217: 333 :2017/01/04(水) 23:45:29
フローデ達の憂鬱


                  ファーズ
皇紀3999年。アーヴ達は平面宇宙に足を踏み入れた。それによって星間国家が現れるようになったのだ。

平面宇宙とは文字通り平面の宇宙である。
 ダーズ
通常宇宙は3次元の空間と1次元の時間で構成されているが、平面宇宙は2次元の空間と1次元の時間で成り立っている。
                            ソード
そして二つの宇宙を繋ぐ入口ともいえるのが門である。

かつてはユアノンと呼ばれていたそれは、もとは宇宙船の動力源として使われていた。

エネルギーを放射するからだが、そのエネルギーがどこから湧いてくるのかはわかっていなかった。

その答えこそが平面宇宙であり、アーヴはそれを初めて解き明かしたのだ。
   ソトフェール・ファーゾト
そして平面宇宙理論は通常宇宙の物質も、特殊な時空間で包み込めば平面宇宙で存在できることを予言していた。

平面宇宙を経由すれば、結果的に通常宇宙を光速以上の速度で移動できるはずなのだ。

かくして星系ごとに隔絶していた時代が終わり、平面宇宙を使った星間国家の時代が訪れた。

ジントの故郷、ハイドの軌道上にあった移民船レイフ・エリクスンが爆散したのもこれが理由だった。
              ソード・レーザ                            ソード・グラーカ
ユアノンは放っておくと閉じた門になる。しかしその状態では通過できないため、開いた門にしなければならない。

移民船の中に放置されていたユアノンが平面宇宙側から開かれたことによって、体積が爆発的に大きくなったのだ。

「平面宇宙に入ってしまうと暇だね。」

通常宇宙の物質はそのままでは平面宇宙では存在できない。
フラサス                                                     スプー・フラサス
時空泡という特殊な時空間で包み込む必要があるが、内部から外部を知る手段は重力波と時空粒子しかない。

映像では一面灰色の壁に包まれているようにしか見えないのだ。

ジントがそう言うとラフィールも答える。客人の案内という任務を律儀に全うしようとしているのだろう。
      ヤ・ファド
「じゃあ平面時空図でも見ているか。」
        クリューノ
ラフィールが端末腕輪を操作すると床に光点が浮かび上がる。

中心には歪んだ螺旋が位置している。青い光点がゴースロスだろう。

門は通常宇宙側では球体だが、平面宇宙側では歪んだ螺旋として存在するのだ。

周囲にある緑色の光点はまばらで、ゆっくり動いている。

時空泡の移動速度は内部にある物質の質量で決定する。重い時空泡ほどゆっくりとした動きになるのだ。

逆に軽い時空泡だとより速く移動できる。今向かってきている時空泡がそれだ。
                      ペリア
「珍しいな。こんなところに軍用の連絡艇とは。なにか緊急事態でも起こったのか?」

平面宇宙では電磁波も光も通じない。通常宇宙での通信手段では情報を届けられないのだ。

ではどうするか?小さい宇宙船で情報をやりとりするのである。それを担う艦艇が連絡艇であった。
                            ゴール・プタロス
ゴースロスに近寄ってきた連絡艇は暫くすると時空融合する。

時空泡同士が融合して、一つの時空泡になるのだ。こうすることで電波での通常通信が可能になる。
           ドロシュ・フラクテーダル
時空粒子を利用した泡間通信というものもあるのだが、これはやりとりできる情報量が少ない。

やがて部屋に投影している映像にも変化が出てきた。

灰色の壁の一面が虹色に揺らめき、広がっていく。

やがてその中心部は白い光に彩られ…その向こうには小さな艦艇が見えた。
     ゴール・リュトコス
暫くすると時空分裂し、ほかの時空泡に向かっていく。

いったい何の通信をしたんだろう…ジントが考えていると館内放送が聞こえてきた。

『緊急事態発生。緊急事態発生。』

なにが起こったのかわからないがどうやら大変なことになったらしい。

ジントは思わずラフィールと顔を見合わせた。

218: 333 :2017/01/04(水) 23:47:17

           フェクトダイ
「来たわね。ラフィール列翼翔士。」
 サレール
「艦長!緊急事態とは一体なんですか!?」
ガホール
艦橋に戻ったラフィールを待っていたのはレクシュであった。

すでに自分を含め翔士は全員集まっている。
      ソード・フェブダク
「この先、フェブダーシュ門までの間から突如国籍不明の敵艦隊が出現したそうよ。」

「それはまさか…。」

国籍不明の艦隊。しかしその正体は明らかであった。
                        バール・フリューバル
現在人類社会には5つの国家しか存在しない。一つは天の帝国。

