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フローデ達の憂鬱 第三章




 ファーズ   ラブール
平面宇宙を星界軍の大艦隊が往く。
 ヤ・ファド
平面宇宙図に移る光点は3年前と比べても遜色ない。

それ自体が、星界軍の規模が数倍に膨れ上がっていることの証左だった。
                                 アローシュ
なにしろこの艦隊の他に、同規模の物がスーメイ星系と帝都にも展開しているのだ。

だが星界軍艦隊と対陣している敵の光点は、どう見ても少なかった。
   ホクサティオクス
しかも機雷戦しか考えていないような陣形だ。

「…厄介だな。」

「この布陣は、もしかして星系迎撃戦術でしょうか。」

「おそらくは、な。」
レンド シュボーズ
嶋田と島津は平面宇宙図に移る敵の奇妙さを見て取り、即座にその意図を察した。

星系迎撃戦術。それは人民主権星系連合体の取っている戦術だった。

この国は星間国家の中でも特異な兵器体系を有する。
                      サテュス・ゴール・ホーカ     メーンラジュ                ボーリア
通常よりも遥かに長い射程を持つ長射程機動時空爆雷。平面宇宙航行機能を持たない重武装艦防衛艦がそれだ。
ホクサス
機雷は通常、射程は重視されない。

これは再装填に極めて時間がかかるからであり、その戦闘中に一度しか発射できないからだ。
                     アレーク
遠くから自分だけ攻撃しようにも、戦列艦は莫大な質量を持つ。
                                                           ゲール  レスィー
それだけ平面宇宙では遅いのであり、機雷戦が終われば逃げられず、逃げても再装填する前に突撃艦や巡察艦に追いつかれてしまう。
                                       ディリオクス
つまり逃げても無駄な以上、機雷の射程は機雷戦が始まってから蹂躙戦が始まるまでに戦列艦の退避ができる程度にあれば十分なのだ。
                    ウィクリュール
また、平面宇宙航行機能を持たない軍艦というのもあまり使い道がない。
                                                    ダーズ
たしかに平面宇宙航行機能は莫大な質量をもった核を必要とする。それがなければ通常宇宙でも俊敏な機動ができるだろう。
                                           ファディオクス
だがそれはつまり単独では平面宇宙に入れないということだ。これでは平面宇宙戦で使えない。

つまり大抵の国の戦闘教義では、長射程機動時空爆雷も防衛艦も、今一つ使いにくい兵器になるのだ。

ところがこれらの兵器はとある戦術を使う場合に限り、非常に強力な兵器となる。
 ソード  ファーズ   サテュス・ゴール・ホーカ・マージュ            ホクサス     ダーズ
「門の平面宇宙側で長射程機動時空爆雷を使って一方的に敵の機雷を削り、通常宇宙側に退避する。その後門から転移してきたばかりで
                   ボーリア
統制が取れていない敵艦隊を防衛艦の機動性と火力、そして連携により迎撃する。」

392: 333 :2017/02/04(土) 15:12:03

門を通過するとき、転移先は確率論的にのみ決まり、予測は成り立たない。

要はどこに出るかわからないのだ。そしてこれは門を隔てた攻撃をする場合に致命的となる。

平面宇宙でどれだけ緻密な陣形を組んでも、門を通過すれば統制も何もないバラバラの状態になるからだ。

通常宇宙側で待ち構えている艦隊は平面宇宙から転移してくる敵艦隊を一方的に叩きのめせる。

これこそが門を隔てた攻撃を困難なものにしているのだ。

「ですがこの戦術は防衛にのみ有効です。全戦力を傾けた首都防衛戦ならともかく、この戦力では撃退は難しいでしょう。」

「ああ。…もしかしたら遅滞戦闘を挑むつもりなのかもしれないな。」

そう、眼前の敵艦隊は明らかに少なかった。

もしも星界軍を撃退するつもりならば、全戦力を星系迎撃戦術に費やすべきなのだ。

少なくともそれくらいの戦力を準備する時間はあったはずであるし、それをされれば分散した今の戦力では撤退の可能性もあったろう。

ところがそうではない。つまり敵は撃退を目的としていない。

となると考えられるのは…。

「帝都を狙うのならば戦力を人類統合体領域に留め置く必要性は薄いはずだ。おそらく敵の狙いは…」
                          ガンボース
「後方を襲撃しての包囲殲滅、ですね。つまり山本提督次第ですか。」

