが指揮官の務めであり、また今も逝く兵士達への最低限の礼儀だった。だから溜息の代わりに、

「それとシュバリエ大尉とカミンスキー大尉へ繋げろ!」

してやってくれた事を敵へ返礼する為に、そして逝った兵の犠牲を無駄にしない為に、次なる手を打たんと声を張り上げた。




『…という訳でブラウン、俺の隊を任せるぞ。俺は第2大隊に混ざる』
「了解です。大隊の指揮を預かります」
『よろしく頼みますよ、ブラウン〝特務〟少尉殿』
「嫌味ですか、ミュウラー中尉…」

特務という部分を強調するように言う中尉に半ばゲンナリしながら答える。

『はは…冗談ですよ、けど頼りにしてるのは確かです』
「…分かりました」

軽く笑う中尉にはその言葉通り口調や表情に悪意は見えない。緊張を解す為の冗談のようだ。だが僕はそんな中尉に苦笑を返すしかない。

特務少尉というのは、ロンメル大佐麾下にあるMS部隊に限り大尉相当の権限を有するという文字通り特殊な階級だ。これに自分とクルツが任命されており、シュバリエ大尉とカミンスキー大尉達も特務という文字が階級の上に付いて、同じくMS部隊内で中佐相当の権限を与えられている。

何故こういうややこしい事になっているかというと、MS運用部隊というのは当然の事ながら歴史が浅く。また適性を持ったMSの機動に耐えられる人間は基本的に若く軍歴も浅い兵士達ばかりという事もあって、中隊以上の部隊指揮を預かるに見合った階級を持つ士官や佐官が少ないのだ。
宇宙軍では、MAパイロットから転向出来た者が多いからその心配は余りないそうだが……地上の各軍ではそうもいかない。航空機から転向している者もいない訳ではないが、空軍にしても階級と練度の高いパイロットを手放す事は出来ない。
同じ陸軍の人間としては機甲部隊を貶める言い方はしたくはないが、戦車と違って航空機は未だ有力な戦力でそのパイロットも貴重な戦力なのだ。

以上の事から、僕やクルツなど一部の士官達には特殊な階級が与えられている。云わば戦時下の特例処置という訳だ。

『ブラウン少尉、急ぎましょう。敵が逃げてしまいます』

特務なる不相応な階級に付いて少し思い馳せていると、マイヤー准尉から声が掛かった。

239: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:15:36

「…」

う…と思わず呻きかかった。
声はとても落ち着いてはいるが、モニターに映る彼女の眼は爛々とした輝きがあり、今にも一人勇んで飛びかねない様子だ。
幼い容貌を残す美少女には非常に似付かわしくないその表情に引いてしまいそうになるが―――とりあえず顔には出さず、

「ああ、第101大隊はこれより敵の離脱の阻止及び第2旅団の救援に向かう。全機移動開始、僕の後に続け」

告げると了解との34名もの兵士達の声が返り、僕はフットペダルを踏み込む。
僕達だけでは数の上では不利だが、カミンスキー大尉の方からもクルツの隊ともう一個ドム編成の中隊が来る。これで数の不利は埋められると思うが……。

「…どうも胸騒ぎがする」

いや、恐らく大丈夫だと思うが油断するのは危険だと脳裏に囁くものがあり、何となくマイヤー准尉の機体がある方へ視線を向ける。

「………」

しかしそこから〝何か〟を感じられる事は無かった。…まあ、自分にはその〝適性〟が無い訳だから当然なのだが。




マトスは軽く安堵の息を吐いた。
場当たり的な戦術だったが予想以上に上手く行った。南西の敵部隊は大きく後退し…いや、此方を避けるように南の敵後方部隊の方へと移動している。戦意は完全に失ったと見るべきだろう。

「上手く行きましたね」
「ああ、流石はポッカだ。敵に5割近い損害を与えたようだ」
「ええ、アジャイル部隊とウォード隊のバクゥも加わりましたしね」

副官の言葉に頷く。
敵にとっては哀れな事だが、ポッカ隊の精鋭に加えてアジャイルの支援を受けたウォード率いるバクゥの猛撃を受けたのだ。これが決め手になったと言って良い―――ロンメルの決断を知らないマトスはそう思った。

「よし、最大船速だ。機関部が壊れても良いから戦域を離脱するぞ。キルシャーにもそう伝え―――」
「―――上空、索敵機より入電! 西部と南部の敵MS部隊に動きアリ、一部が分離しこちらに向かう模様! 機種は全て〝十字目〟です!」
「ッ…!」

通信オペレーターの報告にマトスの顔が一瞬強張る。

「やはり簡単には逃がしてはくれないか…」

十字目の速度を思えば、そう間を置くことなく接敵するだろう。

「……………一部分離と言ったが数は?」

マトスは対処策を考えながらオペレーターに訪ねる。

「は、西部の敵部隊からは凡そ30、南部の方は20機程…との事です」
「……」

此方とほぼ同数ほど…。

「敵はMSだけなのだな?」
「そのようです」

MSの数はほぼ互角。だが十字目と正面から迎え撃てるのはウォードとハーマンのバクゥの二隊…18機と、ディンで構成されたハワード隊の10機、ポッカ自身は後れを取らないだろうが、ジンタイプで隊を構成している彼等ではキツイ。

(尤もこれとて楽観的に見た場合だ。MSの性能差は明らかであり、ウォードにハーマンにハワードの隊にしろ、例によって〝成人〟が過ぎたばかりの若造が混じっている。先程の戦いでも先走りかけた連中を諫めるのを苦労していたようだし…)

アジャイルも先ほどの戦闘で弾薬がほぼ付きかけている。仮にMSの支援が出来たとしても厳しい…というか、まず抑えるのは無理だろう。それに…、

(…〝狼食い〟の二機、〝銀の双星〟がいる可能性が高い)

その厄介な敵エースがいる事は確認されている。ここに来てその二人をこちらに向けない理由はない。
幾らハーマンやウォードでもあの敵エースの相手は無理だ。‟狩人〟の見せたあの空中機動を見れば相当な技量である事は判り、‟銃士〟の方もポッカがあっさり撃墜されかけたのだ。
仮に性能が互角だとしても勝ち得るのは無理に思えた。あの〝子鬼〟に乗っていた時点でバクゥを複数相手取り、砂漠の虎に挑んで生き延びたパイロットなのだ。

(しかし、それでも何とか抑えなければ…)

ここが踏ん張り時だとマトスは強く感じ、方策を考える。

(――――――――――――……………か、これでどうにかなるか分からんが…)

一分ほどの沈黙の後、マトスは重く口を開く。CICにいる皆を見渡して。

240: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:17:17



「ん?」

相対距離が15kmを切る頃に敵に動きが見えた。
サブディスプレイに映る高々度を飛ぶ索敵機やバルーンからレーザー通信で送られてくる情報―――戦況図から離脱に徹していた敵艦…レセップス級が急遽こちらに向けて回頭し、クルツの方にもピートリー級が舵を切っている。
敵MSも同様だ。艦の前方に展開しこちらを待ち受けるように布陣しつつある。

「……マイヤー准尉、どう思う? 敵に何かを感じるか?」

少し考えた後、彼女に情報を回してそう尋ねていた。

『少尉、私はエスパーではないのですが……そうですね。何かの意図、固い意志、決意のようなものが敵にあるのを覚えます』

僕の問い掛けの意味を理解し、モニターに映る准尉は微かにムスッとした表情を見せたが、それでも思う所を述べてくれた。

「そうか、なるほど…」

彼女がそう思うのなら警戒した方が良いようだ。離脱を諦めての玉砕覚悟ではないのだろう。
マイヤー准尉は、シュバリエ大尉と同じ空間認識能力者だ。洞察力は高く、勘も良く当たる。若い所為か大尉以上に鋭い感覚で。
そう思うと同時に僕は通信をクルツに繋げる。

