375: earth :2016/12/20(火) 21:55:23
前回投稿した実験SSの改訂、加筆版を投稿します。
377: earth :2016/12/20(火) 21:57:43
21世紀地球発見の報は銀河帝国を動かす三賢者の元にも届けられた。
帰郷を夢見る男たちは期待に胸を膨らませたが、同時に宇宙怪獣による襲撃も警戒した。
「目の前で故郷が宇宙の塵となったら堪ったものではない」
ブローネはそう言って増援部隊の編制を指示したが、その直後に旧ボラー連邦領で叛乱の兆しがあると報告を受けた上、銀河辺境部でガルマン人と旧ガミラス帝国残党の活動が確認されたため、増援部隊の派遣は見送らざるを得なかった。
三賢者は今後の対応を考えるため、緊急の会議を開いた。
「ガミラスの亡霊とシャルバード教徒か……」
報告書を読んだブローネは「忌々しい」と吐き捨てる。
《原作》においてボラー連邦、ガルマン・ガミラス帝国を潜在的に脅かしたシャルバード信仰。
それは地球を中心とした銀河帝国にも脅威となっていた。
旧地球帝国を中核とした銀河帝国は傘下に収めた各惑星に大幅な自治権を認めていたが、独自の軍備については大きく制限していた。
特に宇宙船については徹底的に監視しており、非武装の輸送船の建造と保有でさえ大きく制限されていた。
引き換えに銀河帝国は無尽蔵とも思える無人兵器群を中心に護衛部隊を配備して各惑星、及び主要航路の防衛に当たらせている。
まぁ実態は各惑星の護衛と監視を兼ねるのだが、それでも独自に軍備を整えるよりは各惑星の負担は少なくて済む。
しかし自国の軍備、それも宇宙船の開発と建造を制限されることを良しとする者が皆無であるはずがない。銀河帝国の軛を取り払い、自由に銀河を飛び回れるようになりたいと考える勢力は諸惑星に存在した。
そしてそれらの勢力は一定の軍事力を有していたガルマン人、銀河系に流れてきたガミラス軍残党、シャルバード教をコアとして反銀河帝国組織を形成しようとしている。
これまでその手の動きは帝国側が事前に察知し、大事になる前に迅速に鎮圧されているのだが……武力によって抵抗勢力を抑え込むのはそれなりに骨が折れる(異次元人が関わっていないだけ、鎮圧しやすいのがせめてもの救いだったが)。
このため銀河帝国政府は《若返り》という飴を与えることで懐柔を試みているのだが、自由を求める声は予想以上に強かった。
「次第に強圧的な支配をするようになったボラー連邦という前例があるせいか、他国の支配に甘んじたくないと思う勢力が根強い。一方で旧地球諸国も異星人に強大な軍事力を持たせたくない……全く板挟みですな」
「他人事のように言うな。教授」
「それは失敬」
ライガーが言うように三度も異星人に攻撃された上、三度目は地球を占領されて散々な目に遇った地球人類は異星人への不信感を露わにしていた。
地球人類はイスカンダルに恩義は感じている。しかしそれ以上に、三度も地球を侵略しようとした異星人に対する警戒が強かった。
曲がりなりにも地球人を守るために地球帝国を建国した男たちにとって地球の民意を無視することはできない。
378: earth :2016/12/20(火) 21:58:21
「反銀河帝国を公言する惑星にジオイド弾でも撃ち込んでやりたいものだ」
会議室で放たれたブローネの言葉を聞いて、山田が慌てる。
「み、民間人大量虐殺の真似はよしてください。色々な勢力を敵に回しかねないのですから」
「……判っている」
ブローネは苦い顔で口を閉じる。それに代わるかのようにライガーが口を開く。
「いっそのこと、改良したソノウソホントを使って帝国以外の宇宙船は銀河系を航行できなくしてしまうのは?」
戦略兵器として建造している因果律操作装置。
その前に彼らはソノウソホントの改良型を開発していた。さすがにイデに対抗することはできないが、対抗する存在がない銀河なら十分な改変が可能だった。
それを踏まえたライガーの意見に山田が異を唱える。
「余計に敵対心と警戒心を煽りかねないのでは? それに……旧地球諸国の目にも気を配るべきです。不愉快なことを考える人間もいますから」
「むぅ」
このやり取りを聞いていたブローネは決断する。
「銀河の要衝で帝国軍、或いは帝国政府の認可を受けていない宇宙船のワープを不可能にする。表向き、《ワープ妨害装置》としたブラックボックス満載の衛星でも設置しておけば彼らも変な勘繰りは起こさないだろう」
「引き換えに宇宙船の制限を緩和と?」
