278: 333 :2017/01/06(金) 22:10:07
フローデ達の憂鬱



人類統合体が侵攻して数日が経ったが生活にあまり変化はない。ジントにとってはだが。

「ふぁ~…眠いわ。」

しかしレクシュにとってはそうでもなかったらしい。はしたなく大口をあけて欠伸をしている。

眠そうな顔で目が充血していても意地でも欠伸を我慢していたがとうやら我慢できなくなったらしい。

「君は眠くないのかい?ラフィール。」

しかし傍にいるラフィールはあまり眠そうにはしていない。ということはアーヴだからという訳ではないようだ。
    サーラン
「ああ、母は無重力派だからな。重力があると眠れないんだ。」

聞くとアーヴは寝るとき重力下で寝るものと無重力下で寝るものがいるらしい。どうやらレクシュは後者だったようだ。

なるほど、空間種族ならではの習慣だな…と納得したところでジントは新たな事実に気が付いた。

「ってレクシュさんがラフィールのお母さん!?」

「おぬしその驚き芸好きだな…。」

心外である。僕は芸人じゃないというのに。

『…のようにアーヴは人類が文明を持ってからずっと人類共通の敵であり続けたのです。』

壁の映像から人類統合体の宣伝放送が流れてくる。侵攻されてからずっとこの調子だった。

「こんなに怖がらなくてもいいのに。まるで私たちが悪魔みたいじゃない。」

レクシュが長椅子にもたれかかってそれを見ている。

「仕方がないんじゃないでしょうか。なにせアーヴは太陽系を滅ぼした…と思われているんですから。」

誤解でここまで怖がられちゃたまらないわと言いつつレクシュは去っていった。朝餉をもらいに行ったのだろう。

『一度は人類が団結して彼らを追いつめました。しかしアーヴはそのときついに自分が人類でないことを暴露したので

す。青い髪と宿命遺伝子はその証左でもあります。』

報道はずっと嘘を垂れ流している。

それにしたって同じ内容ばかりじゃなくてもいいじゃないかと思うのだが。

こんな宣伝ばかりだと逆に聞き流されるだけだ。

「全く嘘っぱちばかりでいやになるね。アーヴが追いつめられただって?笑っちゃうよ。」

ジントは一笑に付したのだが、ラフィールはそうではなかった。なにやら真剣な顔をしている。

「…いや、嘘ばかりではない。事実我らの先祖は追いつめられたのだ。」

「なんだって?本当かい?歴史上アーヴが戦争に敗れたことなんてないって習ったんだけどなあ。」

アーヴの先祖は太陽系すべてを敵に回し、最後には太陽系ごと滅ぼしたと聞いていた。

「それは誤解だ。…誤解なのだ。我々は逃げるつもりなどなかった。見捨てるつもりなどなかったのだ。」

敵対者を根絶やしにするため太陽を爆発させた。アーヴは常々それを誤解だと言ってきたが耳を貸すものなどいなかった。

なによりその後の対応が犯人としての信憑性を高めていた。

「世界を敵に回して戦った時、彼らが言うように我らは追いつめられていた。もはや敗北など免れないほどに。」

それは重い言葉だった。アーヴにとって強い後悔になっているのだろう。

「だから遠くで再起を図ろうとしたのだ。いつか我らが故郷に戻るつもりだった。」

その言葉にジントははっとした。太陽系爆発から生き延びたのは8つの宇宙船に住んでいた者たちだけ。

すなわち故郷には敵だけでなく、同胞もいたはずなのだ。

「だがまもなく太陽が爆発した。慌てて帰ったが…生存者はいなかった。だから我らは誓ったのだ。」

その先はさすがに予想がついた。ジントも名は知っていたからだ。

「青の誓い。悲劇を忘れぬために髪を青くすること。そして二度と同胞を見捨てぬために宿命遺伝子を刻むこと。」

人類統合体の宣伝放送はまだ続いている。こんな話をしているのに、消すべきかとも思うのだが。

しかし話に飲まれ、それどころではない。映像はついたままだ。

『…つまりまさしく宿命遺伝子とはアーヴが民主主義を担う人類ではなく昆虫的非人類種族であることの証明なのです。』

