301: earth :2016/12/23(金) 00:12:54

 『時空の迷い子達』 
 《幕開け》


 銀河帝国宇宙軍並行世界殴り込み艦隊主力は第99監視世界の地球から4.2光年離れたプロキシマ・ケンタウリbに
前線基地を建設した。
 宇宙怪獣に対する備えに加え、場合によっては皇帝陛下自らが同地に降り立つこともあり得るとして、惑星自体のテラフォーミングさえ行った。帝国軍は21世紀世界の地球人からすれば魔法にしか見えないような速度で、瞬く間にこの星を居住可能な惑星に改造してしまったのだ。 

「仮に地球側の代表団を迎えても失礼はないな」

 セイレーンの第一艦橋で前線基地の出来栄えについて報告を受けたフォークは満足げだった。
 宇宙には小惑星を改造した軍事基地や警戒網が設置され、地上各地には航空機やチューブ式特急列車で接続された
資源採掘基地と精錬施設、防衛施設が建設されている。
 加えて地上に建設された主要施設と宇宙ステーションを結ぶ軌道ロープウェイも敷設され、地上と宇宙の行き来もスムーズに行えるようになっている。
 それでいて、地球からこの変化を観測されないようにカモフラージュも十分に行っている。

「《即席》としては十分以上だろう」

 フォークの主観では即席とはいえ、問題ない水準であった。こちらの地球人が見聞きすれば卒倒する水準なのだが、そこに彼は気づかなかった。それは故郷の価値観と彼の価値観に大きな溝があることを示していたのだが、幸せなことに、そして不幸なことにそこの点について指摘出来る者はいなかった。

「どこでもドアや四次元ポケットの技術が使えればこんな面倒なことをしなくて済むのだが……」

 ドラえもんがいる世界、現在、第1級秘匿世界《FD》と呼称される世界を起源とする技術は極力人目につかない
様にされている。
 例え軍事面であっても、一目でソレと判らない様に使うのが帝国の方針であった。よほど切羽詰まった事情でも
ない限りはその方針がひっくり返ることはない。

(集められた情報から判断する限り、あの世界は我らの故郷と非常に似ている……後は我々がいるかどうかだが) 

 銀河帝国宇宙軍は地球の調査のために大量のステルス艦、アンドロイド、スパイロボを地球とその周辺に送り込んだ。
 この中には「リアル万能文化猫娘かよ」と山田博士にぼやかせた計画の産物も大量に含まれている。
 その結果、街を騒がせる怪人やそれらと戦うヒーローも、常識をどこかに置き忘れたような巨大な学園艦も、頭が独特な形をした老人が学園長を務める巨大学園も、謎の大火で大惨事となった都市も見つからなかった。
 彼らが知る虚構を特徴づけるモノは何もない。つまり現時点では彼らが知る《現実》に非常に近い世界であった。
 故に期待も高まる。
 仮にこの世界が外れであっても、この世界を基点として調査を行えば帰還が早まるかも知れない……そんな思いがフォークの脳裏に浮かぶ。

「それにしてもバスターマシン7号・ノノの量産はできないが、それに近づけた恒星間戦闘も可能なアンドロイド。
今のところ、潜入調査がメインの任務だが……いずれあれらが大量生産されるようになれば戦争は変わる」

 山田をぼやかせた計画により生み出された彼女たちの性能は《オリジナル》を大幅に上回っている。彼女たちがその気になれば、現地の警察、軍隊では捕捉することも不可能と考えられている。

302: earth :2016/12/23(金) 00:13:25

 フォークは「オーバースペック過ぎだろう」と思ったが、開発に携わった田代は「鉄人兵団の例だってある」と言って
むしろその成果に胸を張った。そればかりか「目指せノノ」とばかりに改良に力を入れている。
 フォークは半ば呆れつつも、ヒト型サイズの決戦兵器が単独で空間転移を行い、敵の要衝を制圧、または破壊できるようになれば戦争のやり方が変わると確信していた。
 また銀河帝国中枢が奇襲によって消滅したとしても、残された彼女たちによる報復も可能になる。その戦略を三賢者が
採用しないことはないだろうともフォークは判断していた。

「銀河帝国が潰えた後でも、瓦礫の中でもくもくと報復準備を進める無数のヒトサイズの自律思考の決戦兵器か……敵からすれば絶対に相手にしたくないな。彼女たちがゲリラ戦をしたら目も当てられない」

 軍人として色々な方向から考えるフォーク。
 そんなフォークを横目にして参謀長は声に出さないものの、思わざるを得なかった。
 「現時点で一番目も当てられないのは、そんな化け物たちに大量に潜入され、その気になれば惑星など簡単に砕ける戦力を持った我々に監視されている地球の方だと思いますよ」と。
 そんな参謀長の胸中を知ってか知らずか、フォークは話題を変える。   

「宇宙怪獣は?」
「今のところ、確認されていません。銀河系中心付近に向かわせた各艦隊からも特に連絡はありません」
「うむ……」

 参謀長の返答に安堵しつつも、フォークは不安をぬぐえない。

「現在の警戒態勢を継続する」
「了解しました」

 そういうとフォークは投影されている地球の映像に視線を向ける。
 その直後、オペレーターの口が動く。

「日本、銀座に大規模な空間の揺らぎ発生。何者かが次元回廊をこじ開けようとしています!」
「冥王星軌道に次元回廊が開いていきます! これは……異次元勢力が使うものです!」

 急な異界からの干渉に、歴戦の提督であったフォークも驚愕するが、すぐに落ち着きを取り戻す。
 同時にこれが途方もない事態の前触れであると断じる。

「全艦第一種戦闘配置につけ!」

 ブザーが響き渡り、各所で人員があわただしく動き回る。
 そんな中、続報がもたらされる。 

「銀座に謎の武装集団が出現。攻撃を開始しました。武装集団は魔法技術を使っている模様!」
「冥王星軌道の回廊から宇宙怪獣多数出現! 数……現在確認できるもので3000万!! 連中の針路は……地球です!!」
「提督……」

 参謀長の問いかけに対し、フォークは軽く息を吐いた後に頷き、断固とした口調で命じる。

「軍本部に一連の情報を送れ。最優先だ。それと前線基地の直掩部隊を除き全艦、ワープ準備、目標は火星軌道!」  

 この世界の地球人類が異世界と宇宙からの脅威を知ることになる銀座事件、太陽系会戦の幕が上がる。

303: earth :2016/12/23(金) 00:14:07
あとがき
フォークの反応について加筆と修正をしました。
つづいて、短いですが続編を掲載します。

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最終更新:2017年02月20日 11:54