326: 333 :2017/02/03(金) 01:10:55
フローデ達の憂鬱 第三章
旧ハニア連邦グンルン星系。
アローシュ
帝都を埋め尽くしていた大艦隊もここまでくると随分とまばらになる。
ルエベイ キルーギア スピュネージュ グラービューラル
帝宮での出征式典で皇太子ドゥサーニュが皇帝から艦隊旗を受け取ったときはまさに錚々たる大戦力だった。
3年前の帝都防衛戦で出発した艦隊でもジントの故郷では空想だと前置きしてすら荒唐無稽だと笑われる規模の大軍だったのに、今回の
それは前と比べても倍では利かないだろう。
あれほどの軍事力を、たった一つの国家がなしえたことが信じられなかった。
イルギューフ
かつてのジントにとって、軍事力とは八基の電磁投射砲がその最大のものだった。
フリューバル
帝国がやってきたと聞いた時、銀河の半分を支配する大国だと聞いて人々が噂したのは一体何十基の電磁投射砲を持っているのかという
程度の物に過ぎなかったのだ。
だが帝国の戦力はそんなちゃちなものではなかった。まさに人類文明の半分以上を支配する大帝国だ。
しかしそんな大戦力も、三分されてはいささか少なくなる。
それでも連合軍の艦隊と互角に戦えるというのだから度肝を抜かれるのだが。
ソード・グンルナル ラブール
そして今、グンルン門の周りには星界軍の艦隊が集まっている。
言うまでもなく攻勢作戦を始めるためだ。
ロダイル サーシュ
この時の為にこそ三年の空白は存在していた。翔士、従士の別なく士気は際限なく上がり行き攻勢の開始を今か今かと待ち望んでいる。
ソーパイ
襲撃艦《フリーコヴ》がいるのはそんな空間だった。
「ごめんって、ラフィール。当てつけみたいな真似して、反省してるよ。」
「ふん。そなたは私などよりも人形の方がいいのであろ。ならば人形と添い遂げるがよい。」
参った。どうやら本格的に怒らせてしまったようだ。
考えてみれば、いや考えなくともわかる話である。誰だって自分を模した人形に現を抜かす輩にいい思いは抱くまい。
翔士はジントとラフィール、それにサムソンを除いて初対面である。
人付き合いは初対面が大切なのに、気まずい空気のせいで友誼を交わすのも難しい。
苦笑しているサムソンに文句の一つ、言う権利くらいはあると思うジントだった。
クファゼート・アサク
『全艦に告ぐ。これより我が艦隊は旭日作戦を開始する。』
そうこうしていると艦内に通信が入る。
グラーガ・ビュール・ビスマタ・アサク
第三十二旭日艦隊旗艦《キンカウ》からの通信だった。
進撃は二十八の艦隊に分かれて行うが、首都星系であるセンタールでは激しい抵抗が予想されるため侵攻艦隊を一度集結させる。
グラーガーフ・ビュール・ビスマタ
そういった全侵攻艦隊を統合運用する場合には第三十二艦隊司令部が指揮の任にあたるのだ。
ボスナル
『これが逆襲の始まりである。全軍士の健闘を祈る。』
327: 333 :2017/02/03(金) 01:11:39
拡大アルコント共和国 首都アルコント星系
「フライドリッシュ大将。帝国の艦隊が進発したとの報告が届きました。」
四カ国連合(一応宇宙派による亡命政権がある)の艦隊に、小さな連絡艇が近寄る。
帝国のそれに比べれば貧相極まりないが、それでも大きな戦力であることには違いない。
むしろ帝国と比べるのが間違っているのだ。仮にも広大な領域を治める星間国家が三つも集まって再建した艦隊である。
その規模はさすがに無視できるほどのものではなかった。
だが悲しいかな、相手はその帝国なのだ。
巨大な艦隊に見えてもまるで足りない。これでも大分嵩増ししているのだが。
「そうか。戦力は?進撃方向は?」
「ハッ。およそ30個艦隊150個分艦隊ほどです。進撃方向は人類統合体領域、センタール方面です。」
「やはりか…。」
深くため息をつく。それにどんな感情がこもっていたかは、彼自身よくわからなかった。
テラモン作戦とペレウス作戦は連動している。だがその作戦目的について、フライドリッシュは疑問を持っていた。
ともかくも、参謀本部の予測が当たったのはよかった。