『何だブラウン? こっちも直に接敵するんだが…』
「マイヤーが嫌な予感を覚えている」

嫌な予感と言った訳ではないが、簡潔に伝える為にクルツにそう言う。

『…! そうか、分かった。他に何かあるか?』
「いや、注意しろよ」
『ああ、そっちもな。警告ありがとよ』

微かに驚き目を見開いたクルツだが、神妙に頷くと礼を言って通信を切った。その直後、

『―――少尉!』
「分かっている。エスパーじゃないっていうんだろ」
『そうです! だというのにッ…!』
「う…悪いと思うけど、准尉の勘は無視できないんだ。戦場なんだし…ほら、ゲンを担ぐのも分かるだろ」
「………………分かりました」

超能力者扱いに怒る准尉に良い訳にもならない宥めの言葉を口にしたが、准尉は渋々頷いてくれた。多分直に戦闘が始まるからだろう。敵には気の毒だが矛先になって貰うとしよう。きっと彼女の気も晴れてくれる筈だ……うん。

―――と、そう考えたのは甘かった。

彼女は確りと根に持ってくれて、このアフリカでの反抗作戦の後、僕はマイヤー准尉に色々と振り回される事になるのだ。
そんな事を知る由もなく、僕はホッと息を吐きながらもう既に視認距離にある敵に意識を向ける。

『敵艦前方、距離4000を置いてバクゥタイプ18、ディンタイプ5、両翼に距離2000を置いてザウートタイプ8を確認…』
「艦の後方にまだいるようだが、これもザウートタイプ…にジンタイプが複数か。それに攻撃ヘリ…アジャイルも多数いるな」

距離が縮まる中でブリックが言い、僕はそれに補足を加える。

「…ザウートタイプは全て対空仕様だな。あれの砲撃の脅威だが地上での目標探知能力は低い。それに空に目が釘付けだ。然程気にする必要はない。全機、バクゥとディンへの対処を優先! アジャイル部隊の動きに注意しろ!」
『了解…少尉、先ずはランチャーで―――』
「―――ああ、恐らく直撃はしないだろうが、出し惜しむ必要もないな。準備出来次第一斉発射だ!」

ブリックの進言に頷いて指示を出す。了解との返事から然程間を置くことなく、幾人もの準備完了との声が聞こえ、

「よし…撃て!」

相対距離は凡そ8km、発射後2秒でマッハ4に達するAMSM《対MSミサイル》計72基が噴炎を上げて敵に向けて突き進む。
だがミサイルの向かう先、朝闇の中で赤い光が無数に地上と上空に出現する。フレアだ。その赤い光に噴炎の多くは引き寄せられ、寄せられなかった物もフレアの赤い光に照らされて火の粉のように舞う銀粉…チャフに触れて爆発する。
予想通りの結果に動揺はない。…ただ少しばかりの期待も無くはなかったが。…その所為か、

241: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:19:43

「チッ…」

無意識に舌を打つ音が自分の口から零れるのを耳にした。それと同時に返礼とばかりに向こうからもミサイルが放たれる。ディンとバクゥからだ。レセップス級は空爆による損傷が大きい為か撃ってくる様子はない。

「各機散開、回避機動、2機連携《エレメント》を崩すな! フレアを打つ必要はない!」

迫る敵ミサイルにそれだけを言い。皆が回避に移るのを確認しつつ僕も自機を蛇行させるように砂上を駆けさせる。
先の追撃戦でも見られたようにザフトのミサイルはMS戦を想定していないものだ。機動力の足りないそれではMSの全力機動に付いては来れない。況してやドムでは尚更―――

「―――!」

ふいに嫌な感じを覚え、その勘に任せて機体を右へと大きく回避させ―――直前までいた位置に二条の閃光が通り過ぎるのを見た。

「ビーム兵器!?」

まだ6000もあるこの距離で正確にこちらを狙ってきた! 拙い!
そう思うや否や、

『ぎゃっ…!?』
『ぐ―――!?』

ノイズの混じった声が通信に流れ、モニターに味方機の撃墜を知らせる表示なされ、レーダーからも青い点が二つ消失した。
一瞬覚える悔しさ、だがそれを感じるよりも早く……閃光を見た時点で僕は指示を下す為に口を開いていた。

『前進停止! 全力回避! スモーク前方へ投げろ! 機体を隠す!』

その命令を下すより数瞬早く僕の物も含めて幾つかのスモークが放り投げられた。直前にスモーク投げます!…とブリックとマイヤーを他、何人かの声が聞こえた事から察しの良い人間が指示を出す前から行動を取っていたのだろう。
しかし、その間にもさらに二機がビームに射抜かれている。

「くっ…」

味方機が落とされた事に改めて悔しさを覚えながらもスモークの壁が前方に出来た事で安堵も覚え、複雑な感情が胸の内に灯る―――が、それを無視して僕は次の指示を出す。

「マイヤー准尉《イェーガー03》、僕に続け! 煙を抜けて突っ込むぞ! それ以外は煙が晴れるか、指示があるまで前に出るな!」

これに直ぐに了解と返る声と、それに数秒遅れて返る声が微妙に混じる。
直ぐに返事をしたのは僕の中隊の物で、遅れたのはミュウラー中尉を始めとした他の隊の物だ。同じ中隊である事からの信頼と無謀な行いをしようとする僕への戸惑い別れたといった所か…。
一瞬そんな事も考えるが、僕は構わずマイヤー准尉と共に全速でスモークの中へと機体を進ませる。

「…!」

3秒ほど濃密な煙の中を駆け抜けて視界が開ける直前に右へ回避機動! 予想通り熱く鋭い二条の光線が機体左側面にある空を焼いて通り直ぎた。だが安心はできない。僕は勘に任せて続けて右へ左へ、また右に…左へと見せかけてさらに右に、そして左に。制動も織り交ぜた乱数的に高速で蛇行を行い、ビームを躱しながら砂上を突き進む。
一方、マイヤー准尉の方はシンプルだ。大きく蛇行せずほぼ直線。僕の方が狙われているという事もあるが、〝適性〟持ち特有の勘の良さがある為だ。必要な時しか回避機動を行わない。
僕も戦場…戦闘中ではそういった敵意や害意といったものを感じ取れるが、どうしても彼女やシュバリエ大尉には劣る。

「あれか!」

回避機動を行いながらモニターの一部を望遠・拡大、ビームの射線元を確認してバクゥタイプの中に混じる見慣れない機体を視認する。
確かラゴォというザフトの最新鋭機だ。コンピューターもその考えに答えるように自動でデータ照合を行い、それを裏付ける。

『少尉、私がビーム持ちの新型を抑えます!』

僕より若干先行してる事もあるのだろう。好戦的な彼女が意気込んでそう言うが、僕はいや…と答え、

「狙いはこちらだ。だからそのまま僕が引き付ける。03は他の敵を抑えてくれ。それに多数の敵を相手にするのは准尉の方が向いている」
『…了解しました』

戦闘開始前のように准尉は渋々頷く。議論している時間も無い為に大人しく引き下がったのだろう。
それに〝銀弾を持つ狩人〟たる僕に新型機だけでなく、他の敵の目も引く筈だ。准尉にはそこを突いて貰いたいという考えも察してくれた筈だ。
意図を理解した准尉の機体は大きく速度を落とす。すると当然、僕はマイヤー准尉を抜いて彼女よりも先行する事になる。

242: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:21:41

「さて、」

もう距離は3000を切る。そうなると新型のビームだけでなく、バクゥのレールガンも電光を飛ばして来る。そうなれば流石にキツイ。少しでも向けられる砲口の数を減らしたい所だ。なら―――

