685: 333 :2017/01/11(水) 18:31:43
フローデ達の憂鬱 第二章




戦争に向かって歩みを進める帝国と四カ国同盟。

夢幻会はそれをとめようとする立場だったが、そこは前世でも経験を積んだ為政者である。

万が一を考えて戦争の準備は進めていた。

「双方の戦力はどうなっていますか?」
                                    レンド
人類統合体とハニア連邦の内情が報告された後、今度は嶋田が音頭を取って尋ねる。

「損傷艦艇の修理と艦隊の再編成は済んでいます。艦艇と機雷の補充状況についてはお手元の資料をご確認ください。」

夢幻会の面々は一様に資料に目を落とす。
     ヤドビュール          ホクサス
「190個分艦隊8600隻ですか。機雷の備蓄は10万発。まだ3~4回全力戦闘できますね。」
         フラサティア                               レビサーズ
「10万個の時空泡発生機関が使い捨ての兵器になるのですか…。これを客船に組み込めばどれだけの船団が編成できるやら。」
サテュス・ゴール・ホーカ     フラサス
時空機動爆雷は離れた時空泡を攻撃できる唯一の手段だが、その分費用がかかる。
            メーンラジュ              メーニュ
言ってしまえば平面宇宙航行機能を持った無人の宇宙船なので、いくら小型にしても時空泡発生機関は積まなければならない。

しかし時空泡発生機関は高価な機械であり、平面宇宙航行機能には欠かせない機関である。

機雷はそれを使い捨てにするのだから、補給や政務に関わる人間に嫌われるのも仕方の無いことだった。
                                     イサーズ
10万個の時空泡発生機関を船に積み込めば、10万隻の輸送船ができるのだから。

あまつさえ苦労してそれだけの時空泡発生機関を生産し、備蓄し、輸送してもたった3~4回で使い切ってしまうと言われれば

誰だって良い思いはしない。
             スリー
「仕方がないでしょう、辻さん。戦争とはそれだけ金がかかるものなんですから。」

「もちろんわかっていますよ。だからこそ負けるわけにはいきません。これだけ懐を痛めているのですから。」

しかし彼らの会話の内容を四カ国同盟の指導者が聞くことがあれば何を贅沢な事をと叫んだことだろう。

なにしろ10万発もの機雷を懐が痛い程度の出費で用意できるのだから。

「一方敵戦力ですが、陽動部隊は先のイオラオス事変で殲滅しました。しかし主力部隊は取り逃がしており、敵戦力はこちらの

想定で8割ほどに減少していると思われます。」
       クリューノ
報告者が端末腕輪で壁に資料を表示する。

内容は事変前と事変後、双方の敵味方の戦力推定だった。

「主攻方面は同盟各国の混成部隊でしたが、陽動部隊はほぼ人類統合体艦隊で占められていました。」

「同盟の盟主である以上危険な任務は自らが負わねばならなかったんでしょうね。」

資料は主攻部隊の損害は抑えられているものの、陽動部隊は完全に殲滅されており、相対的に人類統合体の戦力が同盟内において

落ちている事を示していた。

「ふむ。かなり削れていますね。これなら次の作戦を実行するのに差し支えないでしょう。もっとも、そんな機会訪れない方が

いいんですがね。」

軍事にはそれほど明るくないスリーが言う。
    ガンボート
レンドや山本は既に知っている顔だ。
                         クファゼート・アネク
「はい。和平がならなかった場合の作戦…荒嵐作戦の準備は順調です。」

会合に参加している者の顔が引き締まる。それだけ重要な作戦だからだ。

686: 333 :2017/01/11(水) 18:33:04

「既にご存知かと思いますが、概要を説明します。」
                                  ファーズ
再び端末腕輪を操作して表示を変える。現れたのは平面宇宙の勢力図だった。
ブルーヴォス・ゴス・スュン                          ソール・バンダク
四カ国同盟と帝国を構成する8つの王国のうち7つが集まった中心領域。
                  フェーク・イリク
そしてその外側を取り囲むイリーシュ王国が見える。

中心領域とイリーシュ王国の間は灰色になっており、未開拓であることを示していた。

続けて図の右下、人類統合体の領域。そして左上、円環状のイリーシュ王国のうちヴォーラーシュ方面が拡大される。
             ソード・キュトソクンビナ・ケイク
「四カ国同盟が開いたケイシュ193門の場所はここです。」
             ソード・ハイダル
拡大された図の右上がハイド門、イリーシュ門の反対である。

円環状のイリーシュ王国を時計の外周に例えれば12時がハイド門、6時がイリーシュ門である。
                                       ソード・ヴォーラク
そこから弧を描き円環を反時計周りにいくらか進んだところにヴォーラーシュ門。

ヴォーラーシュ門はヴォーラーシュ伯国に繋がっており、この星系にデルクトゥーがある。時計で言えば10時の位置だ。

さらに反時計回りに進むとフェブダーシュ門に至る。

そしてヴォーラーシュ門とフェブダーシュ門の間に赤い光点が表示される。これがケイシュ193門だろう。
                    キーヨース・バスコトン
「偵察によってケイシュ193門はバスコットン星系にあることがわかっています。」

