229: 名無しさん :2017/02/01(水) 12:46:10
ジントは艦内を歩いていた。通路は隅々まで光り輝いており、通るものに清潔感を抱かせる。
それは艦そのものが新しいからだ。
ソーパイ
この艦は襲撃艦《フリーコヴ》。
ラブール
星界軍が実用化した新艦種であり、早くもこの戦争で最も生産された艦でもある。
ケンルー
つい先日修技館を卒業したジントは、胸を高鳴らせて艦橋に赴いた。
鼓動の速さは初めての軍務ゆえか、それとも彼女がいるからか。
どちらなのかわからないまま、それでもジントは前に進んだ。
ガホール
逸る気持ちを抑えて艦橋の扉につく。
ひとりでに開く扉の向こうにある黝い髪を見た時、自然と顔がほころぶのを自覚した。
「ラフィール!」
呼ばれた彼女は振り返り、自信を顔に滲ませていた。
その唇から声が出てくるのが待ちきれない。その美しい声音がまた聞きたい。
「ジント!」
皇紀4955年。
三年かけて注がれた油に、火種が放り込まれる。
フローデ達の憂鬱 第三章
「というように、我々の活動は大変うまくいっております。」
そこで心底どうでもいい発表がされていた。
レンド
嶋田はずきずきと痛む頭を押さえ、前世から全く変わっていない彼らを憂いた。
「何やってるんですか皆さん…。」
しかし突っ込まれた彼らはきょとんとしている。
まるですべきことをしたら怒られた子供のような困惑の目でレンドを見つめる。
ラフィール
「何って…”ジント君と珠霧殿下の恋路を応援しよう大作戦”ですが…。」
「それはさっき聞きましたよ。私が訊いているのはなぜそんなことをしているのかです。」
帝都防衛線から三年余り。
フリューバル ブルーヴォス・ビス・スュン
戦力が整った帝国はついに三カ国連合への侵攻を始めようとしていた。
今日はその作戦を決める会議の日だったのだ。当然レンドは気合を入れて臨んだ。
その矢先にこれである。
「まあレンドさん、いいじゃないですか。身分違いの恋。まるで恋愛小説のようで素敵でしょう?」
スカリヤシュ スリー
擁護したのは大蔵省の魔王、辻である。
血も涙もないと噂の彼の言がそのままの意味なわけがない。
どうせ裏があるんだろうと決めつけたレンドは半眼でスリーをにらんだ。
アイプ
「都合がいいの間違いでしょう。これを地上人蔑視に対する宣伝に使う気では?」
ラルトネー
「ははは、もちろん使いますとも。卑しい生まれでも心はアーヴの少年と、育ちから高慢な王女。二人は共に冒険をして心を通わせ、
互いを愛するようになる。しかし哀れ、無理解な周囲に差別された少年は王女から引き離されるのでした。とこんなものでしょうか。」
いかにも大げさな身振り手振りで演技するスリー。レンドはそれを冷たい目で見ていた。
先ほど発表していた彼らも普段笑顔であくどいことをいうスリーを胡散臭いものを見る目線を向けている。
自分が白い目で見られているのに気付いたスリーは咳払いをする。
「わざわざそのためにさりげなくラフィールの勤務を帝都にしたり二人の休日を合わせたりしていたんですか…。調整するこちらの
身にもなってくださいよ。」
溜息をついてレンドは嘆く。
彼ら夢幻会は決して無能ではないのだ。むしろ途轍もなく有能といっていい。
有能すぎるのだ。自身の趣味を国家戦略に組み込み、そのうえで国家にとって益になる方向に持っていける程に。
しかしレンドのような常識人には頭の痛い話だった。なまじ有益であるがゆえに強く言えないあたりが特に。
230: 333 :2017/02/01(水) 12:49:24
「まあそれは置いといて次の話題に行くとしましょう。」
空気が切り替わり、程よい緊張が満ちる。
緩んでいた気を一瞬で引き締められるのは、さすがにかつて国家の破滅を救った能臣たちだった。
そしてそんな彼らをまとめられるのもまた、レンドの稀有な才能だった。