「准尉、前進停止、スモークを落とす―――」

機体に制動を掛けて胸部にある残りのもう一つを手にせず、そのまま切り離して起爆させ―――

「――――狙撃任せる」

―――そう告げた。

『了解!』

起爆し煙が辺りを覆うや否や准尉は返事をし、直後にレールガンが特有の雷轟にも似た砲声が断続的に響く。
ラケーテンバズの代わりに彼女の機体が持つ170㎜レールキャノンの砲声だ。特殊ガスのスモークでカメラは勿論、センサーもレーダーも碌に効かない中で彼女は砲撃を行う。それでも8、9割の確率で敵機に直撃させているだろう。恐ろしい事に彼女にはそれが出来る。見えない位置にいる敵をほぼ正確に掴めるのだ。
未だ負けはないが、彼女との模擬戦は正直僕でもヒヤリとさせられる事が多い。クルツとボルス大尉もそうだが、同じ〝適性〟を持つシュバリエ大尉も同じ事を口にしている。その為、そう遠くない内に彼女の技量は自分達を追い抜くというのが共通の見解だ。
正直この予感は頼もしく思う一方で、不安の方が大きいのだが………。

「…今、考える事でないか……」

胃が重くなるのを感じつつ、戦闘に集中する為に逸れかけた意識を戻す―――煙の中で一応左右に回避機動を取っていると、間近で爆音が響いて僕達を隠す煙が吹き飛んだ。

「…衝撃弾《ソニッカー》か」

見るとレッセプス級の甲板の上に500㎜バズーカをこちらに構えているジンがいる。此方がスモークの壁を作った時に慌てて用意したといった所か。しかし―――直後、そのジンがマイヤー准尉に撃ち抜かれたように開けた視界と回復したセンサー・レーダーを見るに少し遅かったようだ。

「良くやった、准尉」
『はい、少尉!』

准尉の戦果を褒めて、それに嬉しそうに答える彼女の声を耳にしながらフットペダルを踏み込み。僕は自機を再び全速で駆けさせる。
目の前の敵部隊はディンが残り2機に、バクゥタイプは13機にまで減っていた。

「全機突撃! 敵機の掃討に当たれ!」

距離が詰まった事でこちらに眼を大きく向いたと判断し、僕は未だ晴れないスモークの壁の向こうにいる味方に指示を飛ばした。




「くっ! フィーネ!」
「駄目、当たらないっ!」

バン・フライハイトはガンナー席に座る相方の怯えの混じる悲鳴めいた声に焦りがより大きくなるのを感じた。
目の前の現実は、彼女の能力に全幅の信頼を置いていた彼にとって信じがたい事だ。先程も距離6000以上あった敵機を次々と落とし、その能力を我が事のように自慢げに思っていた矢先にそれが崩された。
スモークの壁から飛び出した2機の敵。片方はあの〝狼食い〟。エースであり、恐らく指揮官でもあるその敵を落とせば、確実に優位に立てる。
だからこそ狙ったのだが、

「どうして!?」

怯えに加えて困惑も混じった声。
もう距離2000にまで迫ったその敵エースは、尚も彼女の正確な筈の射撃を躱しながらこちらに接近してくる。それも味方のレールガンをも避けながらだ。
無数の砲火に晒されながら気にも留めずに突き進む十字目の巨人。そんな光景に恐怖と戸惑いを覚えない方がおかしいだろう。加えて、

『な、何だコイツは!?』
『ぐあぁっ―――!』
『レイン!…く、よくも―――がぁあぁ!?』

エースを援護するもう1機も異常だ。高速で回避機動を織り交ぜながらレールガンを放ち、電光が奔る度に味方機は損傷…ないし撃墜を受けている。恐らくスモークの中から攻撃を行ったのはそっちの方なのだろう。
彼の相方もこの戦争で、数多の戦場で同じ事をしてきたが……バンの目から見て、その敵には相方以上の凄みのようなものが感じられた。

「ッ!?」
「バン!」

通信に響く仲間の声と怒声に気を取られかけたが、モニターに映る敵エース機がバズーカを構えるのを見てとっさに回避機動。
右前方へと飛び、左に逸れるように噴煙が通り過ぎるのを見る。さらに続く二つの噴煙を左右前方へ俊敏に動いて躱す―――が、当然、そうすると距離が詰まる。
バクゥ以来、彼の乗るラゴォも四足によって高い走破性・運動性こそ得ているが真横への機動は構造上の問題で不得手なのだ。

「くそっ!」

思わず罵る。距離が詰まった事でバズーカの弾より早いマシンガンの銃撃が襲い掛かり、必死に避ける。相方もそれを支援する為、牽制の射撃を行う。
敵機はバズーカを捨ててマシンガンに切り替えたのだ。左に持っていた盾も何時の間にか放り捨てている。身軽にしようという意図もあるのだろう。
400km/h超える速度出す敵機。その本領を活かそうという事か―――バンはそう思うが、

243: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:22:53

「けど! このラゴォをそう簡単にやれると思うなッ!!」

射撃で仕留めるのが無理ならば…とフットペダルを踏み込み、愛機の四肢により力を込めさせ、スラスターも噴かせて銃撃の隙間を縫って彼は接近を試みる。




「素直だな」

周囲のバクゥからのレールガンではない。敵の新型機―――ラゴォから向けられる射撃にそう思った。
或いは真っ直ぐというべきか。牽制と本命を織り交ぜてはいるものの、その意図が読み易いのだ。どれが牽制や誘導を誘うものか、本命なのかが良く分かる。恐らく性格的なもの現れているのだろう。
だから素直と表現したのだが……あと、何処となく准尉やシュバリエ大尉に近しい感じがある。ただ凄みというか、相手に喰らい付いてやろうという意欲が足りない感じだが。

「…まずはこれで!」

ビームを躱しながらラケーテンバズを撃つ。相手の射撃の素直に感化された訳ではないが、自動照準《オート》に任せてトリガーを引く。
当然、これは躱され、続けて二度オートのままトリガーを引くもやはり避ける。その間もビームが襲い来るがこちらも当たる事はない。しかし、

「素直だが、あの機動でこちらを補足し狙ってくるか」

高速で機動しながら向けられる砲塔の動きにそう思う。自動照準のような機械的なものとは異なる。
やっぱりマイヤー准尉やシュバリエ大尉に近い感覚を持つという事か…? いや、そこまでの先読みの良さはない。技量があの二人に追い付いていないと見るべきか? それともそこまで勘が…感覚が鋭くないのか?
バズーカを捨てて少し考えるが……まあ、良い。

「どちらにしろ、やる事は変わらない!」

此方の接近と敵機に3度の回避を強いて詰まった距離にマシンガンにメインアームを切り替え、オートからマニュアルにして照準を付け―――発砲!

「ッ…やる!」

挙動を読んで射撃を加えるが敵機は上手く避ける。
牽制を混ぜた射撃にも、狙い付け一泊置いてからのフェイントにも読みを入れて絶妙に四肢を駆使し、或いは引っ掛かりそうになってもスラスターで挙動に強引に修正を入れ、逆に向こうもこちらを翻弄し、躯体の移動とスラスター機動をチグハグにし、フェイントを入れて機動を読ませないように動いて見せる。加えて素直さはあるものの、決して不味くはない射撃もある。

「動きは悪くない。勘も中々に良い。新型機を任されるだけはあるという事だな!」

そうして互いに弧を描き、まるで戦闘機のドックフェイトのように死角を、隙を突かんと動き、機動し、そして―――

「―――来る!」

より距離が縮まり、敵機は銃撃の合間…こちらの弾倉交換の隙を突いてスラスターの墳炎を大きくし、頭部に二対のビーム刃を生やして接近。数瞬ならばドムにも負けない速力を持つ吶喊。
こちらもこれに合わせてホバー全開で後退つつ、早いな!とその瞬間思う。
後退である以上、背部のスラスターを活かせず敵機の吶喊には追い付かれる。

―――が、

「掛かった」




乱れる息、額に浮かぶ嫌な汗、何度も何度も装甲を掠め、コックピットに嫌な音が響いた。何とかスラスターは無事だが左右の機動補助翼は被弾して使い物にならなくなった。
その被弾と装甲を掠める音を聞く度に相方が怯えと不安を見せ、それに引き摺らされそうにもなった。だがそんな彼女が時折入れる回避の指示のお陰で敵の恐ろしいまでの鋭い射撃を避け続けられて、ここまで喰らい付けた。