報告者が手を振るともう一つの拡大図、中心領域のうち人類統合体の領域の一部に光点が宿る。

人類統合体は中心領域でも最も内側の中心近くに勢力圏を持っているが、3時の方角と5時の方角にその領域をのばしていた。
                               ソード・バスコトン
そして3時の方角に伸ばされた領域、その根元にバスコットン門が位置しているのだ。
                 ソード
「バスコットン星系は二つの門を持っています。一つはバスコットン門。もう一つがケイシュ193門です。」
     ダーズ   ファーズ
門は通常宇宙と平面宇宙を行き来する入り口にして出口だ。

しかし普通の門と異なる点は、通常宇宙側の門は移動させられるということである。

これにより一つの星系が複数の門を持つ事も可能になるのである。

「作戦の趣旨はこうです。まずイリーシュ王国からケイシュ193門に進入。バスコットン星系を制圧し、そこを拠点にします。」

一つの星系が複数の門を持つメリットは、平面宇宙を瞬時に行き来できることである。
   フリューバル
事実、帝国はアブリアル星系に8つもの門を集中させている。

主力艦隊を一度星系に引っ込めて別の門から出撃させるだけで、平面宇宙側から見れば8つの場所を移動できるのだ。
                               フェーク・スュルグゼーデル  フェーク・ラスィーサル
「以後バスコットン門から人類統合体領域に侵入。スュルグゼーデ王国とラスィース王国の間の領域を制圧します。」

拡大された図の右下、3時の方角に伸ばされた人類統合体の領域が根元から分断される。

反時計周りで隣り合っているラスィース王国。

同じく時計周りで隣り合っているスュルグゼーデ王国に挟撃され、飲み込まれる。

「以上が作戦の概要になります。質問はありますか?」

一方で門を集中させるとこのような弊害も生じる。一つでも門が落ちれば星系が制圧され、そのまま別の方面に侵攻されるのだ。

「ご説明ありがとうございます。まあ、これは万が一開戦が止められなかった場合の想定です。」

スリーが報告者をさがらせる。

実際、今まさにハニア連邦に対し世論工作を行い成功しかけているのだ。

「ハニア連邦が同盟から落ちれば残った三ヶ国は動揺するでしょう。交渉の余地も出てくるはずです。」

687: 333 :2017/01/11(水) 18:33:43



ハニア連邦 首都スーメイ星系 惑星ハニア

この日もハニア連邦の上層部は集まって会議を開いていた。

もちろんこの戦争に対して祖国がどのような決断をするか決めるためだ。

「市民の間では非戦論が強まっています。この戦争に参加することが本当に我等スーメイ人の為になるのか、もう一度お考え頂きた

い。」

会議に参加しているとある重鎮が問いかける。

その相手は顔を赤く染めて鼻息を強めていた。どうやら興奮しているようだ。

言うまでも無いが、それは激怒故である。彼は愛国者だったのだ。

「何をいうか!ここでハニアが同盟に協力しなければ国際信義に悖ることになる!」

声を荒げて反論するのは軍人だった。軍服には幾つもの略章がつけられている。

「攻撃されたとでっち上げて徒党を組んで奇襲するくらいなら同盟を降りたほうがまだマシだと思うがね。」

別の文官が軍人に対して嫌味を言った。イオラオス事変が四カ国同盟の攻撃から始まったことなど既に周知の事態だったのだ。

軍人は目を血走らせて睨むが言葉は出ない。嫌味な良い方だったが、事実ではあるからだ。

「そこまでにしたらどうかね。実際彼の言う事にも一理ある。ここで我々だけ一抜けして後で他国になんと言われるか。」

そこでまた別の文官が助け舟を出す。彼は宇宙派ではなかったが地上派でもない。

勢力争いとは常に真っ二つに分かれるものではなく、中立派もいるものなのだ。

「他国とは一体どの国の事ですかな?人類統合体?拡大アルコント共和国?それとも人民主権星系連合体?この戦争が終わった時

にはなくなっているのに?」

まるでアーヴの勝利を知っているかのような言だが、それを疑うものはいなかった。少なくとも言葉に出せるものは。

「そうならないために我等の参戦が必要なのだ!ここで我等だけ同盟から離脱しても待つのは破滅だけだ!同盟が勝てば裏切り者を

許しておくはずがない。アーヴが勝てばハニア連邦は国力の差からいずれ飲み込まれる。どちらにしろ戦争に勝つしかないのだ!」

その件については地上派の重鎮も頭を痛めている問題だった。ここで和平を請えば自分達だけは見逃してもらえるかも知れない。

しかしその後に待っているのは政治、経済、軍事。あらゆる面でアーヴに圧倒され、従属するだけの未来だ。

和平の声が大きくなっているのにも関わらずハニア連邦が態度を決めきれないのもそれが理由だった。

「…そもそもこんなもの、いるのか?」

どこからか聞こえてきたつぶやきを軍人の耳が拾った。

自分の事だと勘違いした彼は悲痛な叫び声を上げる。自らの存在意義を守るために。

「なんてことを言う!ハニア宇宙軍がなければ、ハニア連邦は独立を保てないのですぞ!」

「いやだからね。」

だが言われた男は平然としていた。見ようによってはそれは挑発しているようにも見えたろう。それほど度し難い言葉だったのだ。

それでも彼は本気だった。まるで良い提案を思いついたかのように続ける。

「”ハニア連邦”なんて、必要かね?」

688: 333 :2017/01/11(水) 18:34:24
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最終更新:2017年02月09日 21:50