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フローデ達の憂鬱 第二章
矢のような陣形を取って一直線に突撃してくる敵先頭集団。
グラーガ フラサス
その鏃はまっすぐ艦隊中央付近、旗艦のある時空泡に向いていた。
レンド ブルーヴォス・ゴス・スュン
矢は旗艦キンカウまでの最短距離を突進している。嶋田はそこに四ヶ国連合が掛ける勝利への執念が宿っているように思えた。
これほど明確に殺意を向けられて気付かないものはいない。
敵の狙いは明らかだった。
ボリアラシュ・アロク
全戦力を賭けて帝都防衛艦隊の中枢を撃破し、僅かに生じるであろう混乱に付け込んで戦果を拡大するのだ。
ホクサス レスィ ー ゲール
「たしかに機雷戦力に劣る以上巡察艦や突撃艦に勝利を託すしかありませんが、だからといってここまで思い切った戦術を取るなど
正気とは思えません。」
言外に敵を狂人と言ってのけたシュボーズだったが、彼女の顔には一筋の嫌悪感も浮かんではいない。
むしろその決断を敵ながら天晴れと褒め称えるような、清々しい笑顔だった。
シュボーズ
これだから島津は、と密かにため息をつく。
なるほど彼女は勇敢でありながら冷静な判断が下せる。しかしだからといって戦闘狂のシュボーズであることには違いないのだ。
「だがこれは正直厳しいぞ。敵が戦力の全てを突破に回せばこの艦が落とされるかもしれん。」
勿論その分敵も相応の危険を冒すことになる。
キンカウが艦隊陣形の奥深くにある以上、たとえキンカウを落としても包囲殲滅されるかもしれないからだ。
そうでなくても、接敵するまでに機雷の猛攻撃に晒されることになる。
帝都防衛艦隊が放った機雷はもう先頭集団のすぐそこまで迫っている。
クリューヴ メーニュ
樟日に向けて放たれる矢を打ち砕かんと生命なき星間船がその牙を剥こうとしたその時、後方集団から遅れて発射された機雷が
先頭集団を追い越した。
味方機雷の目標は敵先頭集団。敵機雷の目標は機雷。
ファーズ
自然と平面宇宙を舞台に壮絶な追跡劇が繰り広げられることになる。
機雷を避けて先頭集団に喰らいつこうとする味方機雷と、それを追って突撃の障害を排除しようとする敵機雷。
ゴール・プタロス スプーフラサス
時に両者は時空融合し、平面宇宙に時空粒子流を同心円状に生み出した。
フラサス フラサティア
時空粒子は極小の時空泡である。というより、時空粒子を時空泡発生機関で無理やり拡大したものが時空泡なのだ。
時空泡発生機関が破壊されれば時空泡は崩壊して平面宇宙で自然に存在できる形態、時空粒子に分裂する。
しかし後方集団から放たれた機雷の数は、傍目から見ても帝都防衛艦隊が放ったそれより少ない。
敵の機雷は次々と帝国の機雷を捉えて諸共に自爆するが、数が少ない以上は先頭集団への到達を許すのも時間の問題だった。
648: 333 :2017/01/25(水) 20:42:30
しかしすんでのところで、今度は先頭集団から機雷が発射される。
アレーク
巡察艦から放たれた対抗雷撃だ。戦列艦ほどではないが、巡察艦も数発の機雷は搭載している。
ことに連合軍の中で最大の戦力を持つ人類統合体は突撃艦の攻撃力不足に巡察艦の増強という答えを出した。
ダディオクス フリューバル
このあたりは通常空間戦を重視する帝国とは戦略の差が出ている。
そして巡察艦の比率が高いということは、巡察艦と突撃艦で構成される先頭集団にもそれなりの量の機雷があるということだ。
追いかけてくる機雷を振り切った機雷も、今度は攻撃目標から放たれた機雷に絡め取られて爆散していく。
なまじ距離が詰まっていただけに回避が困難だったのだ。
既に後方集団から放たれた機雷はまばらになっており、帝都防衛艦隊が放った機雷は半分近くにまで減っていた。
「味方機雷、敵先頭集団に接触。」
幸運な機雷が幾重もの対抗雷撃を抜けてようやく目標に辿り着く。
しかしそれは決して獲物などではなかった。
