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フローデ達の憂鬱 第二章
四カ国連合奇襲セリ。
アローシュ
その報は帝都を駆け巡り、勝利続きで緩んでいたアーヴ達の意識を一気に戦時のそれへと昇華させた。
なにしろ先のヘラクレス作戦の時でさえ、ラクファカールに来る前に迎撃されていたのだ。
各地の艦隊が敗北を重ねているという情報も危機感を煽った。
もちろん帝都にはこんなこともあろうかと守護艦隊が置かれている。
ラブール
しかし敵がラクファカールに攻め寄せていること、星界軍が敗退したことはアーヴの宿命遺伝子を活性化させるには十分すぎた。
自分が今抱いているこの感情は宿命遺伝子によるものなのか、それとも嶋田繁太郎、いや神埼博之のものなのか。
レンド・アロン=レークル・クレグ・リグスノー・リグソーズ
嶋田朝臣鹿公爵繁太郎繁一は自己の定義に悩みながら報告書を眺めていた。
無論とうの昔に目は通している。今見ているのは単に手持ち無沙汰だからだ。
報告書は奇襲艦隊と交戦した艦隊から届けられたものだった。
その艦隊は敵の情報と引き換えに全滅している。
自分がこんな思考をもてあそんでいるのも、あるいはそのせいかもしれなかった。
帝都を守護する部隊に少しでも情報を送るため、勝てないとわかっている戦いに赴いて玉砕した。
その判断はおそらく逃げられないが故のものだったのだろう。逃げられるのならば、逃げていたはずだ。
しかし手元にある簡素な報告書の文字に何万という将兵の命が込められていると思ったとき、自分の中にある愛国心とでも言うべき
感情に気が付いたのだ。
始めは宿命遺伝子の仕業かと思った。
しかしよく考えてみればそうでもない気がするのも事実だった。
フローシュ
アーヴ帝国と呼び名を変えても、髪が青くなり空識覚器官を手に入れても、外来の言葉や文化をことごとく排してしまっても、
この国は日本なのだから。
自分があれほど血を流し命を奪い他国を踏みにじってでも、それでも守ろうとした、守りたいと思った国なのだから。
フローデ
「提督。」
気がつくと共用の無重力庭園には自分以外にもう一つの人影があった。
ワスカーサレール
「参謀長か。どうした?」
最近なぜかこちらに構ってくるシュボーズだったが、レンドの言葉に返さず無重力を漂って近づいてきた。
アーヴは幼い頃から無重力に慣れ親しむ。
それゆえ無重力空間はアーヴにとってとても落ち着くのだ。
ウィクリュール
軍艦にも無重力庭園が備わっているのはそのためだ。もっともこれは大型の艦に限るが。
「報告書ですか。敵は機雷の備蓄が少ないようですね。戦力も予想より小さいですし。」
手元を覗き込んでくる。
しかし妙に近いと思うレンドだった。
「ああ。大方物資の備蓄と艦隊の再編成が間に合わなかったんだろう。撃退を優先した分散り散りになって逃げていたからな。」
クファゼート・ギュクネル
「敵が雪晶作戦に合わせて奇襲作戦を練っていたのでしたら説明が付きますね。これほど早く作戦を開始できたのは事前に用意
していた攻勢作戦用の艦隊を転用したからですし。」
578: 333 :2017/01/25(水) 04:23:09
レンドは話している間離れようとするが、そのたびに距離を詰められる。
必然的に二人で移動することになり、ついには壁に突き当たった。
フローデ
「…提督。なぜ逃げるのです?」
ワスカーサレール
「それは君がやけに近いからだよ、参謀長。」
「近いのが不快なのですか?」
遠まわしに近づかないで欲しいと言ったつもりなのだが、どういうわけか伝わらなかったようだ。
なぜか追い詰められたような気になったレンドは話題を変えることにした。
「そ、それよりも、防衛戦をどうするかだ。」
あからさまな話題逸らしにシュボーズは不満そうだったが、無視するということはなかった。元々そのために来たのだろう。
ソーパイ ゲール
「新艦種、襲撃艦でしたか。機動力は多少劣りますが突撃艦と似たような運用になるのでしょうか。」
「まあそのための艦種だからな。突撃艦では攻撃力不足が指摘されていたし。」
突撃艦はその機動力と数で敵を翻弄するのが仕事だ。
ルニュージュ
しかしその主兵装である反陽子砲は威力が低い。
スネセーブ
大型艦の強力な防御磁場に反陽子が散らされてしまうからである。
レスィー ディリオクス ホクサス
だからこそ巡察艦は重宝されるし、人類統合体でも主力となりつつあるのだが蹂躙戦においては機雷の運用機能は邪魔になる。
ホクサティオクス
機雷戦の場合は対抗雷撃に使うのだが突撃艦の代替としては必要の無い機能だからだ。
