619: 333 :2017/01/25(水) 16:36:13
フローデ達の憂鬱 第二章
「さて…。」
レンド ヤ・ファド
嶋田は平面宇宙図を見てつぶやいた。
サースマ
指揮刀に知らず、手が行く。平面宇宙図に映る敵影は確実に近づいていた。
ボリアラシュ・アロク ソード・クリュブ グラーガ・ビューラル ガホール
帝都防衛艦隊がクリューヴ門に布陣して20時間。艦隊旗艦キンカウの艦橋には心地よい緊張が漂っていた。
ホクサス
彼我の戦力差は6対5。敵方の機雷不足と連携不足を考えると互角かやや有利といったところだった。
ヤドビュール・ヴォートゥト ホクサティオクス
既に陣形は戦闘隊形になっており、打撃分艦隊が前に出て機雷戦に備えていた。
フローデ
「提督。」
ワスカーサレール
シュボーズ参謀長が呼びかけてくる。普段は閉じられているその目は開いていた。
言葉には出されなかったが、レンドは言わんとすることを察していた。。
ホクサス
「ああ。機雷を放出しておけ。」
「対抗雷撃はどうしますか?」
味方の機雷は敵よりも多いだろう。それは事前に戦った艦隊からの情報でわかっていた。
普通なら、ここで対抗雷撃の割合を増やすべきだった。
「するな。」
「え?」
しかしレンドはそうは思わない。
シュボーズの整った顔が驚愕に染められるのを見て、レンドは密かに休憩中の仕返しができたことを喜んだ。
たしかに、対抗雷撃を増やせば敵の機雷を封じられるだろう。しかしそれは敵の視点に立った見方をしていない。
ワスカーサレール
「参謀長。敵は自分達の機雷の備蓄が少ないことを知っている。彼らにとっての敵…つまり我々がより多くの機雷を持っていることも。」
彼女は普段済ました顔をしているその顔面に困惑の色を浮かべながらレンドの言を聞いている。
それがレンドにはどこかおかしく、ささやかな復讐心を満たしてくれた。
「そんな彼らがまともに機雷戦に応じると思うか?機雷の数では負けているのに?」
ここまで言うと理解できたようだ。
しかし困ったものだ…レンドはそう思った。
いくら経験が足りないとはいえ、参謀長ともあろうものがこの程度の事に気が付かないとは。
ボスナル
やはり長い間戦争がなかったせいだろうか、近年の軍士は質が落ちている。
ブルーヴォス・ゴス・スュン ラブール
もっとも…と心の中で続ける。四ヶ国連合の軍人ならば星界軍の軍士の質を羨むだろうが。
アレーク ゲール レスィー
「なるほど。敵艦隊の主力は戦列艦ではなくあくまで突撃艦と巡察艦だという事ですか。」
「そうだ。機雷はあくまで補助的にしか使わんだろう。ならば我々も、機雷は敵主力を叩くのに注力した方がいい。」
シュボーズは納得の表情を浮かべる。
機雷で劣り、連携にも不安を抱えている敵は順当に戦っても勝ち目は無い。
それはヘラクレス作戦で思い知っただろう。
ならば博打に出てくるはずだ。それがどんなものなのかは、さすがに予測が付かなかったが。
「そういうわけだ。各分艦隊に命令を伝えろ。対抗雷撃の必要はなし。機雷を放出せよと。」
「ハッ。了解しました。」
ドロシュ・フラクテーダル
復唱し、泡間通信が伝えられる。
緊張感と高揚感がない交ぜになった感情が艦橋を、いや艦隊全体を包んでいた。
620: 333 :2017/01/25(水) 16:38:30
心地よい感覚だ、とレンドは思う。
そう感じること自体がアーヴの感性に染まってきている証拠なのだろう。
戦闘種族と呼ばれているのは伊達ではない。それはシュボーズも同じなのだろう。
目を開けている彼女はどことなく高揚しているようにも見えた。
ジェデール シュボーズ
まあ、無理も無い。勇猛果敢を家風とする島津が立つ人生二度目の戦場なのだ。
猪突猛進なのは困るが、彼女はそうでもない。勇敢でありながら冷静な判断ができる。
