973: 333 :2017/01/02(月) 02:30:42
フローデ達の憂鬱
ビドート アルネージュ
ジント・リンは惑星デルクトゥーの軌道上、宇宙港に向けて軌道塔を昇っていた。
周りの人々が彼に注目してきて居心地が悪い。それは彼の恰好が問題だった。
ヤルルーク・ドリュール・ハイダル
リン・スューヌ=ロク・ハイド伯爵公子・ジントという長ったらしい正式名称がその服装を彼に強要していたのだ。
伯爵公子とあるようにジントは高貴な生まれだ(ということに7年前なった)。
ナヘーヌ
にもかかわらず地上世界などという汚らわしい場所にいるのは、ジントが生まれも育ちも地上だからだ。
といってもこの惑星、デルクトゥーの生まれというわけではない。
フリューバル
7年前、突如マルティーニュはアーヴの大艦隊に侵略された。それも帝国の総力をあげたような規模だった。
マルティーニュ議会は徹底抗戦を叫んだが、ジントの父ロック・リンはアーヴの力に屈した。
勝利の可能性が皆無の抗戦よりも、内部に入り込んで故郷を守ることを選んだのだ。
バール・フリューバル ファピュート
父はマルティーニュが天の帝国の一員になる代わりに自分を領主にすることを要求した。
これは非常な反発を生んだ。故郷の人々は父を裏切者と罵り、自分も白い眼で見られた。
アイプ リューク スィーフ ドリュー
またアーヴの側でも論議となった。地上人が士族に叙されることは数あれど、貴族に、それも伯爵になるなど前代未聞だったのだ。
キーヨース スコール
アーヴ達の慣習では星系を所領として持つものを貴族としているが、有人惑星を持つものは伯爵以上になるからだ。
スピュネージュ バール・スィーフ
結局皇帝の言葉で要求を容れることになったが、地上人にアーヴ貴族としての役目を果たすことはできない。
セメイ・ソス
これは生まれの問題ではなく、育ちの問題だった。単純に所領を運営するだけでも帝国内の交易など、領民政府とは行政の内容も異なる。
ルエ・スィーフ ラブール
しかも帝国貴族には軍役の義務もある。これまで星界軍など存在すら知らなかろうとだ。
そのため、新たに伯爵となったロック・リンの息子、ジント・リンはアーヴの一員として最低限の教養を身に着ける
ドリュヒューニュ・ヴォーラク
べく生まれ故郷から(ジント視点では)遠いヴォーラーシュ伯国までやってきたのだ。
ケンルー
7年かけてアーヴ言語文化学院を卒業したジントは修技館に入学する。アーヴ貴族として軍役の義務を果たすにしても
士官教育は受けなければならないからだ。
サーシュ ゴスク
宇宙港に足を踏み入れると一面の人ごみだった。星間旅行に従士や家臣への就職、移民など地上人にとっても宇宙は
完全に無関係ではない。まあ身近とは到底言えないが。
ラブール ウィクリュール レーヴ
ジントは案内人を探して歩き回る。修技館へは星界軍の軍艦に同乗して向かう予定なのだ。当然客船の乗り先しか表示
していない民間の案内板は意味をなさない。
しかし人ごみの中でも彼女は浮いていた。地上人ばかりの中で生粋のアーヴがたたずんでいるのだから目立たない訳がない。
「やあ、君が案内人かい?」
声をかけるとまるで知っていたかのような顔で彼女は振り向く。ジントは思わず見とれた。
青黒い髪。深い水を湛えた瞳。顔だちはおとぎ話のアールヴのようだ。長き時を生き、永遠に若いままの妖精。
「おぬしが地上人のアーヴか?」
声は天上の音色。魔法のように人間を魅了する。
「僕はジント。ジント・リン。君の名は?」
尋ねると胸を張って彼女は宣言した。高らかに、宣託の如く。
「ラフィールと呼ぶがよい!」
974: 333 :2017/01/02(月) 02:32:49
ポーニュ
交通船で移動する最中、ジントは聞いてみた。少し気になることがあったのだ。
「そういえば、君には長い名前はないのかい?」
「なぜそのようなことを訊く?」
少し不機嫌な声色でラフィールは返してきた。個人的なことを訊かれたのが気に食わなかったのかもしれない。
「いや、単純に気になったんだ。それに互いを知るのは仲良くなる秘訣だろう?」
「気になるなどという理由でそのようなことを訊かれてはたまらんな。」