そう、その機が来た。

二度目の弾倉交換。一度目はまだ距離が足りず、また敵機の持つマシンガンの弾数が分からない事からタイミングを計りかねてその機会を逃した。
だが、それが良かったとバンは思う。お陰で上手い具合に距離に詰まった位置でタイミングを計れたのだから。
もし一度目の弾倉交換時に突貫していたら距離が足りず返り討ちにあっていただろうし、距離が今と同じでもタイミングが合わせられず危険だった筈。

そう、敵機が空弾倉をマシンガンから落とし、―――その瞬間に構え、―――敵機が予備弾倉に手を回して両手がふさがったのを見、―――その瞬間にマシンの四肢を踏み込ませてスラスターを最大に噴かした! 同時にビーム刃のトリガーを引く! 
瞬く間に迫る距離、慌てたように後退する敵機を見て確信する。

「―――勝った!」

が―――、

「バン、だめぇ!!」

244: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:24:09



フィーネ・エレシーヌはその瞬間かつてないほどの寒気を覚えた。
それは勘とはまた違うと自分でも思える確かな予感。これまでもその感覚のお陰で窮地を脱し、この戦争で…厳しい地上での戦いで生き延びてこれた。
今、こうして恐ろしく強い敵と相対する事となったこの戦闘でもだ。予感を覚えるその都度に大切な相方であるバンにそれを伝え、幾度もあった危機を脱している。

だから叫んだ。

「バン、だめぇ!!」

相方が勝利を確信する言葉を発するよりも早くその声は出ていた。

「な―――!」

フィーネの今までにないほどの大きな叫び声に、バンは機体の進路を慌てて右へと逸らす。

―――だが、

―――いや、

「うわぁぁあっ!?」
「きゃぁああっ!?」

強烈な衝撃が襲い掛かり、機体共々コックピットを激しく揺らした。

強烈な衝撃は襲ったが爆散を逃れ、死もまた逃れられた。




「驚いたな」

思わずポツリと呟く。
完全に掛かったと思ったのだが土壇場で気付くとは……その勘の良さに感心せざるを得ない。そう思いながら爆発のあった個所を一瞥する。そこにはひしゃげたシールドと棒のような物が転がっている。
それは、マシンガンに切り替えるより前、ビームを躱しながら接近していた時に投棄した僕の機体のシールドとその裏にあったシュツルム・ファウストのチューブ部分だ。
エース乗りと思われる新型相手にデットウェイトになると考えたのもあるが、布石として使う積りでもあった。バズーカも同様だ。

敵機との打ち合いと回避機動に紛れて秘かに砂の下に隠し、良い具合に距離が詰まったのを見、二度目の弾倉交換を行う際にそれを背後にした。そこまで仕込めばあとは言うまでもない。
敵機の突撃に合わせて後退し、その罠の上を乗り越えて敵機がそれの直上に位置したタイミングで起爆させるだけで終わりだ。
況してやバクゥタイプのコックピットは下部にある。致命傷は免れない―――

「―――と、思ったんだが」

傍に過ぎるビームを躱す為に回避機動を取り、今度こそ弾倉の交換を行う。
こちらの右ではなく、左に回避してそのまま駆け抜けたのも良い判断だ。もし右への回避を選んでいれば、即座にマシンガンを捨て、ヒートサーベルで抜き打ちしていた所だ。

「といっても…」

弾倉交換を終えたマシンガンを構え、さらに左腕に背後から抜いたシュツルム・ファウストを持たせ、ビームを撃ちながら距離を稼ごうと離れる敵機へ照準し、

「ここまでだ…!」

これまでのような俊敏な機動も取れないであろう敵機へ向けてトリガーを、

245: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:25:15



衝撃で気を失ったのかぐったりして動かない相方の無事を確認するよりも先にバンは機体を駆けさせた。自動照準でビームを撃たせ。兎に角、全速で距離を取る。
機体のダメージは深刻だ。頭部は半壊しビーム発生器共々センサーの半分は潰れ、走る事は出来ているものの左前足のダメージカラーはレッドで可動負荷。左後足もイエローでやや危険。左スラスターはオレンジで危険。胴体部も左側を中心にダメージ表示が幾つも見られた。
いっそ左前足はパージした方がマシなのだが動作不良で切り離せない。他の部分も……特にスラスターは何時使い物にならなくなってもおかしくはない。
相方の状態、愛機の状態、それに不安を覚えてどうするかを考え―――

「―――!」

瞬間、背筋から首筋に奔る悪寒に思わず背後を振り向く。
生きている後方カメラがあの狼食いを捉えていた。此方のオート射撃に怯まず距離を詰めながらマシンガンと何やらファウストとかいう武器でこちらに狙いを定め、

「あ、」

ドクンと心臓が大きく鼓動して時間が引き伸ばされるような感覚に陥り、これは躱せないと予感した。
それでも何とか生き延びようと操縦桿と動かし、

『うおおぉぉぉッ!!』

通信に響く雄叫びと共に敵機に猛然と飛び掛かるバクゥが見えた。

『逃げろぉッ! バン! フィーネ!』
「! 隊長…!?」

その機体から通信が飛び、モニターに映る男性がバンに告げる。

『行け! 時間だ! 戦場を脱出しろ! あとは俺たちが引き受け―――ぐおおっ!?』

バンの驚く声を気に留める様子もなく言い、悲鳴が混じる。
上官の乗る機体が敵エースのマシンガンを受けて被弾し、右の肩部とスラスターが火を噴いた。

「隊長! 今、援―――!」
『行けっ!! 構うなっ!! 行くんだぁ!!!』
「―――…!」

頬が強張るのを覚えた。喉もそうだった。
怒声の中に込められた必死の訴え、或いは願い。言葉にされなかったものを感じた。
それに無下にしない為にもそうすべきだと分かったが……迷い―――

「―――バン」
「!…フィーネ!?」

何時の間にか目を覚ましたのか、相方の少女が彼の方へ視線を向け、

「くぅ…」

その悲し気ながらも悟ったような瞳と表情に歯を食い縛って頷いた。

「各機の離脱の準備だ! ハーマン隊他、予定に従い俺に続け!」

そう、これは予め決まって事だった。
不利な状況の中で少しでも仲間が生き延び、離脱する為にはそれしか方法が無かった。
それでも―――……

「……何とかなると思ってたんだ」

隊長と自分達ならこの状況を切り抜けられると。




左側面から襲ってきた敵の横槍に思わず舌打ちするも、機動力を失ったラゴォよりも脅威度が高いと見てその敵機への対応を優先する。

「こいつは…」

正面に捉えた敵機のデータ照合はバクゥとなっているが、補助翼の根元近くにスラスターが追加されているカスタムタイプ。確かジン・ハイマニューバという奴のだ。…となるとこれもエース機か。
数瞬、その標的の確認と考える間にも敵機は執拗にこちらの死角に回ろうと動きつつ、背中のレールガンを幾度となく放つ。だが、

「甘い!」

死角を取らせまいと旋回しつつ蛇行機動でそれを避け、

「お返しだ!」

蛇行機動を続けたままシュツルム・ファウストをまず撃ち―――敵機の追加スラスターの向きと機体の傾きから回避先を読み。一泊おいてマシンガンのトリガーを引いた。
伸びた火線は左へと飛んだ敵機の右前腕の付け根とスラスターに直撃。そこから大きく火を噴く。
先程のラゴォと違って、意外にもあっさりと被弾した敵機に一瞬拍子抜けた感覚が芽生えるが、気を引き締めて直ぐに止めを刺さんと再度トリガーを引こうとし―――