そして残りの4つは軍事同盟を結んでいる。しかし同盟に入っていない国が一つしかない以上、仮想敵国は明らかだ。

アーヴは、自分たち以外すべての国々を敵に回しているのだ。

アーヴは強大だ。その軍事力は人類史に存在した、いかなる国家とも比類できないほどだろう。

しかし敵なしかというと、そうでもない。
ブルーヴォス・ゴス・スュン
四カ国同盟をすべて合わせた軍事力はアーヴにも匹敵するのだ。

「四カ国同盟が攻めてきた。ということは敵は勝機を確信しているでしょうね。」

周りの翔士は顔色を変えない。どうやら先に知っていたようだ。

敵との闘いとあって、ラフィールの中に眠っていた戦闘種族としての血が疼き始めた。

覚悟を決めた顔で戦意を表明する。

「では艦長、我々は戦場に向かうのですか。」

確信をもって尋ねたが、艦長の答えは予想の外だった。

「いいえ。我々はこのままヴォーラーシュ伯国に帰還、そのまま惑星デルクトゥーに潜伏します。」

「艦長!」
   ロダイル
今度は翔士も知らなかったようだ。周りから反対の声が上がる。

「連絡艇からの情報によると敵は多数。我々だけで戦っても勝利はおろか時間稼ぎすらできません。」

艦長の答えに周囲は沈黙する。戦闘種族であるからこそ、巡察艦単艦で戦場に赴いても無駄死にするだけだと

理解できてしまうのだ。
     ラブール
「大丈夫。星界軍は負けっぱなしで終わるような組織ではありません。必ず奪還に訪れるでしょう。それまでの辛抱

です。」

地上人どもの奇襲に引っかかったあげく、汚らわしい地上に潜伏しなければならない。奪還に来るといってもいつにな

るかもわからない。

その場にいるアーヴ達は屈辱に震えた。

しかし彼らの心配は杞憂に終わることになる。このとき既に、反撃は始まっていたからだ。

いや、反撃ですらないのかもしれない。なぜなら窮鼠が猫を噛み損ねただけなのだから。

219: 333 :2017/01/04(水) 23:49:08

ガンボート
山本は床面に映し出された平面宇宙図を見て少し焦っていた。

無論戦況が故ではない。有利はこちらにあるのだ。
    ヤドビュール
150個分艦隊、2000隻。それがガンボートのもとに与えられた戦力だった。

比べて敵は少数。戦闘そのものは鎧袖一触に終わるだろう。

もとよりこちらは陽動だったのだ。奇襲を察知して待ち構えていた以上、星界軍に負けはない。

問題なのは、少々敵戦力の撃破にこだわりすぎたことだろう。敵の奇襲を知っているという有利に胡坐をかいてしまっ

ていたのだ。

ハニア連邦、拡大アルコント共和国、人民主権星系連合体、人類統合体。四カ国連合はアーヴに対抗するためのものだ。

連合を組んでようやくアーヴと戦力的に対等になれる。しかしそれでも劣勢であることは否めないのだ。

それはなぜか?理由は簡単である。

四カ国の寄り合い所帯だからだ。

別の国なのだから兵器体系も、指揮系統も、想定する戦略も違う。

一方アーヴはそれらが統合されており、さらに8つの門を駆使することで圧倒的な戦略機動性をもっている。(最も8

つもの門を一か所に集中していることで、帝都が落ちたときの危険性は跳ね上がっているのだが)

これでは戦力で対等でも、連携を崩され各個撃破されてしまう。

それを覆すために我々の知らない門を使うことで奇襲を狙ったのだろう。

きっかけはおそらくハイド星系征服だ。
ソードラシュ・エルークファル
天川門群はハイド星系の征服によってその広さにも限りが見えてきた。

平面宇宙の門は銀河ごとに分割されている。侵入困難な中心領域から第一環、第二環と環が広がっていき、第十二環で

最も外側に達する。

そして第十二環の向こうにはまた別の銀河に対応する門群があるのだ。

現在はまだそこまで到達していないが、第十二環はアーヴが独占している。

そして1000年かけて開拓した第十二環の果て、イリーシュ門の反対側がハイド門である。
       ガーント・フリューバル
つまり7年前、大和帝国がハイド星系を征服したことで既知宇宙はすべてアーヴ領域の内側に取り込まれてしまった

ということになるのだ。

わざわざ第十二環に繋がる門を探し出し、奇襲を行ったのもそれが理由だろう。四カ国連合の戦略目的は第十二環を

確保することであり、帝都に攻め寄せて8つの門を確保するのはそのための手段に過ぎない。

そういう意味ではむしろこちらの方が本命なのかもしれなかった。
   ソード・キュトソクンビナ・ケイク
我々がケイシュ193門と呼んでいる門、今我が艦隊が目の前にしている門とは反対側のイリーシュ門近くにも新しく

開いた門があるはずだ。

敵の主力はおそらくそちらだろう。まあ前世からの同輩が守っているから心配はしていないが。

しかし戦術的にはこちらが陽動であちらが本命でも、戦略的にはこちらが本命なのかもしれない。

だからこそ、敵は戦力の誘引を二の次にして占領地を広げた。その方針にはこの方面に星界軍の主力がいないと判断

したのもあったのだろうが。

だがアーヴはその奇襲を察知した。そして思ってしまったのだ。ここで敵戦力を撃滅してやろうと。

今四カ国連合が奇襲作戦を行い、失敗しつつあるのはアーヴが敵の作戦を知りつつそれを逆用してこちらの優位で戦争

を始めようとしたからだ。

それゆえケイシュ193門の精確な場所を特定しきれなかった。あまり近づきすぎると我々が知っていることを知られ

かねなかったからだ。

その結果が、この戦況だった。
                         ビュール・ギュンボヴノーラル・マータ
四カ国連合は奇襲作戦を決行。あらかじめ待機していた夢幻第二艦隊はただちに抜錨して迎撃に移った。

しかしフェブダーシュ門から敵策源地を探し出し、主力を撃滅するまでの間に別動隊の行動を許してしまったのだ。

既に夢幻第二艦隊とは反対側に侵攻した敵は追撃可能な範囲を超えてしまっている。

戦闘のために複数の時空泡を融合させているので速度が出せないからだ。

勝利に終わるとはいえ補給と再編成は行わなければならない。追撃に移るのは少なくとも数日かかるだろう。

占領された星系を奪還するのはさらに先だ。

ヴォーラーシュ伯国には少しの間人類統合体の統治下で我慢してもらわねばならないかもしれない。

221: 333 :2017/01/04(水) 23:50:22
投稿は以上になります

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最終更新:2017年02月09日 21:01