「だからこそ我らは同胞を見捨てぬ。組織の為に、国の為に死ぬことを厭わぬ。それこそがアーヴの、同胞の為なのだからな。」

279: 333 :2017/01/06(金) 22:11:05


クー・ドゥリンは悩んでいた。

これは非常に珍しいことである。彼自身、それを自覚していた。

脳みそまで筋肉でできていると言われるほどミンチウ馬鹿の彼は今まで物事を深く考えるなどしてこなかった。

それがここまで悩んでいるのはジントが連れてきたアーヴが人間とはどうしても思えなかったからだ。

ドゥリンはジントのことは守りたいと思っている。

身分的にはアーヴであろうとも、彼は人間だし何より親友だったからだ。

しかしアーヴ達についてはそうは考えられなかった。

ドゥリンはアーヴのことをよく知らないが、今置かれている境遇が決して楽観できるものではないのはわかった。

しかし彼らとくればどうだろう?泣き言一つ言わず、それどころか嫌っているらしい地上に落とされても国の為に戦お

うとしている。

ドゥリンにはどうしてもそれが受け入れられなかった。

国など、自分たち民衆を搾取するだけの存在だ。そんなくだらないものの為に戦おうなど、理解できなかった。

しかしだからといって治安警察にそれを通報するのもできない。

治安警察がジントだけを見逃してくれる訳がないからだ。

「ドゥリン。ドゥリン?」

気付くとジントに呼ばれていた。

「ん、どうした?」

「誰かが来てるみたいだけど…。」

怪しまれないため、来客はこの家の人間が対応することにしていた。

どうやら呼び鈴が聞こえないほど集中していたようだ。

どうやら俺はおかしくなっちまったらしい。

そう考えながら玄関を開けると、見慣れない恰好の男がいた。

「どうも。治安警察です。」

280: 333 :2017/01/06(金) 22:13:21

「ようやく追いつめたぞ。まったく手間をかけさせる。」
キレーフ・ゴル・ガンボス
山本の黒瞳を輝かせてガンボート提督はつぶやいた。

逃げた敵を追いに追い、ついにヴォーラーシュ門まで来たのだ。

もう敵に逃げ場などない。仮に逃げたところで補給のあてがないのだ。
                        ベーシュ
この短期間でヴォーラーシュ星系の反物質燃料工場まで接収し補給を済ませたのはたいしたものだが、この先には星界

軍の軍艦が向かっている。
ホクサス                         スノール
「機雷をたんまり打ち込んでやれ。何、補給は久野村がなんとかしてくれる。」

まもなく機雷が分離していき、敵を蹂躙する。

彼我の戦力差は圧倒的だ。これだけでも撃破には十分だがまだ足りない。
ヤドビュール・アシャム
「突撃分艦隊、突撃せよ。敵には一片の情けもかけるな。それが奴らのためでもある。」
                    ゲール                    レスィー
攻撃型駆逐宇宙艦(帝国でいう突撃艦)が必死に宇宙巡洋艦(同じく巡察艦)を守るが、多勢に無勢。

次々駆逐されていき、感情なき宇宙船は後方の敵を狙う。

「自分がされて嫌なことは他人にするな。戦場で敵に情けをかけられるなどという屈辱は味わわせずに殺してやれ。」

突撃艦が敵陣を切り裂き、巡察艦が殲滅する。

戦いは一方的だった。
              ヤドビュール・ウセム
「第5から第12までの偵察分艦隊は敵側面から包囲しろ。一隻も逃すな。」
         サールン
ガンボートは指揮刀を振って、命令を出す。
              ライシャカル・ウェク・ソーダル・ヴォーラク
この日行われた戦闘はヴォーラーシュ門沖会戦の名で後世呼ばれることになる。

その戦史上の評価は史上稀にみる蹂躙戦、というものだった。

281: 333 :2017/01/06(金) 22:14:07
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最終更新:2017年02月09日 21:06