「―――なんだ!?」

突如、地面が揺れた。

246: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:26:23


凡そ一分近く前。

「…あの敵艦、何をする気!?」

スザンネ・マイヤーは逸早くそれに気付いていた。
残ったディンを落とし、尊敬する上官を狙うバクゥも2機ほど大破ないし撃墜した。
しかし、直後にレセップス級が動き始めた。ここからまだ4000ある位置から前進してこちらに向かっている。
…何か嫌な感じだった。空爆で主砲を始めとした多くの兵装を失っている筈なのに強い戦意がある。

(直ぐに少尉に―――いえ、駄目。新型を相手にしている。あの機体……操縦者《オペレーター》だけならまだ少尉の敵ではないけど、砲手《ガンナー》の女が厄介。気を逸らさせるのは少し危険)

マイヤーは、人から言われればエスパーだと否定するその特有の鋭い感覚で敵新型機には2人のパイロットが乗っている事を察知しており、さらにその一人、砲手担当の女…少女が自分に近しい存在だと明確に感知していた。先程スモークの中で何度か狙ったが…その少女の意思が邪魔をし、見事回避していた事からもそれは確実だった。
その為、上官の意識をその敵機から逸らすのは危険のように思えた。

(ブリック曹長達はまだ動き始めたばかり、ここまで来るのにあと40~50秒は掛かる。なら私だけで突貫…を?)

それも駄目だ。まだバクゥが多く残っている。少尉の背中を守る為にも―――と!

「このッ! 邪魔!」

自機の近くを掠める電光と着弾し舞い上がる砂煙に、マイヤーは苛立たし気に叫び、自分を狙い…いや、気を逸らそうと自機を囲みながら牽制射撃する3機のバクゥに対して腰裏のグレネードを一つマシンの左手で掴み、回避機動を取りながら左側面の敵機に放り投げ。続けて同じく左腕のシールド裏にあるシュツルム・ファウストを二つを素早くコマのように左急旋回しつつ後方と右にいる敵機に撃ち放って牽制。
そして正面に向かい直ると、左、後方、右へに生じる爆発を目にすることも無く、ブラウンの背中や側面を狙う敵機にレールキャノンを狙い撃つ。流石に高速旋回の後の射撃の為、正確さは欠くが、

「1機撃墜! 3機を小破…!」

マイヤーがそう言うようにブラウンを狙う8機あるバクゥの内、1機がレールガンをまともに受けて胴体が吹き飛び。3機がスラスターや脚部、背中の武装にダメージ受けて火花を散らしている。
見ると彼女を囲うように動いていた敵機も、後方と右の奴は爆風に煽られて僅かながらダメージがあるようだった。しかしそれでも高い戦意をもってマイヤーの動機を牽制しようと動き出す。
射撃の他、ビーム刃を形成して近接戦の挑む気配もある。或いは少しでも気を逸らさせようとの威嚇か?

「……」

キリッと軽く歯が鳴った。少しばかり顎に力が入ったらしい。

(この3機、少し動きが良い。多分ベテランが乗ってる。けど脅威ではない。直ぐにでも落としてやりたい所……だけど、)

上官への援護が優先だ。両腕で構えるレールキャノンの矛先を周囲の敵機ではなく、やや遠くにある敵機の方へ向けながらマイヤーは歯噛みする。好きに動けないもどかしさもあるが、

(あと40秒ほど……余り上手くないかも知れない)

ブリック達がこの戦域に参戦すれば、一気に形成は傾く。しかし―――

(―――ほんと嫌な感じ)

マイヤーは一瞬レセップス級の方を一瞥してそう内心で呟いた。

247: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:27:09



シーラ・ウォードは投げられたグレネードを大きく機体を後退させて躱しながら、カメラを遮光モードにする。だが投げられたものは通常のグレネードで爆炎と破片を巻き散らすだけだった。

「ッ…手強い!」

自分が預かる隊の中でも腕に覚えのある者を2人選んで抑えに掛かったが、それを物ともしない様子で〝狼食い〟を援護し、また1機味方が落とされた。

「これ以上は…! これ以上はやらせるな! 何としてもコイツの動きを封じるんだ!」

一瞬強く歯を噛みしめ、彼女は部下に叫んだ。それに強く了解との返事があるが……。

(あと少しなんだ。一人でも多く生き残らせなければ…)

内心で決意を新たに呟く。
しかし、何だコイツは?…とも思う。狼食いならいざ知らずあっと言う間に5機…いや、先ほどのスモークの中からの狙撃を含めれば、10機もこの目の前の敵機に落とさている。
狼食いの片割れかとも思ったが、それは既に別に確認されている。

(無名のエースとでも言うか…ッ!)

思わず吐き捨てるように罵り、

「落ちろぉーー!」

シーラはビーム刃のトリガーを引きながら飛び掛かる。スラスターを噴かせて頭部カメラを正面に向けて注視する敵機の側面から一気に接近し、300ある距離を3秒にも満たない時間で駆け抜けて高温プラズマの刃で胴体を溶断しようとするが……正面を向いたまま敵機はまるで見えているかのように紙一重に躱してホバーで時計回りで小さく旋回。先程見せたコマのような動きだ。そしてそのまま突貫した彼女の背後に回り、レールガンの矛先を向けようとして―――電光が敵機の周囲を掠め、

「く…!」

背筋が凍るような感覚を覚えながらシーラは機体を右へと切った―――が、結局は発砲はされなかった。

『『隊長!』』

そこの声に背後に回られた瞬間、部下達が援護してくれたお陰で危機を脱したように思えた…が、

「!…躱せ、回避しろ!」

敵機を確認するとレールガンの矛先は、また遠くの方を向いており、シーラは通信に向かって叫びつつ、

「やらせるかっ!」

素早く反転しつつレールガンを敵機に撃ち、部下2人もこれに続く。
そして彼女は再度吶喊。これが功を奏したのか、それとも彼女の叫びが味方に聞こえたお陰なのか、機体を大きく動かさざるを得ない敵機は狙撃を行うも今度は味方が落とされる事は無かった。その事に動きを止めずに安堵するが、

(名の知れぬエース…か。今になってナチュラルを侮る訳ではないが、こうも……)

ザフト製の物を上回る性能を持つMSの存在もそうだが、このパイロットは技量は明らかに己を上回ってる。恐らくハーマンとあのポッカをも。
ナチュラルを侮る事こそ無くなったが、それでもコーディネーターの優位性を少なからず信じていた彼女にとっては衝撃的だった。

(……基地司令も言っていたが結局の所、同じ人間という事か…我々コーディネーターも)

遺伝子を弄り、幾ら進化した種だと主張しようと人類である事は代わりなく。人間という枠を出るものでは無い…という事なのだろう。

「……」

己の高慢さを突き付けられたようでシーラは微かに唇を嚙む。だが意地を通すように彼女を操縦桿を握り締めて目の前の敵機に挑む。

「はぁあああっ!」

部下の援護の下、己も射撃を加えながらビームの牙で敵機を裂かんとして。そして―――

248: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:28:07



「しつこいっ!」

苛立たし気にマイヤーは罵る。此方の狙撃を何度邪魔されたか。お陰であれから2機しか撃墜できていない―――

(―――いえ、こいつらだけの所為じゃない。何か消極的な物が…?)

そう、マイヤーは違和感を覚えいた。自分を囲む敵は違うが上官を囲もうとする敵の動きが変わった。上官を討とうとするよりもこちらの援護射撃に警戒を……意識を大きく割いている。

「………」

レールキャノンを遠くの敵に向けつつ幾度も襲う電光とビーム刃を避けながら、マイヤーはモニター隅にあるレセップス級に意識を向ける。
相変わらずの高い戦意。もう直に距離2000に達する。嫌な予感もあってか、それを見て一瞬、レールキャノンの矛先をそちらに向ける事を考えるが、即却下する。巨大で厚い装甲を持つ敵艦の動きを止めるには火力が足りないのだ。せめて機関部を狙える位置でないと。

(けど、もうブリック曹長達が到着する。それに少尉の方も次で…そうすれば―――え? 少尉のアレを躱した!? 見破った!?)

