752: 333 :2017/01/14(土) 09:00:14
フローデ達の憂鬱 番外編




親アーヴの場合


我々人類の故郷は地球という惑星である。

この惑星は既に失われて久しいが、そこでは人類が宇宙に進出してから現在に至るまでと同じくらいの歴史が積み重ねられていた。

我等がツオビ人の先祖もまた地球に住んでいたのだ。

ツオビ人は800年前、惑星アルタイアに入植した。このアルタイアとは元は地球の地名である。

今から約1万年前、地球のアルタイ山脈に優れた文明を持った人類集団がいた。

彼らこそがツラン人であり、ツオビ人の先祖でもある。

ツラン人は現生人類とは異なる種の子孫であり、本質的に他人種とは隔絶した能力を有していた。

やがてツラン人は広くユーラシア大陸を拡散し、大和列島とスカンジナビア半島にそれぞれ入植する。

スカンジナビア半島に入植したツラン人は野蛮な周囲の民族(現生人類の祖先である)に虐げられる立場となった。

一方大和列島に入植したツラン人は民族の純潔性を維持したまま、優れた文明と文化をもって発展しつづけていた。

大和ツラン人はやがて列強と呼ばれる国家群に支配されていた各地の民族を解放し、優等種の義務として保護し始める。

そしてスオミと呼ばれるようになっていたスカンジナビアのツラン人をも開放し、同胞として様々な形で協力するのである。

数世紀の後に人類が宇宙に進出するとスオミは地球から遠くの惑星に移住し、大和人は宇宙を放浪する種族となる。

その後大和人はツラン人の末裔としてさらに文明を発達させ、アーヴとなり、大帝国を築き上げることになる。

アーヴが史上類を見ないほどの力を持っているのは優等種だからだ。

このように諸君らツオビ人には他の人類には流れていない、優等種の血が流れているのだ。

それはアーヴと同じものであり、ツオビ人は彼らの兄弟なのである。

753: 333 :2017/01/14(土) 09:01:14

反アーヴの場合


人類は地球で生まれてから今日まで、未開の奥地に光を灯し、無知に智の灯火を照らしてきた。

だがその妨げは常に存在してきた。アーヴはその筆頭ともいえる。

民主制は人類が生み出してきた中では最良の政治体制である。民衆が自らの意志で政治に介入し、決定する。

これは民主制だけの利点である。我々の惑星ではこの民主制のもと政治が行われている。

では惑星の外に出るとどうだろうか。

愚かなことに、既知宇宙の半分は君主制という欠陥だらけの政治が行われているのだ。

言うまでもなく、その担い手はアーヴである。

君主制は統治者に失敗を許さない体制だ。その代わり迅速な意思決定が可能となる。

だがこの政治体制は、統治者が一度腐敗してしまえば取り返しのつかないことになってしまう。

統治者を排除する手段が存在しないため、暴君が君臨してしまうとたった一人の専制君主のために多数の人間が犠牲になるのだ。

このような体制は歴史上何度も現れたが、そのたびに民衆によって転覆されている。

数百年続いたこともあったが、いずれも必ず滅亡している。

しかしアーヴ帝国はそうではない。5千年にも渡って専制君主の一族が国を圧政下に置き続けているのだ。

アーヴ以外の人類に王政の打倒が出来たのになぜアーヴにはできないのか?

それはアーヴが人類ではないからである。

アーヴの先祖は大和人と呼ばれる人種だった。彼らは猿が現生人類に進化する途中の段階で止まってしまった人種なのである。

それゆえ本能的に民主制というものを理解できず、支配者の命令に疑問を抱く能力が存在しない。

いわば生まれながらの劣等人種なのである。

諸君らは幸いな事にアーヴの生まれではない。自由と平等の概念を理解できない劣等種ではないのだ。

754: 333 :2017/01/14(土) 09:02:17



「なんともまあ…我々アーヴは言いたい放題ですね。」
レンド
嶋田が思わず口から出したのはそんな言葉だった。
スリー
辻も呆れたような、それでいてどこか愉快そうな声音で言う。

「方向性は違いますが、両者アーヴを人間ではないと結論付けてますね。いやはやまったく。」
                          ナヘーヌ
二人が読んでいるのは帝国内のとある地上世界から取り寄せた教科書である。

