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フローデ達の憂鬱 番外編



季刊 銀河の戦史 5052年春号

開戦百年記念ガフトノーシュ戦役特集


統一戦争は百年たった現在でも軍事趣味者にとって根強い人気を誇る分野である。

人類社会の全てを巻き込んだ戦争であり、また今の所最後の星間戦争でもある。

そのなかでどの戦いが好きかは読者諸氏にも色々と意見がおありだろうが、今回は開戦百年ということでガフトノーシュ戦役を

特集したい。

まずはイオラオス作戦、ヘラクレス作戦だ。

開戦直後に行われたこの両作戦を知るにはまずそれ以前、即ち開戦に至る経緯から知る必要がある。

皇紀4940年、ノヴァシチリア条約が結ばれた。これは当時銀河に存在していた五つの国家のうち、四つの国家が批准した。

これがいわゆる四ヶ国連合である。あくまで銀河の軍事的均衡を生み出し平和を維持するのが目的とされていたが、それは誰の目

にも明らかな帝国への圧力だった。

しかしこれにはさらなる裏があった。人類統合体がスィーヴ882門とケイシュ193門を発見したのだ。

ノヴァシチリア条約を結んだのは帝国とそれ以外の四カ国が敵対していたからだが、その敵対の理由は今日世間で言われている

アーヴへの差別感情にあったわけではないというのはこの雑誌を読んでいる読者ならば理解していると思う。

帝国が四カ国と敵対していたのは第十二環を独占していた事に理由がある。当時はまだ銀河には未開拓領域が残されていたが、

その外側が帝国のものならば将来的に拡張には限度が出てくるからだ。

つまり平面宇宙航法開発以来、無限に広がっているように思えた銀河の開拓に限界が見えてきたこと。そして帝国だけがその外への

道を持っていたこと。

この二つが開戦の理由として挙げられるだろう。

人類統合体はこの状況を打破するため第十二環に繋がる門を探し続けていた。

それが見つかったのが4940年であり、発見された二つの門を使った軍事作戦が計画され始めたのもこの年なのだ。

この時計画された作戦がイオラオス作戦とヘラクレス作戦であり、探査のために開けた門が閉まるまでにかかった時間が12年

という歳月なのだ。

ところがこれは帝国に察知されていたようである。曖昧な書きかたをしたのはその証拠がないためだ。

これについては各種議論があり、どこでそれを知ったのかなどについて未だ定説を見ない。

ともかく奇襲を知った帝国は開戦を避けるよりもむしろこれを利用して戦争を優位に始めようと考えた。

それが秘匿名称夢幻作戦である。古の賢者達の名を冠したこの作戦はひとまずの成功を収める。

しかしそれは課題も残る戦闘だった。順番に見ていこう。

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まずは先に開始された作戦であるイオラオス作戦だ。

これは主攻方面を助けるための陽動作戦であり、危険が多いその性質上人類統合体のみで行われた。

対する帝国側はガンボース提督率いる艦隊。戦力でも練度でも星界軍が勝っていた。

しかし統合体だけで艦隊が構成されていた利点は大きく、敗れたもののこの戦いで連合軍が連携の不備を露呈することはなかった。

戦いは奇襲に備えて待機していたガンボース艦隊の攻撃で始まる。

奇襲するはずが奇襲を受けた混乱によって統合体艦隊は一方的に殲滅されることになる。

だがガンボース提督も敵艦隊の殲滅に拘った結果一部の敵を取り逃がしてしまう。これを理由として彼の指揮能力に疑問を呈する

声も少なくない。

しかしその後の戦いから見てもガンボース提督の指揮能力は決して低いものではなく、殲滅に拘ったのも後のことを思えば正解

だったと言える。

なお余談だがこの際逃げた艦隊から隠れて地上世界に潜伏するという経験をしたのが現在の皇帝陛下である。

さて陛下の意外な側面を知ったところで次に行こう。

奇襲作戦の本命、ヘラクレス作戦だ。

イオラオス作戦で帝国の目をイリーシュ王国の反対側に向けさせた上で、スィーヴ882門から帝都を奇襲する。

そのためにこそ人類統合体は膨大な門を開けてイリーシュ王国を起点にした奇襲作戦を練ったのだ。