巡察艦の性能を持ち、突撃艦のような運用ができる艦種。
それを目標として生み出されたのが襲撃艦という艦種だった。
「先の戦闘でこれがあればよかったんですが…。」
「ギリギリ間に合わなかったからな。本来であれば今手元にある部隊も訓練中のはずだった。」
ラブール
新艦種だけあって襲撃艦の戦力化は流石の星界軍といえども一筋縄ではいかなかった。
いかに突撃艦のような運用ができるといっても、武装を増やし鈍重になっているぶん機動力では劣る。
重いということは平面宇宙では移動が遅いということに繋がるのだ。
ファーズ
平面宇宙での連携訓練。蹂躙戦の訓練。様々な戦場を想定した演習。やることはいくらでもあった。
「イオラオス事変では練成が不十分ということで実戦参加はしなかったが、流石に帝都防衛となるとそうも言ってられん。」
フリューバル
訓練不足の戦力を投入せざるを得ない。それはつまるところ、帝国も楽な戦いをしているという訳ではないということだった。
少なくとも四ヶ国連合の軍人達は愚かでも無能でもない。
今なら勝てる(かも知れない)と彼らが踏んだのも、願望や妄想の類ではないのだ。
ただ帝国には
夢幻会がいたこと、そして原作知識というイカサマによって奇襲を予め知っていたということ。
それこそが戦いを帝国有利にしているのだった。
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無常の果実艦隊総旗艦は緊張に包まれていた。
足元の平面宇宙図には味方を示す光点の遙か先に敵を示す光点がともっている。
フレント大将はそれを眺めながら静かに思索に耽っていた。
ラクファカールに繋がる八つの門のうちの一つ、クリューヴ門。
ハニア連邦に囲まれたクリューヴ王国を構成する門であり、今回の目標地点だ。
ガーンス帝国は放浪時代、八つのユアノンに支えられた八つの都市船だった。
それが現在のアブリアル星系に根を下ろし、八つのユアノンを開けることで星間帝国となったのだ。
帝国を構成する八つの王国はラクファカールにある八つの門に対応する。
すなわち一つの王国を陥落させれば、残り七つの王国にも攻撃できるということである。
ハニア連邦合併のため艦隊が出撃して手薄になった帝都を四カ国連合軍の総力を挙げた艦隊で攻撃し、帝都を占領する。
しかる後にハニア連邦に残された敵戦力を掃討してヘラクレス作戦、イオラオス作戦で開けられた戦力差を優位なものにすると同時
に、七王国の連携を絶って帝国を各個撃破する。
それが今回の作戦目的だった。
しかし帝都の守りが薄くなるのは帝国も承知だったのだろう。守護艦隊を置いている。
重厚な守護艦隊の戦力と迅速なハニア連邦合併は両立しないはずだ。つまり帝国はハニア連邦の合併が遅れてでも帝都の守りを優先
したということになる。
しかしそれでも帝都の守りが万全ということはない。合併に戦力を割かれている分守護艦隊は全戦力の半分もあれば良いくらいだ。
無常の果実艦隊でもまだ勝ち目がある敵戦力である。イオラオス作戦で艦隊を殲滅され、ヘラクレス作戦で蹴散らされた挙句
物資の集積も艦隊の編成も間に合わなかった。
そんな艦隊でも勝ち目があるほどなのだ。
「大将殿。戦術はいかがしますか?」
そんなことを考えていたフレントに声がかかる。その主は副官だった。
「…第二案でいく。」
少し迷ったが、やはりこれしかないだろう。
もう少し良い戦術も考案していたのだが、訓練不足の現状では実現できなかった。
「そう、ですか…たしかに連携を考えると仕方ありませんが…。」
「まあ上手くいくかは博打になるだろうな。もっとも、こんな作戦自体博打の賜物だが。」
そういって自嘲する。しかしそれを言ってしまえば、帝国との戦争自体が博打だったのだ。いまさらの話ではある。
「それでも帝国とて余裕があるわけではない。今はまだ、な。だからこそ今の内に勝たねば、戦略的勝利はありえんだろう。」
自らの運命を掛け金とした博打は失敗した。しかし連合軍はそれで諦めず、さらなる博打を望んだ。
負けを取り戻すために博打に挑むのは自殺行為だ。しかしこれで勝たなければいよいよ祖国の、人類の運命は閉ざされてしまう。
しかし慧眼で知られるフレント大将でも見抜けない事があった。
帝国はこの博打にイカサマを持ち込んでいるのだ。
580: 333 :2017/01/25(水) 04:24:51
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最終更新:2017年02月10日 20:09