もっとも彼自身はそんな才能など求めてはいなかっただろうが。
「ではこちらの資料をご覧ください。」
クリューノ
レンドが端末腕輪を操作すると立体映像が立ち上がる。
ヤ・ファド
平面宇宙図を中心にして敵戦力の推定と現在の帝国の戦力、敵重要拠点の推測位置や敵艦隊の布陣予測などが脇に表示されていく。
ずらずら数字を並べ立てても分かりづらいだろう。レンドは大雑把な説明だけをすることにした。
「3年かけたハニア連邦併合により、我々は第一環、および第二環に軍事拠点を設けることができました。」
フェーク・クリュブ
平面宇宙図の上、クリューヴ王国の周囲にあったハニア連邦の領域。
スペーシュ・カースナ
その中でも最も内側、侵入困難な第一環のある一点に光点が宿る。
「特にスーメイ星系は設備が整っており大規模な拠点を作ることができました。今回の作戦はここを策源地とします。」
光点の周囲は国境線が入り乱れており、拡大アルコント共和国と人類統合体、そしてハニア連邦の三国が接していた。
そのうちハニア連邦が帝国に編入されたことでこの地域の重要性は一気に向上している。
ソード・スメイル ソード・アルコンタル ソード・センタラル
なにしろハニア連邦首都スーメイ門、拡大アルコント共和国首都アルコント門、人類統合体首都センタール門が密集しているのだ。
これはなにも偶然ではない。
ファーズ ファズ・ファーゾト
約千年前、アーヴ達が平面宇宙に足を踏み入れたのと同時期にスーメイ人もまた平面宇宙航法を編み出していた。
ナヘーヌ
彼らが複数の地上世界に平面宇宙航法を教えたことでアーヴ以外の星間国家が形成されるのだが、初めのうちは技術が未発達だったため
スペーシュ
環を行き来するのが困難だった。
その頃に技術を買ったのが拡大アルコント共和国、そして人類統合体の元になった国の一つなのだ。
スーメイ星系から近いのもそれが理由である。彼らは最初期に平面宇宙航法を買ったのだ。
スペーシュ・マータ
「第一環、第二環は既知宇宙で最も発展した経済地域です。また三カ国連合はこの地域から周縁部に領域を広げており、さらに周縁部は
帝国と国境が入り乱れています。」
ソードラシュ・エルークファル
天川門群はいわゆる天の川銀河に対応する門の集まりである。
キーガーフ
最も中心に侵入困難な火山があり、その周りに門が集まっている。
ソード スペーシュ・ダーナ ソール・バンダク
門は同心円状に存在しており、現在開拓されているのは第七環までだ。この領域を中心領域と呼ぶ。(火山のことを指す場合もある)
スペーシュ・ガーナ スペーシュ・ロスマタ
第八環から外側は第十二環を除いてほとんど開拓されていない。
フェーク・バルグゼーデル フェーク・ラスィーサル フェーク・スュルグゼーデル
そして中心領域は時計回りにバルグゼーデ王国、拡大アルコント共和国、ラスィース王国、人類統合体、スュルグゼーデ王国、人類統合
フェーク・バルケール フェーク・ウェスコール フェーク・スキル フェーク・クリュブ
体、バルケー王国、ウェスコー王国、人民主権星系連合体、スキール王国、ハニア連邦とそれに囲まれたクリューヴ王国の順で各国が
ひしめき合っていた。
231: 333 :2017/02/01(水) 12:50:43
だが第一環と第二環だけは四カ国連合の領域であり、またその政治的経済的産業的中心地域でもあった。
「この地域を占領して三カ国連合を分断し、また経戦能力を削ぐのが帝国の戦略になります。」
だがそのうちの一つ、ハニア連邦が陥落したのだ。新たに獲得した領域はバルグゼーデ王国と接しており、中心領域近くで拡大アルコン
ト共和国、人類統合体とも接している。
逆に三カ国連合はハニア連邦が脱落した結果、拡大アルコント共和国から人民主権星系連合体に至る主要航路が閉ざされてしまった。
