307: earth :2016/12/03(土) 01:10:26
地球帝国と呼ばれる帝国の首都は地球ではなく、地球の衛星である月に置かれている。
月に置かれた首都(都)ということで、地球帝国政府は帝都を『月京』と呼称しているその人工都市には皇帝府、帝国議会、帝国軍統合作戦本部など地球帝国の主要機関が設置されていた。
地球帝国の真の中枢はワールドナビゲーターであるものの、帝国の重要拠点と言っても過言ではない。
そんな月の上空に、全長70キロに及ぶ巨大宇宙船が浮かんでいた。
周辺を航行するスーパーアンドロメダ級が小舟に思える《ソレ》は、地球帝国を支配する者たちが地球人が住まう《この世》の外から訪れたことを示していた。
「……」
山田はこめかみを抑えつつ、その巨大な宇宙船の映像を皇帝府の会議室で見ていた。
丸テーブルの向かい側には皇帝であるブローネがおり、彼は非常に満足げな様子でかの巨大な宇宙船の映像を見ている。
そしてある程度満足したのか、ブローネは色々と複雑な表情をする山田に顔を向けて言い放つ。
「ゼロから建造するよりかは安く済んだだろうに」
この巨大戦艦は地球帝国が一から建造した訳ではない。
宇宙怪獣が跋扈する世界にあった地球帝国が崩壊する際、その混乱に紛れて入手した情報、資材をベースにして並行世界で建造したのだ。
まぁ彼らがその気になれば同じものを一から作れないことはなかったが……時間やコストの問題からより手っ取り早い方法を取っていた。
「……かの世界の地球帝国の後継者、いえ地球第二帝国と名乗れますね」
「わざわざ異世界に住む宇宙怪獣へ積極的に喧嘩を売りに行くつもりはない。ただ舐められないようにするためには、この程度の見せ札が必要だ」
「……臣民たる地球人にも、ですか」
「まぁ彼らからすれば、我々は余所者。同じ地球人でも、生まれ育った世界が違う。異星人よりはマシだが、それでも余所者に永遠にでかい顔をされて牛耳られ続けることを良しとしない者がいるのは当然だからな」
「喉元を過ぎれば何とやら、ですね。まぁそれがヒトと言うものでしょうけど」
地球帝国は地球連邦の懇願によって成立した。
しかし地球人すべてが地球帝国に忠誠を誓っている訳でもない。
緊急避難的な措置が必要だったからとは言え、異世界人に政治を牛耳られているという事実に平然としていられる者ばかりではない。
中には頃合いを見て地球帝国の軛から逃れたい、「自分たちのことは自分たちで決めたい」と考える人間がいた。
三賢者の構成員には「散々、人から支援を引き出しておいて、用が済んだら叩きだすつもりか」と激怒する者もいたが、トップの三人は「まぁそう考える人間もいるだろう」と平然としている。
「波動エネルギーを一切使わない異世界の技術で建造した超巨大戦艦。物理法則を書き換えながら宇宙を進む船。連中の肝を冷やすには十分だ」
別の世界の地球帝国軍が《ヱルトリウム》と呼んだ巨大戦艦の準同型艦を見てブローネは満足げに何度もうなずく。
「それに《こちら》の23世紀技術も使用しています。アレを撃沈できるのは、23世紀以降の存在しかいないでしょうな」
22世紀のタイムパトロールなら何とかできるが、23世紀以降のタイムパトロールや軍隊が介入すれば負けるだろう……山田はそう告げた。
308: earth :2016/12/03(土) 01:10:58
「24世紀以降となれば、こちらの軍備などハリボテ同然でしょう。彼らが出張ってこないことを祈るばかりですよ」
「……全くドラえもん世界の23世紀以降の軍隊とやらは本当にとんでもない存在だな」
「22世紀製のドラえもんの秘密道具が、デパートで安売りされていたものだと考えれば判ると思いますよ……まぁそんな超技術を持つ人類と
拮抗するような異星人もいますが」
「文字通り神々の住まう世界だな……自称神様よりもはるかに恐ろしい」
「ええ。まぁ23世紀時点では、自分たちの時間軸とそれに近い世界より外に出る技術は持ち合わせていませんでしたが」
「君はある意味、世界の最先端を行ったわけだ」
ブローネの称賛に山田は黙る。
「……どうしたのかね?」
「いえ、少し恐ろしいことを思いついたので」
「何かね。ここには私と君しかいない。話しても構わんぞ」
「……私の研究、これも規定事項だったのではないか、そう思えたのですよ」
「規定事項?」
「私は故郷に帰るための研究を行っていた際の事故で異世界に吹き飛びました。しかし私が《あちら》で何をしていたかは調査すればわかる筈」
「……調査の結果、その技術が発見され、未来において普及すると?」
「そして、それこそが歴史の規定事項だったとすれば?」
「我々の行動は未来によって是認されているに過ぎない、と」
「それどころか、今の現状が、多くの転生者がいる状況すら遥か未来からの意思によるものではないか……妄想であってほしいと思いますが」
ブローネは怒りをあらわにする。
「冗談ではない! 我々は未来の操り人形ではないぞ!!」
「落ち着いてください、これはあくまで危惧でしか」
「だが、可能性は0ではない。それは君だってわかるだろう?」
ブローネは深呼吸をして、自身を落ち着かせる。
「ならば我々はますます力を蓄えなければならないな」
「……まさか」
「そうだ。故郷を見つける。そして真実を探り当てる。仮に君の妄想が事実だったとしたら……落とし前をつけてやるのだ。
そんな戯けたことをした連中にな。そして今後、同じ真似をさせないようにしなければならない」
「……神に挑むようなものですよ」
「他者の魂を本人の了承なしに並行世界に強引に送り付ける連中がいるとすれば、放置することはできないだろう?」
「……自己防衛のため、と」
「そういうことだ。ますます忙しくなるぞ」
「全く、たまには楽をしたいと思うのは贅沢なんでしょうかね? いやはや、ギガゾンビとか名乗って原始時代で精霊王ごっこをしていた人間がこんなことになるとは」
兎にも角にも、男たちはますます精力的に仕事に打ち込むことになる。
310: earth :2016/12/03(土) 01:12:52
あとがき
やっていることは悪の帝国なのに、それ以上の巨悪(?)に人の尊厳をかけて
挑もうとする状態。
この世には正義の味方はいないのでしょう(笑)。
立川あたりのアパートで休暇中の二人が来てくれれば一番早いかも知れませんね。
最終更新:2017年02月08日 19:37