彼女が副官に選ばれたのもその辺りが理由だった。
「…妙だな。」
平面宇宙図を見ていたレンドがつぶやく。どうやら周囲は気付いていないようだ。
仕方が無いといえば仕方が無い。この中で最も経験を積んでいるレンドですら今になってようやく気付いたのだから。
フローデ
「提督?」
「敵が止まる様子がない。本来ならばこの辺りで陣を組んでいなければならないはずだ。」
未だ機雷の射程内には入っていない。しかし射程内に入ってから射撃陣形に移行しているのでは遅いのだ。
にもかかわらず隊列を整えようともしていない。いやむしろ足の速さでついて行けない集団が出てきている。
なにを考えている…レンドはそう思う。
機雷の射程内に敵が納まったとき。そのときが戦闘開始の時だ。
刻々とそれが近づいているのに、敵は陣形を組むどころか隊列を乱しているのだ。
「機雷射程内まであと60秒。」
ついに秒読みが始まる。それでも隊列の乱れは収まる様子がなく、徐々に艦隊が二分され始めていた。
レンドは誰かが息を呑むのを感じた。もしかしたらそれは己自身だったのかもしれない。
「50秒。」
シュボーズ参謀長もレンドの言にいささか不安を抱いたようだが、気にしないことにしたようだ。
誰もが戦闘開始の時を待ちわびている。
しかし秒読みが40に入ろうかという瞬間、レンドは敵艦隊の僅かな変化を見た。
「42、41…」
「いかん、全打撃分艦隊に伝えろ!機雷の目標は敵先頭集団だ!」
フローデ
「提督!?」
驚きの声をあげたのはシュボーズだったか、それとも他の誰かだったのか。
621: 333 :2017/01/25(水) 16:39:37
それを気にする余裕もなく、レンドは指揮刀を抜いて命令を発した。
無秩序に思われた敵艦隊は、二分された先頭集団と後方集団で秩序だった動きを見せ始めたのだ。
塊となった先頭集団のそのまた先頭から長い尾のように伸びる艦隊。
先頭集団についていけず横に広がった後方集団。
それらが統制不足故ではなく、陣形の一つだとようやく気がついたのだ。
「俺は馬鹿か…敵の艦隊が乱れていたのは陣形変更のためだ。来るぞ、突撃してくる!」
はじめは自分自身に向けて、その次はシュボーズに向けて。そして最後に艦橋の全員に向けて言い放った。
無秩序に見えた艦隊は次第に形をなしてゆき、陣形を平面宇宙図に写す。
カーサリア・ドロショト
と、そこへ通信参謀の報告が舞い込んできた。
グラハレル
「司令長官。目標変更了解の通信が届いています。射撃準備完了です。」
「射程まで残り20秒!」
「よし。これでどこまで削れるか…。」
どうやらすんでのところで間に合ったようだ。
落ち着いたと見たのか、シュボーズが改めて尋ねる。
フローデ
「提督。陣形変更のためとは一体どういうことでしょうか?」
「見ろ。」
レンドは平面宇宙図を示す。そこにはすっかり二つに分かれた敵の姿があった。
先頭集団は前後に長く伸びており、後方集団は横に広がっている。
「残り10秒、9、8、7、6」
やがて先頭集団は長細い陣形を組んだ。
前面は分厚く、後方に向けて続くその様はまるで矢のようだった。
後方集団も射撃陣形に入っている。
「こ、これは。」
「5、4、3、2、1、発射!」
瞬間、味方艦隊から機雷が放たれる。
フラサス ファーズ
一つの時空泡から数百個の時空泡が分離し、平面宇宙が機雷に埋め尽くされる。
敵後方集団も一呼吸遅れて大量の時空泡を分離した。
ホクサティオクス
機雷戦の始まりだった。
622: 333 :2017/01/25(水) 16:40:29
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最終更新:2017年02月10日 20:18