「教授の懸念も判っている。一気にするつもりはない。あくまで段階的に、だ。まぁ銀河帝国は光速を超える術さえ奪える……それは十分な抑止力になるだろう。この世界の地球人たちにもな」
地球人を守るために作られた地球帝国。
しかし地球帝国も一枚岩という訳ではなかった。
ボロボロの地球連邦は三賢者に降ったが、曲がりなりにも生き残っていた旧地球連邦構成国は少しでも多くの利益を得ようと駆け引きを行っていたのだ。事実上の敗戦の責任を問う動きさえあった。
特に防衛軍の本部が置かれ、防衛軍で大きな役割を果たしていた日本の責任を追及しようとする国もあった。
しかし三賢者は旧連邦主要国の政治的な駆け引きや政治的配慮など殆どお構いなしに、復興政策とデザリアムとの戦争を進めた。
「お前たちは黙ってそこで茶でも飲んでいろ。戦争も政治も俺たちがやる」
それが三賢者側に対応だった。
三賢者側は地球人からすれば魔法にしか見えない技術で次々に失われた自然を回復し(それもガミラス戦役以前の水準)、各地の荒廃した都市を復興した。人工知能による効率的な采配を行うことでそれが更に加速する。
「責任の追及はその後だ」
三賢者側は極めてドライであった。
デザリアム戦役の際に重要拠点として攻撃され、人狩りにあった日本列島の人口は大きく減じていたが、ガミラスの遊星爆弾によって文字通り消滅した地域よりはマシであったため、東アジア方面の重要拠点(皇帝の直轄領扱いだが)であり続けた。
379: earth :2016/12/20(火) 21:59:03
地球帝国が銀河帝国になるころには、地球の復興も進み、自然環境はガミラス戦役以前に、経済はガトランティス戦役直前の水準を超える未曽有の好況となっていた。
こうして余裕が生まれるようになると、政治的な動きも過熱した。
銀河帝国政府(正確には三賢者)が圧倒的な存在であったこと、異星人がいることから、一定の団結が必要であることを誰もが理解していたため、大きな衝突には至らないものの、利権争いは活発だった。
三賢者もガス抜きとして帝国議会を創設して、地球自治に関する権限は与えていたのだが、地球諸国は太陽系の宇宙資源管理に関する政策会合への参加や旧地球連邦諸国に特権として認められている恒星間航行用宇宙船の保有枠の拡大など色々と皇帝府に陳情し始めていた。
「自分たちも銀河帝国の一員として宇宙の平和の維持に貢献したい」などと綺麗ごとを付け加えていたが、三賢者側は彼らの本音など百も承知だった。
「要するに戦前の栄光よ、再び……全く面倒ですね」
山田の感想に二人は同意する。
「与えられた食い扶持では満足できない連中が多いから困る。太陽系の宇宙資源について妥協すれば、今度は太陽系近傍、いずれは銀河系各地、最後は並行世界の資源、技術利権の開放を訴えてくるかもしれない……いやするだろうな。何かしらの口実をつけて」
「まぁその貪欲さがあればこそ、人類は発展してきたとも言えるが……今の我々にとっては邪魔でしかない。旧列強の一部には我々に成り代わりたい連中もいるようだからな。我らを亡き者にして遺産の総取り……人間の欲と言うのはかくも果てしないものかと感心させられたものだ。まぁそんな愚か者にはしっかりとツケを払ってもらったが」
足元に蠢く魑魅魍魎共……それを思い浮かべて山田は嘆息する。
「銀河帝国の新たな一手を見れば、その手の動きは大幅に減るでしょうが……それにしても、こう面倒ごとが多いとライガー教授の世界で生き残った辺境惑星を拠点にした方が楽だったかも知れませんね」
山田の言葉にライガーが苦笑いする。
「それはどうだろうか? あの世界には主人公がいる。不死身で万能の超人、排除できないあの男がいる限り今以上に活動は制限される。場合によっては世界によって主人公に倒される役目を強引に押し付けられるかもしれない」
「《物語》のように?」
「そう。それに対し、こちらにはもう《主人公》はいない。そう、跡形も。もはや復活させることもできない。故に我々が動ける余地は大きい。そして我らを叩き潰せるだけの力を持った者も今のところはいない」
「……」
「まぁ魑魅魍魎共の相手をするのも、必要コストと考えたほうがまだ建設的だろう」
「教授の言う通りだろう。まぁ何はともあれ、漸く光が見えてきたのだ。ことは慎重に運ばなければならない」
このブローネの言葉を以て、超大国・銀河帝国を動かす会議は幕を閉じた。
380: earth :2016/12/20(火) 21:59:37
あとがき
少し地球人が残念すぎたので、修正しました。
次回こそ、フォーク提督の動きに焦点を当てたいと思います。
最終更新:2017年02月08日 21:04