ご丁寧に親アーヴ的な地上世界と反アーヴ的な地上世界と両方のものがあった。

「これは極端な例でしょうが、自分が人間扱いされないと言うのはなかなかクルものがありますね。」

レンドはそう言って顔をゆがめた。

しかしスリーは否定する。

「いえ、程度の差こそあれ人間扱いされてないのはどこも同じですよ。私も驚きましたが、マーティンを除いてほぼ全ての

地上世界でアーヴは人間の内に入れられていません。」

「は?」

今度こそレンドはあっけにとられた。それほど突拍子も無い発言だったのだ。

気を取り直し、慌てて否定する。

「いやいやそれは流石に言いすぎでしょう。自民族優越主義や民主主義の神格化、反遺伝子操作主義からアーヴを人間扱いしない

のはわかりますが、中立的な地上世界もあるでしょうに。」

だがなおもスリーは否定する。

その顔に冗談の色は含まれておらず、どこまでも真面目だった。

「言いすぎならよかったんですがね…レンドさん、考えてもみてください。過去はともかくとして、遺伝子操作が基本のアーヴは
アイプ
地上人と子をなすことが難しい。シレジア不老族ほどではありませんが、地上人とアーヴの子は高い確率で癌化します。」

長い寿命に人にはない感覚器。それらを備えたアーヴが常人と子をなしたとき、受精卵は数十パーセントもの確率で癌化するのだ。

無事に生まれたとしても、成人になれる確率はさらに低い。遺伝子をいじり過ぎたが故の現象だった。

「生物学的な意味で厳密には別種ではありませんが、普通の人にとっては別種の生物といっても過言ではありませんよ。

なにしろ黒人と白人よりもずっと離れているのですから。そこに来て、我々アーヴ…いえ日本人のルーツは不明のままな訳です。」

レンド達が前世で生きていた間にも、日本人がどこから来たのかについては様々に言われてきた。

その論争は結論が出ないまま、結局地球もろとも証拠がなくなってしまい真相は闇の中に消えたのだ。

「今現在、アーヴは常人と同じ生物ではない。そして何千年も前からその出自は明らかではなかった。ならば元々アーヴは常人とは

異なる人種なのだと思っても仕方がありません。」

レンドは思わず天を見上げる。神が実在するのなら一言文句を言うために。

しかし見下ろしてきたのは真っ白な照明だけだった。今はその光さえもが己をあざ笑っているかのように感じる。

「でもマーティンは違うんですよね?なぜですか?」

いつまでも見上げてても仕方ないと思ったレンドは顔を元に戻し、一筋の光を求めてスリーに尋ねる。

「マーティンに移住してきた人々は地球から直接旅立った移民船に乗っていましたからね。日本人が世界大戦で世界の敵にされ、

太陽系から逃げ出し、故郷の滅亡をきっかけに流浪の生活を送るようになり、平面宇宙に踏み込んで千年経つまで。実に二千年

もの間、彼らは他の人々の情報など地球時代のものしか知らなかったのです。マーティンの人々にとって我々はアーヴと言うより

日本人なのでしょう。」

そういうことか。思わずレンドは納得してしまった。要は自分はまた前世での価値観に囚われていたと言うことなのだろう。

「なるほど。外見的にも遺伝子的にも能力的にも他民族と差異がなかった頃とは違い、今はそれらにも違いがあるんでしたね。

それで、長い間孤立していたマーティンだけが我々を人間と考える…と。」

そう考えると、人類統合体の大使が言い放った(と聞いた)言葉がどれほど欺瞞に満ちていたのかが実感できた。

人種差別の嵐が吹き荒れていた前世において、ドイツの外交官がポーランド人に”同じ人間だ”と言うようなものなのだから。

レンドは深いため息をつく。

前世でも日本人は異端を見る目を向けられていた。自分が死した後も、結局それは変わらなかったのだろう。

遺伝子操作。太陽系壊滅。さらには人類宇宙の半分を覆い尽くした事。全てがアーヴに対する偏見を育てていた。

「こんなことを聞いていると私まで地上に関わりたくなくなってしまいますよ…。」

アーヴ的な価値観が薄いレンドだが、この時ばかりは地上を穢れた地とする同胞に同意したくなってしまったのだった。

755: 333 :2017/01/14(土) 09:03:12
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最終更新:2017年02月09日 21:58