それを感じ取りレセップス級から意識を戻す。驚き拡大した映像にはシュツルム・ファウストの爆発に呑まれる直前に機体の右へと切った敵の新型機が映った。

「また…あの女ッ!」

マイヤーに怒りが沸く。トラップを避けられた理由が分かったからだ。
ここで自分の狙撃を邪魔する奴らのように何度目だ! 本当ならばとっくに決着はついている筈だった! 新型に乗るガンナーの少女が居なければ! そうすれば自分は自由に動けてこの邪魔なバクゥ3機を片付けられてあの嫌なレセップス級も止められるのに!
ガンナーの少女が存在しないという意味のない過程を持ち出して、マイヤーは理不尽な怒りを見せる。
そんな十代の半ばの少女らしい…若さ故の未熟さと言うべきか。それが僅かな隙となった。

「!…しまっ―――!?」

モニターの隅に躍り出る影と光刃。ラゴォに気を取られ、怒りに思考を占められたマイヤーは反応が遅れてしまった。

「ッ! 迂闊!」

後ろに下がってすれ違い、ギリギリ何とか回避できたが代償にレールキャノンの砲身が半ばから切り取られた。
モニターに短くなった砲身の先端が灼熱に発光しているのを見、マイヤーは止む無くレールキャノンを放り捨て、左腕で素早くサブに持ってきたマシンガンを右腰部から引き、

「やらせないっ!」

すれ違い反転し、砲撃しながら尚もこちらにビーム刃を向けんとする敵機へ牽制射撃しつつ右腕にヒートサーベルを抜き、斬り掛からんとしたが―――

「―――少尉!」

強い戦意の塊が上官の方へ向かうのに気づき、ついそちらに視線を送ってしまう。1機のバクゥ…大型スラスターを持つカスタムタイプが、敬愛する上官に襲い掛からんとしており、さらに気付いた。

「何!?…くっ!」

またしても気を取られて敵機を切り裂く機会を逃がし、加えて電光を纏った砲弾が傍を掠めて慌てて距離を取る。しかしそれでもマイヤーは今ほど見た物に思考が捉われた。

(少尉からバクゥが離れた。狙う気配も完全に消えた…?)

そう、先ほど見た光景には上官に飛び掛かるカスタムバクゥ以外に敵機の姿はなかった。
そしてハッとする。自分を囲む敵も2機から殺気が無く……それに気付いた瞬間、その2機が機体を翻してこちらに背を向けて一気に駆け出す。
それに僅か遅れてレセップス級からミサイルが放たれるのを見る。

「―――拙い!」

強い悪寒を感じてマイヤーは回避機動を取りながら、通信機のスイッチを入れる………が、

249: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:29:17



彼…ブリックからそれは見えていた。
直に上官に、ブラウンとマイヤーの下へ辿り着き、ようやく交戦可能な距離へと入るかと思われた時に残ったバクゥが大きく右へ―――再び南西の方へ移動し始めた。

『チッ…逃げる気か!? 追うぞ!』

信頼する上官に代わって指示を出すミュウラーの声が聞こえ、異論なくブリックは了解と返事をして自機の進行方向を離脱せんとするバクゥの方へ向け……ピピっと軽い警告音が鳴った。

「ミサイル接近! レセップス級から…!?」

今になって敵艦から噴煙が上がり、無数のミサイルが射出されるのを確認。

『っ…全機停止! 爆発に巻き込まれるぞ!』

ミサイルの軌道を読んだミュウラーが叫び。29機のドムが一斉に停止する。その直後、前方数十m先に大小様々なミサイルが着弾し爆炎と砂煙を上げた。恐らくはバクゥの追撃を妨げる為だろう。さらに続けてミサイルは降り続け、幾つかがブリック達の方を向き、慌ててミュウラーが後退を命じ、

「!?…これは!」
『な、なんだ!?』

飛来するミサイルが途絶えた瞬間、大地が大きく揺れ始めた。

『じ、地震かッ!?』
「そ、そんな筈は…!?」

ミュウラーの声にブリックが首を振り、設置させた脚部…足裏にあるソナーを働かせてモニターに表示される情報を確認する。

「! 震源が敵艦にッ!?」




その瞬間、マトスはモニターに映るレーダーの表示を確認して叫ぶように指示を飛ばした。

「ここだ! 艦を停止させろ! ただし機関は最大出力を維持! スケイルモーターもだ!」
『了解! 機関最大出力! スケイルモーター全力稼働!』
「よし! スモーク、チャフを撒け! こちらも出る! あとは任せるぞ! だがお前も機を見て必ず離脱しろよ、いいな!」
『………はい』

コックピットのモニターに映る副官の姿と共に、CICとリンクさせたレーダー他、様々な情報表示も消えた。
さて、とマトスは思う。

(やれる事はやった。アイツもそうだが、他も出来ればもう少し逃がしてやりたかったが……)

だが、それは出来なかった。この損傷を負った艦を前面に立てれば怪しまれ、被弾は免れず、スケイルモーターに影響が出ては作戦が台無しになる。だからなるべくMSに目を引き付けさせる必要があった。

(何という矛盾か。多くの人員とそれら貴重な戦力を逃がす為の作戦なのに、彼等に犠牲を強いらなければならないとは………いや、エゴだな。ただ―――)

己の不甲斐なさか、それとも犠牲になった仲間の無念にか……それとも―――彼はそれを思い、二秒ほど瞑目する。そして、

「さあ。行くぞ!」

眼を見開き、これから成す事への成功を祈るように操縦桿を強く握り締め、フットペダルを踏み込んでマトスは格納庫から一気に機体を外へと躍らせる。

「最後の出撃だ!」

250: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:30:07



揺れの後に起こったのは、強烈な砂嵐だった。だが自然現象ではない。その原因は、

「…スケイルモーターを推進に使わず、艦を停止させて全力で稼働させたのか!」

ソナーの反応にそう判断する。
今のも続く揺れの震源は敵レセップス級からだ。間違いなくスケイルモーターを使ってこの砂嵐を引き起こしている。アレにそんな使い方があるのかは知らないが…その可能性しかない。その所為で視界が利かない。しかも…。

「視界だけでなく、レーダーもか! チャフを撒いたな!」

砂煙の中にアルミ片の銀粉は混じっているらしい。接敵時に撃ったランチャーを迎撃する為に撒いた物も混じっているかも知れない。最初からこの砂嵐に狙っての物かは積りだったかは分からないが、敵艦は新たにチャフを撒いたのも確かだろう。
赤外線も舞い上がる砂が津波のように濃密な所為か利きが悪い。これでは迂闊に動く事は出来ない。

「ブリック、状況はどうなって―――!?」

レセップス級から離れた位置にいるブリック達ならばと思い、通信で尋ねようとするが―――至近で動体反応!