これは敵の知らない門から攻撃するというだけではなく、緒戦で第十二環を確保することで戦争の目的を達しようとしたからだ。

この戦いでは常勝無敗の呼び声が高いレンド提督が指揮を執った。

彼我の戦力は互角だったものの、ここでレンド提督は撃退に専念することになる。

この一事を持って彼を無能呼ばわりする軍事趣味者も多いが、それは一方的な見方に過ぎない。

敵が多国籍艦隊であることを見抜き、機雷の発射から間髪置かない突撃など能力は申し分が無いからだ。

混乱を拡大することで敵を撃退するという戦術も決して間違いではない。結果的に艦隊主力を取り逃がしたことが次の無常の果実

作戦に繋がるのだが、帝国の戦略環境を思えば必要とされるのは時間であり敵戦力の撃滅は必ずしも必要としないからだ。

これはこの次の作戦にも現れてくる要素であり、基本的にガフトノーシュ戦役は速攻をかける連合軍と撃退に専念する帝国という

図式で戦われる。

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その後、イオラオス作戦とヘラクレス作戦で開戦劈頭での勝利が得られなかった連合軍は残った戦力を結集して無常の果実作戦を

計画するにいたる。

これにはハニア連邦の脱落、そして雪晶作戦という事態が深く関わってくることを注意せねばならない。

無常の果実作戦では派手な帝都防衛戦ばかり注目されるが、それが成立する条件には併合作戦で帝国が艦隊を出撃させる必要が

あったからだ。

つまり無常の果実作戦とは四ヶ国連合がハニア脱落の危機を帝都奇襲の好機とした作戦であり、だからこそ軍事趣味に入り始めの

ものがよく言う、ヘラクレス作戦でクリューヴ方面を主攻にしていたらといった仮定には意味が無い。

ハニア連邦が脱落しなければ雪晶作戦は発動されず、雪晶作戦が発動されなければクリューヴ方面からの帝都奇襲は不可能なのだ。

無常の果実作戦はあの時点で連合軍が取れる最善の選択肢であったし、唯一取れる選択肢であったというのが結論だろう。

道中で雪晶艦隊の一部を撃破した連合軍は帝都で待ち構えていたレンド提督の守護艦隊と交戦する。

これがおそらくガフトノーシュ戦役最大の戦場であり、この戦いが好きで軍事趣味に入る者も多いだろう。

ここで上述の戦略環境が出てくる。

現在では敵戦力の殲滅に専念したレンド提督の手腕が評価されるが、そもそもこれは敵が全戦力での突撃という手段を取ってきたが

故の苦肉の判断なのだ。

当初レンド提督が取っていた陣形は機雷戦を重視した陣形だった。これは敵の機雷が少ないという情報を手に入れていたからで、

連合軍主力となるであろう巡察艦や突撃艦戦力を機雷で打ちのめすためだった。

しかし連合軍が取った戦術が機雷を全て対抗雷撃に費やした全戦力での突撃とわかると即座に陣形を変える。

有名な縦深防御陣形だが、これは巷で言われているように敵を一網打尽にするのを目的にして組まれたわけではない。

あくまで突撃を敢行する敵艦隊を縦深で受け止めるためのものであり、包囲殲滅はその副産物に過ぎなかった。

現にこの戦いでの艦隊機動をよく見ればわかると思うが、レンド提督の指揮は”一鬼当千”で知られる司令部の直接戦闘まで

敵の突撃を食い止めることを目的としている。

よく言われる側面攻撃も、敵の突撃を受け止めきってからのものとそれ以前とでは大きく性格が違う。

前者が敵の分断を目的としているのに対して後者は突撃を妨害するのが目的であり、むしろ敵の突撃を受け止めて余裕が出てから

敵戦力の分断、殲滅に移行したと捉えるのが自然だ。

この戦いで連合軍は艦隊が壊滅、再建に長い時間をかけることになる。

一方帝国も戦力を大幅に消耗したものの、最も必要としていた時間を稼ぐ事に成功する。

統一戦争は順当に戦えば勝ち目がない連合が様々な策を弄し、そして順当に負けた戦争である。

ガフトノーシュ戦役はそういった戦争の方向性を決めた戦役といえるのではないだろうか。

それでは次項からそれぞれの戦いについて詳しく見ていこうと思う。

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最終更新:2017年02月10日 20:46