82: 333 :2017/01/19(木) 00:30:39
フローデ達の憂鬱 第二章
レンド・アロン=レークル・クレグ・リグロール・リグソーズ
嶋田朝臣鹿公爵繁太郎繁一は密かに安堵していた。
グラハレル・ビューラル・ギュクネル
雪晶艦隊司令長官に任命されずに済んだからだ。
クファゼート・ギュクネル
今回の作戦、雪晶作戦は極めて重要な作戦だ。軍事的にもそうだが、外交的にもその重要性は計り知れない。
グラハレル
なにせ一つの国を併合するのだ。生半可な者を司令長官にするわけにはいかない。
ガーント・フリューバル ファサンゼール
大和帝国ではこのような場合、皇族を司令長官にする。
ルエ・スペーヌ グラハレル・ルエ・ビューラル
今回の場合で言うと、帝国元帥たる帝国艦隊司令長官。
キルーギアラルス・バルケール・ドゥサーニュ
皇太子天穂日王瓊金がその役割を担ったのだ。
アローシュ
故にレンドは帝都で留守番である。
普通の君主国では(君主国など星間国家ではアーヴだけだが)王族や皇族は戦場になど出ないし、出たとしても安全な場合だけだ。
フリューバル
しかし帝国ではそうはいかない。皇族たるもの、最前線に出て戦わねばならないのだ。
スィーフ
これは皇族だけでなく、貴族でも同じだ。高貴なるものは責任を負うという思想からだが、これが故にアーヴは戦闘民族とも呼ばれている。(それだけが理由でもないが)
フローデ
「提督。私を見て、何か失礼な事を考えていませんか?」
アーヴが戦闘民族呼ばわりされる理由の一つが声をかけてくる。
どうやら無意識に見てしまっていたようだ。
「いや、なんでもないよ。」
シュボーズ・アロン=ラドケス・ケスゴーシュ
島津朝臣忠久久良は目を閉じたままだが、レンドにはそれがジト目に見えた。
レンドは個人的に、アーヴが皆纏めて戦闘民族と見られているのはシュボーズの評判に引きずられている部分が大きいのではないかと思っている。
シュボーズは一般的に全知全能を戦争に特化させているといわれているほどの戦闘狂なのだ。
キュス・シュボージュ ワリート
島津の菱という家徴ですら、わが子を強くしたいというシュボーズらしい親心が何代も続いて生まれたのだ。
ダーズ フローシュ
通常宇宙での昔の戦闘は小型の戦闘艇が主流だったので、敏感な空識覚器官は有利だったからだ。
フロクラジュ
シュボーズがいつも目を閉じているのは、それだけ空識覚が鋭いということでもある。視覚に頼らなくても日常生活を送れるのだ。
「ただ、このまま何事もなければ良いと思っただけさ。」
そんな考えを押し込めて一人ごちる。
心の底からの言葉だったのだが、あいにくシュボーズはばっさり切り捨てた。
フローデ
「無理ですね。提督が平穏無事にいられるなんて。」
「いや、私も薄々思っていたが。しかしそうはっきり言われてしまうと落ち込むな…。」
彼女には言えないが前世でもそうだったのだ。
前世と今世。合わせて200年近く波乱の人生を送ってきたのだ。
なぜいつもいつも責任のある立場に立たされるのか。割と本気で頭を痛めていると彼女が慰めてきた。
ワスカーサレール
「大丈夫ですよ。そのために私が参謀長としてお側にいるんですから。」
その声はどこか優しいものだったように思えたが、レンドは気のせいだろうと否定する。
百近く歳の違う若造相手に何を自意識過剰になっているんだ。
ヤ・ファド
己を叱咤し、平面宇宙図に目を移す。仕事の事を考えて頭を切り替えようとしたのだ。
結局のところ、レンドも前世の価値観に引きずられているということだった。
83: 333 :2017/01/19(木) 00:31:19
人類統合体 ノヴァシチリア星系
「どういうことだ!」
怒鳴り声と共に拳が机に叩きつけられる。
声の主は怒りと焦燥と不安に顔をこわばらせていた。
人類統合体の軍人であることを表す軍服には無数の略章がついており、一目で相当高位の階級にあることが察せられる。
この場にいるものは多かれ少なかれ彼のような者ばかりだった。
