424: 333 :2017/01/08(日) 21:30:22
フローデ達の憂鬱
『まもなくアクルーシュ宇宙港行き2390便が出発します。お乗りのお客様はご乗車ください。』
ケンルー
「修技館までなら私が送って行くのに。本当に送らなくてよいのか?」
アローシュ ドーリャイ
「いいよ。僕だってこれから帝都で暮らしていかなきゃならないんだ。乗合船にも慣れておかなきゃ。」
デルクトゥーでの騒動の後、ジントとラフィールは改めてラクファカールに向かった。
もちろん当初の目的、修技館に入学するためだ。
ファサンゼール
ラフィールは修技館を卒業しているが、出世の義務がある皇族はそこで止まっていられない。
ヴォスクラ
星界軍大学に入学して士官の道を歩むのだ。
「ラフィールも星界軍大学でも元気でね。…まいったな。出会ったのはちょっと前なのにもう別れがたくなってるよ。」
ジントの脳裏にはこれまでラフィールと過ごした日々が走馬灯のように過ぎっていた。
「おぬしは大げさだな。同じラクファカールに住んでいるのだ。たまには会うこともあるであろ。」
ラフィールとは短いが濃密な時間を過ごした。その分だけ親しくなっているのだ。
「これから戦争になるであろう。それまで、私もおぬしも精進せねばな。」
ウィクリュール
「大学を出たら軍艦の艦長になるんだろう?そのときは僕を部下に指名してほしいな。音沙汰なしだったら恨むよ?」
ウィグ
「ぬかせ。目にもの見せてくれるわ。おぬしこそぬかるなよ?成績が悪いようなら書記の席は他のもので埋めてしまうからな。」
そういってラフィールは笑う。ジントも笑った。
『まもなく修技館行き2231便が出発します。お乗りのお客様はご乗車ください。』
案内が聞こえてくる。そろそろ時間だ。
「じゃあ僕は行って来るよ。元気でね。」
手を振り、歩き出す。後ろからはラフィールの声がジントの背中を押していた。
「おぬしこそ息災でな。またそのうち会おう。」
乗合船に乗り、中からラフィールを見る。彼女はまだ手を振っていた。
ゆっくりと船が動き出す。中の乗客は殆どが地上人なので加速度を抑え目にしているのだ。
ラルベイ・イリク
遠ざかっていくイリーシュ王宮を見て、ジントは新たな生活への決意を胸に灯した。
426: 333 :2017/01/08(日) 21:31:48
クファゼート・ギュンボヴノーラル
夢幻作戦を終えた後。いつもの如く
夢幻会は集まっていた。
レンド ガンボート
その中には嶋田と山本の姿もある。前回の会合は事変前後に開かれたため出られなかったが、今回は出席していた。
ボスナル
「みなさん、夢幻作戦完遂お疲れさまでした。軍士だけでなく後方要員から一般人のみなさんもお疲れ様でした。」
スリー
辻が出席者を労う。実際に戦場に出たのは少数だがそれ以外の夢幻会員も有形無形の支援をしていたのだ。
「「「「「お疲れ様でした!」」」」」
「今日の議題は夢幻作戦の総括と今回の事変…仮称イオラオス事変の事後処理についてです。」
スリーが話を始めるが、各人思い思いにくつろぎ、あるいは料理や酒に手を伸ばしていた。
夢幻会はいつもこんな調子である。基本ゆるいのだ。
「作戦についてはレンドさんにお願いしましょう。あ、ガンボートさんはヴォーラーシュ方面をお願いしますね。」
指名を受けたのはレンドである。彼は今回の四カ国同盟の奇襲作戦に対して、主攻方面の迎撃を担当していた。
ビュール・ギュンボヴノーラル・カースナ
「夢幻第一艦隊は敵奇襲艦隊主力を撃破しました。所詮寄せ集めですからね。しかし指揮系統が混乱したことによってバラバラに
逃げられましてね。少々取り逃がしてしまいました。」
ソーパイ
「結構です。逃がした戦力については次の反攻作戦で撃破しましょう。既に準備は整っています。今回間に合わなかった襲撃艦も
ヤドビュール
2個分艦隊相当が編入できますよ。」
