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フローデ達の憂鬱 第二章
ソード・デンザル
ハニア連邦デンゼ門付近
ビュール・ビーナ・ギュクネル
雪晶第三艦隊は焦燥に包まれていた。
ヤ・ファド
平面宇宙図に映る敵の姿がそうさせていたのだ。
「やはり逃げられん、か。」
ビボース・アロン=ゴセート・サトゥート
箕朝臣幸人和人は覚悟を決めてつぶやいた。
しかし艦橋の面々はそうもいかないようだ。皆悲壮な顔をしている。
フェーク・クリュブ ビュール・ギュクネル
ハニア連邦の武装解除と合併の処理のため、クリューヴ王国を進発した雪晶艦隊は分散して各地に散っていた。
ハニア連邦はスーメイ人が興した国家である。そして星間戦争を経験せず勢力を拡大したことでも有名だ。
ガ・フェーク フェーク・イリク スペーシュ・キュトマタ
八王国の内、イリーシュ王国は第十二環に位置し孤立している。
ダ・フェーク ソール・バンダク
残りの七王国が中心領域とよばれる領域に集中しており、他国と複雑な境界をなしているがそのなかでもハニア連邦に囲まれている
フェーク・クリュブ
のが樟日王国だった。
しかし各地で武装解除を進めていた雪晶艦隊の前に敵が現れた。戦力差は絶望的である。
いくら帝国でも帝都の守護に戦力を割いた上で併合のための艦隊を分散して運用していては、個々の艦隊では戦力を集中させた敵艦隊に勝てるわけもない。
捕捉されてしまった以上逃げるしかなく、逃げられないとなると勝ち目の無い戦に臨むしかない。
アーヴは宿命遺伝子により自己の生存よりも集団の生存を優先する。それはかつて同胞を見捨てて太陽系を旅立ってしまった日本人の後悔から遺伝子に刻まれたものだ。
しかしだからといって己の死を恐れないわけではない。集団の為に死ぬのは最高の死に方だが、無駄死には真っ平御免なのだ。
シュボーズ
もっとも島津あたりならどうかわからんがな、とサトゥートは思いながら周囲を見渡す。
「お前達、そう落ち込むな。我々はここで死ぬかも知れんが、敵の戦力を計ることはできる。」
威力偵察。サトゥートが言ったのはそのことだった。
たとえここで死んでも、敵の情報は持ち帰られる。そうすれば…。
「そうすれば帝都を守護する艦隊が有利になる。お前達はそのために死ぬのだ。」
そのために死ぬ。常人ならば拒否感を覚えるだろうその言葉が、今はアーヴ達の心の支えになった。
自分達の死は無駄ではない。戦闘で得られた敵の情報は守護艦隊に届けられ、味方を有利にする。
有利になった味方は敵艦隊を撃破し帝都を守るだろう。帝国の心臓部たる帝都を守ることは帝国を守ることであり、帝国に生きる全てのアーヴを守ることでもある。
発破をかけられた翔士たちは活力を取り戻して動き出す。
死を免れないのなら、せめてそれを有意義にするのだ。
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人類統合体第二四任務艦隊司令官アルタ中将は焦っていた。
原因は明らかだ。行く手を阻む帝国の艦隊が邪魔だったからだ。
無論この戦力で押しつぶせばいかに星界軍といえど鎧袖一触だ。寡兵では大軍に勝てないのは太古より変わらない。
それでも物資は食い尽くす。例え少数の敵であろうと、弾薬は消費するのだ。
「機雷は使うな。防衛型駆逐艦で敵の機雷を凌ぎ、攻撃型駆逐艦と情報収集艦で蹂躙するのだ。」
「了解。」
連絡官が何事かを思考結晶に入力し泡間通信を発する。
平面宇宙図には敵の艦隊が表示されている。それは自軍の数分の一だ。
放たれた機雷も少なく、全面にでた防衛型駆逐艦が防ぎきる。
それでも少ない物資が浪費されるのは変わらない。
核融合弾も、燃料もただ進撃するだけよりもずっと消費されるのだ。
それは補給物資が少ない自軍にとって不利でしかない。
イライラと靴を鳴らし、腕を組む。
部下達が距離をとっていることに彼は気付いていなかった。
「チッ…わざわざ向かってきやがって。尻尾を巻いて逃げれば良いものを。」
愚痴るが、既に敵が向かってきている以上仕方が無い。
既に機雷戦は終わり、蹂躙戦が始まろうとしていた。駆逐艦が突撃し情報収集艦が撃滅する近接戦だ。
勝ち目が無いはずの蹂躙戦に、しかしアーヴの艦隊はやけに積極的に攻勢をかけてくる。
しかし多勢に無勢。少数でも連携を駆使して立ち回るが、多数の駆逐艦に集られて沈んでゆく。
まるで死を恐れていないかのようなその艦隊機動に、アルタは背中に怖気を感じた。
「昆虫人め…なぜ死を恐れん。化物め。狂った戦争の怪物め!」
つぶやきは空虚な艦橋に響き、気がつけば叫びとなっていた。
本能的な恐怖と嫌悪感と、時間と物資を浪費する焦燥と不安。
そして幾ばくかの使命感がない交ぜになった感情が渦巻いていた。
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グラハレル
「司令長官。」
参謀から声がかかる。
呼ばれただけだが、言いたいことはわかっていた。
「ああ。機雷を撃ってこなかった。」
決死の攻撃を仕掛け、今まさに滅びつつある第三雪晶艦隊。
ホクサス
だが彼らの撃った機雷に、敵艦隊は応じなかった。
レート
全て護衛艦が防ぎきったのだ。
機雷が豊富なら、わざわざこんなまねはしなかっただろう。
アレーク
無人の機雷で有人艦艇を沈められるなら占めたものなのだ。だからこそ戦列艦という艦種は存在する。
にもかかわらず撃ってこなかった。それはなぜか?
「敵は補給物資に不安を抱えている。本番の帝都攻撃に備えて、こんなところで消耗していられないのだろう。」
貴重な情報だった。これこそが命をかけて求めたものなのだ。
レンド
同胞たちの死は無駄ではなかった。嶋田提督は信頼できる能力の持ち主だ。決してこの情報を無駄にはしないだろう。
ディリョクス
「蹂躙戦ではどうか?弾薬を惜しむ動きはないか?」
さらなる情報を得ようと参謀に尋ねる。
ゲール
「どうやら多国籍の艦隊の寄り合い所帯のようで、連携に不備があります。突撃艦でも連携を重視すれば有効でしょう。」
ボスナル ロンギア
「そうか。…よくやってくれた、軍士たちよ。我々もすぐに逝く。連絡艇はこの情報を持ち帰れ。なんとしてもだ。」
ヤ・ファド
既に平面宇宙図に表示されている味方戦力は僅かだった。
水に溶ける砂糖のように、消え去っていく。
しかし表示される光点の一つ一つに数十、数百の命が詰まっているのだ。
いつしか艦隊は己を含む数隻だけになっていた。しかしその後方には何隻もの連絡艇がいる。
それが数多の死が無駄でなかった証拠なのだ。
デンゼ門から離れ帝都に向かう光点を見届け、サトゥートは最後の命令を下す。
サーソート・フリューバラリ
「全艦、突撃せよ。帝国に勝利を。」
ゴール・プタロス フラサス レスィー
時空融合の光が時空泡を包み、数隻の巡察艦が現れる。
反物質の炎に包まれるその時まで。彼らは歓喜に包まれていた。
全ては同胞の為に。
103: 333 :2017/01/19(木) 15:38:16
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最終更新:2017年02月10日 19:43