ヴォークラーニュ ルニュージュ
巡察艦は大型な分、凝集光砲や反陽子砲を針鼠のように纏っている。
一発二発の機雷ならば容易に撃退して見せるのだ。
特に巡察艦三隻の時空泡は鉄壁である。
敵が速度を犠牲にしてでもそのような隊形を組んでいるのは、ひとえに機雷に対する防御のためだろう。
「敵の対抗雷撃も薄れてきています。これで先頭集団をいくらか削れるでしょうが…三割も削れれば御の字でしょうね。」
「ああ。いくら機雷戦で有利といえども、機雷だけで敵を撃退できれば苦労はないからな。ましてや少ないといっても全ての機雷を
対抗雷撃に費やされたんだ。少しでも突撃の威力を削ぐことができればそれでいいさ。」
今や先頭集団を守る盾はない。それでも彼らは突撃をやめようとはしなかった。
おそらく脳裏に浮かべもしなかったろう。それくらい、わき目も降らずに前進を続けていたのだ。
しかしまだ残っている機雷は、はじめと比べて少なくなったが存在している。
彼らが敵時空泡と時空融合し、時に撃破され時に撃破していく。
ソール・バンダク
戦闘前、中心領域から流れてくる緩やかな時空粒子流だけが支配していたクリューヴ門付近は機雷戦だけで荒波のような激しい
時空粒子流に支配されていた。
その中には敵時空泡の崩壊も含まれている。ついに敵先頭集団の艦艇を撃破したのだ。
649: 333 :2017/01/25(水) 20:43:40
一度均衡が崩れてしまえば、もう元には戻らない。
機雷を撃ちつくした敵艦隊は自らの兵装だけを頼りに襲い来る機雷を迎撃しなければならない。
次第に先頭集団には歯抜けのような部分ができ始める。修復されることのないそれは連携不足を示していた。
「やはり敵は事前に決められた戦闘隊形しか取れないようだな。穴を塞げていない。」
「多国籍艦隊であるゆえに、自分の位置を守るだけで精一杯なのでしょう。鍛錬が足りませんね。」
鍛錬が足りない、で済ませるのはいかにもシュボーズらしいが言っていることは間違いではない。
四ヶ国連合がノヴァシチリア条約に調印したのは今から12年前。
元々全く別の戦闘教義を持っていた国々が、統一した艦隊行動を可能とするのに十分な時間ではなかった。
全戦力での突撃という手段を取ったのも、取らざるを得なかったというのが実際のところだろう。
「連携が十分ならばもう少しましな戦術を取る事もできただろう。こんな戦術を選んだのは単純な突撃ならば寄り合い所帯の連合軍
でもなんとかなるからだろうな。」
四ヶ国連合には帝国とは少し違う兵器体系を持っている国もある。
ラブール
そうした兵器を上手く組み合わせれば、星界軍に対して有効な戦術の三つや四つ、自分でも考え付くのだ。
しかしだからといって、敵の力不足に安心できるほど甘くは無いのも確かだった。
現に敵先頭集団はところどころを歯抜けにしながらも突貫をやめていない。
荒れ狂う平面宇宙を疾駆して自らの鏃を突き刺そうと邁進しつづけている。
ディリオクス
「そろそろ縦深防御陣形に移行しておけ。蹂躙戦が始まるぞ。」
ドロシュ・フラクテーダル
命令が泡間通信で伝えられ、ゆっくりと艦隊の形が変わり始める。
扇形の艦隊陣形はこうした戦いに最も適した陣形だ。
突撃を敢行する敵艦隊を縦深で受け止め、さらに切り裂かれた陣の両脇から敵の側面に対して攻撃できる。
一度受け止められさえすれば、簡単に包囲できるのだ。
「さて、いよいよ接敵ですね。やあやあ我こそは、と名乗りでも上げますか?」
「フッ。ご先祖の真似事か?」
既に敵艦隊は帝都防衛艦隊の陣形のすぐそばまで迫っていた。
シュボーズの冗談に軽く応じ、レンドは命令を下す。
サースマ
指揮刀を振り上げて高らかに。
「皇国の興廃この一戦にあり!各員一層奮励努力せよ!」
650: 333 :2017/01/25(水) 20:44:17
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最終更新:2017年02月10日 20:20