出来れば緒戦で新艦種の戦術を試したかったが。レンドはそう考えたが仕方が無いのも確かだった。
襲撃艦とは帝国が新たに開発した艦種である。
ゲール ホクサス レスィー
特徴は重武装の突撃艦、あるいは機雷を積まない巡察艦といったところか。そのせいで名前を重突撃艦にするか軽巡察艦にするかで
紛糾したのだが。(最終的にどちらでもない襲撃艦に決まった)
夢幻作戦に間に合わなかったのは兵器開発が遅れたからというのもあるが、乗員の練成が遅れたのもあった。
襲撃艦は新たな艦種である。ゆえにその戦術はまだ確立されていない。
だからこそ戦力化に時間がかかってしまったのだ。
「ヴォーラーシュ方面はどうでしたか?ガンボートさん。」
フィア・ルエホグネル
「こちらも問題はない。敵艦隊も完全に殲滅した。皇孫女殿下が地上にいたと知ったときは肝を冷やしたがね。スポールが上手く
やってくれたよ。」
「ありがとうございます。レンドさん、これで敵戦力はどれくらい削れましたかね?」
問いかけにレンドはしばし考え込む。出てきた答えは期待ほど大きくはなかった。
「せいぜい2割といったところでしょうか。ヴォーラーシュ方面は殲滅できましたがそちらは陽動ですし。主攻方面は撃退を優先
したのが裏目にでた形ですね。」
「まあそれならそれで構いませんよ。作戦の第一目標は帝都の防衛ですからね。原作以上に敵戦力を削れただけで良しとしましょう。」
428: 333 :2017/01/08(日) 21:32:50
「さて、事変の後始末ですが…厄介なことになりそうですよ。」
次の議題を切り出したスリーの言葉に出席者達は各々その思いを表に出した。
唸るもの、顔をしかめるもの。頭を抱えたり顔を覆うものもいた。
ブルーヴォス・ゴス・スュン
「四カ国同盟…もそうですが、わが国にも問題はありますね。」
「民主主義ゆえの弊害ですか…いや我々にも偉そうなことは言えませんが。」
スリーが続ける。実際、頭の痛い問題だった。
「四カ国同盟は事変に対して根拠のないでまかせだと言っています。一方帝国が誠意ある態度を示すのなら共栄することも吝かでは
ないとも。」
四カ国同盟は奇襲が失敗してから、混乱していた。それを端的に表しているのが先の表明だった。
「強硬な国内世論に押されて謝罪など言えない。かといってこのまま進めば緒戦で打撃を受け勝ち目のないまま戦争に突き進むしか
ない。そういうことですか。」
「問題なのは帝国もですよ。戦争に勝つのはいいですが、完全に四カ国同盟を飲み込み人類社会を統一するまで止まらないつもり
になっています。全銀河の統治などごめんこうむるんですがね。」
こちらにも困ったものだ。レンドはそう思った。
アーヴ達は地上人から迫害されつづけ、時に衝突しながらその全てに打ち勝ってきた。
そうした歴史からアーヴは日本人の子孫とは到底思えないほど苛烈な性格になっており、一度戦争を始めたら自分達が滅びるか
相手を滅ぼすまで止まらないという価値観を持つようになっていたのだ。
「……ハニア連邦から崩せば向こうから講和を言い出すんじゃないか?」
夢幻会の面々が頭を悩ませていると、原作を知っている転生者から一つの提案が出てきた。
「なるほど。武力ではなく謀略でカタをつける気ですか…詳細はつめなければなりませんが、方針としてはいいかもしれませんね。」
スリーが見回すと皆納得の表情をしていた。
「ではその方針でいきましょう。」
かくして帝国の方針は決定された。
夢幻会の策動がどう影響するのか。それを知るものはいなかった。
いるのは知らない人間と、知っているつもりの人間だけだったのだ。
429: 333 :2017/01/08(日) 21:33:44
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最終更新:2017年02月09日 21:25