973: earth :2016/12/11(日) 21:00:17

 『時空の迷い子達』 
 《迷い子達の苦悩》

銀河帝国並行世界殴り込み艦隊は、ギルガメス軍が存在する世界に対して世界の外からの観測だけでなく、実際に情報収集艦とスパイを送り込んだ。そしてその世界と異能生存体《キリコ・キュービィー》についての情報を収集した後、厄介な世界で介入の価値はないとして最低限の情報収集艦と護衛戦力を除き、速やかに撤退することになった。
 ドラえもん世界の秘密道具、関連技術を使って異能生存体であるキリコ・キュービィーをどうにかしようとする案も
検討されたが現状においてリスクに見合うリターンを得られないとの結論に至った。

「キリコ・キュービィーはあちらでも注目されている人物。下手に手を出すのはタイラーを相手にする並みに拙い」

 情報相であるライガーは機密保持の観点から反対した。これにブローネも同意する。

「現地の動乱に介入することになりかねん」

 ブローネからすれば、荒廃した世界にわざわざ進出する意味はなかった。
 あの世界は多くの惑星が破壊されており、銀河帝国側から見た資源地帯としての価値は低下していた。傷物の世界に手を出すより、別の宇宙、別の銀河の無主の資源惑星を探索したほうがまだリターンがあると判断したのだ。
 また《現状》で神すら殺す男と衝突する危険を冒す意味がないとも考えた。

「あの男はタイラーと同じだ。万が一、あの男が他の並行世界に乗り込むようになれば既存の秩序が瓦解しかねない」

 反帝国分子とタイラー、キリコとの連合は銀河帝国の支配体制に罅を入れるどころか、瓦解させる可能性さえある。
 故郷への帰還という大願が果たせる見込みがあるなら、多少のリスクを許容できるが、現状でそれだけの危険を冒す意味を彼は見いだせなかった。

「こちらの《手札》を何枚か切るなら、まぁ何かしら成果を得られそうですが……現状でそれを行う意味はないでしょう」

 そして山田博士の技術的見地からの見解が決定打となり、彼らはあくまで監視に留めた。

「……まぁキリコにボン太君スーツを装備させてみたかったですが」
「スパロボ時空にいけば見れるだろう。尤も積極的に関わりたいとは思えないがね」

 ブローネがやや強い口調で言ったため、山田は話を元に戻す。 

「しかし予想よりも厄介な世界が多いですね。世界の外から観測する技術が無ければ、無駄に戦力を消耗したかも知れません」
「うむ……山田博士の言う通りだ」
「確かに」

 タイラーに続いてキリコという見える《地雷》がある世界に遭遇したことで彼らは多少なりとも弱気になる。

「23世紀技術を無制限に使えば厄介な敵であっても、何とかなると思いますが」

 山田の感想にライガー、ブローネの両人も渋い顔をする。

「あくまで決戦時の切り札、あるいは目立たない様に使うモノですよ、あれらは。堂々と使えばどんな影響を齎すか……」
「解析されて模倣されればどんな影響が出るか判らない上に……タイムパトロールのような組織がいつ出てくるか判らない以上は」

975: earth :2016/12/11(日) 21:01:54

 彼らはタイムパトロールだけを恐れている訳ではない。異世界人も、この世界の住民も警戒しているからこそ、切り札となる技術を見せつけるのを嫌っているのだ。

「23世紀技術を大々的に公開するにしても、それらの技術が陳腐化した後が望ましい」
「……ワールドナビゲーターで技術を進歩させていますが、時間は暫くかかるでしょう」
「まぁそこまでは我慢するしかない。下手な技術の公開は社会の混乱を生む。泥縄式に我々自身の手でTPを作る羽目になったら笑い話にもならない」
「確かに。そうなったら《あの世界》の二の舞でしょうね」 
「君のいたドラえもん世界か……子供のころは夢の世界だったが……そうでもなかったからな」

 ブローネの感想を聞いた山田は同意する。

「ええ。AIの発達によるロボットの権利意識向上、それに反発する旧来の人間社会との軋轢、技術の進歩と社会の変革によって起こる各種犯罪、特に時空犯罪の激化……人類の生存圏拡大に伴う異星人との軋轢。物語では深く言及されていませんが、その社会の裏側はドロドロですよ。戦争になれば星一つは簡単に消滅します。場合によっては文字通り《無かったこと》になります」
「何度聞いても、ドラえもん世界とは思いたくないな」
「だからこそ、私もフォーク提督のように社会に幻滅して、元の故郷に戻ろうと思ったのですよ」
「《原作》のギガゾンビが《腐った未来》と揶揄したのも一理あるということだな」
「まぁ私は《自分ならもっとうまくやる》と思えなかったので、《逃げる》という選択肢を取ったのですが。まぁこの選択肢をとれるだけでも私は恵まれていたのでしょうけど」

 ブローネとライガーは苦笑する。

「まぁ我々は君がいなければ、あの世界で第二の人生を過ごすことになっただろうな」
「ええ」

 両者は遠い目をして、かつて二度目の生を受けた世界を、一度目の世界でフィクションの存在として描写された世界を思い出す。  

「地球連邦は連邦加盟惑星の平等を謳っていたが、実際には様々な問題を抱えていた。《原作》のブローネがいなくても、いずれは大規模な混乱は避けられなかっただろう。その混乱が大規模な戦争に繋がるか、人の叡智によって穏便に軟着陸できるかは判らないが
……仮に争いになれば地球人同士で骨肉の争いになる。まぁさすがに100年戦争にはならないと思うがね」
「私の場合は言わずもがな。連邦派と独立派の戦いはジオイド弾を生み、銀河連邦は滅んだ。あの世界の地球は木っ端みじん。
独立派もガタガタになり人類社会は衰退。辺境惑星の中には科学レベルが中世にまで退行したところもある。結局は《原作》でライガーが恐れていた結末を辿った。まぁおかげで我々が必要な人的資源を調達できるのは勿怪の幸いだが」

 二人の思い出話を聞き終えた山田は自嘲の笑みを浮かべる。

「……結局、人間は科学技術が進歩しても、世界が違っても、何百年、何千年経っても同じことを繰り返している、と」
「それは承知している。我々が打ち立てた銀河帝国も永遠に続くわけではないだろう。その前に、故郷を見つけたいと思っている。
もう一度故郷を見て、故郷の味を味わいたい……それだけでも叶えたい」

 望郷の念を感じさせるブローネの台詞に異を唱える者はいなかった。

976: earth :2016/12/11(日) 21:02:39

 あとがき
 見える地雷は回避が転生者たちの方針。
 彼らの願いは故郷に帰ることですから……。
 でも宇宙艦隊と一緒に帰ったらトンデモナイことになりそうですけど(笑)。
 それ以上に別の物も連れて帰ったら、更にとんでもないことに……。

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最終更新:2017年02月08日 20:23