115: earth :2016/12/13(火) 23:20:47

 『時空の迷い子達』 
 《科学者たちの憂鬱》

 銀河帝国本国では新兵器開発が進んでいた。
 手始めに予定より遅れたが、第18代宇宙戦艦YAMATOに匹敵する新型艦《ヤマト》が試験を終えて実戦配備となった。
 改良型のモノポールエンジンを主機とし小型化した波動エンジン2基を搭載しながら、全長が400mと既存の巡洋艦
よりも若干大きい程度でありながら、その打撃力は既存のエンタープライズ級を遥かに超える。
 防御についても、ひらりマントの技術を応用した装甲版を搭載しており、従来のショックカノンでは釣る瓶打ちにしても装甲を破れない。
 更に改エルトリウム級に倣い、超能力者の活用も更に進んだ。
 ネームシップとなった《ヤマト》は、未来予知が可能な超能力者(第三波動の能力者)を搭乗させることでどのような
不意打ちにも対応できるとされた。

「第三波動の超能力者をのせ、従来の戦艦を超える火力と防御力を持ち、それでいて巡洋艦並みの機動力……新世代艦に相応しい」

 ブローネが満足げにうなずく一方、ライガーと山田はワールドナビゲーターを用いた戦略兵器開発に余念がない。
 彼らは科学省の小会議室で長テーブルを挟んで顔を突き合わせていた。

「目指すべきはアルティメットヌリファー、輝くトラペゾヘドロンか……」

 ライガーの言葉に山田は同意する。

「確かに。しかし我々の力ではまだそこまでは届きません」
「だが、件の装置の開発は順調だ。かの探偵が持っていた二次元の刃《イビルメタル》のように相手を破壊、或いは消去したという結果のみを生み出す因果律操作装置。戦艦建造のペースを遅めてまでリソースをつぎ込んだ金食い虫もようやく完成のめどが立った。
理論上、銀河帝国の全エネルギーをつぎ込めば宇宙一つをまるごと消去することも可能だ」
「理論上の話です。それに宇宙一つを丸々消去したという事実が確認されれば、23世紀世界でも座視しないでしょう。使用には慎重を期すべきです。少なくとも《現状》においては」

 ライガーは渋々と同意した後、話題を変える。

「ふむ。私が構築している制御システムを使えばもう少しエネルギー効率はよくなるが……艦には載せれないか。やはりイデのように膨大なエネルギーをもつ存在を仮想敵とすると装置も大規模になるな」
「はい。生半可なエネルギーでは返討ち、または因果律を制御すらできないでしょう。それに乗っ取りのリスクもあります。
《火星の後継者》のようにハッキングなどで敵の手に落ちたら、目も当てられない」

 長テーブル中央に装置の全体像が映し出される。 

「やはり小型化は難しいな……まぁエネルギー供給装置や防御機構の兼ね合いがある。艦への搭載、最前線での使用は諦めるしかないか。
防御システムの増強は?」
「正副に加え予備の3系統を用意した時間制御技術で常に正常な状態に戻せるようにしています」
「相手が複数の時間制御機構を同時に乗っ取ることは?」
「ワールドナビゲーターを含め、誰にも気づかれることなく帝国の絶対防衛線を潜り抜け、帝国最深部に到達できる相手ならそのようなことも出来るでしょう。尤もそのような相手が現れたら、その時点で誰も生き残っていないでしょうが」
「ふむ……」
「開発に携わった自分が言うのは何ですが、これを使う日がこないことを祈りたいものです」
「最悪の場合、ドラえもん世界に見つかって大騒ぎだ。おまけに仮に敵が同様の兵器を持っていたら因果律の操作合戦。膨大なエネルギーを食い潰しながらの消耗戦。勝っても大損だ」
「何より一つの宇宙を丸ごと消去というのは、あまりにも傲慢すぎますよ。幾ら何でも許されることではないでしょう」
「だが今後、その決断を下さなければならない時もくるやも知れん」
「判っています。判っていますが……高級軍人でも、政治家でもなかった私には重い決断です」

 そういうと、山田は少しブルーな顔をする。

「まぁ正直に言うと、我々が必死に開発したこの装置も、23世紀、いえ24世紀以降の軍隊からすれば骨董品扱いだと思うと少し、いえかなり複雑ですが」
「……あの世界はどうやって、そこまでのブレイクスルーを可能にしたのか知りたいものだ」

 必死にあの世界の後を追う科学者たちの背中は煤けていた。

116: earth :2016/12/13(火) 23:22:47
あとがき
ブローネ博士はほっこりですが、山田、ライガー両名はブルーです。
ドラえもん世界越えがいつできることやら……というか無理な気が(笑)。
あの世界に勝てそうな世界は少ないですね。

117: earth :2016/12/13(火) 23:24:21
115で変な誤字が……
輝くが二重に(汗)。

誤字修正

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2017年02月08日 20:37