でなければ作戦の前提が崩れ去るからだ。
「大将殿。やはり上は考えを改めてくれませんか。」
「ああ。三年前が忘れられんのだろうな。」
まるで博打に嵌ったろくでなしだ。
彼はそう思うが、口には出さない。出したら取り返しのつかないことになりそうな気がした。
それでも不満は残る。
だが全力を尽くすしかない。
いずれにしろ、自分たちにできるのはそれだけなのだから。
「テラモン作戦、発動だ。」
その言葉には覇気がこもっていなかった。
三年前と違って。
328: 333 :2017/02/03(金) 01:13:00
三年前とは違うな。
レンド ヤ・ファド
嶋田は平面宇宙図を見ながら思った。
「遅いな。」
フォフローデ
「大提督?」
参謀長のシュボーズが聞きとがめる。どうやら口に出ていたようだ。
彼女自身も三年前とは違っている。
身長が少し伸び、体つきも一層女性らしくなっている。
成長しているということはそれだけ若いということだ。老化のないアーヴにとって身体的変化とは若人だけの特権である。
目を閉じた顔も大人らしい顔つきになっている。レンドはそこに成熟した美を見た。
「進撃速度がだよ。三年前はもう少し速かった。」
ソーパイ ゲール
「襲撃艦が随分増えましたからね。まもなく突撃艦は完全に置き換えられるのでは?」
帝都防衛戦で初陣を飾った新艦種はその後大増産されていた。
無論、戦闘で活躍したからだ。
ファーズ ダディオクス レスィー
平面宇宙での機動性には欠けるがその分通常空間戦では巡察艦に劣らない活躍を示したのだ。
元々突撃艦の攻撃力不足を補うためのものだったのである。突撃艦が置き換えられるのは時間の問題だった。
もっとも、突撃艦の数自体凄まじいのでさすがの帝国も三年で完全に置き換えるには至ってないのだが。
「まあ、その分戦闘力は上がっているだろうな。」
平面宇宙図に表示される光点は次第に分裂していく。
ソード・グンルナル
グンルン門から進発した艦隊は分散し、各地を制圧しては次の星系に進むのだ。
ラブール
星界軍はこうして進撃することで短時間に広大な範囲を支配下に置くことができる。
ただしこれには弱点もあった。それを補うのが自分たちの仕事なのだが…。
フォフローデ ローワス
「そういえば大提督。ラフィール十翔長と何を話していたんですか?」
「大した話ではないさ。ただ、これから仕事を押し付けるんだ。教育くらいはしてやらなければならないと思ってね。」
クファリア
レンドがラフィールを呼んだのは領主代行として働いてもらいたいからだった。
ただでさえ自分は忙しいのだ。これくらいしても罰は当たらないだろう。
ファサンゼール
「ああ…。ラフィール十翔長も可哀そうに。皇族という立場ゆえに厄介な仕事を任せられるとは。」
「初めての領主が高貴なものだというのは住民感情にもいいからな。使えるものは使わせてもらおう。」
レークルジェ・レンダル
格式や歴史でいえばレンド公爵家も相当なものなのだが、さすがに皇族には敵わない。
なにしろ五千年の歴史を持ち、文字で記録される以前から続いているのだ。
そんな皇族が領主代行に選ばれるという事実は、自分たちの惑星がそれだけ重視されているという都合のいい誤解を生んでくれる。
実際には下っ端に面倒な仕事を押し付けているだけなのだが。
「それに何事も経験だよ。こうして使いっ走りをさせられるのも大切だ。特に高貴なものにとってはな。」
「人類統合体から逃れて地上を隠れまわるというのも凄まじい経験だと思いますが。」
ブルーヴォス・ビス・スュン
言い逃れをしつつ、レンドは三カ国連合の動きを気にしていた。
真正面から戦っても勝ち目がない以上、奴らは帝国が攻勢に出た今こそ何か行動を起こしてくるはずだ。
しかしそれが不安につながることはない。
もはや帝国に負けはないのだ。
329: 333 :2017/02/03(金) 01:13:31
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最終更新:2017年02月10日 21:33