811: earth :2016/12/09(金) 22:03:23

 『時空の迷い子達』 
 《気がかり》

 銀河に住む生命体に壊滅的打撃を与える颱宙ジェーン。その天災から逃れるため、恒星を使って銀河を移動させる汎銀河共和国の作戦の様子を偵察艦隊は余すことなく記録した。
 帝国政府は介入してタイラーに恩を売りつけることも検討したが、最終的にタイラーの逆襲を恐れて遠巻きに観察する
方針を採用することになった。

「惑星連合、ラアルゴン帝国、そして奴らが糾合して作った汎銀河共和国よりも警戒すべきはタイラー、あの男だ。
 あの男とその系譜が健在なうちは軽々しく手を出すべきではない」

 御前会議の席でブローネはそう言い切った。
 尤もその後の三賢者の会議においては「戦艦樺太を作ってみたいな」などと言って山田とライガーにお茶を吹かせた。

「いや、わざわざ横向きで進む戦艦を作る必要はないかと」
「山田博士の言う通り。わざわざ横向きに進まなくても、あれと同じ能力を持つ艦は作れる」

 二人の反対を前に、さすがのブローネも我を押し通す気にはならなかったのか、銀河帝国宇宙軍・樺太級戦艦は幻と消えた。
 尤もブローネの執務室に樺太の模型が置かれるようになったことから、「ああ何かしら気に入るところがあったんだ」と山田博士は悟ることになる。
 何はともあれ、彼らはタイラー達が繰り広げる騒ぎを遠目に見つつ、ジェーンの調査に重きを置いた。
 そしてブローネはある考えに至った。

「勢力が弱まると移動性ブラックホールになる……ひょっとして、あの連中の同類が関係しているのでは?」

 皇帝府の一室。丸テーブルに座ったブローネの言葉に山田はある存在を思い出す。

「復活編でSUSのバックになった連中ですか」 
「うむ。この世界では我々のパートナーであるがね」  

 この時間軸においては復活編は発生しなかった。
 そもそもヤマトが沈んでいる上、破竹の勢いで進撃を続けた地球帝国はSUSになる星々をボラー連邦から解放した上で従属させていた。 
 地球帝国は惑星政府の惑星内の自治権は認めていたが軍事的には完全に牙を抜く政策を推進し、銀河帝国になってもその方針は続いている。このため大ウルップ星間国家連合そのものが誕生していない。
 そんな状況において異次元に住まう彼らは異世界に平然と進出できる地球帝国に接触を試みたのだ。 
 そして異次元に住まう住人と地球帝国は極秘裏に会談を開き、一定の妥協が成立した。

812: earth :2016/12/09(金) 22:04:22


「《原作》の古代たちが聞けば怒り狂いますな」
「しかし教授、彼らと戦うのは愚かだ。負けはしないだろうが、無駄に消耗しかねない」
「そしてあちらもそれを理解していた。故に共存が成り立った、と?」

 山田が言った『共存』と言う単語にブローネは苦笑する。

「共存、美しい言葉だが現状を説明するのには正確ではないな。『気に入った。殺すのは最後にしてやる』だろう」
「物騒ですね」
「国家とはそんなものだ。殴った方が得なら殴る。損なら別の方法で利益を生み出す。冷徹さが無ければ生き残れん。
 まぁこの世界では愛とやらがやたらと重視されるが」
「……世界観に照らし合わせると、ますます悪の帝国にしか見えませんね」

 山田は乾いた笑みを浮かべたが、ブローネは平然と切り返す。

「少なくとも、両者の利害が一致している間は麗しき友情を誓えるだけ、問答無用で侵略を企む国家よりはマトモだと思ってもらいたいものだよ」

 ブローネはそう言って茶を口にする。そして一息ついた後、再び口を開く。

「いずれにせよ、その線でいこう。あの世界にあのいけ好かない連中の同類がいるのか、それともあの連中の別動隊がいるのか……それも知りたい」

 山田とライガーに異論はなかった。
 尤も山田は少し残念そうな顔をする。

「しかし仮にあの連中の同類が作ったものだと判ったら気落ちしますよ。少しは手掛かりになりそうだと思ったのですから」
「……まぁ気長にやるしかない。幸い、我々は若返ることも出来る。最悪の場合は電脳のデータを予備の体にインストールして復活することも可能なのだから」
「魂の解析と複製……これで異世界に魂を送れる技術があれば、我々の事象は説明できますね」
「それが実現できれば連中にまた近づける。期待しているぞ、山田博士」
「ええ」

 そう言いつつも山田は口には出せない懸念を覚える。
 自分が恋い焦がれる故郷に帰れた時、神の領域に平然と乗り込むようになった自分たちを、変わり果てた元同胞を、故郷が受け入れてくれるのだろうか……もし受け入れられなかったらどうするのか……その疑問に対して答えは出なかった。

(優しく迎えてくれたのは、海鳥たちだけ……そんな結末でなければ良いが)

813: earth :2016/12/09(金) 22:08:12
あとがき
タイラー一人を恐れて介入しない三賢者でした。
でも正直、タイラー相手に勝とうとしたらタイラーのクローンでも作らないと厳しいかも。
あと山田博士が懸念を覚えました。まぁ変わり果て、超技術を持った彼らは帰れても
日常は取り戻せそうにないですね(汗)。

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最終更新:2017年02月08日 20:06