「―――!」

瞬間、正面モニターに迫る影を視認し、反射的にマシンの右足で蹴り上げた。
バクゥだ。先程揺れの所為で止めを刺しそこなったカスタム機。恐らく向こうも視界やセンサーが利かなかった所為だろう。碌に狙いを付けられず、頭部の左右に生やす光刃はこちらを斬りつける事はなく―――

「―――このっ!」

蹴りを受けて仰け反った敵機にそのままマシンガンを叩き込こみ、敵機の腹部に無数の火花が咲いて弾痕が刻まれた。

『のぉおぁああッ!!』

被弾による誤作動か、オープン回線が開いたらしく敵機から悲鳴が聞こえた。

『ぐぅっ…がはッ…こ、ここまでか……バン、フィーネ…お前、お前らは…こんな死に方を…するなよ。生きて…生き延びろ。お前達のよ…ような…若者が……こ、こんな馬鹿げ…馬鹿げた戦争の犠牲になる必要など……―――』

苦し気に何かを言い残し、そこでその声は途絶えて敵機は崩れ落ちた。

「…………」

誰かに向けた遺言。かつての上官達を主起こさずにいられないそれに思わず考え込み、感傷に耽ってしまい―――

『―――少尉!! みんな!! そこから離れて下さい!!』

聞き覚えのある少女の今までにない焦燥に満ちた声が聞こえた。




マイヤーは砂嵐で閉ざされた視界の中、なおもこちらに襲い掛かる敵機を軽くいなして素早くヒートサーベルで両断。見知らぬ女性の悲鳴が聞こえた気がしたが、気にせずに再度通信スイッチを入れた。

「少尉!! みんな!! そこから離れて下さい!!」

感じる予感と悪寒に任せてそれだけを叫んだ。強い意志と不吉な気配を纏った物がレセップス級の背後とその中から飛び出し、上官と仲間の下へと向かったからだ。無論、彼女の方にも!
これに彼女はさらに叫んだ。

「駄目!!」

と。


―――直後、砂嵐と中で大きな閃光が瞬き、光と熱が辺りを覆った。




ブリック達は突如起きた地震とも見間違える揺れと砂嵐の中、レセップス級がスモークとチャフを撒くのを見、直後に上空から迫る無数の影に気付いて咄嗟に迎撃した。

『アジャイル!? だがそんな位置では!』

ミュウラーが言い放ち銃撃を向ける。
砂嵐の中心…レセップス級から離れた位置でもある為だが、上空を飛ぶお陰でその戦闘ヘリの姿は容易に捉えられた。
だが、ブリックは接近するヘリに射撃を加えながら違和感を覚える。まったく回避する様子もなく、真っ直ぐ飛ぶだけで数…10機ほどあるがそれに見合わない攻撃の薄さ。そして気付く。

「! 無人!?」

カメラに一瞬捉えたキャノピーには人の姿が無かった。
恐らく自動操縦。その為に動きが単調なのだ。それを示すかのように至近弾も無く、全機が瞬く間に落ち―――

『―――少尉!! みんな!! そこから離れて下さい!!』

通信で呼びかける少女の声を聞いた。
それとほぼ同時に砂煙の中から飛び出す影…猛烈な勢いで迫るジンが3機見えてブリックは咄嗟に照準、トリガーを―――

『―――駄目!!』

トリガーを引いた。

「え―――?」

トリガーを引いてから微かに遅れて少女の必死な…制止を呼びかける声に気付き、唖然とし―――モニターが閃光に包まれ、機体が何かに殴りつけられた様な強い衝撃を受けてブリックの意識は途絶えた。

251: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:31:38



「…くっ! ダメージチェック!」

倒れた機体を起こしながら操縦にある音声入力スイッチを押して告げた言葉にコンピュータが応え、正面モニターに情報が示される。
……ダメージは、左腕関節部がオレンジ、脚部関節がイエローになっているが、他は問題ない。多少正面装甲に歪みが見られる程度か。左腕のダメージが大きいのは頭部を…センサーを庇った所為だろう。

「にしても……」

砂嵐も消え、周囲に脅威が無い事を確認しつつ先程の事を思い出す。
マイヤー准尉の叫びが聞こえたあの瞬間、直感に任せて全速で機体を後退させてその直後、また近くに動体反応を感知した。
視界に移るシルエットからジンタイプだと何となく判り、直ぐに迎撃しようとしたが、

『少尉! 無事ですか!?』
「准尉か、ああ、お陰でさまで大丈夫だ」
『よ、よかったです…本当に』

マイヤー准尉のドムが傍に来て、モニターで切迫した表情を見せていた准尉の顔が緩む。ホッと息を吐いて安堵しているようだ。

「……」

その様子に何となく笑みがこぼれる。
この彼女の駄目だと言う声を聞き、迫るジンタイプを直ぐに撃たず、危険を覚えて距離を取った―――それが正解だった。

「まさか特攻とは…」

そう、砂嵐の中で辛うじて見えたそのジンタイプは特攻仕様ともいうべき代物だった。
城塞攻略用の…確かD装備という奴の大型ミサイルを両腕に持ち、脚部や胴体にも爆薬らしい物を機体に付けて、まるでダイナマイトを身体に巻いた大昔のテロリストみたいな感じだった。
それを確認し、背筋に悪寒が奔った直後に凄まじい閃光と共に爆発した。

「とんでもないな」

そこまでして敵を……僕達を押し止めようとするとは。感心すべきか、愚かしいとなじるべきか判断に悩むところだ。

『ブラウン少尉…』
「ミュウラー中尉! ご無事で!?」

通信が入り、直ぐにそれに答えた。
同時にデータリンク機能を回復し、距離もそう遠くない事もあって中尉の機体と隊の皆の状態が知らされる。

『…面目ない。してやられました』
「……ええ、そのようですね」

所在なさげな様子で中尉は頭を垂れる。
中尉の機体の状態は深刻だ。両腕に両足の関節ダメージがオレンジに達してる。所々は赤に近い。イエローの部分もあるが…これではまともな戦闘機動は不可能だろう。
他の機体も似たり寄ったりの物が多い。まともに動け戦闘可能なのは10機もいない。だが―――

「―――ですが、死者が居ないのは幸いです」
『ええ、マイヤー准尉の呼び掛けと、このドムの重装甲のお陰です。これがもしザクやゴブリンだったらと考えるとゾッとしますよ』

僕の言葉に中尉は力なく苦笑する。僕はそれに何と言って良いのか分からず、黙って受け流そうとし…途端、

『ブラウン、無事か!?』
「クルツ! そっちこそ大丈夫か!?」

クルツの慌てた様子にあっちの状況も何となく察して尋ね返すと、クルツは首を横に振った。

『いや、半分が爆発に喰われてまともに動けねえ』
「そうか、こっちも動けるのは10機程度だ」
『くそ! やっぱそっちもか! マイヤー嬢ちゃんの警告もあったってのに…』
「ああ、まったくだ。―――情けない!」

今更ながらに悔しさが込み上げてきて、自分の不甲斐なさにも腹が立った。

「ともかく逃げた奴らの追撃は無理だ。動けない機体がある以上はこの場で待機・警戒するしか―――」

252: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:32:41

動けない味方の警護も兼ねてそう言おうとし、

『ブラウン少尉! クルツ少尉! 無事か!?』

今度はロンメル大佐から通信が入った。

「は、自分は無事です!」
『自分も何とか…』

と、僕はクルツと答え、そうして無事を伝えると共に現状とここまでの経緯を説明する事になり―――

『―――そうか、止むを得んな。貴官らはその場で待機してくれ。直ぐに応援をよこす』
「ありがとうございます。それと申し訳ありません。敵の完全な撃滅を果たせず」
『いや、気にする必要はない。逃げた敵は小勢だ。そう大局に影響はしないだろう。それに貴官らが無事なのだしな。もし貴官らが失われでもしたらそれこそ大事だ』
『は、恐縮です』

クルツが畏まった声を出す。それがおかしいのか大佐は口元を歪めるが、直ぐに真面目な表情に戻り、

『ともかく、貴官らは良くやってくれた。休憩だと思って暫くはそこで待機していてくれ』
「了解しました」

通信が切れて僕は溜息を吐く。

『…気を使われたかな?』
「だろうな」

溜息を吐く僕にクルツが憂鬱気に言い、それに同意する。

『やはりそうなのでしょうね』

マイヤー准尉もそれに続いた。

「ああ、戦死者も出てるし任務も成功とは言い難く。ドムの多くが中破相当のダメージを受けてるからな」
『それでも失敗だとは思わせたくないという事ですね』

准尉の言葉に頷く。
そこには、僕達MS部隊やこの作戦に関わる全部隊の士気に影響するというのもある。ただでさえ第2旅団が手痛い打撃を受けたのだ。だが、それ以外にも僕達の勇名に傷付けないという意図もあるだろう。
それを思うと何とも複雑で本当に情けなくなってくる。……また溜息を吐いた。