しかも影響はそれだけにとどまらない。中心領域近くに帝国が進出したことでこれまで安全地帯だった三カ国連合の最重要地域が前線に
早変わりしてしまったのだ。
ソード・グンルナル
「作戦ではハニア連邦グンルン門から進発して人類統合体首都近辺を制圧、そのままラスィース王国に打通します。作戦目標は敵主要
地域の陥落および拡大アルコント共和国の孤立化です。」
第一環、人類統合体領域と拡大アルコント共和国に接した突端部分から矢印が伸びる。
矢印はいくつにも分裂して高速進撃、一気にラスィース王国まで突破した。
と、そこで聴衆の中から手が挙がる。
「センタールやアルコントが前線になっているのは敵も承知のはずです。重要施設はすでに移転しているはずですが、そこはどうする
のですか?」
「今回の作戦では拡大アルコント共和国を孤立化させるのを優先します。人類統合体の主要地域への攻勢はこれが終わり、拡大アルコン
ト共和国を脱落させてから行います。」
これはあくまで始まりの作戦だ。無理攻めは良くない。
そしてもう一つ理由がある。
「あまりに敵領土深くに攻め込んでしまうと敵の反撃を招いてしまいます。それを防ぐためにも、今回は主要拠点に艦隊を配備して
敵の反攻に備えます。」
ペリア
平面宇宙では情報伝達が遅い。連絡艇に頼る以上仕方がないのだが、このせいで敵が攻撃してきたと知ってからでは遅すぎるのだ。
だからこそ事前に反撃が予想される地点に戦力を集めておく必要があるのだが、この予想がいつも当たるとは限らない。
予想が当たった結果が先の帝都防衛戦であり、外れた結果が原作の帝都陥落なのだ。
しかしこれでも原作に比べて自分たちは随分と楽な戦いをしている。
232: 333 :2017/02/01(水) 12:51:41
艦隊を複数に分割して主要拠点に配備して、なお攻勢に出れるだけの戦力があるのだから。
戦場で発生する問題の全てとは言わずとも多くのそれが数さえあれば、そしてその数を適切に扱えさえすれば解決できてしまうのだ。
ああ、前世の米帝はこんな戦争をしていたのか。どおりで傲慢になるわけだ。
「他に何か質問はありませんか?…なければ決を採りたいと思います。」
見渡し、告げる。それぞれの顔に浮かぶのは納得の色だった。
口々に相談して話し合う。
「これでいいんじゃないか?」
「少し反攻が心配だが、これくらいが限度だろう。」
「ああ、まさかすべての拠点に十分な戦力を配備する訳にもいかんしな。」
見たところ反対意見は少なそうだ。
どんな案にも反対というものは出てくる。それを減らせるのが調整者の役割なのだ。
ガンボース
「ではこの作戦案でいきたいと思います。前衛艦隊は私が、後衛艦隊は山本提督が、そして帝都の守備はドゥサーニュ殿下が担当
します。」
フリューバル
遂に帝国の反撃が始まる。
人類史上最強の帝国が鯨波を上げるのだ。
アサーシュ クファゼート・アサク
「作戦名は旭日。旭日作戦です。」
ファーズ
喊声が平面宇宙を満たし、大軍勢が攻め寄せるだろう。
この場がその始まりとなるのだ。
サーソート・フリューバラリ
「では解散したいと思います。帝国に勝利を!」
サーソート・フリューバラリ
「「「「「帝国に勝利を!」」」」」
小さな部屋に凱歌が木霊する。
ラクファカール
それはまだ高天原の片隅に過ぎなかったが、燎原の火の如く広がるだろう。
皇紀4955年。
三年の沈黙が破られ、戦争が再開される。
233: 333 :2017/02/01(水) 12:53:01
投稿は以上です
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229はコテハンを入れ忘れて申し訳ありませんでした
最終更新:2017年02月10日 21:30