所属する国こそ違えど、四ヶ国連合の軍人達だ。
ここは軍事評議会。ノヴァシチリア条約で定められた四ヶ国連合軍の中心組織だった。
「クリューヴ門から艦隊が出撃しただと!?帝国は戦力集中に時間がかかるのではなかったのか!」
つい先ほど、ハニア連邦合併のためと思われる艦隊がクリューヴ門から出撃したとの報告が齎されたのだ。
それはかねてより準備していた奇襲作戦の決行時期が来たということでもある。
しかしそれには問題があった。
「は…どうも連中事前に準備を進めていたようでして。こちらの予想を上回る迅速さです。」
「奇襲艦隊の編成はまだ完全には終わっておらんのだぞ…。」
そう、帝国の動きがあまりに早すぎたせいで奇襲のための準備ができていなかったのだ。
しかしそれに報告者は訂正を入れる。
「艦隊の編成は予定の90%以上が完了しています。しかし物資の備蓄が進んでいません。」
「どれくらいだ?」
「核融合弾は82%、燃料は90%が集まっています。しかし機雷が46%しか備蓄できていません。」
「先の敗北で失った分か…。」
必要な情報を得て考え込む。
たしかにこちらの準備は万全ではない。
しかしこれは千載一遇の好機なのだ。そしてハニア連邦脱落の危機でもある。
帝国は既知宇宙を二分する歴史上最強の国家であり、有史以来の歴史を持つ最古の国家でもある。
その風評は完全な間違いではないが、かといって正しいかといわれるとそうでもない。
帝国が二分しているのは単に既知宇宙の領域に過ぎない。潜在的な国力で言えば、四カ国合わせたよりも大きいのだ。
無論戦力では互角だ。それはかの国の財務官が、平時は軍事費を抑えているからだ。
だが戦時となれば別だ。普段は民間船を作っている造船廠は軍艦を作り、時空泡発生機関製造列は限界まで稼動し時空泡発生機関を吐き出すだろう。
時間が経てば経つほどこちらは不利になる。
帝国全ての時空泡発生機関製造列と半分近い造船廠、殆どの情報製品製造者が帝都ラクファカールに集中している。
さらに8つもの門を持ち、8つの方面に同時に接続している上、人類最大の反物質燃料製造工場もある。
まさに帝国の心臓部。連合軍に勝ち目があるとすれば、戦力差が少ない緒戦で帝都を落とすしかないのだ。
だからこそハニア連邦合併は四ヶ国連合の危機であると同時に好機でもある。
いくら帝国でも、平時の戦力で迅速なハニア連邦合併と万全な帝都の守備を両立はできないからだ。
これが戦時ならばそうはいかないだろう。帝国が完全に戦時体制に移行してしまえば、主要拠点の守備に十分な艦隊を配備したまま膨大な艦艇で攻勢をかけてくるからだ。帝国の生産力は、それほど隔絶している。
「艦隊行動は可能か?」
判断材料を得るために今一度尋ねる。
上官が何を考えているのか悟ってしまった彼は、顔色を悪くしつつも職務を全うするべく答える。
「当初計画どおりの艦隊を行動させるのは不可能です。しかし一部であれば、可能かと。」
彼は職務に忠実だった。そして情報を都合よく解釈するということもしなかった。
それが上官の判断を後押しする。そうとわかっていても、彼に正確な情報を伝えないという選択肢を選ぶことはできなかった。
尋ねた上官はしばし、目を閉じて考える。
「機雷が足りないということは情報収集宇宙艦と駆逐艦が中心になるか…それでも帝都の守備が薄まっているのならばあるいは…。」
勝率はどれほどか。この機を逃したとして、次に好機が来るのはいつか。次が来る確率は。
瞑目の後、決断した彼は部下に告げる。
「行動できるだけの艦隊を至急編成させろ。奇襲作戦を決行する。」
かくして火蓋は切られた。
四ヶ国連合の命運をかけた攻勢が始まるのだ。
84: 333 :2017/01/19(木) 00:31:49
投稿は以上です
まとめwikiへの転載は自由です
90: 333 :2017/01/19(木) 01:35:02
表現に誤りがありましたので訂正します
巡察艦→情報収集宇宙艦
突撃艦→駆逐艦
誤字修正
最終更新:2017年02月10日 19:39