『…少尉、そんな気になさるのもどうかと思いますよ。確かに損害を受け、敵にしてやられましたが、敵MSはほぼ壊滅に追い込み、敵艦も降伏しました。ですから―――』
「そうだな、気落ちしていても仕方がない。ありがとう、マイヤー准尉」
『あ、いえ……少尉の部下としては、その…当然、ですから』

准尉の慰めにとりあえず気を取り直す。こうも年下の部下に心配させるのは宜しく無い。
第一、まだ作戦は終わっていない。それに准尉が言ったように大佐との通信中に降伏を申し出てきた敵艦へ対応もある。

「よし、准尉。動ける奴を5人任せる。あのレッセプス級の警戒をしてくれ。僕は撃残りと共に動けない奴らの面倒を見る」
『了解です』
「クルツ、そっちと通信を繋げた状態にした方が良いと思うが…」
『ああ、それがいいだろうな。上空《うえ》を飛んでる奴に話を付けておく』
「頼む。こんな状態だからな。周囲の状況も出来る限り正確にリアルタイムで把握しておきたい」

クルツはまったくだ、とでも言うように僕の言葉に頷くと高々度を今も飛んでいるであろう電子作戦機に連絡を取る。准尉も5機のドムを率いてレセップス級の周囲に展開。
僕は、動けない味方の方へ自機を進めて周囲の警戒に入った。

253: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:35:28



そうして2時間と少し経過した所で連合…ユーラシア軍のアレクサンドリアの攻略は完了した。
北アフリカ軍の指揮官…マトスが毛嫌いしていた陸軍大佐は、戦闘中にも拘らず取り巻き等と共に離脱を図るが秘かに都市に潜入・潜伏していた特殊部隊に拘束された。
これが決め手となり、北アフリカ軍も降伏した。
また海軍も活躍し、海から離脱を図っていたザフトの潜水部隊および北アフリカ軍の海軍部隊を壊滅させている。
これによってユーラシア軍は北アフリカ北部地帯及び沿岸部の制圧へ大きな一手を指した事となる。



「隊長…」

マトスの副官は艦橋に上がり、耐爆性の高い分厚い窓から外を眺めた。
敬愛する上官は散った。特攻仕様に間に合わせに改装した1機の旧式のジンに乗って敵MS部隊に吶喊した。
その間に副官がしたことは、スケイルモーターで砂をかき乱し、艦後方に滞空していた無人のアジャイルを陽動に直進させ、砂とチャフで見えない敵位置を補足し、同じく後方で随伴していた特攻ジンにそれを伝えて合図を送っただけ。
そのお陰で1機のラゴォと7機のバクゥに12機のザウート、そして輸送車両に乗った多くの兵達、それらに空で護衛に付いた幾つかの航空機が戦場を脱出できた。しかし、

「貴方はいなくなった……」

自分は止めた。もっと良い手段があるのではないかと、それにマトスは代案を副官たる自分に求めたが……決して頭が良いとは言えない自分では、短い時間でそんな方法が考え付く訳が無かった。それでもそれでも……―――

「―――それでも私は………すみません、隊長…オダリスおじさん、貴方の命令に…願いに背きます。ごめんなさい」

そう言うと副官はこめかみに固く冷たい鉄を押し当てる。周囲に人はいない。残ったクルーには艦橋から立ち去るように命じたからだ。だから誰も止める人間はいなかった。

そしてタンっと乾いた音が響き、誰知る事も無く副官―――彼女は息を引き取った。

この後、ユーラシア軍が臨検するまで彼女の遺体は発見されず、臨検に訪れたユーラシア兵は死亡状況から〝ケジメ〟をつける為に自殺を図ったと見る。

だが念のために行われた司法解剖の結果、驚くべき事に副官とされる女性はナチュラルである事が判明。
これを不可解に感じたユーラシア軍は、この事実を調査する為に降伏したクルーを始め、他のザフト兵の尋問を行うもその事実を知る者はなく、聞いたものは皆驚きを示し、彼女の顔を知る北アフリカの将校達も同様であった。
しかし、ユーラシア軍へ不可解に思わせたこの一件は戦争の激動の中で直ぐに忘れ去られ、後においても詳しく調べられる事はなかった。

ただ一つ、その女性はオダリス・マトスと親しい仲であるという証言がなされたという事だが……当人達が亡くなった以上はそれも定かではなかった。

254: ゴブ推し :2017/01/11(水) 21:36:31
以上です。
マトスの副官は前回、今回共に性別を明確に示すものがありませんでした。〝彼〟とも書いてません。唐突に女性という。
詳細はキャラ設定を纏めた物を後に投下する積りなのでその詳しい事はその際に。戦争の中で消費されるちょっとした人間模様と悲劇のようなものですが。

しかし今回も結構苦労しました。
連合側…ユーラシア軍の戦力が圧倒的なので如何にマトス達を奮闘させるか、ブラウン達に手古摺らせるかが難しかったです。
バンとフィーネが居なかったら、マイヤーとブラウンだけで片が付いてましたから。
その二人に付いては未完成版の方でも捕捉しましたが、一応コピペですがもう一度補足しておきます。

バンとフィーネについてはこの次回に出す積りでしたが、ブラウン達の足を止められるエース級のパイロットなのでここで使わせて頂きました。
霧の咆哮氏の設定では、戦闘の混乱で本隊を逸れて彷徨っているとなっていましたが、戦闘中に離脱とし、バルドフェルトと合流を目指すものの…と、あとは設定通りです。

戦闘に関しては、バンはラゴォも扱えるパイロットではあるものの未だ成長途上にあり、虎さんとやり合う前のブラウンみたいな感じです。
この戦闘での苦い経験を糧にし、スカンジナビアでの霧華の厳しい指導を受けて才能が開花するとしました。

フィーネについては、ガンバレル適性者ではある事からその空間把握能力を活かした高い狙撃・射撃能力を持ち。超感覚的に〝向けられる〟敵意や殺気などには敏感である一方、自分から意識を〝向けて〟相手の意識や気配を掴むのは苦手としました。
こっちもまだ途上にあるという感じです。…尤も戦後は主婦に専念するとの事ですので才能が開花しても戦闘で生かされる事はないでしょうが。
マイヤーが彼女を上回る能力をこの時点で持っているのは、シュバリエ大尉という己と同じNT適性者が近くに居り、彼と毎日のように模擬戦を繰り返していた為に感覚が磨かれた為です。
マイヤーは最終的にはハマーンクラスの能力を持つとしてます。

この2人以外にもポッカなどもいますが、彼等に付いてもマトスを合わせて詳しい事は後にしたいと思います。
ジン特攻仕様やバクゥの改良型もその時に設定を投下します。
またブラウン主体で二番煎じにもなるように思えたので、ポッカとクルツの戦闘は省く事にしました。ポッカの隊はベテラン揃いなのでグゥルを使った高機動戦闘をやらせようと思ったのですが…またの機会にします。南米編で別のキャラにやらせたいとも思いましたので。

スケイルモーターによる砂嵐に付いてはうろ覚えなのですが、アストレイにそんな描写があったのでその応用です。
砂をかき乱してMSの頭上まで津波のように巻き上げてます。それにレセップス級が艦周囲に撒いたチャフ及びスモークの特殊な煙も混ぜてブラウン達のレーダーやセンサーを一時的に潰しました。
普通にスモークやチャフを撒くだけではソニッカーで吹き飛ばされるので、こんな回りくどい手を使ってます。砂嵐と揺れ自体にもブラウン達の動きを封じる意図もなくも無いですが。


次回は後編か、番外や幕間としてバンとフィーネのこの後の様子か、ロンメル大佐の事後処理的な話のどれかにしようと思ってます。

………実質、もう第2部ですよねこれ。反抗作戦編とでも呼ぶべきかも知れません。

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最終更新:2017年02月12日 21:41