最短経路で包囲するにはどうしてもスーメイ星系を攻略せざるを得ない。

そしてそこにはガンボース提督の防衛艦隊が布陣しているのだ。

だがレンド達にできないことがないわけではない。
                              フェーク・ラスィーサル
「我々にもできることはあるさ。可能な限り、迅速にラスィース王国に打通してしまえばいい。」

シュボーズは目を閉じたまま意外そうな顔をしていたが、すぐにその顔を綻ばせる。

「前方に向けて全速撤退ですか、いいですね。血が滾ります。」
            シュボーズ
いかにも戦闘狂らしい島津の言葉だった。

そういえば、彼らの先祖も似たような状況に置かれたことがあるなとレンドは思い出した。
キューショト・シュボーザル
「島津の退き口か…私がそれをすることになるとは。」

「ええ。偉大な先祖と並ぶ戦いができるなんて、シュボーズ冥利に尽きます。」

嬉々としているシュボーズ参謀長にげんなりしながら、レンドは己の運命を呪った。

もっとも運命を呪おうが、自分たちの活路が前にしかない事実は変わらないのだが。

393: 333 :2017/02/04(土) 15:13:37

キーヨース・スメイアル
スーメイ星系


「来たか。」
ガンボース
山本は近づいてくる赤い光点を見てつぶやいた。
 ヤ・ファド
平面宇宙図に映る光は友軍の青と民間の緑だけでなく、敵を表す赤い色も含まれていた。

その光が敵の殺意を表しているかに見えて、ガンボースはその身を震わせる。

無論のこと、怯懦などではない。むしろ逆だ。

「くくく、いいねえ。博打は嫌いじゃない。」
                       ブルーヴォス・ビス・スュン
作戦の計画段階で、侵攻に出たところでの三カ国連合の反撃は予想されていた。

平面宇宙では情報が届いてから艦隊を動かしていたのでは間に合わない。

それは帝国にしてみれば戦力分散か危険を承知で攻撃に戦力を集中するかの二択になるのだが、連合軍にとっては帝国の防御が弱まる

絶好の機会なのだ。

しかし敵の攻撃対象が何なのかについてまでは予測しきれていなかった。

星界軍艦隊の包囲殲滅なのか、帝都を陥落させての各個撃破なのか。
              ソード・スメイアル              アローシュ
前者ならば敵の攻撃はスーメイ門付近、後者ならばもちろん帝都だろう。

だが結局は両方に艦隊を配備しても十分な戦力が確保できるだろうということで艦隊を三分することにしたのだ。

そしてここに来たということは連合軍が星界軍の壊滅を目的としていることの証左である。

「安心しろ、帰り道はしっかり守っておいてやるよ。もっとも…」

お前ならやわな抵抗なんぞ跳ね除けて突破するだろうがな。
              レスィー
スーメイ防衛艦隊旗艦巡察艦《レンカウ》。
  ガホール
その艦橋に偉人の嗤い声が響いていた。
   ノーシュ
まるで龍の咢に首を突っ込んだかのような気迫と殺気を漲らせ。

敵どころか味方のアーヴ達にさえ背筋に悪寒を走らせる威風を纏い。

レンドのそれが経験と立場に裏打ちされたものならば、彼のそれは生まれながらの天稟だろう。

未来知識がなくとも、原作知識がなくとも。

史実で偉人と呼ばれた男が200年の歳月を研鑽に費やして磨き上げたそれが。
        ノーシュ
艦隊を一匹の大蛇として敵対者に牙を突き立てさせる。

その中心は、間違いなく彼だった。
ガンボース・アロン=ヨスノーク・レーブ・マホーク・ラカキューシュ
山本朝臣五十六長岡侯爵貴彦は、紛れもなく現代に黄泉帰った偉人だった。

394: 333 :2017/02/04(土) 15:14:08
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最終更新:2017年02月10日 21:38