358: 333 :2017/02/03(金) 23:45:39
フローデ達の憂鬱 小ネタ




皇紀4953年 帝都ラクファカール 料亭 メーヴガ


「そういえば、朝鮮人ってどうなったんですかね。」
              メヴ・シャム
シャフから直接輸入したシャフ鍋に舌鼓を打ちながら、夢幻会の面々は雑談に興じていた。

現在戦争自然休戦中だが、話し合うべき事柄はいくらでもある。
レフ・シャム           レンド
シャフ鮫の白身を確保した嶋田はふと思ったことを口に出した。

「なんですか急に。最後のシャフ鮫を奪った言い逃れですか?」
スリー
辻が目の前の獲物をとられて悔しそうにしている。

今はすでに会議も終わり、各々料理を堪能している段階なのだ。

レンドは後者を聞き流し、なぜその考えに至った。

「いえ、純粋にどうなったのか気になりまして。朝鮮系の民族っていませんですし。」
                 ログリカール
「さあ…私もそこまでは。確か豊葦原条約には加盟していたはずですが。」
                                                ガノース
太陽系が滅んでしまった今、地球時代について最も多くの情報を持っているのは大和である。

少なくとも皇紀3000年の第三次世界大戦までの歴史は残っているはずだが、細かいところまで読んではいないのだ。

なにしろ夢幻会の面々が天寿を全うしてから2300年余り。

それだけの歴史を追いつかなければならなかった彼らにとって、いかに厄介な隣人であったとしても一民族の行く末など気にしては

いられなかった。

「ふむ…朝鮮人はどうやらログリカール条約の元になる協定には参加していたようですが、ログリカール条約になった際に脱退した

そうです。」

「またなぜそんなことを…。」

相変わらず予想の斜め上を行く民族だ。

レンドは前世の如く彼らの行いに頭を痛めた。
 クリューノ
端末腕輪で確認していたスリーもややあきれた声音で続ける。

「ええと。元はトルコ、朝鮮共和国、フィンランドの三カ国が結んだ共同宇宙開発協定だったようですね。ログリカール条約と似た内容

ですが、どうやらフィンランドが自国独自の探査計画に切り替えたようで。惑星アルタイアがそれですね。」

「ああ、あの惑星ですか。海洋惑星アルタイア。数セダージュもの深さの海を持つせいで、鉱物資源などを宇宙からの輸入に頼っている

んですよね。以前財政再建に関わったことがあるので覚えています。」

以前訪れた景色を思い出す。深い深い澪とどこまでも続く海原。その上を航行する水上都市。

決して豊かな惑星ではなかったが、前世で海軍軍人だった彼の嗜好に直撃する惑星だったのだ。

フォラーニュもいいがあそこもいいよなあ。休暇が出ればまた行きたいものだ。

「それでトルコと朝鮮共和国だけでは開発が立ち行かなくなったようでして。そこで参加したのがポーランド自治都市、スラブ自治都市

とイラン、タイですね。」

「あれ?それだとログリカール諸国に朝鮮が入ってないのはおかしくないですか?」

「中立国のフィンランドが抜けたせいで条約締結交渉が日本の軌道都市豊葦原で行われ、反日感情からそれを脱退したそうです。」

ログリカールとは古日本語で豊葦原という意味だ。条約を締結した都市の名が計画の名になり、移民船の名になったのだろう。

「そして結局太陽系外に出ることができず、太陽系壊滅で民族ごと滅んだと…。」

相も変わらず最悪の時期に最悪の選択をする民族だ。

いつか滅びるだろうと思っていたが、やはり最後まで朝鮮人は朝鮮人だったようだ。

そこまで考えたところでレンドの脳裏に嫌な想像がよぎった。

もしも彼らが太陽系外に移民していたらどうなっていただろうか…と。

359: 333 :2017/02/03(金) 23:46:31



皇紀4940年 ラクファカール

           アローシュ
朝鮮王国の使者が帝都にやってきた。

相手は同じ君主国の使節。しかも国王直々の来訪である。
                                                           ガノト・フリューバル
朝鮮人という民族に嫌悪感を持つアーヴは多かったが、国家同士の付き合いに感情を持ち込むほど大和帝国は未熟ではない。
               ロワボリア ソード
壮麗に飾り立てられた近衛艦隊を門に並べて来訪を歓迎する。

見事な艦隊機動に、しかし国王の気が晴れることはなかった。
     フィア・ラルソ
『ようこそ国王陛下、歓迎しますよ。5000年の歴史を誇る帝国をどうぞお楽しみください。』

ここに来るまでに幾度も説明を受けた。

それ以前にもアーヴ帝国について知る機会は何度もあった。

そしてそのたびに湧き上がる惨めさと怒り。

人類最長の歴史。人類最強の軍事力。人類最大の版図。

栄光と栄誉。誇りと誉れ。
                          チョッパリ
全て自分たちの物だったはずなのだ。劣った豚足どもはそれを不当に奪ったのだ。

星間国家としては最も新しい200年しかない歴史。貧困と圧制のなかにあって誰もが惨めだった過去。

働くなどという下賤な行為をしなければ生きられない境遇も、何もかも奴らのせいだ。

「国王陛下。いよいよですね。」

従士が話しかけてくる。

そう、いよいよなのだ。いよいよ…

「皇帝と僭称する劣等人を殺し、正当な帝国として我が国がなりかわる。」

強烈な劣等感から来る単なる逆恨みが、後に惑星を三つも焦土にする大戦争を引き起こす。

360: 333 :2017/02/03(金) 23:47:04


背筋に走る怖気にレンドは思わず戦慄する。

やりかねん。連中ならやりかねん。

「おや?どうしたのですか、レンドさん。」

スリーの声が自分の意識を強制的に現実に引き戻す。

既に鍋の中には何もなく、シャフ魚醤の溶け込んだ出汁だけが煮え立っていた。

見渡すと、周りの面々の取り皿にはいっぱいの具。

彼らは満足げな顔で、放心していたレンドの分を取っていったのだ。

普段なら怒るところだが、先ほどまでおぞましい想像をしていたレンドにとっていつもと変わらない態度の彼らは救いだった。

「滅んでいて、よかった…。」

思わず漏れた言葉は、心の底からのものだった。

361: 333 :2017/02/03(金) 23:47:59
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最終更新:2017年02月10日 21:36