833: earth :2016/12/10(土) 11:14:10

 『時空の迷い子達』 
 《タイラーの脅威》

 銀河が難を逃れ、颱宙ジェーンが移動性ブラックホールに変わったのを見計らって、銀河帝国宇宙軍は本格的な調査を開始した。
 そして異次元からの干渉の形跡を確認できたため、帝国の《麗しき友人》である異次元人と共同研究した結果、かのジェーンは別世界の異次元人による何かしらの干渉で形成された可能性があるとの結論に至った。
 ただしあちらの世界に異次元人の存在は確認されなかったため、ほぼ自然現象同然のものとなっているとも結論づけられた。

「野良兵器のようなものか。何ともはた迷惑な……」

 山田はそうぼやいた。
 何はともあれ、銀河帝国側はあちらの世界への興味を失った。
 帝国が危険視するタイラーの遺伝子情報、あちら特有の技術を入手すると艦隊を速やかに引き上げた。
 一度だけ辺境の通常空間を航行中のエンタープライズ級『アドミラル・オキタ』を惑星連合宇宙軍の哨戒部隊に偶然発見されて肝を冷やしたものの、逃げに徹して連合軍の追跡を振り切ったことで謎の幽霊船(不審船)扱いで済んだ。

「ヤン・ウェンリーでさえ勝てるか判らないタイラーがいる世界に長々と部隊を展開させていられるか。下手をしたら、気づかれて帝国本国へ逆侵攻を受けるぞ」

 フォークはそう言って、念入りに銀河帝国軍が展開していた証拠を残さない様にした。  
 特にあの辺境宙域周辺に《偶然》にも惑星連合軍の艦隊(戦艦含む)が向かっていたという情報を知ると、彼の証拠隠滅はより徹底した物となっていた。 

「あそこで口封じとばかりに攻撃していたら、間違いなく大騒ぎになっていたな。それともこれがタイラーの強運がなせる業か?」

 その気になれば哨戒部隊を殲滅することは出来ただろうが、その分、時間をロスしている可能性はあった。
 仮に連合宇宙軍の艦隊と衝突すればなし崩しに戦闘が拡大しかねなかった。
 最悪の場合、惑星連合宇宙軍とラアルゴン帝国軍との大規模な衝突さえ考えられ、その場合、最終的にはあのタイラーが出張ってくることは疑いの余地がない。

「タイラーの前にドムと戦うことになっていたか? いずれにせよ、あの二人と戦うのは御免だな」

 兵器のスペックだけを見ればフォークに相応の自信があった。
 これまでに入手した情報を基にした精密なシミュレーションでも、並行世界殴り込み艦隊主力が出張れば銀河帝国軍が優位との結果が出ていた。
 しかし今回のジェーンに関わる騒動でのタイラーの活躍ぶりをリアルタイムで見たフォークは「ヤン提督以上に警戒すべき相手」と見做していた。
 少なくともシミュレーション上で正確に計算できない要素である《幸運》(タイラーの場合は悪運?)で一個艦隊を壊滅させられる男と真っ向から遣り合うのはリスクが高すぎた。
 加えて哨戒艦にアドミラル・オキタを発見されたのもショックだった。フォークはこの艦のステルス性能に相応の自信を持っていたのだ。それゆえに衝撃は小さくない。

「こちらの世界の軍事力を過小評価していたのやも知れん……いや、我々も驕りがあったのだろうか?」

 何はともあれ、更なる強化に努めなければ……そう誓うフォークであった。

834: earth :2016/12/10(土) 11:14:47

 銀河帝国軍が撤退している最中、タイラーはパーティー会場で不審船の報告を受けていた。

「ジェーンの騒ぎの時に、何かに見られていた気がしたのはやはり気の所為じゃなかったってことか」

 タイラーの言葉にヤマモトなど周囲にいた者たちは仰天する。

「ど、どういうことですか?」
「いや~何かがいるような気がしたんだ。惑星連合でも、ラアルゴンでも、ジェーン教でもない未知の存在がね」 
「だから演習を名目に艦隊を?」
「うん。でも彼らにこちらに敵意はないみたいだね。戦艦クラスの艦艇、多分、うちの主力艦とだって戦えそうなのが一発も撃たずに遁走したってあるし……」

 このタイラーの報告を三賢者が聞けば間違いなく「化け物め……」そう思うだろう。

「最新の索敵装置を搭載した哨戒艦で、ベテランを揃えて何とか見つけられる程のステルス性能の高い船。あとラアルゴン帝国の艦よりも高い亜空間航行能力も持っていると考えられる……いや~世の中、まだまだすごい連中がいるものだ」
「捜索は継続しますか?」
「当分は様子見かな……なんとなくだけど、この連中、こちらを恐れているっていうか、触れたくないって感情を抱いている感じがするんだ」
「触れたくない、ですか?」
「こちらを倒したければ、ジェーンの時に後ろから刺せばいい。シード教を支援するのも手だ。でもしなかった。その後も特に何もない」 
「……何かの企みがあるのでは?」

 タイラーの一番弟子を自称するイサム・フジの疑問にタイラーは笑う。

「そのときはそのときさ。まぁ今はこの祝いの席を楽しむとしようじゃないか!」

 かくして銀河帝国宇宙軍並行世界殴り込み艦隊は惑星連合宇宙軍、そしてラアルゴン帝国軍に対して一発も撃つことなく引きあげていった。
 歴史に残らないが、タイラーは一発も撃つことなく、銀河帝国軍に衝撃を与えてその行動を掣肘した……その事実を理解した三賢者たちはますますこの世界を恐れるようになる。
 ジャスティ・ウエキ・タイラー。 
 未曽有の大災害・ジェーンから銀河を救っただけでなく、異世界からの干渉も阻止した男。
 その名前は銀河帝国において《恐るべき偉人》として記録されることになる。

835: earth :2016/12/10(土) 11:15:23

 あとがき
 タイラー編はとりあえず終わりです。
 まぁあの天災と戦うのなら、ガチで帝国の興亡をかけた一戦になりそうですし、下手に付き合うと蛇どころか鬼が出そうです(笑)。
 逆にタイラーに魅了されて三賢者のほうが傀儡になるかも知れませんし。 
 しかしタイラーが銀河帝国がもつ若返りの技術で不老長寿になったら……勝てる奴いるのだろうか(汗)。

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最終更新:2017年02月08日 20:11