基本的に宇宙船の操舵は自分にはできない。だからジントはラフィールが船を操るのを見ているだけだ。
アルファ キセーグ グーヘーク
ラフィールは頭環から伸びた接続纓を背もたれに接続し、制御籠手を動かしている。
ファサンゼール
「…皇族だからだ。皇族に姓はない。」
ジントは答えが返ってきたのにも驚いたが、答えそのものにも驚いた。
アブリアル
「え?学校ではあるって習ったんだけど…たしか天照とか。」
フィズ・アブリアルサル
「よくある誤解だがあくまで天照の一族と呼ばれているだけなのだ。そも姓とは王が民に与えるもの。ならば王やその
一族に姓がないのは自明の理であろう。」
レーフ
マルティーニュでもデルクトゥーのアーヴ言語文化学院でもそんなことは習わなかった。地上のアーヴ学校など国民に
なるための教育しかしないからそんなものなんだろうけど。
そこまで考えてジントは驚くべき事実に気付いた。
「って、君皇族だったのかい!?…いやだったのですか?これは失礼を…。」
失礼を働いたと思い慌てて訂正するも、ラフィールは言い切るまえに遮った。
ケーニュ・ガレール
「よい。今は飛翔科訓練生にすぎんからな。」
「いえ、しかし…」
「くどい。公私を混同するものなど貴族の風上にも置けんぞ。」
どういうことだろう。礼儀を尽くすたびにラフィールの不機嫌さが増していく。
ジントはすっかり困り果て、ついに黙ってしまった。どうやら自分の試みは失敗したようだ。
975: 333 :2017/01/02(月) 02:34:52
今日も今日とて会合だ。
トセール フローデ レンド
代官からの報告を聞き、提督としての仕事も果たした嶋田を待っていたのは休眠でも安息でもなく頭の痛い転生者との
話し合いだった。
いっそすっぽかすことができれば、とも思うがそうもいかない。特に今日は重要な議題が話し合われるのだ。
スリー
「すみません、遅れました辻さん。」
「いえいえこちらも今揃ったところですよ。…はは、こうしてみるとまるで恋愛小説のようですね。」
「くだらないこと言ってないで始めますよ。」
いつものやりとりをかわしつつ、無意識にレンドは音頭をとってしまう。前世から延々努めてきたが故の悲劇だった。
しかし前世とは違いレンドもスリーも老いることのない、美形ぞろいのアーヴだ。年はとっても若いままの自分たちは
ソビーク・リュスボルボルビタ
さぞかし絵になるだろう。それが余計にレンドの頭を痛めるのだが。実際今年のコミケ5003にも明らかに自分たち
の物が売られていたのだ。
ブルーヴォス・ゴス・スュン
「今日の議題はノヴァシチリア条約機構…四カ国連合との開戦についてです。」
頭を切り替えて出席者を見渡す。重要な議題とあって今日は特に出席者が多かった。
ソード・キクトソクンビナ・ケイク
「ケイシュ193門の位置についてはあたりをつけています。こちらが奇襲を見破っているのを看破されないために
リュームスコル・フェブダク ビュール
精確な場所は特定していませんが、当日はフェブダーシュ男爵領付近に艦隊を待機させておきます。」
カーサレラシュ
「よく参謀部を動かしましたね。防諜は?」
スリーが尋ねる。人を束ねるその手腕はさすがのものだ。腐った婦人方に題材を提供しているだけではない。
ラブール
「そちらも万全です。今のところ艦隊の展開を知っているのは星界軍でも極々一部ですよ。」
「それは重畳。ではレンドさん、お願いしますね。」
「わかりました…って、え?」
さらっとスリーに重要な責務を任せられたレンドは思わず聞き返す。なにか聞き捨てならないことを聞いた気がする。
グラハレル・ビューラル クファゼート・ギュンボヴノーラル
「ですから艦隊司令長官ですよ。作戦名は…そうですね、夢幻作戦としましょうか。」
976: 333 :2017/01/02(月) 02:35:52
投稿は以上です
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977: 333 :2017/01/02(月) 03:10:00
誤字訂正
訊いた気がする→聞いた気がする
誤字修正
最終更新:2017年02月09日 20:05