35: earth :2016/12/12(月) 19:58:55

 『時空の迷い子達』 
 《ある転生者の末路》

「ははは、何でこうなるんだ?」

 誰もいない野原。そこに立つ一人の少年、いや転生者は、この世の終末とも言える光景を目の当たりに
して呆然としていた。
 夜にも関わらず、真昼のように世界を照らす異様な天体……移動性ブラックホールが彼の第二の故郷である魔法王国、そしてその王国が存在するファンタジー世界《ダイグロシア》を呑み込まんとしている。
 そして前世の知識からこの世界の滅亡が不可避であることも彼は悟っていた。
 故に彼は絶望していた。

「どうしてだ?! 魔法の才能を得て、貴族に生まれて、漸く好き勝手に生きれると思ったのに!!」

 絶叫するが、どうすることもできない。
 いくら魔法の才能に恵まれていたとしても、彼個人では、移動性ブラックホールを退ける術などない。

「神のくそったれ!! くたばれ、アバスレ!!」

 2つの月が消え、王城が、魔法学院が、ギルド会館が、彼が知る者たちが、誰もかれも、何もかもが消えていく。
 薄れゆく意識の中、メイド美少女、魔法使いのハーフエルフ美少女、僧侶のクール系美女の顔が彼の脳裏に浮かんでは消えていく。
 いずれは召喚されるであろう勇者さえ出し抜いて王女さえ手にかけるつもりでいた男は、想定すらしなかった結末に最後の力を振り絞って切歯扼腕する。

「くそ、くそ、くそ!!」

 誰もかれもがこの未曽有の大災害に対処できない。
 やたらと王国内で脅威と思われている隣国の宗教国家でさえ宇宙規模の大災害は対応できない。
 かくして一人の転生者の(下種な)野望は星諸共潰えることになる。
 引き換えに一人の少年は勇者として秋葉原から突然異世界に召喚されることなく、己の青春を故郷で謳歌することになるのだが……それは別のお話だ。
 そして銀河帝国宇宙軍並行世界殴り込み艦隊旗艦・セイレーンのモニターには、今、まさに滅ぼうとする世界であるファンタジー世界、より正確には星の様子が映し出されていた。

「異次元人共め、《協定》通りとはいえ、エゲツナイことを」

 フォークは嫌悪感もあらわにする。 

「嫌味の一つでも言ってやりたいものだ」

37: earth :2016/12/12(月) 19:59:31

 銀河帝国は異次元勢力と利害の衝突を『可能なかぎり』避けるために協定を結んでいた。
 端的に言えば相互不可侵と縄張りについて話し合うというものである。 
 そして今回の一件において、銀河帝国側はこの世界について異次元人と交渉、又は殴り合ってでも勝ち取るだけの価値はないとして優先権を譲ったのだ。
 そして異次元人は銀河帝国のように現地勢力に対して配慮など一切しない。
 傀儡とした現地勢力を使って支配地域を広げていくか、或いは移動性ブラックホールを使って星まるごと異次元に持ち去るか、いずれにせよ、現地勢力にとっては迷惑極まる物だった。

「それにしても、連中、こちらが魔法技術の開発をしていると知った途端、この手の世界に食指を伸ばすとは」
「それだけこちらを脅威と見做しているのでは?」

 参謀長の言葉にフォークは渋い顔をする。

「評価してもらって光栄、と言うべきか。あの連中、こちらが隙を見せたら容赦なく殴ってきそうだからな」

 異次元側が銀河帝国は『(現状では)最後に殺す相手』と思っているように、銀河帝国側も『いずれは雌雄を決しなければならない相手』と思っていた。
 まぁその内心を知らない第三者からすれば『侵略国家同士が手を組んで異世界を蹂躙している』ように見えるが。

「いずれにせよ、あの連中は魔法技術がある世界に片っ端から侵攻するつもりだろう」

 そういうフォークの脳裏には、先の人生において慣れ親しんだファンタジー世界が脳裏に浮かぶ。

(あれらの世界が実在していた場合、帝国はどこまで彼らを支援できるか。独力で追い返せる連中もいるが……)

 三賢者から利益にならない世界と判断されれば、いずれは異次元人が本格的に進出し、侵略を開始する。
 惑星を超えて時間、因果律を操るなど23世紀技術に匹敵する、或いはそれを超える連中なら独力で叩きだせるだろうが、地上で戦うことしかできない程度なら、まず勝ち目はない。
 そして負ければ植民地か、目の前の星のように異次元にお持ち帰りになる。
 仮に三賢者から利益になると判断されたとしても、異次元人との話し合いで決着がつかなければ……現地人を使った代理戦争になる(小規模な義勇軍の派遣はあるだろうが)。

(我らの故郷がこの《ゲーム》の駒になる事態に陥らないことを願うしかないか)

38: earth :2016/12/12(月) 20:00:16

 あとがき
 復活編の異次元人大暴れ。
 名もなき野望溢れる転生者は、異次元にお持ち帰りになりました。
 山田博士も野心があったら色々と別の道があったんでしょうが……。
 しかし復活編の第二部はいつできることか……。

 今日はもう寝ます。
 お疲れさまでした。

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最終更新:2017年02月08日 20:34