682: earth :2016/12/07(水) 23:14:17
並行世界殴り込み艦隊は、幾つかの中継ポイントを通過した後、並行世界の冥王星に築かれた前線基地に集結していた。
「異界観測班、及び偵察部隊の情報から判断する限り、やはり計画通り、主力はこの世界で待機。無人艦を中心とした分艦隊を送り込んで反応を少しずつ探るのが良いだろう」
派遣艦隊旗艦・改エルトリウム級戦艦2番艦《セイレーン》の第一艦橋で行われた作戦会議で、艦隊司令官のフォーク大将はそう断じた。
「邪神はいないが、神を名乗ってもおかしくない連中の手は長いようだ。宇宙怪獣並みの化け物共も手強い。あの手の連中と戦うのは本国が総力戦を決意しない限り難しいだろう。まぁ仮に手持ちの戦力で戦うとしても一方的に負けるつもりはないがね」
波動砲、モノポール砲のみならず、マイクロブラックホール砲(表向きはボラー連邦の技術)、そして切り札として時間制御の技術を応用してつくられたT兵器が存在する。
これはセイレーンに搭載されたものであり、目標の周囲の時の流れを逆行もしくは進行させ、状態を変化させる兵器である。
最初説明を受けたフォークは「巨大なタイムふろしきか」と思ったが、実際には時間逆行を引き起こして相手の存在そのものを抹消するか、強制的に時間を加速させて死に至らしめる兵器であることを知って、説明を受けていたフォークは茶を噴いた。
そして「スパロボ世界に殴り込みでもかけるつもりか? いや、そもそもそれってラスボスが載せるような兵器では?」などと思ったフォークであったが、とりあえず強力な手札があるのは心強いので不満は言わなかった。
「手ごろな敵がいるのは私の元の世界だが……」
フォークがいなくなっても歴史は変わらなかった。
ヤンによってイゼルローンは陥落。熱狂した市民の支持を受けて自由惑星同盟軍による大遠征は行われた。
自由惑星同盟の被害は《原作》よりも若干ながら低減したものの、最終的に大敗を喫し……受けた損失を回復できないままラインハルトによって征服されていた。
ただしラインハルト亡き後、ローエングラム王朝が銀河の統治に四苦八苦しており、その事実を銀河帝国側は掴んでいた。
かといって、そちらの世界に殴り込む予定はなかった。
「まぁ今回の遠征では《殴り込む価値無し》扱いだからな、あの世界。まぁ、どう考えても帰還への手掛かりはなさそうだし」
最低限の情報収集は行うが、基本は放置というのが今のところ銀河帝国政府のスタンスだった。
そしてフォークもそれに異を唱えない。
あちらの世界で多少なりとも育ててもらったからと言って、彼は家族にどうしても情を抱けなかった。社会の閉塞感、民主主義やハイネセンを至上とする考え方にもついていけなかった。生き残るため、表向きこそは優等生を演じ、上層部に取り入ったものの疎外感を感じていた。
また多少なりとも憧れを抱いていたヤン・ウェンリーに接触したものの、《紙上の原作での彼》と《リアルでの彼》の差異に落胆した。
「ファンタジーに出てくるエルフ娘や髪の毛の色がやたらと鮮やかな美少女は綺麗な部分だけを見ればいいが、リアルになると汚い部分、描写されていない部分も見せつけられる。だからファンタジーはフィクションの中だけのほうが良いと言った奴がいたが、至言だったな」
この結果、彼はその世界への愛着を失った。これが銀河帝国(当時は地球帝国)のエージェントとの接触を経て、かの世界を容易に捨てさせる原因となったのだ。
「さて、どこから行くか」
過去に捨てた世界のことなどすぐに頭の片隅に追いやり、彼は銀河帝国軍大将としての職務を全うしようと頭を切り替えた。
今の彼にとって別の宇宙での伝説も歴史も大した価値などなかった。
彼が望むのは三賢者と同じ《故郷への帰還》なのだ。
例え、元の世界で生活を送れなくてもいい。しかしそれでも一度だけでも故郷を、自分が生まれ育った地を見たい。
その思いが彼を動かしていた。
683: earth :2016/12/07(水) 23:15:08
あとがき
短めですが今回はこれまでです。
転生者である以上、こういう人もいると思ったので……。
何はともあれこのフォーク(偽)提督は二度目の世界での幻滅が強い分、望郷の念が強いです。
最終更新:2017年02月08日 19:55